王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ

文字の大きさ
上 下
42 / 51

第42話 王家を出し抜け

しおりを挟む
「つまり、メルはこれから新たに生まれくる子供も苦しむようなことがない形をとりたいということだね」

 ベネットが言い、メルは黙ってうなずいた。

「それは確かに気高くお優しい考えかもしれないが、こちらにとってはそれなりの危険が伴う」

 レナートは難色を示した。

「あと、もう一つ気になることと言えば、呪いが消えると同時に魔石も取れなくなると思うのですが、そうなればこの国はどうなるかと?」

 メルはもう一つの懸案事項を口にした。

「そっちの方は気にしなくていいかもしれない。魔石が取れて得られた富はほとんど王家が独占している。あの鉱山は掘り出すのに特別な技術がいらないので一般の労働者が入る必要もなく、優遇している貴族に山に入って魔石を一部採取する許可を与えて富を分かち合っている。それが王家の求心力になっているんだ」

 呪いの結果得られる魔石採掘のからくりをベネットが説明する。

「そういえばそうだったな。あのな、普通の鉱山というのは掘り出すのにもそれなりに技術と労力が必要なんだ。だから、いざ資源が取れなくなって閉山となると、そこで働いていた多くの技術者が路頭に迷う結果となるのだが、あそこは王家と一部の貴族の使いが大した技術もなく収集しているだけだから、呪いがなくなっても失業者問題などを気にする必要もない」

 レナートがさらに詳しく、普通の鉱山と呪いが産んだ王家の魔石採掘場との違いを説明した。

「あら、それなら、呪いが消えても問題なし、あなたもなかなか乗り気だったのね、レナート」

 テティスが夫レナートに茶々を入れた。

「えっ、いや……、そんなつもりで言ったわけじゃ……」

 レナートが慌てる。

「生まれてくる赤子、働いている労働者、様々な人を気遣ってメルさまは本当にお優しい。だからベネット様もぞっこんなのですね」

 ばあやが変なことで感心する。

「ばあや、なにを言って……」

 ベネットが顔を赤くして慌てる。

「おや、何か違ってましたか?」

 ばあやのからかいにベネットは何かもごもごと他の人間には聞こえないつぶやきをくりかえした。

 メルの方もベネットの態度に頬を赤らめる。

「ああぁ、そんな態度を取られたら話に乗らざるを得ないじゃないか!」

 レナートが大きな声でぼやく。

「王家を出し抜いての脱走劇、ちょっとワクワクしてきたんですけど!」

 テティスもノリノリで、どうやら話はまとまった。



 その後は旧王太子夫妻、つまりベネットとメルの離宮への引っ越しの準備が粛々と行われた。

 引っ越しを依頼された業者のふりをしてレナートたちも王宮に変装して入り込んでいた。

「もらえるもんはできるだけもらっとけ。使わなくてもあとで換金できるからな」

 商売人らしい忠告なども時々する。

「そうですね。王家から進呈したメル様のお衣装、一枚残らずもらっていきましょう。それだけじゃなくもっともらえるかどうか見繕ってきますわね」

 ばあやもけっこうちゃっかりしている。

「宝石とか持ち運びに便利なものの方がいいわよ」

 テティスもがめつく忠告する。

 こういうことは人生経験が豊富な者のほうが抜け目がないということか。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

今度こそ幸せになります! 小話集

斎木リコ
ファンタジー
『今度こそ幸せになります!』の小話集です。

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。

刻の短刀クロノダガー ~悪役にされた令嬢の人生を取り戻せ~

玄未マオ
ファンタジー
三名の婚約者候補。 彼らは前の時間軸において、一人は敵、もう一人は彼女のために命を落とした騎士。 そして、最後の一人は前の時間軸では面識すらなかったが、彼女を助けるためにやって来た魂の依り代。 過去の過ちを記憶の隅に押しやり孫の誕生を喜ぶ国王に、かつて地獄へと追いやった公爵令嬢セシルの恨みを語る青年が現れる。 それはかつてセシルを嵌めた自分たち夫婦の息子だった。 非道が明るみになり処刑された王太子妃リジェンナ。 無傷だった自分に『幻の王子』にされた息子が語りかけ、王家の秘術が発動される。 巻き戻りファンタジー。 ヒーローは、ごめん、生きている人間ですらない。 ヒロインは悪役令嬢ポジのセシルお嬢様ではなく、彼女の筆頭侍女のアンジュ。 楽しんでくれたらうれしいです。

さよなら聖女様

やなぎ怜
ファンタジー
聖女さまは「かわいそうな死にかた」をしたので神様から「転生特典」を貰ったらしい。真偽のほどは定かではないものの、事実として聖女さまはだれからも愛される存在。私の幼馴染も、義弟も――婚約者も、みんな聖女さまを愛している。けれども私はどうしても聖女さまを愛せない。そんなわたしの本音を見透かしているのか、聖女さまは私にはとても冷淡だ。でもそんな聖女さまの態度をみんなは当たり前のものとして受け入れている。……ただひとり、聖騎士さまを除いて。 ※あっさり展開し、さくっと終わります。 ※他投稿サイトにも掲載。

【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?

まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。 うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。 私、マーガレットは、今年16歳。 この度、結婚の申し込みが舞い込みました。 私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。 支度、はしなくてよろしいのでしょうか。 ☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。

ひめさまはおうちにかえりたい

あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

処理中です...