悪役令嬢のサラは溺愛に気づかないし慣れてもいない

玄未マオ

文字の大きさ
上 下
64 / 141
第4章 変わってゆくシナリオ

第62話 砕けた杖【リーニャ視点】

しおりを挟む
「リーニャ、大丈夫? 服の方は濡れていない?」

 ミリアが私の傍に寄ってきた尋ねた。

「うん、服の方はほとんど濡れてないけど」

 私は雨合羽を脱ぎながら答えた。

「髪の毛の方がずいぶん濡れてるね」

 ミリアがタオルを手渡してくれる。

「そうね、転んだはずみでフードが脱げたから、あはは」

 私はタオルで頭を拭きながら笑って言った。
 
 フェリシアの方には仲のいいアリシアやエリーゼが寄ってきて、そのまま広場から離れていった。

 その後、本日の授業が終わってから、私は職員室のフォーゲル先生を訪ねた。
 
「欠陥品というわけじゃなさそうだ。そもそも新入生用の杖は慎重に検品されたのち販売されているから、そう言ったモノが出るとはとても思えないんだよね」

 先生は残骸となってしまった私の「杖」を手でもてあそびながら告げた。

「もう少し僕が預かっていてもいいかな? 一体どういう力が加わればこんな風に壊れるのかもっとよく調べてみたいと思うし、結果が出るまで時間がかかりそうなんだけど……」

「そうなると、私の杖は……、買いなおしですか?」

 その杖を授業で使うのは半年間だけ。
 その後の授業ではより性能の優れた別の杖が指定されている。
 学園指定の杖は平民上がりの私たちでも買えない金額ではないが、あと半年もないのに二本目を買うとなるともったいないし、お財布的にも厳しい。
 
「僕のお古で良かったら使うかい?」

 私のしょぼくれた顔を見て先生が言ってくださった。

「いいんですか⁈」

 渡りに船とはまさにこのこと。

「ちょっと待ってね、この辺に入れ込んでいたかな?」

 先生は引き出しの奥をごそごそと探った。あったあった、と、言って、出してこられた杖は、私たちの金色に光り先が丸く加工された杖と違って、鈍色に光り先が三角錘になっていた。

「……?」 

 先生に手渡され握ってみた感じではそれほど違和感はないのだけど。

「君たちの頃と形状が違うからね、それでもよければ性能的には違いはないよ」

 私はありがたくそれを受け取り職員室を後にした。

 教室に戻るとミリアが待ってくれていた。

「杖が壊れた原因はわからないんだって。それで先生に代わりの杖をいただいたの」

「そうなんだ、でもびっくりよね、いきなり杖が壊れるなんて、怪しいと思わない?」

「何が?」

「悪役令嬢よ。細部には多少違いはあるけど、ヒロインの物を壊したり、水をかけたり、ほぼストーリーといっしょじゃない」

「フェリシアのこと? いやでもね……」

 私に水砲が飛んできたとき、フェリシアも非常に慌てていた。彼女が犯人なら杖が壊れるのはわかっていたから、あそこまで慌てることはないはず。

「憶測だけで言っちゃだめだよ、この前生徒会でも言われたでしょ」

 私はミリアにくぎを刺すことにする。

「まあね、でも言っているのは私だけじゃないからね」

 意味ありげな笑みを浮かべミリアは言うのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~

よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。 しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。 なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。 そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。 この機会を逃す手はない! ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。 よくある断罪劇からの反撃です。

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...