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第9章 回帰前4(二番目の王太子妃)
第75話 ブレイズ家崩壊
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「この内容は本当なのか、答えろ、ダンゼル!」
遺品として渡されたステラ王太子妃の日記に、元婚約者リヨンとその家族への危害をほのめかしてステラに王太子に嫁ぐことを了承させたところのくだりを読み、父ブレイズ卿は息子ダンゼルを問いつめた。
「ああ、そうですが、何をそんなに怒ることがあるのですか?」
ダンゼルは父の怒りの原因が理解できないという風である。
「ステラが自分の感情を優先してなすべきことをなそうとしないから言ったまでですよ。結局役立たずでしたがね」
血を分けた実の妹に対する冷酷な言い草にブレイズ卿は背筋の凍る思いがした。
「それを誰が望んだ! 私とて賛同してなかった。お前は卑劣にも自分の能力をかさに着て、妹を脅して人生を狂わせたのだぞ!」
「王太子殿下との結婚を『人生を狂わした』などとは不敬もいいところですね、父上」
「話を逸らすな! あのままジョンティール家の子息と結婚させておけばステラは死なずに済んだ、お前が妹を殺したんだ!」
「はあ? ステラの死因は産後の肥立ちの悪さでしょう。ああ、ステラを床に座らせたことを言っているのですか? 出産直後の体がそれほど弱るって知らなかったんだから仕方がないでしょう。だいたい、嫁いだ後も未練がましくぐちゃぐちゃと日記に残して、そんなんだから死ぬんだ!」
「お前、それ本気で言っているのか!」
自分のやったことを顧みもしないで、自己弁護のために死者を貶める息子にブレイズ卿は激高する。
「あなた、おやめになって……。ダンゼルだって王太子殿下のために動こうという気持ちがあったから……」
彼らの妻であり母であるカティアが二人をなだめるように言う。
「お前はいつでもそうだ、ダンゼルがろくでもないことをしでかしても『あの子の気持ちを』とか『理由が』と言ってかばい立てをする。こいつが今までやってきたことがそれで許される範囲だと思っているのか?」
「そんな……」
「そうやってこいつを甘やかしてきたからこそ、他人に対しやっていいことと悪いことも区別もつかなくなってしまったのだろうが!」
息子をいさめるための忠言をいつも台無しにする妻に、ブレイズ卿はきつい口調でものを言う。
ダンゼルは優れた資質に恵まれていた。
だが、それをよい形で利用するだけでなく、他人を脅したり傷つけたりしてでも自分の意志を通すために使うことがままあった。
騎士団の少年部に入隊して間もなく、別の組の少年をやけどさせること数回、その都度いさめていたが、反発して自分の気持ちを主張するだけで反省の態度を見せたことがない。
そして、ついには卒業パーティで殺人まで犯すがそれすらもいまだ後悔をしている様子はない。
あの時、ジェラルディ家に取引を持ちかけず、実刑判決を受けさせていた方がよかったのかもしれない。ブレイズ卿はふと考えたが今さらである。
角突き合わすブレイズ家の三人、そんな彼らの間に次男のコリンが割って入った。
「ねえ、父上はさ、ダンゼル兄さんを責めるけど、本当にステラ姉さんの様子を見ておかしいと思わなかったの?」
口数の少ない彼が発言することはブレイズ家の中では珍しく、三人は次男に注目する。
「姉さんの様子がおかしいことに父上も母上も本当に気づかなかったの? あれだけリヨン殿とのことをのろけていた姉さんが、王太子妃になりたいと本気で考えるとでも? 姉さんってそんなに権力欲の強い野心家だったっけ? ちょっと考えればおかしいって思わなかったの?」
コリンの追及にブレイズ夫妻は返す言葉が見つからない。
「別にダンゼル兄さんをかばっているわけじゃないからね。父上も母上も姉さんの態度を都合よく解釈していただけじゃないかって言いたいのさ。王太子殿下との婚約が決まってから、目に見えて姉さんの元気がなくなってきたのも、結婚前のうつ状態みたいに解釈していたのは母上だよね」
