15 / 51
第15話 二人のディナー
しおりを挟む
「サモワ様、お花はこのくらいでいいでしょうか?」
侍女が庭から切り取ってきた薔薇の花を抱えてサモワに尋ねた。
「ええ、そうね。この真ん中が淡い桃色のクリームイエローの薔薇は可愛いわ。愛と言えば深紅だけど、あまりあからさまにするのもね。初々しいお二人にはそのくらいがちょうどいいでしょうね、ほほほ」
サモワは上機嫌で薔薇の花を部屋の各所に活けて飾るよう指示した。
先だってのアクタラッサの食材関連のもめごとの後、王太子夫妻が独占的にその貢物を使うことを王家の人間にも了承させた。
めったにない料理が提供される席、ならば最大限に良い雰囲気にして盛り上げなければ、と、サモワははりきっていた。
王太子夫妻の私室のテーブルの上にもその薔薇を飾り、とっておきの食器を並べる。
部屋のすぐそばにある食堂でという手もあるが、むしろ、夫婦の部屋のテーブルの方がお互いの距離が近くて良いだろう。
執務に明け暮れているメルとベネットが留守の間にサモアは着々と準備を進めていた。
「お時間もちゃんとお知らせしていますし、さすがに今夜はちゃんと部屋に顔を出されますよね、ベネット様」
過去の経験もあり他人と一緒に食事をとることを避けたがるベネットが少し心配の種であった。
夕刻になりメルの方が先に部屋に戻ってきた。
「なんだか少し部屋の雰囲気が変わったような……」
部屋に入りメルが感想を漏らした。
「ええ、楽しいディナーになるように少しいじらせていただきました。お気に召したでしょうか?」
サモワがメルに尋ねた。
「素敵ね。考えてみればベネット様と一緒に食事なんて初めてじゃないかしら」
「そうでございましたか! ああ、執務のためのお衣装では食事の時は少しきついし少々地味ですわね。食事をとるときには楽だけどメルさまの魅力を最大限に引き立てるお衣装に着替えましょう。ささ、こちらへ。あなたたちも手伝ってちょうだい」
サモワがメルを彼女のクローゼットのある私室に引っ張っていき、ほかの侍女たちにも着替えの手伝いを促した。
「まあまあ、メルさまが以前刺繍をなされた薄紅色のドレス。濃い紅色の薔薇模様に縁取りには金糸を使われて、部屋の明かりに映えてきれいですこと」
着替えが終わったメルが夫婦共通の部屋に戻ってきたところで、ベネットも帰ってきた。
「おかえりなさいませ、準備はもう整っておりますよ」
「そうか、では、上着を置いてくる」
ベネットは自室に戻ると上着を脱いでシャツを着替え、さらに食事用なのか、仮面を顔の上半分だけが覆われたものに取り換えてきた。
「それではどうぞお楽しみください」
ばあやのサモワは気を利かせ、給仕係以外は部屋に誰も居ない状態にした。
「本当にとても美味しいですわ!」
「気に入っていただけて良かったです」
食事の時は始終和やかな雰囲気で流れた。
ベネットがメル自作の刺繍を誉めると、メルはベネットの好きな意匠を聞いた。
メルの意図にベネットははにかんだ。
「あの、ベネット様。少し気になることが?」
穏やかに過ぎるディナーの時であったが、メルは先ほどからベネットの顔を観察して気づいたことを思い切って尋ねてみることににした。
【作者あいさつ】
読みに来ていただいてありがとうございます。
ストックがなくなったので、ここから先は更新が数日おきになるかもしれません。
できるだけまめにアップできるよう頑張りますので、懲りずに読みに来てくださいませ。
侍女が庭から切り取ってきた薔薇の花を抱えてサモワに尋ねた。
「ええ、そうね。この真ん中が淡い桃色のクリームイエローの薔薇は可愛いわ。愛と言えば深紅だけど、あまりあからさまにするのもね。初々しいお二人にはそのくらいがちょうどいいでしょうね、ほほほ」
サモワは上機嫌で薔薇の花を部屋の各所に活けて飾るよう指示した。
先だってのアクタラッサの食材関連のもめごとの後、王太子夫妻が独占的にその貢物を使うことを王家の人間にも了承させた。
めったにない料理が提供される席、ならば最大限に良い雰囲気にして盛り上げなければ、と、サモワははりきっていた。
王太子夫妻の私室のテーブルの上にもその薔薇を飾り、とっておきの食器を並べる。
部屋のすぐそばにある食堂でという手もあるが、むしろ、夫婦の部屋のテーブルの方がお互いの距離が近くて良いだろう。
執務に明け暮れているメルとベネットが留守の間にサモアは着々と準備を進めていた。
「お時間もちゃんとお知らせしていますし、さすがに今夜はちゃんと部屋に顔を出されますよね、ベネット様」
過去の経験もあり他人と一緒に食事をとることを避けたがるベネットが少し心配の種であった。
夕刻になりメルの方が先に部屋に戻ってきた。
「なんだか少し部屋の雰囲気が変わったような……」
部屋に入りメルが感想を漏らした。
「ええ、楽しいディナーになるように少しいじらせていただきました。お気に召したでしょうか?」
サモワがメルに尋ねた。
「素敵ね。考えてみればベネット様と一緒に食事なんて初めてじゃないかしら」
