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第5話 二人の誤解を解くわよ
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ロゼラインは王宮の生前自室だった部屋の前の廊下に瞬間移動したわ。
そこはもう王太子パリスの新しい相手サルビアの部屋になっているのだけどね。
まあ、そこが一番思い入れの深い場所ゆえ現れたのかもしれないけど……。
「あのさ、念じれば会いたい人間の前にすぐ行けるのに、どうして玄関前とか関係のない部屋の前とかに現れるの?」
私はロゼラインに言ったわ。
「えっ、ほんと?」
「だって、私たち霊体だもん」
あらら、知らなかったのね。
ロゼラインは目を大きく見開いて驚いたわ。
生きている時の習慣で、アイリスに会いたいと思った時にはウスタライフェン邸の玄関。
ゼフィーロにしても、王宮でまず思い浮かべたのが、これまた生きている時の習慣で自室の前。
要するに、会いたい人間そのものを連想すれば、手間もなくその人物の前に現れることができるのに、ロゼラインは違う連想をしていたから回り道する結果になっていたのよ。
「いや、私たちにとっては当たり前だったから、説明忘れてたね」
それを早く言って、と、ロゼラインは言ったわ。
なんにせよ、やり方が分かったロゼラインはゼフィーロを念じ彼の前へと現れた。
「ロゼライン義姉上……?まさか!」
いきなり目の前に現れた存在に王子は驚いて椅子から立ち上がる。
見えるってことはこの人物も協力者候補ね、ありがたいわ。
ロゼラインはまだ王太子パリスと結婚していなかったけど、ゼフィーロは彼女を『義姉上』と呼ぶくらい、慕って尊敬もしていたようね。
「ねえ、手に持っているの、あの子の手紙じゃない?」
私は目ざとくゼフィーロ王子が手に持っている紙切れを指摘する。
もちろんビンゴ!
『この度、婚約解消をお願いしたく筆を執りました。今まで過分なご配慮をいただき感謝の念に堪えません』
たった二行の短い手紙。
それはアイリスの本心じゃない、もし婚約関係を続けたいならついてきてほしい、と、ロゼラインが言うとゼフィーロはすぐ了承。
すでに死んだ人間としゃべる猫がいきなり目の前に現れても、即座に対応できるあたり、ゼフィーロ王子ってなかなか頭が柔らかい人間ね。
それだけアイリスのことでわらをもすがる気持ちだったのかもしれないけど。
私たちは道々ゼフィーロに兄の王太子パリスのたくらみを説明したわ。
ゼフィーロはあきれ、兄の愚かしさを嘆いた。
そもそも、ロゼラインから王太子妃の資質に乏しいサルビアに鞍替えしたせいで、アイリスなどもずいぶん迷惑をこうむっていたらしい。
ウスタライフェン家につくとゼフィーロは家人の制止を聞かず、アイリスの部屋の扉の前まで進んだわ。
そこからが私たちの腕の見せ所。
霊体である私たちには鍵がかかっていても関係ない。
中に入ってカギを開けゼフィーロを招き入れる。
家人はね、今ちょっと邪魔だから私の術で眠ってもらったわ。
役に立つっしょ!
さあ、どんどん褒めて私の頭をナデナデしなさい!
「アイリス、話はだいたい義姉上から聞いた。婚約解消の理由がそれだけなら、僕は……。それに君は勘違いをしているようだけど、君を疎んじてあまりしゃべらなかったりしていたわけでは……」
ゼフィーロが言いよどむ。
歯切れが悪いわね、なぜはっきりと言わないのかしら?
ああ、イライラする。
「まどろっこしいわね! 要するに普通の恋人たちのように手を握ったり肩を抱いたりしたら、さらにその先のあんなことやこんなことまでしたくなりそうだから、抑えてそっけない態度をしていたってだけでしょう!」
フッ、言ってやったわ。
王子さまったら何うろたえてるのよ。
「クロ! あんたなんてことを!」
なんで叱るのよ、ロゼライン?