「私を責めているの、コリン。一般的に言って結婚前の……」
「そう、『一般的』な解釈をして姉さんを見ようともしないから気づかなかった。母上はダンゼル兄さんの事しか大事じゃないからね。父上も母上にそう言われそのまま納得した、ダンゼル兄さんの脅迫に基づく了承だと知ったところで、あの時点で話を反故にしたらリヨン殿の家との騒ぎどころじゃなくなるから、気づかない方が自分にとっても都合がよかっただけだろう」
「そなた、そんな風に私を……」
コリンの追及に両親は二人とも絶句した。
「僕が学園に通わなくなった理由と同じだったんだね。兄さんは勝手に僕の友達を選別し、気に入らないヤツへの危害までほのめかしていた。兄さんが付き合いを勧めた相手は嫌なやつでさ、兄さんのことは崇拝していたみたいだけど、それにかこつけて何かと僕を落として上から目線で意見を言いやがる、そんな奴と付き合って楽しかったと思うかい?」
「お前のためを思って言ったことだろうが!」
今度はダンゼルがコリンの追及に反発した。
「僕のため? 兄さんに都合が良かっただけだろう。母上はどうせ、兄さんのそんな詭弁を真に受けるだけだろうし、そもそも相談している間に友人が怪我させられたり、家に火でもつけられたら思うと……、きっと姉さんも同じ気持ちだったんだろうと思うよ」
「そなたが学園に通わなくなった理由はそれか……」
ブレイズ卿は次男に問うた。
コリンはある日を境に急に学園に通わなくなり、ずっと部屋に引きこもったままであった。
そんなコリンにブレイズ夫妻はどう対応していいのかわからず、半年以上の月日が過ぎる。世間では優れた長男に対し、出来損ないの次男との評判が定着しつつあったが、その裏にこんな事情があったとは。
「僕の場合は兄さんがあきらめてくれるまで引きこもっているだけで済んだけど、姉さんはそれではだめだったわけだ。様子がおかしいと思ったけど、姉さんは何も言わないし、僕が言ったところでこの家に僕の意見を聞いてくれる『親』なんて存在しなかったからね」
【作者メモ】
ブレイズ家の子供は上から、長男ダンゼル、長女ステラ、次男コリン、次女セレナの二男二女です。
☆ポチしていただければ嬉しいです。
遺品として渡されたステラ王太子妃の日記に、元婚約者リヨンとその家族への危害をほのめかしてステラに王太子に嫁ぐことを了承させたところのくだりを読み、父ブレイズ卿は息子ダンゼルを問いつめた。
「ああ、そうですが、何をそんなに怒ることがあるのですか?」
ダンゼルは父の怒りの原因が理解できないという風である。
「ステラが自分の感情を優先してなすべきことをなそうとしないから言ったまでですよ。結局役立たずでしたがね」
血を分けた実の妹に対する冷酷な言い草にブレイズ卿は背筋の凍る思いがした。
「それを誰が望んだ! 私とて賛同してなかった。お前は卑劣にも自分の能力をかさに着て、妹を脅して人生を狂わせたのだぞ!」
「王太子殿下との結婚を『人生を狂わした』などとは不敬もいいところですね、父上」
「話を逸らすな! あのままジョンティール家の子息と結婚させておけばステラは死なずに済んだ、お前が妹を殺したんだ!」
「はあ? ステラの死因は産後の肥立ちの悪さでしょう。ああ、ステラを床に座らせたことを言っているのですか? 出産直後の体がそれほど弱るって知らなかったんだから仕方がないでしょう。だいたい、嫁いだ後も未練がましくぐちゃぐちゃと日記に残して、そんなんだから死ぬんだ!」
「お前、それ本気で言っているのか!」
自分のやったことを顧みもしないで、自己弁護のために死者を貶める息子にブレイズ卿は激高する。
「あなた、おやめになって……。ダンゼルだって王太子殿下のために動こうという気持ちがあったから……」
彼らの妻であり母であるカティアが二人をなだめるように言う。
「お前はいつでもそうだ、ダンゼルがろくでもないことをしでかしても『あの子の気持ちを』とか『理由が』と言ってかばい立てをする。こいつが今までやってきたことがそれで許される範囲だと思っているのか?」
「そんな……」
「そうやってこいつを甘やかしてきたからこそ、他人に対しやっていいことと悪いことも区別もつかなくなってしまったのだろうが!」