「そうでございましたか! ああ、執務のためのお衣装では食事の時は少しきついし少々地味ですわね。食事をとるときには楽だけどメルさまの魅力を最大限に引き立てるお衣装に着替えましょう。ささ、こちらへ。あなたたちも手伝ってちょうだい」
サモワがメルを彼女のクローゼットのある私室に引っ張っていき、ほかの侍女たちにも着替えの手伝いを促した。
「まあまあ、メルさまが以前刺繍をなされた薄紅色のドレス。濃い紅色の薔薇模様に縁取りには金糸を使われて、部屋の明かりに映えてきれいですこと」
着替えが終わったメルが夫婦共通の部屋に戻ってきたところで、ベネットも帰ってきた。
「おかえりなさいませ、準備はもう整っておりますよ」
「そうか、では、上着を置いてくる」
ベネットは自室に戻ると上着を脱いでシャツを着替え、さらに食事用なのか、仮面を顔の上半分だけが覆われたものに取り換えてきた。
「それではどうぞお楽しみください」
ばあやのサモワは気を利かせ、給仕係以外は部屋に誰も居ない状態にした。
「本当にとても美味しいですわ!」
「気に入っていただけて良かったです」
食事の時は始終和やかな雰囲気で流れた。
ベネットがメル自作の刺繍を誉めると、メルはベネットの好きな意匠を聞いた。
メルの意図にベネットははにかんだ。
「あの、ベネット様。少し気になることが?」
穏やかに過ぎるディナーの時であったが、メルは先ほどからベネットの顔を観察して気づいたことを思い切って尋ねてみることににした。
【作者あいさつ】
読みに来ていただいてありがとうございます。
ストックがなくなったので、ここから先は更新が数日おきになるかもしれません。
できるだけまめにアップできるよう頑張りますので、懲りずに読みに来てくださいませ。
12
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。
屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。)
私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。
婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。
レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。
一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。
話が弾み、つい地がでそうになるが…。
そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。
朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。
そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。
レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。
第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
選ばれたのは私以外でした 白い結婚、上等です!
凛蓮月
恋愛
【第16回恋愛小説大賞特別賞を頂き、書籍化されました。
紙、電子にて好評発売中です。よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾】
婚約者だった王太子は、聖女を選んだ。
王命で結婚した相手には、愛する人がいた。
お飾りの妻としている間に出会った人は、そもそも女を否定した。
──私は選ばれない。
って思っていたら。
「改めてきみに求婚するよ」
そう言ってきたのは騎士団長。
きみの力が必要だ? 王都が不穏だから守らせてくれ?
でもしばらくは白い結婚?
……分かりました、白い結婚、上等です!
【恋愛大賞(最終日確認)大賞pt別二位で終了できました。投票頂いた皆様、ありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾応援ありがとうございました!
ホトラン入り、エール、投票もありがとうございました!】
※なんてあらすじですが、作者の脳内の魔法のある異世界のお話です。
※ヒーローとの本格的な恋愛は、中盤くらいからです。
※恋愛大賞参加作品なので、感想欄を開きます。
よろしければお寄せ下さい。当作品への感想は全て承認します。
※登場人物への口撃は可ですが、他の読者様への口撃は作者からの吹き矢が飛んできます。ご注意下さい。
※鋭い感想ありがとうございます。返信はネタバレしないよう気を付けます。すぐネタバレペロリーナが発動しそうになります(汗)
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる