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第8話 魔女の要望
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「この娘をいただくにあたって要望を申し上げてもよろしいですかな?」
老婆の質問に、なんだ、と、国王が問いかけた。
「はい、逢魔の森には時々、重罪人が放逐されますが、その者たちのように罪人に着せるみずぼらしい衣装を着せて連れてこられては、森の主への礼を失することになりますので、お止めいただきとうございます」
老婆が要望を述べた。
「具体的にはどうせよというのだ?」
国王が尋ねる。
「国が誇る綸子の絹織物で仕立てたドレスなら申し分がないかと。そうですな、ほっそりした方なので上半身はその良さを活かして、襟元に軽くフリルをつけるのみであとは簡素に、逆にスカートの部分はたっぷりとひだを取って流れるようにふんわりとさせれば華やかでよろしゅうございます。」
綸子とは模様が浮き出るようにおられた布地である。
「宝石やレースなどの飾りは不要でございます。コルセットもいりませぬな。そういう感じでお願い申し上げます。そうそう上にはおるマントはゴブランの毛織物でお願い申し上げます。深緑の下地に金糸をたっぷり使ったものを」
まさか衣装の注文をされるとは思っていなかった国王。
「王宮に在庫がございますから、それで仕立てましょう」
王妃が助け舟を出した。
「宝石などの飾りがいらないって食べるときに邪魔だから? コルセットなんて丸のみしたら、小骨がのどに刺さったみたいになるかもしれないものね」
サリエが冗談っぽく茶々を入れた。
「サリエ。君はうまいことを言うね」
王太子が彼女の言を受けて一緒に笑った。
「ああ、それから……」
老婆がさらに何かを言おうとした。
「まだ何かあるのか?」
うんざりした顔で国王が尋ねる。
「はい、壁の前で私が受け取るまでのことですが、彼女のように若い娘が死を待つのみというのを聞くと、それを侮ってか、惜しんでかは知りませぬが、不埒な行いをする輩が時々出てきます。そのようなことがあっては森の主の機嫌を損ねるかもしれませぬゆえ、ゆめゆめそのようなことはなきよう……」
「あいわかった、護送の者たちには厳命しておく」
「ありがとうございます」
国王は大きく息をつき、その後、これで決着とばかりに立ち上がった。
国王が立ち上がったのを見て、他の者たちも立ち上がった。
老婆も踵を返して部屋を出ようとしたとき、王太子が再び声をかけた。
「森の主にいけにえを捧げれば、わが国に対しては魔物をけしかけぬなどの配慮をしてもらえるようになるだろうか?」
「さあ、ただの人間に森の主の気持ちは測りかねますが、このように毛色の変わった娘を合わせればたいそうお喜びになると思います」
老婆が答えた。その答えを受けて王太子はシエラに声をかけた。
「そなたの死が国のためになるのだぞ。不当に王族や貴族にかかわった偽者令嬢にしては上等な死にざまじゃないか、なあ、シエラよ」
シエラは答えず、黙って兵士に連行されていった。
「ふん、相変わらずかわいげのない!」
王太子は吐き捨てるように言った。
「きっと恐ろしくて声が出ないのよ、わかってあげて」
サリエがしれっとした顔でシエラを弁護した。
そんなサリエを、君は優しいな、と、王太子は抱き寄せた。
コレット判事は軽薄に人の死を面白がっている若い男女を冷ややかに一瞥してその場を後にした。
老婆の質問に、なんだ、と、国王が問いかけた。
「はい、逢魔の森には時々、重罪人が放逐されますが、その者たちのように罪人に着せるみずぼらしい衣装を着せて連れてこられては、森の主への礼を失することになりますので、お止めいただきとうございます」
老婆が要望を述べた。
「具体的にはどうせよというのだ?」
国王が尋ねる。
「国が誇る綸子の絹織物で仕立てたドレスなら申し分がないかと。そうですな、ほっそりした方なので上半身はその良さを活かして、襟元に軽くフリルをつけるのみであとは簡素に、逆にスカートの部分はたっぷりとひだを取って流れるようにふんわりとさせれば華やかでよろしゅうございます。」
綸子とは模様が浮き出るようにおられた布地である。
「宝石やレースなどの飾りは不要でございます。コルセットもいりませぬな。そういう感じでお願い申し上げます。そうそう上にはおるマントはゴブランの毛織物でお願い申し上げます。深緑の下地に金糸をたっぷり使ったものを」
まさか衣装の注文をされるとは思っていなかった国王。
「王宮に在庫がございますから、それで仕立てましょう」
王妃が助け舟を出した。
「宝石などの飾りがいらないって食べるときに邪魔だから? コルセットなんて丸のみしたら、小骨がのどに刺さったみたいになるかもしれないものね」
サリエが冗談っぽく茶々を入れた。
「サリエ。君はうまいことを言うね」
王太子が彼女の言を受けて一緒に笑った。
「ああ、それから……」
老婆がさらに何かを言おうとした。
「まだ何かあるのか?」
うんざりした顔で国王が尋ねる。
「はい、壁の前で私が受け取るまでのことですが、彼女のように若い娘が死を待つのみというのを聞くと、それを侮ってか、惜しんでかは知りませぬが、不埒な行いをする輩が時々出てきます。そのようなことがあっては森の主の機嫌を損ねるかもしれませぬゆえ、ゆめゆめそのようなことはなきよう……」
「あいわかった、護送の者たちには厳命しておく」
「ありがとうございます」
国王は大きく息をつき、その後、これで決着とばかりに立ち上がった。
国王が立ち上がったのを見て、他の者たちも立ち上がった。
老婆も踵を返して部屋を出ようとしたとき、王太子が再び声をかけた。
「森の主にいけにえを捧げれば、わが国に対しては魔物をけしかけぬなどの配慮をしてもらえるようになるだろうか?」
「さあ、ただの人間に森の主の気持ちは測りかねますが、このように毛色の変わった娘を合わせればたいそうお喜びになると思います」
老婆が答えた。その答えを受けて王太子はシエラに声をかけた。
「そなたの死が国のためになるのだぞ。不当に王族や貴族にかかわった偽者令嬢にしては上等な死にざまじゃないか、なあ、シエラよ」
シエラは答えず、黙って兵士に連行されていった。
「ふん、相変わらずかわいげのない!」
王太子は吐き捨てるように言った。
「きっと恐ろしくて声が出ないのよ、わかってあげて」
サリエがしれっとした顔でシエラを弁護した。
そんなサリエを、君は優しいな、と、王太子は抱き寄せた。
コレット判事は軽薄に人の死を面白がっている若い男女を冷ややかに一瞥してその場を後にした。
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