「だってさ、お互いをおもんばかって勘違いが生じたんだったら、もうそのものズバリを言っちゃう方が良くない?」
私は反論したわ
「ズバリ過ぎるの!」
それに対してロゼラインも再反論。
私たちがそう言い合っているうちに、若い婚約者同士、アイリスとゼフィーロは距離を縮めていったの。
「その……、この猫のいうことはあながち間違えでもなくて、僕は……」
「ゼフィーロ様……」
フッフッフ、どうよ、この一刀両断の解決力。
一瞬でもつれた心を切り裂いた私のことを、ゼフィーロ王子がその後、深い敬意を表するようになったのは言うまでもないわ。
そこはもう王太子パリスの新しい相手サルビアの部屋になっているのだけどね。
まあ、そこが一番思い入れの深い場所ゆえ現れたのかもしれないけど……。
「あのさ、念じれば会いたい人間の前にすぐ行けるのに、どうして玄関前とか関係のない部屋の前とかに現れるの?」
私はロゼラインに言ったわ。
「えっ、ほんと?」
「だって、私たち霊体だもん」
あらら、知らなかったのね。
ロゼラインは目を大きく見開いて驚いたわ。
生きている時の習慣で、アイリスに会いたいと思った時にはウスタライフェン邸の玄関。
ゼフィーロにしても、王宮でまず思い浮かべたのが、これまた生きている時の習慣で自室の前。
要するに、会いたい人間そのものを連想すれば、手間もなくその人物の前に現れることができるのに、ロゼラインは違う連想をしていたから回り道する結果になっていたのよ。
「いや、私たちにとっては当たり前だったから、説明忘れてたね」
それを早く言って、と、ロゼラインは言ったわ。
なんにせよ、やり方が分かったロゼラインはゼフィーロを念じ彼の前へと現れた。
「ロゼライン義姉上……?まさか!」
いきなり目の前に現れた存在に王子は驚いて椅子から立ち上がる。
見えるってことはこの人物も協力者候補ね、ありがたいわ。
ロゼラインはまだ王太子パリスと結婚していなかったけど、ゼフィーロは彼女を『義姉上』と呼ぶくらい、慕って尊敬もしていたようね。
「ねえ、手に持っているの、あの子の手紙じゃない?」
私は目ざとくゼフィーロ王子が手に持っている紙切れを指摘する。
もちろんビンゴ!
『この度、婚約解消をお願いしたく筆を執りました。今まで過分なご配慮をいただき感謝の念に堪えません』
たった二行の短い手紙。
それはアイリスの本心じゃない、もし婚約関係を続けたいならついてきてほしい、と、ロゼラインが言うとゼフィーロはすぐ了承。
すでに死んだ人間としゃべる猫がいきなり目の前に現れても、即座に対応できるあたり、ゼフィーロ王子ってなかなか頭が柔らかい人間ね。
それだけアイリスのことでわらをもすがる気持ちだったのかもしれないけど。
私たちは道々ゼフィーロに兄の王太子パリスのたくらみを説明したわ。
ゼフィーロはあきれ、兄の愚かしさを嘆いた。
そもそも、ロゼラインから王太子妃の資質に乏しいサルビアに鞍替えしたせいで、アイリスなどもずいぶん迷惑をこうむっていたらしい。
ウスタライフェン家につくとゼフィーロは家人の制止を聞かず、アイリスの部屋の扉の前まで進んだわ。
そこからが私たちの腕の見せ所。
霊体である私たちには鍵がかかっていても関係ない。
中に入ってカギを開けゼフィーロを招き入れる。
家人はね、今ちょっと邪魔だから私の術で眠ってもらったわ。
役に立つっしょ!
さあ、どんどん褒めて私の頭をナデナデしなさい!
「アイリス、話はだいたい義姉上から聞いた。婚約解消の理由がそれだけなら、僕は……。それに君は勘違いをしているようだけど、君を疎んじてあまりしゃべらなかったりしていたわけでは……」
ゼフィーロが言いよどむ。
歯切れが悪いわね、なぜはっきりと言わないのかしら?
ああ、イライラする。
「まどろっこしいわね! 要するに普通の恋人たちのように手を握ったり肩を抱いたりしたら、さらにその先のあんなことやこんなことまでしたくなりそうだから、抑えてそっけない態度をしていたってだけでしょう!」
フッ、言ってやったわ。
王子さまったら何うろたえてるのよ。
「クロ! あんたなんてことを!」
なんで叱るのよ、ロゼライン?
「だってさ、お互いをおもんばかって勘違いが生じたんだったら、もうそのものズバリを言っちゃう方が良くない?」
私は反論したわ
「ズバリ過ぎるの!」
それに対してロゼラインも再反論。
私たちがそう言い合っているうちに、若い婚約者同士、アイリスとゼフィーロは距離を縮めていったの。
「その……、この猫のいうことはあながち間違えでもなくて、僕は……」
「ゼフィーロ様……」
フッフッフ、どうよ、この一刀両断の解決力。
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