上 下
27 / 99
第2章 乙女ゲーム開始準備

第26話 前世のおぼろげな記憶

しおりを挟む
「なんとなく……」

 フォーゲル教師は気まずそうに頭をかいた。

「魔物などに興味があるのなら、まだ発見されていない新種が直観として頭に入ってきたのかもしれませんわ。いつか翡翠色の美しい鳥が発見されたら『カワセミ』と名付けたらいいでしょう」

 動揺を隠して口から出まかせをぺらぺらと。
 自分でも感心するわ。

「そう言っていただけると勇気づけられます。さすが未来の王妃様は言うことが違う!」

「他にどんな鳥を思い浮かべます? ぜひお聞かせ願いますか!」

 私は食い気味に質問する。

「そうですね。この前まで勤めていた学校に朱鷺色ときいろの髪をした女の子がいましたね」

「トキ色? なんだいそれは?」

 フォーゲルの言葉に私より先に兄が疑問をはさんだ。

「黄色がかった淡い桃色のことだよ。トキっていう鳥の羽に似た色なんだ」

「そんな鳥いたっけ?」

 トキ、学名ニッポニアニッポン。
 水田の近くに生息していたが、今は絶滅危惧レッドリストに入れられている鳥。

 まちがいない!
 言葉の使い方と言い、日本での野生絶滅が問題とされていた鳥の記憶と言いフォーゲルは日本人の前世を持っている。

 私はさらにカマをかけてみる。

「フォーゲル先生はどこのご出身なのですか? トウキョウ?」

「トウキョウ? そんな地名ありましたか? 実は、僕はエーデルフォーゲル家の出なんですけど……」

「えっ、あの伯爵家の?」

「ええ、エーデルフォーゲルでは次子以下の子は独立したら、頭の『エーデル』をとったただの『フォーゲル』を名乗るんです」

 本当に記憶にないのだろうか?

 鳥の名前より『トウキョウ』と言う地名のほうが知っている人は多いだろうに……。

「どうしたんだ、お前? トウキョウなんて地名は王国にないよな?」

 兄も首をかしげて私に尋ねる。

「ああ、いや、そういえば、ヴァイスハーフェン家では今度『レイゾウコ』なるものを市場に出回らせることにしたんですよ」

 私は急いで話題を変えた。

「『レイゾウコ』ですか? それはいかなるもので?」

 それもわからない?

「ええと、大きな貴族の家では冷却魔法の魔石をおいた倉庫に食べ物を保存したりするけど、それの小型の箱状のものを一般家庭にも広めるアイデアをね……」

「おいおい、それはまだ秘密だろうが!」

 兄が私をたしなめる。
 テヘペロの表情をして兄をごまかし、フォーゲルに口止めをした。

 私と同じく日本人の前世を持っているなら反応しそうなことに、フォーゲルは反応しない。
 だとしたら、この人の『鳥の名』の知識は何だろうか?
 推測するに、彼は前世でも鳥など動物に強い興味を持つ人物だったのかもしれない、現世でも魔物研究に携わりたいと言っているくらいだから。

 前世は忘れてしまうのが普通だが、人によっては強い印象の残った出来事や事柄だけを記憶している場合があるのかもしれない。

 フォーゲルの場合、それが時々染み出てきている。

 この王国にはみんな覚えてないだけで、私と同じく地球の日本の前世を持った人が大勢いるのかもしれない。

 前世の名前や経験をはっきり覚えている私が珍しいだけで。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

私の敬愛するお嬢様は、天使の様な悪女でございます。

芹澤©️
恋愛
私がお仕えしておりますアリアナ様は、王太子殿下の婚約者で優秀な御令嬢でございます。容姿端麗、勉学も学年で上位の成績。そして何より天真爛漫で、そこが時折困りますが、それもまた魅力的な方でございます。 けれど、二つ年上の王太子殿下はアリアナ様ではなく、一般家庭出の才女、ミレニス嬢と何やら噂になっていて…私の敬愛するお嬢様に何たる態度!けれども、アリアナ様はそんな王太子殿下の行動なんて御構い無しなのです。それは純真さがさせるのか、はたまた…? 私の中では王太子殿下の好感度はごっそり削られているのですが…私は何処までもお嬢様について参ります!!

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com
恋愛
 説明しよう。私ことアリアーティア・ローランスは超絶ど近眼の悪役令嬢である……。  気が付いたらファンタジー系ライトノベル≪君の瞳に恋したボク≫の悪役令嬢に転生していたアリアーティア。  原作悪役令嬢には、超絶ど近眼なのにそれを隠して奮闘していたがあらゆることが裏目に出てしまい最後はお約束のように酷い断罪をされる結末が待っていた。  えぇぇぇっ?!それって私の未来なの?!  腹黒最低王子の婚約者になるのも、訳ありヒロインをいじめた罪で死刑になるのも、絶体に嫌だ!  私の視力と明るい未来を守るため、瓶底眼鏡を離さないんだから!  眼鏡は顔の一部です! ※この話は短編≪ど近眼悪役令嬢に転生したので意地でも眼鏡を離さない!≫の連載版です。 基本のストーリーはそのままですが、後半が他サイトに掲載しているのとは少し違うバージョンになりますのでタイトルも変えてあります。 途中まで恋愛タグは迷子です。

毒状態の悪役令嬢は内緒の王太子に優しく治療(キス)されてます

愛徳らぴ
恋愛
ハイタッド公爵家の令嬢・セラフィン=ハイタッドは悪人だった……。 第二王子・アエルバートの婚約者の座を手に入れたセラフィンはゆくゆくは王妃となり国を牛耳るつもりでいた。しかし伯爵令嬢・ブレアナ=シュレイムの登場により、事態は一変する。 アエルバートがブレアナを気に入ってしまい、それに焦ったセラフィンが二人の仲を妨害した。 そんな折、セラフィンは自分が転生者であることとここが乙女ゲーム『治癒能力者(ヒーラー)の選ぶ未来』の世界であることを思い出す。 自分の行く末が破滅であることに気付くもすで事態は動き出した後で、婚約破棄&処刑を言い渡される。 処刑時に逃げようとしたセラフィンは命は助かったものの毒に冒されてしまった。 そこに謎の美形男性が現れ、いきなり唇を奪われて……。

噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜

秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』 ◆◆◆ *『お姉様って、本当に醜いわ』 幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。 ◆◆◆ 侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。 こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。 そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。 それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...