息子をいさめるための忠言をいつも台無しにする妻に、ブレイズ卿はきつい口調でものを言う。
ダンゼルは優れた資質に恵まれていた。
だが、それをよい形で利用するだけでなく、他人を脅したり傷つけたりしてでも自分の意志を通すために使うことがままあった。
騎士団の少年部に入隊して間もなく、別の組の少年をやけどさせること数回、その都度いさめていたが、反発して自分の気持ちを主張するだけで反省の態度を見せたことがない。
そして、ついには卒業パーティで殺人まで犯すがそれすらもいまだ後悔をしている様子はない。
あの時、ジェラルディ家に取引を持ちかけず、実刑判決を受けさせていた方がよかったのかもしれない。ブレイズ卿はふと考えたが今さらである。
角突き合わすブレイズ家の三人、そんな彼らの間に次男のコリンが割って入った。
「ねえ、父上はさ、ダンゼル兄さんを責めるけど、本当にステラ姉さんの様子を見ておかしいと思わなかったの?」
口数の少ない彼が発言することはブレイズ家の中では珍しく、三人は次男に注目する。
「姉さんの様子がおかしいことに父上も母上も本当に気づかなかったの? あれだけリヨン殿とのことをのろけていた姉さんが、王太子妃になりたいと本気で考えるとでも? 姉さんってそんなに権力欲の強い野心家だったっけ? ちょっと考えればおかしいって思わなかったの?」
コリンの追及にブレイズ夫妻は返す言葉が見つからない。
「別にダンゼル兄さんをかばっているわけじゃないからね。父上も母上も姉さんの態度を都合よく解釈していただけじゃないかって言いたいのさ。王太子殿下との婚約が決まってから、目に見えて姉さんの元気がなくなってきたのも、結婚前のうつ状態みたいに解釈していたのは母上だよね」
「私を責めているの、コリン。一般的に言って結婚前の……」
「そう、『一般的』な解釈をして姉さんを見ようともしないから気づかなかった。母上はダンゼル兄さんの事しか大事じゃないからね。父上も母上にそう言われそのまま納得した、ダンゼル兄さんの脅迫に基づく了承だと知ったところで、あの時点で話を反故にしたらリヨン殿の家との騒ぎどころじゃなくなるから、気づかない方が自分にとっても都合がよかっただけだろう」
「そなた、そんな風に私を……」
コリンの追及に両親は二人とも絶句した。
「僕が学園に通わなくなった理由と同じだったんだね。兄さんは勝手に僕の友達を選別し、気に入らないヤツへの危害までほのめかしていた。兄さんが付き合いを勧めた相手は嫌なやつでさ、兄さんのことは崇拝していたみたいだけど、それにかこつけて何かと僕を落として上から目線で意見を言いやがる、そんな奴と付き合って楽しかったと思うかい?」
「お前のためを思って言ったことだろうが!」
今度はダンゼルがコリンの追及に反発した。
「僕のため? 兄さんに都合が良かっただけだろう。母上はどうせ、兄さんのそんな詭弁を真に受けるだけだろうし、そもそも相談している間に友人が怪我させられたり、家に火でもつけられたら思うと……、きっと姉さんも同じ気持ちだったんだろうと思うよ」
「そなたが学園に通わなくなった理由はそれか……」
ブレイズ卿は次男に問うた。
コリンはある日を境に急に学園に通わなくなり、ずっと部屋に引きこもったままであった。
そんなコリンにブレイズ夫妻はどう対応していいのかわからず、半年以上の月日が過ぎる。世間では優れた長男に対し、出来損ないの次男との評判が定着しつつあったが、その裏にこんな事情があったとは。
「僕の場合は兄さんがあきらめてくれるまで引きこもっているだけで済んだけど、姉さんはそれではだめだったわけだ。様子がおかしいと思ったけど、姉さんは何も言わないし、僕が言ったところでこの家に僕の意見を聞いてくれる『親』なんて存在しなかったからね」
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ブレイズ家の子供は上から、長男ダンゼル、長女ステラ、次男コリン、次女セレナの二男二女です。
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