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第1話 こう見えても精霊王の眷属
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私は黒猫、名前は適当に呼んでくれちゃっていいわ。
この世界を監視する精霊王フェレーヌドティナの眷属だけど、彼女からは、見た目も触り心地も完璧、と、お褒めをいただいちゃっているのよ。
彼女のことは「ティナ」って呼んでいるわ。
彼女を愛称で呼べるのは私くらいなのよ。
ティナのひざ元であおむけになりのどをごろごろとならす。
そんなまったりした至福の時。
それを破る無粋な声がいきなり……。
「大変です、フェリ様! 死んだ公爵令嬢の魂が行方不明になりました!」
げんなりした私は目をこすりティナの横で耳を傾ける。
ちなみにフェリっていうのは『フェレーヌドティナ』の略称。
フェレーヌっていうのが精霊女王って意味ね。
「どういうことじゃ?」
ティナもげんなりした表情で質問。
無粋な声の主はティナの下について世界を支える四大精霊の一人。
幸運と苦難をつかさどるサタージュだけど、四精霊の中で一番まっすぐちゃんなので『サタ坊』と呼ばれたりしてるわ。
だって中身が坊やなんですもの。
外見はティナと同じ虹色に輝く銀髪を持った美丈夫なんだけどね。
「死んだ公爵令嬢とは誰のことじゃ?」
ティナがさらに質問をする。
「ロゼライン・ノルドベルクです」
サタ坊は答える。
「はあ? 確か未来の王妃となるべき者だったろう。現王太子のパリスが暗愚なのでどうしたものかと会議をしたばかりだ。その妃となるロゼラインが沈着冷静かつ公正な人物ゆえ、そこに期待をかけもう少し見守ろうという話におさまったのであろうが! それがどうして『死んだ』とかいう話になっておるのじゃ!」
「実を申しますと、カクカクシカジカ……」
サタ坊の説明によると、大陸の北部の山岳国家シュウィツアの建国記念パーティ。
そこで、王太子のパリスが婚約者であるロゼラインに対し婚約破棄を宣言したらしい。
「王族の婚約破棄ってそんなに簡単にできるものなのか?」
ティナは首をかしげる。
「いえ、とんでもありません。王侯貴族の婚姻の約束、つまり婚約は家同士の合意に基づいて結ばれ、破棄するときも同様。王太子と言えど『宣言』したからと言って即『婚約解消』が成立するわけではありません」
「では、なぜ?」
「さあ、バカの考えることは私にはトンと……。問題はそこからです。そんなトンデモ発言もロゼライン嬢は冷静に受け止め自室に下がりました。しかしそれからしばらくして、侍女がロゼライン嬢の様子がおかしいと医師を呼び、間もなく死亡が確認されたのです」
「自殺か?」
「そう判断されましたが、事実は違います。彼女を虐げ不利益ばかりをもたらす輩たちの無責任な行いが偶然にも重なり合ってこのような結果になったのです。正直言って想定外でした」
シュウィツア国が滞りなく統治され民の安寧を守るためのキーマンの突然の死亡。
先日この国について話し合って決定したことがすべてチャラになりそう。
「残念ながら、こちらの見通しが甘かったことは認めざるを得ません。キーマンとなる公爵令嬢の周囲を取り巻く悪意や環境のひどさはこちらの想定をはるかに超えていた……」
「悔やんでも死んだ令嬢は生き返らぬぞ。怨霊にでもなられたら取り返しがつかない。直ちに彼女の魂を発見し保護するのじゃ」
「はいっ!」
お辞儀を何度も繰り返しているサタ坊の姿はまるで米つきバッタ。
そんな彼の様子を悠然と眺めながらティナは私の方を向いてそして言ったの。
「そなた、こやつの補佐を頼めるか?」
へっ、私?
「猫は魂の気配を探るのが巧い。役に立つじゃろう」
そう言ってティナは私を抱きかかえてサタ坊に手渡した。
やれやれ、のんびりした時間はおしまいかあ。
世界を見守る精霊と言っても、人間のことをすべて理解しているわけではない。
だから、こういう見込み違いでの失敗も多くあるわけで、その尻拭いもけっこうやらされるのよね。
サタ坊が不器用に抱きかかえているところから、私はピョンと飛び降りた。
そして現世へ。
早く、私に尻尾についてらっしゃい。
☆―☆―☆―☆-☆-☆
【作者あいさつ】
読みに来ていただいてありがとうございます。
この世界を監視する精霊王フェレーヌドティナの眷属だけど、彼女からは、見た目も触り心地も完璧、と、お褒めをいただいちゃっているのよ。
彼女のことは「ティナ」って呼んでいるわ。
彼女を愛称で呼べるのは私くらいなのよ。
ティナのひざ元であおむけになりのどをごろごろとならす。
そんなまったりした至福の時。
それを破る無粋な声がいきなり……。
「大変です、フェリ様! 死んだ公爵令嬢の魂が行方不明になりました!」
げんなりした私は目をこすりティナの横で耳を傾ける。
ちなみにフェリっていうのは『フェレーヌドティナ』の略称。
フェレーヌっていうのが精霊女王って意味ね。
「どういうことじゃ?」
ティナもげんなりした表情で質問。
無粋な声の主はティナの下について世界を支える四大精霊の一人。
幸運と苦難をつかさどるサタージュだけど、四精霊の中で一番まっすぐちゃんなので『サタ坊』と呼ばれたりしてるわ。
だって中身が坊やなんですもの。
外見はティナと同じ虹色に輝く銀髪を持った美丈夫なんだけどね。
「死んだ公爵令嬢とは誰のことじゃ?」
ティナがさらに質問をする。
「ロゼライン・ノルドベルクです」
サタ坊は答える。
「はあ? 確か未来の王妃となるべき者だったろう。現王太子のパリスが暗愚なのでどうしたものかと会議をしたばかりだ。その妃となるロゼラインが沈着冷静かつ公正な人物ゆえ、そこに期待をかけもう少し見守ろうという話におさまったのであろうが! それがどうして『死んだ』とかいう話になっておるのじゃ!」
「実を申しますと、カクカクシカジカ……」
サタ坊の説明によると、大陸の北部の山岳国家シュウィツアの建国記念パーティ。
そこで、王太子のパリスが婚約者であるロゼラインに対し婚約破棄を宣言したらしい。
「王族の婚約破棄ってそんなに簡単にできるものなのか?」
ティナは首をかしげる。
「いえ、とんでもありません。王侯貴族の婚姻の約束、つまり婚約は家同士の合意に基づいて結ばれ、破棄するときも同様。王太子と言えど『宣言』したからと言って即『婚約解消』が成立するわけではありません」
「では、なぜ?」
「さあ、バカの考えることは私にはトンと……。問題はそこからです。そんなトンデモ発言もロゼライン嬢は冷静に受け止め自室に下がりました。しかしそれからしばらくして、侍女がロゼライン嬢の様子がおかしいと医師を呼び、間もなく死亡が確認されたのです」
「自殺か?」
「そう判断されましたが、事実は違います。彼女を虐げ不利益ばかりをもたらす輩たちの無責任な行いが偶然にも重なり合ってこのような結果になったのです。正直言って想定外でした」
シュウィツア国が滞りなく統治され民の安寧を守るためのキーマンの突然の死亡。
先日この国について話し合って決定したことがすべてチャラになりそう。
「残念ながら、こちらの見通しが甘かったことは認めざるを得ません。キーマンとなる公爵令嬢の周囲を取り巻く悪意や環境のひどさはこちらの想定をはるかに超えていた……」
「悔やんでも死んだ令嬢は生き返らぬぞ。怨霊にでもなられたら取り返しがつかない。直ちに彼女の魂を発見し保護するのじゃ」
「はいっ!」
お辞儀を何度も繰り返しているサタ坊の姿はまるで米つきバッタ。
そんな彼の様子を悠然と眺めながらティナは私の方を向いてそして言ったの。
「そなた、こやつの補佐を頼めるか?」
へっ、私?
「猫は魂の気配を探るのが巧い。役に立つじゃろう」
そう言ってティナは私を抱きかかえてサタ坊に手渡した。
やれやれ、のんびりした時間はおしまいかあ。
世界を見守る精霊と言っても、人間のことをすべて理解しているわけではない。
だから、こういう見込み違いでの失敗も多くあるわけで、その尻拭いもけっこうやらされるのよね。
サタ坊が不器用に抱きかかえているところから、私はピョンと飛び降りた。
そして現世へ。
早く、私に尻尾についてらっしゃい。
☆―☆―☆―☆-☆-☆
【作者あいさつ】
読みに来ていただいてありがとうございます。
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