55 / 99
第4章 変わってゆくシナリオ
第53話 婚約解消の危機(後編)【フェリシア視点】
しおりを挟む
私たち家族が着席すると国王陛下は深々と頭を下げた。
「まず謝らせていただきたい。この度は息子の言動で令嬢を傷つけたこと、まことに申し訳ない」
「あの、おっしゃってない方に謝っていただいても、その……」
国王陛下の謝意に対し困惑の意を私は示した。
王太子殿下が隣に座っていたエミール王子をつつく。
「どうもすいませんでした」
それに気づいたエミール王子が続けて謝罪されたが、心には響かなかった。
「確かにここは国王陛下の謝罪よりエミール王子殿下の謝罪の方が重要と言えます。謝罪していただけるからには何が悪かったのかももちろん理解しているのでしょうな、王子殿下!」
父が私の発言を補う形で追及する。。
「え……」
エミール殿下は躊躇した。
やっぱりとりあえず謝っておけってことかしらね。
「もちろんですわ。フェリシア嬢が王宮で王子妃教育や仕事の肩代わりをしている最中に、他の女生徒と……」
王妃陛下が助け舟を出そうとする。
「ご当人に聞いておりますのよ。謝罪を受けてもまた同じことを繰り返されてはね。だから、確認しておくのが重要とブリステル公爵閣下は思っているのです」
王妃陛下の言葉をさえぎって母が言った。
口調は丁寧で慇懃ではあるが、かなりきっぱりと言い切っている。
母はわざわざ自分の夫のことを「公爵閣下」呼びをし、相手が王族でも一歩も引かぬ態度を示す。
この国の公爵位はゼーンハルト王とミューレア王妃の子や孫のうち、特に国に貢献した五人の者たちに与えられた。現在残っている公爵家は我がブリステル家とサラ様のヴァイスハーフェン家のみとなったが、王族に何があったら代わりに王位を継ぐこともある、いわば血のスペアなのだ。
王族と言えど一方的に命令することはできない。
「リーニャ・クルージュについては、うわさにすぎず……」
エミール殿下が説明を試みる。
「リーニャさんのことはご本人からも違うと確認が取れているので、そのことはいいのです」
殿下の言葉をさえぎって私が言う。
「あら、それじゃ、エミール殿下の独り相撲」
母が嘲笑するような笑みを浮かべた。
お母様、いやみが過ぎますよ。
「私は今日まで殿下の王宮での仕事を肩代わりしてきて、それゆえ、学園では授業を受けるだけで精一杯。そんな私の生活態度を、殿下とそのお仲間は『見下している』とおっしゃって非難しておられましたね、それは一体どういう理由からですの? 入学前に話し合って決めたことなのだから、殿下も私がやっていることはご存じだったはずでしょう」
私の質問に殿下はだんまりのまま。
「失礼ですが、エミール殿下はお若いのに記憶力に障害でも持ってらっしゃるのですかな? 侍医の診察を受けた方がよろしいのでは? いやいや、ご心配ゆえ申し上げているのですよ」
お父様も皮肉がきつい。
はっきり言ってこの件を丸く収めるつもりはないのだろう。
私とて口先だけの謝罪で婚約解消の願いを取り消す気にはなれない。。
ピリピリとした沈黙を破ったのは、生徒会長をやっておられる王太子殿下の婚約者サラ様。
「確かにエミール殿下の言動は非難されてしかるべきものゆえ、ブルステル家の方々がお怒りなのも理解できます」
意外ですわ。
同じ生徒会にいらっしゃるのでエミール王子寄りかと思っていましたので……。
「まず謝らせていただきたい。この度は息子の言動で令嬢を傷つけたこと、まことに申し訳ない」
「あの、おっしゃってない方に謝っていただいても、その……」
国王陛下の謝意に対し困惑の意を私は示した。
王太子殿下が隣に座っていたエミール王子をつつく。
「どうもすいませんでした」
それに気づいたエミール王子が続けて謝罪されたが、心には響かなかった。
「確かにここは国王陛下の謝罪よりエミール王子殿下の謝罪の方が重要と言えます。謝罪していただけるからには何が悪かったのかももちろん理解しているのでしょうな、王子殿下!」
父が私の発言を補う形で追及する。。
「え……」
エミール殿下は躊躇した。
やっぱりとりあえず謝っておけってことかしらね。
「もちろんですわ。フェリシア嬢が王宮で王子妃教育や仕事の肩代わりをしている最中に、他の女生徒と……」
王妃陛下が助け舟を出そうとする。
「ご当人に聞いておりますのよ。謝罪を受けてもまた同じことを繰り返されてはね。だから、確認しておくのが重要とブリステル公爵閣下は思っているのです」
王妃陛下の言葉をさえぎって母が言った。
口調は丁寧で慇懃ではあるが、かなりきっぱりと言い切っている。
母はわざわざ自分の夫のことを「公爵閣下」呼びをし、相手が王族でも一歩も引かぬ態度を示す。
この国の公爵位はゼーンハルト王とミューレア王妃の子や孫のうち、特に国に貢献した五人の者たちに与えられた。現在残っている公爵家は我がブリステル家とサラ様のヴァイスハーフェン家のみとなったが、王族に何があったら代わりに王位を継ぐこともある、いわば血のスペアなのだ。
王族と言えど一方的に命令することはできない。
「リーニャ・クルージュについては、うわさにすぎず……」
エミール殿下が説明を試みる。
「リーニャさんのことはご本人からも違うと確認が取れているので、そのことはいいのです」
殿下の言葉をさえぎって私が言う。
「あら、それじゃ、エミール殿下の独り相撲」
母が嘲笑するような笑みを浮かべた。
お母様、いやみが過ぎますよ。
「私は今日まで殿下の王宮での仕事を肩代わりしてきて、それゆえ、学園では授業を受けるだけで精一杯。そんな私の生活態度を、殿下とそのお仲間は『見下している』とおっしゃって非難しておられましたね、それは一体どういう理由からですの? 入学前に話し合って決めたことなのだから、殿下も私がやっていることはご存じだったはずでしょう」
私の質問に殿下はだんまりのまま。
「失礼ですが、エミール殿下はお若いのに記憶力に障害でも持ってらっしゃるのですかな? 侍医の診察を受けた方がよろしいのでは? いやいや、ご心配ゆえ申し上げているのですよ」
お父様も皮肉がきつい。
はっきり言ってこの件を丸く収めるつもりはないのだろう。
私とて口先だけの謝罪で婚約解消の願いを取り消す気にはなれない。。
ピリピリとした沈黙を破ったのは、生徒会長をやっておられる王太子殿下の婚約者サラ様。
「確かにエミール殿下の言動は非難されてしかるべきものゆえ、ブルステル家の方々がお怒りなのも理解できます」
意外ですわ。
同じ生徒会にいらっしゃるのでエミール王子寄りかと思っていましたので……。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
私の敬愛するお嬢様は、天使の様な悪女でございます。
芹澤©️
恋愛
私がお仕えしておりますアリアナ様は、王太子殿下の婚約者で優秀な御令嬢でございます。容姿端麗、勉学も学年で上位の成績。そして何より天真爛漫で、そこが時折困りますが、それもまた魅力的な方でございます。
けれど、二つ年上の王太子殿下はアリアナ様ではなく、一般家庭出の才女、ミレニス嬢と何やら噂になっていて…私の敬愛するお嬢様に何たる態度!けれども、アリアナ様はそんな王太子殿下の行動なんて御構い無しなのです。それは純真さがさせるのか、はたまた…?
私の中では王太子殿下の好感度はごっそり削られているのですが…私は何処までもお嬢様について参ります!!
毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます
愛徳らぴ
恋愛
ハイタッド公爵家の令嬢・セラフィン=ハイタッドは悪人だった……。
第二王子・アエルバートの婚約者の座を手に入れたセラフィンはゆくゆくは王妃となり国を牛耳るつもりでいた。しかし伯爵令嬢・ブレアナ=シュレイムの登場により、事態は一変する。
アエルバートがブレアナを気に入ってしまい、それに焦ったセラフィンが二人の仲を妨害した。
そんな折、セラフィンは自分が転生者であることとここが乙女ゲーム『治癒能力者(ヒーラー)の選ぶ未来』の世界であることを思い出す。
自分の行く末が破滅であることに気付くもすで事態は動き出した後で、婚約破棄&処刑を言い渡される。
処刑時に逃げようとしたセラフィンは命は助かったものの毒に冒されてしまった。
そこに謎の美形男性が現れ、いきなり唇を奪われて……。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!
As-me.com
恋愛
説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。
気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。
原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。
えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!
腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!
私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!
眼鏡は顔の一部です!
※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。
基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。
途中まで恋愛タグは迷子です。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる