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第14話 幼き日の傷

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「プッ、兄上と一緒に? メル殿、いや王太子妃殿下。食事となるとその仮面も取らざるを得なくなる。化け物のようなご面相を前にしては、せっかく美食を前にしても食欲も失せるんではないですか?」

 クレールがあざ笑うようにメルに言った。

「少なくとも、誰か一人を仲間外れにして、自分たちだけ美味しいものを食べてくすくす笑っているような意地の悪い方々と一緒に食事をとるよりは、楽しい食事になると思いますわ」

 メルは反論した。

「そういうことでよろしいですわね、ベネット様」

「もちろんですともね! ベネット様!」

 メルの提案にベネットより先にばあやのサモアが嬉々として同意した。

「えっと、そういう話に決まったならそれでいい、私は退出する」

 ベネットは戸惑いながら話を切り上げて部屋を出て言った。

「私も食欲が失せたので退出します。皆様ごきげんよう。残りのお食事をお楽しみください」

 メルはそうあいさつをするとベネットたちの後を追った。

「僕にまで気を使わなくてよかったのですよ」

 追いかけてきたメルにベネットはそう言った。

「なにをおっしゃいますやら。メルさまは賢い上にお優しい。アクタラッサの食材をお二人のために使ってよろしいのでしょう。後日、素敵なディナーの席をもうけるように、厨房に申し伝えておきますからね」

「ありがとう、ばあやさん」

 メルは素直に礼を言ったがベネットは複雑な顔をしていた。

「それより、メル。あの席ではろくに食事はとれなかったのではないかい?」

「そうですね、何か軽食をお部屋にお持ちいたしますね」

「じゃ、僕はもう少し仕事が残っているから、ばあやは部屋までメルに付き添ってあげて」

 ベネットはそういうと二人から離れた。

「あらあら、明日でもいいはずなのに。ベネット様ったら」

「でもおかげで助かりましたわ。居心地の悪さが半端ではなかったもので」

「そうですわね。王家の連中はベネット様にやったのと同じ意地悪を妃のあなた様にもしていいと勘違いされていて、それをベネット様に激怒されて面食らったようです。アクタラッサの珍味を食べられなくなって悔しがっていたのはいい気味ですよ」

「えっ、ベネット様も同じような目にあっていたの?」

「ええ、子供の頃のお話ですが、ベネット様はお顔のことでいつもお食事は一人で取られていた。それがある日、家族で食事をとろうと言われ嬉々として大食堂に向かわれたのです。平気な顔をしてらっしゃったけど、やはりお寂しかったのでしょうね」

「……」

「だけど、あの連中ったら、食事で仮面を取らざるを得ないベネット様の顔を見て『食欲が失せる』だの何だのと、そして出されたメニューもベネット様だけ粗末なものを出して見せつけるように自分たちだけ豪華なものを……」

「いったい何がしたかったのかしら?」

 メルは王家の者たちの意図を測りかねていた。

 しかしベネットの心が傷ついたのは想像に難くない。

「ですから、メルさまが夕食に王家の方々に呼ばれたと聞いた時にいや~な予感がしてベネット様にお知らせしたのですよ。問題がないならそれに越したことはないですが、念のためにですね」

「そうだったの、正直助かったわ」

 礼を言いながら、メルはベネットのこれまでの生活を思い胸が痛んだ。


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