黒猫ですが精霊王の眷属をやっています、死んだ公爵令嬢とタッグを組んで王国の危機を救います

玄未マオ

文字の大きさ
上 下
16 / 19

第16話 空気読まずにぶっちゃけましょう

しおりを挟む
「国王陛下。先ほどわたくしの死を惜しまれる発言をしていただきましたこと、まことに恐悦至極ではありますが、私の死の何をいったい惜しまれていたのでしょうか?」

 ロゼラインはまず国王に質問したわ。

「出来の悪い嫡男の補完的存在が失われたことでしょうか?」

 口調は丁寧だけど身もふたもない問いね。

「子を思う親の気持ちもあるのでしょう。しかし、肝心の嫡男パリスがその意図を正確にくみ取らず、国王に期待されていた私の言動を邪推し、挙句の果てに浮気をし、その相手とともにわたくしを貶めるようなことをずっと繰り返してきました」

 そうそう。
 それに対するロゼラインの心の痛みは一切考えずに、すまない、と、謝るだけ。

 要するに、彼女にただ我慢を強いてきただけなのよ。

「子の気持ちなど一切考えない親の娘だから、こんな針の筵のような劣悪な環境の中に放置したまま、出来の悪い息子の補佐をさせておけばいいとでも思っていたのでしょうか?」

 娘のことを慮る親なら、いくら王家とはいえこんなひどい仕打ちをされればは許さないだろうし、公爵家側から婚約解消の話があってもおかしくなかったわ。

 でもいかんせん、毒親だったからね……。

 王家がそれに乗じていたと言ってもいいわけよ。

 自分の息子の根性がひん曲がっていることも、ロゼラインの家族の虐待まがいの扱いもちゃんと知っていたくせに、彼女が堪えて義務を果たすことだけ期待していた。

 ああ、でもこれって私たち精霊がロゼラインにしてきた仕打ちと一緒なのよね。

 言葉に窮する国王を放置し、次にこの場に集っていた貴族の面々に向かって彼女は言ったわ。

「皆様の奥方様の中には母とともに、私を陰で、あるいは面と向かって侮辱的な発言を繰り返していた方が何名かいらっしゃいます」

 自分の奥方の言動を思い出して汗を拭き始める人がけっこういるわ。

「それから王太子とともに建国祭やそれ以外のところで私を貶めたご子息の親御さんもいらっしゃまいますね」

 王太子の腰ぎんちゃくの親たちも焦り出したわ。

「この先ご当家が何らかの不幸に見舞われた際には、私を思い出してくださいませ。やった側は過去のこととすっかり忘れていても、された側の傷は決して癒えず残るものでございますから、私に心ない仕打ちをした方のご家門には微力ながら呪いの一つもかけさせていただく所存です」

 キャハハ、ナイスな脅しよ。

 ところでロゼラインって『呪い』とかかけられるの?

「かけられるわけないでしょ。やり方知らないし……」

 私の質問にロゼラインはそっと耳打ちしたわ。

「でも、ちょっとした恐怖を与えるくらい、今まで王都の貴族社会にされてきたことを考えれば、いいんじゃないかなって」

 そうね、長い人生、たとえ誰かからの恨みや呪いがなかったとしても、不幸があったり不運な状況に見舞われることはある。

 そんなとき心の片隅に自分がひどいことをしてしまった者の恨みなどが引っかかっていれば、もしかしたらあの時の報いで、と、恐怖するでしょう。

 うんうん、せいぜい恐怖するがいいのよ。

 後で知ったことだけど、ロゼラインの発言に恐怖した国王や貴族連中は、どうやったら彼女の魂をなだめられるかと思い悩み、無い知恵を絞り、銅像を建て彼女をたたえることにしたそうよ。

 その名も『救国の乙女』。

 バカ王太子がすんなり即位して亡国の憂き目にあうのを防いだのだから、あながち嘘じゃないけどね。

 ただ、その話を聞いたロゼラインは全くの無感動。

「別に銅像なんて建てられてもね……」

 そりゃそうよね、頼んだわけじゃないし。

 そうやって場の空気を思いきり凍り付かせているうちに、サタ坊の力の効力も消えかかってきた。

 ロゼラインがこの世でやりたかったことは終わったし、いよいよ現世をおさらばする時が近づいてきたのよ。


【作者メモ】
 ロゼラインにとっては王都の王侯貴族は虐めの傍観者のようなものです。

 歴史的に見ると、権力闘争で敗者『悪役』として葬り去っておきながら、あとで神としてたたえる事例が日本ではよくあります。
 日本の場合「怨霊怖い💦」って民族独特の感性もありますから。

 西洋でもフランスは、自分たちがジャンヌ・ダルクを見捨てたくせに、聖女認定されると『救国の乙女』扱いですからね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ

青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人 世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。 デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女 小国は栄え、大国は滅びる。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

処理中です...