7 / 120
第1章 山岳国家シュウィツアー
第7話 虚空の裂け目から
しおりを挟む
「復讐したいか?」
もう一度同じ言葉がロゼラインの頭の中に響いた。
「誰? どこからしゃべってるの?」
ロゼラインはあたりを見回しながら叫んだ。
すると虚空の裂け目からすらりとした体の黒猫が現れた。
「あなたが死んだ時点でこの国の『道理』に黄色信号が灯った。だから私が派遣された。どうだ? あなたを死に追いやった連中に復讐したいか?」
黒猫がしゃべった!
いや、もはや驚くまい。魂だけの状態で王宮内をうろついているロゼライン自身も奇々怪々な存在なのだから。
「あの……、私、たぶん毒を盛られて死んだのだけど、だれがどういう風にやったのか、とか、わからないのよね……。復讐って私を殺した人限定? 私としてはさっき会話していた連中すべてにお灸を据えたいと思っているのだけど?」
ロゼラインは疑問を呈した。
「ボン!素晴らしい!それでこそ私が声をかけた魂というもの!」
また別の声が響いた。
そして現れたのは、今度は猫ではなく人間だったが、その姿にロゼラインは目を見張った。
ロゼラインはさっきまでいたパリス王太子の部屋から、一人と一匹の存在とともに、コリント式の柱が立ち並ぶ真っ白な廊下がのびた光あふれる空間へと移動していた。
そしてその場所でロゼラインの前に立った人間。
背が低くお腹の突き出た外国人の男で、それはイギリスの名優デビット・スーシェに瓜二つだった。
デビット・スーシェとは高名な推理小説家アガサ・クリスティ原作の『名探偵ポワロ』の主演を務めてきた名優である。
「驚かれましたかな、マドモワゼル」
声やしゃべり方までそっくりだった。
「このような姿をしておりますが、私はあなたが思う役者その人ではありません。私は次元を超えていくつもの世界の管理を任された、ええと……、何と言いましょうか? 精霊と言われたり、神と言われたり、すなわち……」
「推理の神……?」
ロゼラインがあてずっぽうに言った。
「いえいえ、確かに『推理』というのは表に現れたものから隠された事柄を推し量ることであり、その隠された事柄が正義に反したことの場合、私が対処しなければならない事柄にはなります。けど、まあ……、この姿は、あなたの頭の中を失礼ですがのぞかせていただき、今一番必要な素養を持った人間のイメージを形どっただけです」
名探偵の姿をした存在は説明した。
「はあ?」
説明が抽象的過ぎてロゼラインには理解できない。
「ふむ、この姿がお気に召しませんかな? でしたら、あなたの前世があった国の名探偵の姿で」
お腹の出た外国人から和装で髪がぼさぼさの男に姿が変わった。
「ちょっと、フケ飛ばさないでよ!」
ロゼラインが文句を言った。
「これもお気に召さない? でしたら、あなたの記憶の中の一番新しい探偵の姿でどうです。実に面白いでしょう」
「イケメンすぎるわ!」
ピント外れに次から次へと違う探偵の姿に変化する謎の存在に、ロゼラインは訳が分からず、もはや何にでも文句をつけていた。
「ごめんなさいね、うちのあるじ、人と話すのが久しぶりだから力みすぎちゃってて」
名探偵の足元にまとわりついていた黒猫が言った。
「おい、こら! 人を発表会かなんかを前にした緊張しいのようにいうではない!」
黒猫に向かって名探偵が言う。
「あの……?」
一人と一匹の意味不明のやり取りにロゼラインは疲れ始めていた。
「しかたがない、普段使っている一般的なイメージの姿に戻ろう。私の名は……、複数あってどれを名乗ればいいのかわからぬな。私は君がさきほどまでいた世界や君の前世の北山美華がいた世界など含む数多くの世界において、ある概念をつかさどる上級の精神生命体だ」
名探偵は白銀のローブをまとった美麗な男性の姿に変化しそう語った。
もう一度同じ言葉がロゼラインの頭の中に響いた。
「誰? どこからしゃべってるの?」
ロゼラインはあたりを見回しながら叫んだ。
すると虚空の裂け目からすらりとした体の黒猫が現れた。
「あなたが死んだ時点でこの国の『道理』に黄色信号が灯った。だから私が派遣された。どうだ? あなたを死に追いやった連中に復讐したいか?」
黒猫がしゃべった!
いや、もはや驚くまい。魂だけの状態で王宮内をうろついているロゼライン自身も奇々怪々な存在なのだから。
「あの……、私、たぶん毒を盛られて死んだのだけど、だれがどういう風にやったのか、とか、わからないのよね……。復讐って私を殺した人限定? 私としてはさっき会話していた連中すべてにお灸を据えたいと思っているのだけど?」
ロゼラインは疑問を呈した。
「ボン!素晴らしい!それでこそ私が声をかけた魂というもの!」
また別の声が響いた。
そして現れたのは、今度は猫ではなく人間だったが、その姿にロゼラインは目を見張った。
ロゼラインはさっきまでいたパリス王太子の部屋から、一人と一匹の存在とともに、コリント式の柱が立ち並ぶ真っ白な廊下がのびた光あふれる空間へと移動していた。
そしてその場所でロゼラインの前に立った人間。
背が低くお腹の突き出た外国人の男で、それはイギリスの名優デビット・スーシェに瓜二つだった。
デビット・スーシェとは高名な推理小説家アガサ・クリスティ原作の『名探偵ポワロ』の主演を務めてきた名優である。
「驚かれましたかな、マドモワゼル」
声やしゃべり方までそっくりだった。
「このような姿をしておりますが、私はあなたが思う役者その人ではありません。私は次元を超えていくつもの世界の管理を任された、ええと……、何と言いましょうか? 精霊と言われたり、神と言われたり、すなわち……」
「推理の神……?」
ロゼラインがあてずっぽうに言った。
「いえいえ、確かに『推理』というのは表に現れたものから隠された事柄を推し量ることであり、その隠された事柄が正義に反したことの場合、私が対処しなければならない事柄にはなります。けど、まあ……、この姿は、あなたの頭の中を失礼ですがのぞかせていただき、今一番必要な素養を持った人間のイメージを形どっただけです」
名探偵の姿をした存在は説明した。
「はあ?」
説明が抽象的過ぎてロゼラインには理解できない。
「ふむ、この姿がお気に召しませんかな? でしたら、あなたの前世があった国の名探偵の姿で」
お腹の出た外国人から和装で髪がぼさぼさの男に姿が変わった。
「ちょっと、フケ飛ばさないでよ!」
ロゼラインが文句を言った。
「これもお気に召さない? でしたら、あなたの記憶の中の一番新しい探偵の姿でどうです。実に面白いでしょう」
「イケメンすぎるわ!」
ピント外れに次から次へと違う探偵の姿に変化する謎の存在に、ロゼラインは訳が分からず、もはや何にでも文句をつけていた。
「ごめんなさいね、うちのあるじ、人と話すのが久しぶりだから力みすぎちゃってて」
名探偵の足元にまとわりついていた黒猫が言った。
「おい、こら! 人を発表会かなんかを前にした緊張しいのようにいうではない!」
黒猫に向かって名探偵が言う。
「あの……?」
一人と一匹の意味不明のやり取りにロゼラインは疲れ始めていた。
「しかたがない、普段使っている一般的なイメージの姿に戻ろう。私の名は……、複数あってどれを名乗ればいいのかわからぬな。私は君がさきほどまでいた世界や君の前世の北山美華がいた世界など含む数多くの世界において、ある概念をつかさどる上級の精神生命体だ」
名探偵は白銀のローブをまとった美麗な男性の姿に変化しそう語った。
1
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

【完結】ゲーム開始は自由の時! 乙女ゲーム? いいえ。ここは農業系ゲームの世界ですよ?
キーノ
ファンタジー
私はゲームの世界に転生したようです。主人公なのですが、前世の記憶が戻ったら、なんという不遇な状況。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか。
ある日、我が家に勝手に住み着いた平民の少女が私に罵声を浴びせて来ました。乙女ゲーム? ヒロイン? 訳が解りません。ここはファーミングゲームの世界ですよ?
自称妹の事は無視していたら、今度は食事に毒を盛られる始末。これもゲームで語られなかった裏設定でしょうか?
私はどんな辛いことも頑張って乗り越えて、ゲーム開始を楽しみにいたしますわ!
※紹介文と本編は微妙に違います。
完結いたしました。
感想うけつけています。
4月4日、誤字修正しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる