悪役令嬢のサラは溺愛に気づかないし慣れてもいない

玄未マオ

文字の大きさ
上 下
30 / 141
第2章 乙女ゲーム開始準備

第29話 公爵令嬢サラの入学

しおりを挟む
 それからさらに一年、私も学園入学の年になった。

 入学時のテストで上位八名は生徒会に呼ばれるのだけど、私もそのメンツにはいった。ジークは二年で副会長となっている。

 王太子が副会長をしている生徒会に一年下の婚約者の私も役員候補として参加。

 否が応でも人々の興味を引くが、ぐちゃぐちゃ悩んでいても仕方がない。

 一年生に任されるのはほとんど雑用、全く無問題。
 前世は庶民なのだから、こんな仕事公爵令嬢のわたくしができませんわ、などとはかけらも思わない。

 ある日の業務ではヴァイスハーフェン家主体で開発した特殊インクを使ったりもした。

 学園の卒業生に送る『寄付のお願い』レターのあて名書きである。

 本文はすでに用意されていて、それを一枚ずつ封筒に入れ宛名を書いて封をする。

 風魔法を込めた特殊なインクで書かれた封筒は封をしたとたん、宛名のところまで飛んでいく。

 郵便配達人も存在するが、大量の郵便物を送る必要のあるところではわざわざ郵便局へ持っていくより、モノによってはこうやって自動で送ってくれるというのは、なかなか便利。

 今は封筒やはがきなど軽いものしか使えないが、いずれは荷物など重いモノでも自動で配達できる仕組みが作れるよう、魔道研究所が開発を続けている。

「このペン面白いわね。書き終わった瞬間、さっと飛んで窓から出ていくところがほんと楽しい!」

「ヴァイスハーフェン家が開発したんでしょう」

 同じ新入生で双子のアデリー&ハイディ・クラウゼが言った。

「開発部に伝えておくわ」

 私は笑顔で二人に答えた。

 レイゾウコの開発もそうだが、ヴァイスハーフェン家主体で開発して成功したものは、できるだけその名を出して国民に広めることにしている。

 それは私の提案によるものだ。

 いままでは、そういう国民への評判などあまり気にかけず、ヴァイスハーフェン家が評価されようとされまいと問題にはしなかった。だが、それゆえに国民の目からは何を研究しているのかわからないマッドサイエンティストのようなイメージを持たれているのはよろしくない。
 
 それは変えていった方がいいと思ったのだ。

 乙女ゲームがらみの破滅を回避するためにも。

「ただ、今は秋だから窓を開けても気持ちがいいけど、冬はどうするんだ?」

 別の同級生リュート・マルベックが言った。

「そうだね、だから大量に手紙を送る案件は春や秋に片づけるように執行部も工夫しているらしいよ」

 彼の疑問に私たちの業務を監視している副会長のジークが答える。

 執行部とは学園を運営するところであり、そこの下請け業務のようなことも時々生徒会で引き受けている。

「どうしても冬に送らざるを得ない場合は、全部書き終えてから換気を兼ねて窓を開け放つんだ。封書は外に出ようと窓に張り付いているんだけど、開け放した途端、皆飛んでいくのもなかなか壮観だよ」

 経験者の話、面白い! 
 さすがはジーク。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~

よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。 しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。 なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。 そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。 この機会を逃す手はない! ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。 よくある断罪劇からの反撃です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

落ちこぼれ公爵令息の真実

三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。 設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。 投稿している他の作品との関連はありません。 カクヨムにも公開しています。

処理中です...