王宮の幻花 ~婚約破棄された上に毒殺されました~

玄未マオ

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第1章 山岳国家シュウィツアー

第13話 誤解を解くために

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「私たちの姿は人には見えないから話に相槌うっているだけで奇妙に見えてしまう。だから、黙って聞いていてね」
 ロゼラインはゼフィーロに注意した。

 そして、ロゼラインが見聞きしたことの全て、つまり、クライレーベンがアイリスにしたこと、そのあと聞いたパリス王太子を中心としたたくらみの内容を王宮の廊下を歩くゼフィーロに聞かせた。

 馬車に乗り込んで二人きり、いや二人と一匹になるとゼフィーロがつぶやいた。
「兄上がそんなはかりごとをされていたとは」
 深いため息をつきゼフィーロは考え込んだ。
「勝手な話よね。自分の都合でノルドベルク家との縁組を解消しておきながら、弟の方が家格の高い家の娘と結婚されると困るとか」
 ロゼラインが言った。
 彼女本人がその解消された相手であることをおもんばかってのことなのか、ゼフィーロは複雑な笑みを浮かべた。
「義姉上からサルビア嬢に乗り換えたこと自体愚昧この上なかったのですよ! サルビア嬢は人の上に立って居丈高にふるまうことはするが、立場に伴う義務や品性ということがまるで分っていないように見えます。今の段階では妃教育を受けてないので仕方がない、と、大目に見ている者もいつまで我慢できるか……」
「そうなの?」
「ええ、おかげでアイリスにも本来王太子妃がする仕事の一部が回ってきてるようです。いくらサルビア嬢が婚約者になったばかりなので補助してくれと言われても限度ってものがあるでしょうにね」
「アイリスも大変だったのね」

 サルビアが今の段階で、九年間妃教育を受けたロゼラインに知識や能力で劣るところがあるのはしかたがないにしても、人の上に立つ者として責任感や自制心が乏しいのはこの先の大きな不安材料になる。

 そうこう話しているうちに馬車はウスタライフェン邸前に到着した。

 出迎えに出た者にゼフィーロはアイリスに会いに来たことを告げ取り次いでもらったが、彼女は具合が悪いと言って会おうとしなかった。

 まだ気持ちが閉じたままなのだろう。

 このまま待っていてもらちが明かない。

「行こう、ゼフィーロ」
 ロゼラインが促し、ゼフィーロが後に続いた。

 家の者たちは、お待ちください、と、いってゼフィーロの後を追いかけた。

 アイリスの私室の前でゼフィーロが声をかけてみたが、
「私の気持ちは手紙に記したとおりです。今日はお帰り下さい」
 と、いう返事だけがかえってきた。

 霊体であるロゼラインは扉をすり抜け部屋の中からかかっていた鍵を外した。
「ゼフィーロ、鍵を開けたから入ってきて!」
 ロゼラインが言うのにアイリスはびっくりして慌てた。
「失礼する」
 ゼフィーロがドアを開けて入って来た。

「家の者たちがちょっと面倒よね、眠っててもらおう」
 クロが何やら細工をして周囲が静かになった。
「ヘヘン、精霊の助手も長く続けているとこういう裏技もいろいろと使えるのよね。役に立つっしょ!」
 ほめろと言わんばかりのクロの頭をロゼラインは撫でてやった。

 クロは満足そうに喉をゴロゴロ鳴らせた。

「アイリス、話はだいたい義姉上から聞いた。婚約解消の理由がそれだけなら、僕は……。それに君は勘違いをしているようだけど、君を疎んじてあまりしゃべらなかったりしていたわけでは……」
 ゼフィーロは言い淀んでいた。

 歯切れが悪いな、なぜはっきりと言わないのか?

 多分ゼフィーロとアイリスは手をつなぐのすら、公式のパーティの時のエスコートやダンスの時ぐらいしかしたことがないのだろう。義務的にしか見えない態度は兄のパリスを見習ってのことだったのだろうが、それが今となってはアイリスの『誤解』のもととなってしまっていた。
 逆にロゼラインの方は、ゼフィーロがアイリスを思っているのがはた目にはまるわかりだったので、兄のパリスの方の同様の態度の裏の気持ちに、いらん期待をする羽目になってしまったという皮肉があった。今となっては苦笑いのもとである。

「まどろっこしいわね! 要するに普通の恋人たちのように手を握ったり肩を抱いたりしたら、さらにその先のあんなことやこんなことまでしたくなりそうだから、抑えてそっけない態度をしていたってだけでしょう」
 クロの爆弾発言である。
「あんなことって……」
 ゼフィーロが息をのむ。
「クロ! あんたなんてことを!」
 ロゼラインが叱った。
「だってさ、お互いをおもんばかって勘違いが生じたんだったら、もうそのものズバリを言っちゃう方が良くない?」
「ズバリ過ぎるの!」
 クロとロゼラインが言い合っているうちに、若い婚約者同士は距離を縮めていった。
「その……、この猫のいうことはあながち間違えでもなくて、僕は……」
「ゼフィーロ様……」

 二人の誤解は解消されそうであった。
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