10 / 51
第10話 廊下での口論
しおりを挟む
ばあやとともに廊下を歩いていたメルは陰で様子をうかがった。
「では、特に『印』のようなものは見当たらなかったと?」
第三王子のクレールが確認するように侍女に尋ねた。
どうやら彼らはベネットとメルの初夜について、部屋の掃除に来た侍女に質問をしているらしかった。
その会話が耳に入ったとき、メルはかっとなった。
確かに昔は、王侯貴族の間でもめないように婚姻の後、夫婦の契りがちゃんと結ばれたかを確認することがあったし、国と時代によっては初夜が公開されることもあったらしいが、それも昔の話だ。
白い結婚と前もって言われていたし、わざわざそんなことを確かめる必要があるのか?
ベネットの弟王子二人とメルの妹、若い三人が非公式に侍女に話を聞いていることについては、もうのぞき見趣味としか言うほかはない。
「侍女を買収して下世話なうわさ話の収集とは、この国の王子様たちはずいぶんとご趣味が悪いのですね」
メルは厳しく皮肉を込めて声をかけた。
廊下の曲がり角から現れたメルとばあやをみて、三人はぎょっとし、侍女は驚いて走り去った。
「おやおや、噂をすれば、とは、よくいうものですね」
第三王子クレールが悪びれず言った。
「『白い結婚』というのはあくまで生贄のごとく化け物に捧げられる娘をおもんばかっての措置だから、花嫁の方が了承済なら夫婦生活があっても別に問題はない。だけどそんなおぞましい行為が行われたベットをそのまま、次の王太子夫妻が使わなければならないとなると、こちらとしても無関心ではいられないからね」
第二王子のオーブリーもしかつめらしい顔で説明を始めた。
「『化け物』? 『おぞましい』? 誰があなた方より先に生まれて呪いをかぶってくれて、あなた方が無事だと思っているのですか?」
メルの反論にオーブリーは言葉をつまらせた。
「しかたがないだろう。万が一化け物の血を引く子でも王家に誕生したら由々しき事態なんだし……」
第三王子の方がおずおずと言葉を付け加えた。
「ただののぞき見趣味に御大層な理由付けができる語彙力だけは大したものですね。オーブリー様、クレール様」
ばあやが冷淡に言い放った。
「なによ、えらそうにいっても、生贄に違いないのは確かでしょうが!」
二人の王子が押し黙ると今度はエメがくってかかってきた。
「おや、どこのノラを拾ってきたのかと思ったら、この前、メルさまの部屋で乞食根性丸出しだった泥棒ねこではないですか?」
「なんですって!」
エメはばあやをにらみつけた。
「もういい、いこう」
ばあやにかかると二倍も三倍にもなって言葉が返ってくるのがわかっているので、オーブリーは踵をかえした。
クレールもあとに続く。
エメも不機嫌をあらわにしながら二人の王子の後を追うのだった。
「お待ちください」
メルは二人の王子を引き留めた。
「先ほどのベネット様に対する暴言を謝罪してください」
「「何?」」
「謝罪してください!」
「……っ!」
「言葉が理解できませんか? 誰が呪いを一手に引き受けてくれているのか?」
しかし、メルの望む言葉は引き出せなかった。
「行きましょう兄上」
クレール王子が、兄のオーブリー王子やエメを促してメルとばあやのそばから離れていった。
「では、特に『印』のようなものは見当たらなかったと?」
第三王子のクレールが確認するように侍女に尋ねた。
どうやら彼らはベネットとメルの初夜について、部屋の掃除に来た侍女に質問をしているらしかった。
その会話が耳に入ったとき、メルはかっとなった。
確かに昔は、王侯貴族の間でもめないように婚姻の後、夫婦の契りがちゃんと結ばれたかを確認することがあったし、国と時代によっては初夜が公開されることもあったらしいが、それも昔の話だ。
白い結婚と前もって言われていたし、わざわざそんなことを確かめる必要があるのか?
ベネットの弟王子二人とメルの妹、若い三人が非公式に侍女に話を聞いていることについては、もうのぞき見趣味としか言うほかはない。
「侍女を買収して下世話なうわさ話の収集とは、この国の王子様たちはずいぶんとご趣味が悪いのですね」
メルは厳しく皮肉を込めて声をかけた。
廊下の曲がり角から現れたメルとばあやをみて、三人はぎょっとし、侍女は驚いて走り去った。
「おやおや、噂をすれば、とは、よくいうものですね」
第三王子クレールが悪びれず言った。
「『白い結婚』というのはあくまで生贄のごとく化け物に捧げられる娘をおもんばかっての措置だから、花嫁の方が了承済なら夫婦生活があっても別に問題はない。だけどそんなおぞましい行為が行われたベットをそのまま、次の王太子夫妻が使わなければならないとなると、こちらとしても無関心ではいられないからね」
第二王子のオーブリーもしかつめらしい顔で説明を始めた。
「『化け物』? 『おぞましい』? 誰があなた方より先に生まれて呪いをかぶってくれて、あなた方が無事だと思っているのですか?」
メルの反論にオーブリーは言葉をつまらせた。
「しかたがないだろう。万が一化け物の血を引く子でも王家に誕生したら由々しき事態なんだし……」
第三王子の方がおずおずと言葉を付け加えた。
「ただののぞき見趣味に御大層な理由付けができる語彙力だけは大したものですね。オーブリー様、クレール様」
ばあやが冷淡に言い放った。
「なによ、えらそうにいっても、生贄に違いないのは確かでしょうが!」
二人の王子が押し黙ると今度はエメがくってかかってきた。
「おや、どこのノラを拾ってきたのかと思ったら、この前、メルさまの部屋で乞食根性丸出しだった泥棒ねこではないですか?」
「なんですって!」
エメはばあやをにらみつけた。
「もういい、いこう」
ばあやにかかると二倍も三倍にもなって言葉が返ってくるのがわかっているので、オーブリーは踵をかえした。
クレールもあとに続く。
エメも不機嫌をあらわにしながら二人の王子の後を追うのだった。
「お待ちください」
メルは二人の王子を引き留めた。
「先ほどのベネット様に対する暴言を謝罪してください」
「「何?」」
「謝罪してください!」
「……っ!」
「言葉が理解できませんか? 誰が呪いを一手に引き受けてくれているのか?」
しかし、メルの望む言葉は引き出せなかった。
「行きましょう兄上」
クレール王子が、兄のオーブリー王子やエメを促してメルとばあやのそばから離れていった。
12
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。
屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。)
私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。
婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。
レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。
一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。
話が弾み、つい地がでそうになるが…。
そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。
朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。
そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。
レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。
第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
選ばれたのは私以外でした 白い結婚、上等です!
凛蓮月
恋愛
【第16回恋愛小説大賞特別賞を頂き、書籍化されました。
紙、電子にて好評発売中です。よろしくお願いします(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾】
婚約者だった王太子は、聖女を選んだ。
王命で結婚した相手には、愛する人がいた。
お飾りの妻としている間に出会った人は、そもそも女を否定した。
──私は選ばれない。
って思っていたら。
「改めてきみに求婚するよ」
そう言ってきたのは騎士団長。
きみの力が必要だ? 王都が不穏だから守らせてくれ?
でもしばらくは白い結婚?
……分かりました、白い結婚、上等です!
【恋愛大賞(最終日確認)大賞pt別二位で終了できました。投票頂いた皆様、ありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾応援ありがとうございました!
ホトラン入り、エール、投票もありがとうございました!】
※なんてあらすじですが、作者の脳内の魔法のある異世界のお話です。
※ヒーローとの本格的な恋愛は、中盤くらいからです。
※恋愛大賞参加作品なので、感想欄を開きます。
よろしければお寄せ下さい。当作品への感想は全て承認します。
※登場人物への口撃は可ですが、他の読者様への口撃は作者からの吹き矢が飛んできます。ご注意下さい。
※鋭い感想ありがとうございます。返信はネタバレしないよう気を付けます。すぐネタバレペロリーナが発動しそうになります(汗)
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
婚約破棄された令嬢は、実は隣国のお姫様でした。
光子
恋愛
貴族の縦社会が厳しいここ、へーナッツ国。
「俺は、カナリア=ライネラールとの婚約を破棄し、ここにいるメアリー=マイカーンを、俺の新しい婚約者とすることを宣言する!」
貴族のご子息、ご令嬢が通う学園の卒業式前夜。
婚約者である公爵家ご子息から、全校生徒、教師の前で、突然、婚約破棄を告げられた私。
男爵令嬢より1つ身分の高いだけの子爵令嬢の私は、公爵子息に突然告げられた婚約破棄に従う他無く、婚約破棄を了承した。
公爵家に睨まれた我が家は針のむしろになり、没落に追い込まれ、家族からも、没落したのは私のせいだ!と非難され、一生、肩身の狭い思いをしながら、誰からも愛されず生きて行く事になったーーー
ーーーな訳ありませんわ。
あんな馬鹿な公爵子息と、頭の悪そうな男爵令嬢なんかに、良い様に扱われてたまるものですか。
本当にただの子爵令嬢なら、そういった未来が待っていたのかもしれませんが、お生憎様。
私は、貴方がたなんかが太刀打ち出来る相手ではございませんの。
私が男爵令嬢を虐めていた?
もし本当に虐めていたとして、何になるのです?
私は、この世界で、最大の力を持つ国の、第1皇女なのですから。
不定期更新です。
設定はゆるめとなっております。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる