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第16話 月夜のバルコニーにて
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呪いのかかった顔のせいで、王太子でありながら存在を隠すように生きてきたベネットに気を使いながらメルは指摘する。
「以前仮面を取られた時には、お顔の下半分にもあざやできものが見受けられたのですが、今見えている限りでは、そのようなものは見受けられません。もしかして、呪いが弱まっているとか、そういうことはありませんか?」
メルの指摘にベネットは少し沈黙し、そして答えた。
「あなたが気にすることではありませんよ」
「でも、呪いの力とやらが……」
「これは王家にかかっている呪いですので、あなたに関係のないことです」
「……、そうですか……。ごめんなさい、差し出がましいことを……」
その後、食事が終わると、ベネットはまた執務の続きをするために部屋を出て言った。
楽しかったそぶりを周囲に見せながらも、どこか重たい石のようなものを心の奥に感じながら、メルは自室の方のベットに身を横たえた。
しかしなかなか寝付けない。
関係ない、と、言われたことがメルは寂しかった。
確かにいずれ離婚することがわかってはいても、あっさり『関係ない』と言われては……。
ベネット様はお優しい。
私が王宮で嫌な目に合わないように、時に自分が矢面に立って王家の方々にもモノ申したりしてくださる。
今までそんな風に自分にしてくれた人はいなかったから……。
だから彼が保とうとした距離が悲しかったのだろう。
メルは思いを巡らせた。
だからこそ、いつもなら熟睡している時間に真ん中の夫婦共通の部屋の扉が開き、彼が戻ってきたことに気づくことができた。
ベネットは部屋を素通りしてバルコニーに出た。
満月に近い夜、ベネットは仮面を外して、夜風に当たりながらぼんやりと空を見上げていたので、後ろからメルが近づいてくるのに気づかなかった。
「ベネット様」
不意に声をかけられベネットは振り向いた。
「……っ!」
振り向いた彼の顔にメルは言葉を発することなく驚いた。
見られた!
そう思ったベネットは手で自分の顔を覆った。
「あ、いえ……、お待ちください、そのままで! ベネット様そのお顔は……」
月明かりの下、メルが目にしたのは世にもまれなほど眉目秀麗な青年の姿だった。
「どうして隠すのですか? あの、とても……、お美しゅうございます」
国王夫妻や弟妹達も美男美女ぞろいだったので、呪いをかけられていないベネットの素顔が同じように美しくても何ら不思議はない
「いや、これは……、忘れてください。夜だけなのです」
「夜だけ?」
「知り合いの魔女の推測ですが、魔王は日輪の王に対し魔法の呪文を唱えたので、日輪、つまり太陽が隠れる夜には呪いの力が弱まるのではないかと。とはいっても幼少の頃は夜も醜い顔のままでした。しかし長じて夜に顔の呪いが消えるようになり、これまた魔女の推測ですが、成長して呪いに対する抵抗力ができたせいではないかと」
「そういうことでしたか、このことは王家の方々には?」
「言っていません、ですからどうかこのことは他言無用でお願いします」
「どうしてですか、たとえ夜だけでも呪いが消えて元のお顔に戻れると知れば、皆様もお喜びに……」
ベネットは複雑で悲しげな表情を浮けばながら首を振った。
メルはそんなベネットにかける言葉を必死に探していたが、それより先にバルコニーの下から彼らに声をかけてくる存在がいた。
「よう、ベネット! 久しぶりだな。頼まれていたものが完成したから届けに来たぜ。って、おっと、お熱い夜の真っ最中だったか、こいつあ邪魔したな」
「以前仮面を取られた時には、お顔の下半分にもあざやできものが見受けられたのですが、今見えている限りでは、そのようなものは見受けられません。もしかして、呪いが弱まっているとか、そういうことはありませんか?」
メルの指摘にベネットは少し沈黙し、そして答えた。
「あなたが気にすることではありませんよ」
「でも、呪いの力とやらが……」
「これは王家にかかっている呪いですので、あなたに関係のないことです」
「……、そうですか……。ごめんなさい、差し出がましいことを……」
その後、食事が終わると、ベネットはまた執務の続きをするために部屋を出て言った。
楽しかったそぶりを周囲に見せながらも、どこか重たい石のようなものを心の奥に感じながら、メルは自室の方のベットに身を横たえた。
しかしなかなか寝付けない。
関係ない、と、言われたことがメルは寂しかった。
確かにいずれ離婚することがわかってはいても、あっさり『関係ない』と言われては……。
ベネット様はお優しい。
私が王宮で嫌な目に合わないように、時に自分が矢面に立って王家の方々にもモノ申したりしてくださる。
今までそんな風に自分にしてくれた人はいなかったから……。
だから彼が保とうとした距離が悲しかったのだろう。
メルは思いを巡らせた。
だからこそ、いつもなら熟睡している時間に真ん中の夫婦共通の部屋の扉が開き、彼が戻ってきたことに気づくことができた。
ベネットは部屋を素通りしてバルコニーに出た。
満月に近い夜、ベネットは仮面を外して、夜風に当たりながらぼんやりと空を見上げていたので、後ろからメルが近づいてくるのに気づかなかった。
「ベネット様」
不意に声をかけられベネットは振り向いた。
「……っ!」
振り向いた彼の顔にメルは言葉を発することなく驚いた。
見られた!
そう思ったベネットは手で自分の顔を覆った。
「あ、いえ……、お待ちください、そのままで! ベネット様そのお顔は……」
月明かりの下、メルが目にしたのは世にもまれなほど眉目秀麗な青年の姿だった。
「どうして隠すのですか? あの、とても……、お美しゅうございます」
国王夫妻や弟妹達も美男美女ぞろいだったので、呪いをかけられていないベネットの素顔が同じように美しくても何ら不思議はない
「いや、これは……、忘れてください。夜だけなのです」
「夜だけ?」
「知り合いの魔女の推測ですが、魔王は日輪の王に対し魔法の呪文を唱えたので、日輪、つまり太陽が隠れる夜には呪いの力が弱まるのではないかと。とはいっても幼少の頃は夜も醜い顔のままでした。しかし長じて夜に顔の呪いが消えるようになり、これまた魔女の推測ですが、成長して呪いに対する抵抗力ができたせいではないかと」
「そういうことでしたか、このことは王家の方々には?」
「言っていません、ですからどうかこのことは他言無用でお願いします」
「どうしてですか、たとえ夜だけでも呪いが消えて元のお顔に戻れると知れば、皆様もお喜びに……」
ベネットは複雑で悲しげな表情を浮けばながら首を振った。
メルはそんなベネットにかける言葉を必死に探していたが、それより先にバルコニーの下から彼らに声をかけてくる存在がいた。
「よう、ベネット! 久しぶりだな。頼まれていたものが完成したから届けに来たぜ。って、おっと、お熱い夜の真っ最中だったか、こいつあ邪魔したな」
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