46 / 51
第46話 新婚旅行……、だったのか?
しおりを挟む
レナートはニードルの首都への最短距離ではなく少し回り道をして、風光明媚な国一番の大きさの湖のほとりに一泊することとした。
「お部屋はお一人様用とお二人様用をおひとつずつですね」
宿の主人が部屋のカギを彼らに手渡した。
「きれいなところだろう。湖の向こうにある森の奥にはそこそこ強い魔物が徘徊しているから時々狩りに来るんだ。ここはその定宿ってわけさ。心配しなくても湖畔のあたりは安全だからな」
宿の中を案内しながらレナートが説明する。
「さあ、ここがお前たちの部屋だ。湖の目の前、宿で一番眺めのいい部屋だぜ」
レナートが二人用の部屋を扉を開ける。
「じゃあな、俺の部屋は別棟だから」
「ちょっと待ってください、伯父上」
「なんだ?」
「ここは僕と伯父上の部屋じゃないのですか? 男性二名に女性一名、だから、二人部屋と一人部屋を……」
「何言ってんだ、お前? ここは夫婦用の部屋で、俺は一人だから……」
「へっ?」
「当たり前だろう。ここはニードルじゃ新婚旅行にもよくつかわれる地で、どこの宿にもそのための部屋がいくつかあるんだ。じゃあな、ごゆっくり」
「いやいや、ちょっと待ってください」
ベネットが焦ってレナートを引き留める。
「あの、少しいいですか?」
なんだよ、と、めんどくさそうにベネットの質問に答えるレナートに今度はメルが尋ねる。
「夫婦用の部屋とおっしゃいましたが、かなり狭いのですね……」
「これが普通だ、平民ならな。いや、平民にしては少し贅沢なくらいの部屋だぞ」
「これだけ狭い部屋にベネット様と……」
そこが新婚旅行のだいご味だろうが、と、レナートは思いながら二人に告げる。
「慣れることだ、じゃあな」
放置するかのようにレナートは二人を残して部屋を出た。
夫婦用の寝室に取り残されたベネットとメルに気まずい沈黙が流れた。
思い起こせば王宮ならば二人きりと言っても、広い部屋でそれなりの距離を取って向かい合うこともできた。
しかし、いま彼らがいるこの部屋は置かれているテーブルやソファーも二人が密着して座る程度の大きさしかなく、ベッドもまた同様であった。
「えっと、少し暑いですね……」
ベネットは湖に面した部屋の窓を開ける。
照れ隠しからか、湖からの涼しい風にベネットは火照った顔をさらした。
日中にこうやって顔に直接風を受けるのもベネットにとっては国を出て初めて体験することであった。
心地よさそうに陽光と湖からの風を受けているベネットにメルが後ろから声をかける。
「小さい部屋も悪くないですね。好きな方と一緒なら」
数日後、ベネットとメルは先々代のヴァルカンや先代のレナートが済む家に近居し新たな生活を始める。
ギルドに顔の利く彼らのおかげで家庭教師や簡単な魔物狩りなど仕事はいろいろとあった。
ただ美男子すぎるベネットを若い女性がいる家の家庭教師にするといろいろ問題があったとか、メルも何名かの男性に懸想をされたが、夫のベネットを一目見ると皆あきらめて帰っていったとか、平民にしては美しすぎる若夫婦もそれなりに楽しみながらニードルでの生活になじんでいく。
二人の間には一男一女が生まれ家族としての幸せを味わいながら六年後、故国メディアの異変を耳にすることとなる。
「クーデターですって!」
「ああ、首謀者はオーブリー辺境伯だ」
「お部屋はお一人様用とお二人様用をおひとつずつですね」
宿の主人が部屋のカギを彼らに手渡した。
「きれいなところだろう。湖の向こうにある森の奥にはそこそこ強い魔物が徘徊しているから時々狩りに来るんだ。ここはその定宿ってわけさ。心配しなくても湖畔のあたりは安全だからな」
宿の中を案内しながらレナートが説明する。
「さあ、ここがお前たちの部屋だ。湖の目の前、宿で一番眺めのいい部屋だぜ」
レナートが二人用の部屋を扉を開ける。
「じゃあな、俺の部屋は別棟だから」
「ちょっと待ってください、伯父上」
「なんだ?」
「ここは僕と伯父上の部屋じゃないのですか? 男性二名に女性一名、だから、二人部屋と一人部屋を……」
「何言ってんだ、お前? ここは夫婦用の部屋で、俺は一人だから……」
「へっ?」
「当たり前だろう。ここはニードルじゃ新婚旅行にもよくつかわれる地で、どこの宿にもそのための部屋がいくつかあるんだ。じゃあな、ごゆっくり」
「いやいや、ちょっと待ってください」
ベネットが焦ってレナートを引き留める。
「あの、少しいいですか?」
なんだよ、と、めんどくさそうにベネットの質問に答えるレナートに今度はメルが尋ねる。
「夫婦用の部屋とおっしゃいましたが、かなり狭いのですね……」
「これが普通だ、平民ならな。いや、平民にしては少し贅沢なくらいの部屋だぞ」
「これだけ狭い部屋にベネット様と……」
そこが新婚旅行のだいご味だろうが、と、レナートは思いながら二人に告げる。
「慣れることだ、じゃあな」
放置するかのようにレナートは二人を残して部屋を出た。
夫婦用の寝室に取り残されたベネットとメルに気まずい沈黙が流れた。
思い起こせば王宮ならば二人きりと言っても、広い部屋でそれなりの距離を取って向かい合うこともできた。
しかし、いま彼らがいるこの部屋は置かれているテーブルやソファーも二人が密着して座る程度の大きさしかなく、ベッドもまた同様であった。
「えっと、少し暑いですね……」
ベネットは湖に面した部屋の窓を開ける。
照れ隠しからか、湖からの涼しい風にベネットは火照った顔をさらした。
日中にこうやって顔に直接風を受けるのもベネットにとっては国を出て初めて体験することであった。
心地よさそうに陽光と湖からの風を受けているベネットにメルが後ろから声をかける。
「小さい部屋も悪くないですね。好きな方と一緒なら」
数日後、ベネットとメルは先々代のヴァルカンや先代のレナートが済む家に近居し新たな生活を始める。
ギルドに顔の利く彼らのおかげで家庭教師や簡単な魔物狩りなど仕事はいろいろとあった。
ただ美男子すぎるベネットを若い女性がいる家の家庭教師にするといろいろ問題があったとか、メルも何名かの男性に懸想をされたが、夫のベネットを一目見ると皆あきらめて帰っていったとか、平民にしては美しすぎる若夫婦もそれなりに楽しみながらニードルでの生活になじんでいく。
二人の間には一男一女が生まれ家族としての幸せを味わいながら六年後、故国メディアの異変を耳にすることとなる。
「クーデターですって!」
「ああ、首謀者はオーブリー辺境伯だ」
17
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
へぇ。美的感覚が違うんですか。なら私は結婚しなくてすみそうですね。え?求婚ですか?ご遠慮します
如月花恋
ファンタジー
この世界では女性はつり目などのキツい印象の方がいいらしい
全くもって分からない
転生した私にはその美的感覚が分からないよ
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
草食系ヴァンパイアはどうしていいのか分からない!!
アキナヌカ
ファンタジー
ある時、ある場所、ある瞬間に、何故だか文字通りの草食系ヴァンパイアが誕生した。
思いつくのは草刈りとか、森林を枯らして開拓とか、それが実は俺の天職なのか!?
生まれてしまったものは仕方がない、俺が何をすればいいのかは分からない!
なってしまった草食系とはいえヴァンパイア人生、楽しくいろいろやってみようか!!
◇以前に別名で連載していた『草食系ヴァンパイアは何をしていいのかわからない!!』の再連載となります。この度、完結いたしました!!ありがとうございます!!評価・感想などまだまだおまちしています。ピクシブ、カクヨム、小説家になろうにも投稿しています◇
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
嘘つきと呼ばれた精霊使いの私
ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。
遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!
天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。
魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。
でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。
一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。
トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。
互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。
。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.
他サイトにも連載中
2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる