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第11章 誘拐(回帰から二年後)
第92話 アンジュの帰還
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翌朝、リアムは朝食も取らずインシディウス侯爵の屋敷に向かった。
身に覚えはあるが予期せぬ客に侯爵は驚き、応接室で待たせるよう使用人に命じる。
「やあ、リアム君。ずいぶん早いね。例の件は街の方で話をつける方が助かるのだけど」
応接室を人払いした後、侯爵はリアムに話しかける。
「ラルワ弁護士に連絡は取りました。ただ手続きには十日ほどかかると言われました。マールベロー家との契約は解消すると約束しますので、姉を返してください」
リアムは侯爵につめよる。
「十日もかかることはないだろう。私も一度問い合わせたことがあるから間違いないが、事務的な手続きなら数日で済むはずだよ」
「しかし……」
「ああ、なるほど。ラルワ氏は君の契約解消の願いを本気に取ってないのかもしれないな。セシルとケンカをして衝動的に、だから考え直す時間を与えるためにそんな方便を」
「数日で片付くにせよ、姉がどういう状況に置かれているのかもわからないままいう通りにすることはできません」
「勘違いをしないでいただきたい。カードを握っているのは私だよ。君が私にどうこう注文を付けられる立場ではないということを理解したまえ」
つまり、姉が本当に無事なのかどうかもわからないまま、黙って侯爵の言うことに従え、と、いうことなのか?
リアムはこぶしを握り締めた。
二人の間にしばらく沈黙が続いていた時、玄関先で何やらもめているような声が響いていた。
「「「お待ちください」」」
使用人たちが誰かを制止しているようだ。
侯爵とリアムが何事かと部屋の外に注意を向けた瞬間、応接室のドアが開かれた。
「姉さん!」
「馬鹿な!」
リアムと公爵がそろって大声を上げた。
「おはようございます、インシディウス侯爵様。弟が朝早くからそちらにお邪魔していると聞きましたので、迎えに来た次第ですわ」
アンジュは侯爵に優雅にお辞儀をして見せた。
「姉さん、無事だったの?」
リアムはほっとしたように、しかしまだ心配しているかのように姉に尋ねた。
「ええ、昨日は侯爵様のお知り合いの方々の強引なお誘いのせいで、なかなか帰宅できなかったのですが、このお二人が迎えに来てくれたのよ」
アンジュの後ろからノアとジニアスが顔を出した。
「魔法使いにかかれば、行方不明者の捜索など造作もない、まして、こんなずさんな誘拐計画ではね」
ジニアスが自慢げに言う。
「そういうことだ、あなたの知り合いは今警察のご厄介になっているはずだよ、インシディウス侯爵」
ノアも怒りを隠さず厳しく言い放つ。
「あなた、何事ですの?」
玄関先での騒ぎを聞きつけ、公爵夫人や息子たちが応接室の前に集まり、侯爵に状況を尋ねる。
「いえね、侯爵閣下が邪魔ものを排除するために誘拐なんて物騒なことをされるものですから」
あっけらかんとジニアスがインシディウス家の人々に状況を説明する。
「誘拐!」
夫人は絶句する。
「くっ、どけ!」
状況不利と悟った侯爵は応接室の入り口に立っていたジニアスたちをかきわけ、一人で屋敷を飛び出していった。
◇ ◇ ◇
昨夜の話。
アンジュが誘拐されたことを知ったノアとジニアスは、彼女のハンカチを使いその行方を追った。
ハンカチが飛んでいったのは、街はずれの貧民たちが集う酒場の上の階。
どうやらそこに監禁されているらしい。
二人は外から酒場の様子をうかがった。
「飲め飲め、今日は貸し切りだ! 金ならあるぞ! 店の酒全部飲んでもおつりがくるほどだ!」
中から歓声が上がった。
「全員、仲間と言うわけか」
「かなりいるね」
ノアとジニアスは言った。
「たかが娘っ子一人連れてくるだけでこんな大金、割のいい仕事でしたね」
「ねえ、お頭。かなりきれいなお嬢さんだけど味見しちゃいけないですか?」
「だめだだめだ。一応今夜は手を出すなと止められている。まあ、その後の状況次第ではな、へへへ」
連中の騒ぐ声が聞こえる。
下種め、と、ノアは小さな声でつぶやいた。
「魔法で制圧できないことはないだろうが、中の状況を確認してからにしよう」
ジニアスは羽虫くらいの大きさの小さな光を飛ばした。
「監視虫だ。はた目にはただの虫に見える」
光の虫は隙間を見つけて店の中へ入っていった。
そこから得た映像によると、お頭と呼ばれる男を含め賊は十数名ほど。
アンジュは二階の一室に監禁されている。
「僕が賊を制圧するから君はその間にアンジュ嬢を助け出してくれ」
ジニアスがノアに行った。
「一人で大丈夫か? 俺も加わってやつらを制圧してからの方が安全じゃないか?」
ノアが反論した。
いや、それはノアの体に入ったジェイドだった。
「ん、いつの間に?」
「おれも侯爵を張ってこの近辺に当たりをつけていたのさ。そうしたらお前たちがやって来たからな」
「そうか、でも、あの程度の数なら僕の魔法だけで十分。ジェイド、お前は離れてノアに任せろ。お前が入っているだけでノアの体には負担がかかるんだろ」
師匠ジニアスの言葉に納得してジェイドはノアから離れた。
ジニアスは魔法でドアを破壊すると即座に賊たちの体の自由を奪った。
そのすきにノアは二階に駆け上がり、アンジュの部屋へ向かった。
「大丈夫ですか、アンジュ!」
縛られてベッドに転がされていたアンジュは、ドアが開いた瞬間びくっとしたがノアの姿を見るなりほっとして気を失った。
身に覚えはあるが予期せぬ客に侯爵は驚き、応接室で待たせるよう使用人に命じる。
「やあ、リアム君。ずいぶん早いね。例の件は街の方で話をつける方が助かるのだけど」
応接室を人払いした後、侯爵はリアムに話しかける。
「ラルワ弁護士に連絡は取りました。ただ手続きには十日ほどかかると言われました。マールベロー家との契約は解消すると約束しますので、姉を返してください」
リアムは侯爵につめよる。
「十日もかかることはないだろう。私も一度問い合わせたことがあるから間違いないが、事務的な手続きなら数日で済むはずだよ」
「しかし……」
「ああ、なるほど。ラルワ氏は君の契約解消の願いを本気に取ってないのかもしれないな。セシルとケンカをして衝動的に、だから考え直す時間を与えるためにそんな方便を」
「数日で片付くにせよ、姉がどういう状況に置かれているのかもわからないままいう通りにすることはできません」
「勘違いをしないでいただきたい。カードを握っているのは私だよ。君が私にどうこう注文を付けられる立場ではないということを理解したまえ」
つまり、姉が本当に無事なのかどうかもわからないまま、黙って侯爵の言うことに従え、と、いうことなのか?
リアムはこぶしを握り締めた。
二人の間にしばらく沈黙が続いていた時、玄関先で何やらもめているような声が響いていた。
「「「お待ちください」」」
使用人たちが誰かを制止しているようだ。
侯爵とリアムが何事かと部屋の外に注意を向けた瞬間、応接室のドアが開かれた。
「姉さん!」
「馬鹿な!」
リアムと公爵がそろって大声を上げた。
「おはようございます、インシディウス侯爵様。弟が朝早くからそちらにお邪魔していると聞きましたので、迎えに来た次第ですわ」
アンジュは侯爵に優雅にお辞儀をして見せた。
「姉さん、無事だったの?」
リアムはほっとしたように、しかしまだ心配しているかのように姉に尋ねた。
「ええ、昨日は侯爵様のお知り合いの方々の強引なお誘いのせいで、なかなか帰宅できなかったのですが、このお二人が迎えに来てくれたのよ」
アンジュの後ろからノアとジニアスが顔を出した。
「魔法使いにかかれば、行方不明者の捜索など造作もない、まして、こんなずさんな誘拐計画ではね」
ジニアスが自慢げに言う。
「そういうことだ、あなたの知り合いは今警察のご厄介になっているはずだよ、インシディウス侯爵」
ノアも怒りを隠さず厳しく言い放つ。
「あなた、何事ですの?」
玄関先での騒ぎを聞きつけ、公爵夫人や息子たちが応接室の前に集まり、侯爵に状況を尋ねる。
「いえね、侯爵閣下が邪魔ものを排除するために誘拐なんて物騒なことをされるものですから」
あっけらかんとジニアスがインシディウス家の人々に状況を説明する。
「誘拐!」
夫人は絶句する。
「くっ、どけ!」
状況不利と悟った侯爵は応接室の入り口に立っていたジニアスたちをかきわけ、一人で屋敷を飛び出していった。
◇ ◇ ◇
昨夜の話。
アンジュが誘拐されたことを知ったノアとジニアスは、彼女のハンカチを使いその行方を追った。
ハンカチが飛んでいったのは、街はずれの貧民たちが集う酒場の上の階。
どうやらそこに監禁されているらしい。
二人は外から酒場の様子をうかがった。
「飲め飲め、今日は貸し切りだ! 金ならあるぞ! 店の酒全部飲んでもおつりがくるほどだ!」
中から歓声が上がった。
「全員、仲間と言うわけか」
「かなりいるね」
ノアとジニアスは言った。
「たかが娘っ子一人連れてくるだけでこんな大金、割のいい仕事でしたね」
「ねえ、お頭。かなりきれいなお嬢さんだけど味見しちゃいけないですか?」
「だめだだめだ。一応今夜は手を出すなと止められている。まあ、その後の状況次第ではな、へへへ」
連中の騒ぐ声が聞こえる。
下種め、と、ノアは小さな声でつぶやいた。
「魔法で制圧できないことはないだろうが、中の状況を確認してからにしよう」
ジニアスは羽虫くらいの大きさの小さな光を飛ばした。
「監視虫だ。はた目にはただの虫に見える」
光の虫は隙間を見つけて店の中へ入っていった。
そこから得た映像によると、お頭と呼ばれる男を含め賊は十数名ほど。
アンジュは二階の一室に監禁されている。
「僕が賊を制圧するから君はその間にアンジュ嬢を助け出してくれ」
ジニアスがノアに行った。
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ノアが反論した。
いや、それはノアの体に入ったジェイドだった。
「ん、いつの間に?」
「おれも侯爵を張ってこの近辺に当たりをつけていたのさ。そうしたらお前たちがやって来たからな」
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