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第9章 回帰前4(二番目の王太子妃)
第73話 隠された本音
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ステラは背筋が寒くなった。
この兄なら本当にやりかねない。
父や母に相談することもできるが、その前にリヨンやその家族に危害を加えでもしたら……。
「王太子殿下は私を愛してなんかいないわ、殿下だって、そんな私を押し付けられても……」
ステラは最後の望みをかけて兄に反論した。
「当たり前だ、リジーの代わりなど誰ができるものか。だが、子を産むことくらいはできるだろう」
ダンゼルの身もふたもない返事にステラは絶句する。
「リジーはもういないんだ。殿下だってそれはわかってらっしゃる。今は大公家の王位継承の野心をくじくことが先決なんだ。お前ごときがその名誉ある役を担えることを誉れだと感じないのか?」
「そんなもの、感じるわけないでしょっ!」
ステラは泣きながら兄に怒鳴りつけるとその場を走り去った。
それからほどなくして、ブレイズ家からジョンティール家に婚約解消の打診があった。理由を尋ねても明確な答えは返ってこず、慰謝料だけは金に糸目をつけずに払う意思をブレイズ家は示した。
相手のリヨンはステラと話をすることを望んだが、この交渉に彼女は一度も顔を出さず、結局押し切られて婚約は解消された。
◇ ◇ ◇
「重ねて言うが、本当にそれでいいのだな、ステラ?」
ジョンティール家との交渉の前、父のブレイズ卿は娘に尋ねたが、彼女は黙ってうなずくだけだった。
「リヨン君とはずいぶん仲睦まじく見えたが……」
「もちろん、リヨンとは良い関係だったわ。でも、それ以上でもそれ以下でもないの。それよりも王太子妃になるという、もっと大きなチャンスが目の前にあるのですもの、リヨンだってきっとわかってくれるわ!」
不自然なまでにはしゃぐ娘。
その違和感をもっと深く追及すべきだったと父のブレイズ卿が思うのはさらに先の話である。
◇ ◇ ◇
「いや、嫁いできてくださるなら、こちらとしては何も求めることはない」
国王はブレイズ夫妻に満面の笑みを見せそう告げる。
セシルの時と違い、持参金の取り決めなども一切なく、身一つで嫁いでくれることとを王家は歓迎した。
二人の婚約が発表され、ジョンティール家の者たちも突然の不可解な婚約解消の理由をようやく知ることとなる。
「ステラ、ようやく会えた!」
王室御用達の小物が取り揃えられた店。
結婚準備のために母と一緒にその店を訪れていたステラに元婚約者のリヨンが声をかけた。
「リヨン……」
ステラは動揺した。
しかし、母と妹の護衛でついてきていたダンゼルが彼を排除しようとしているのを見て、ステラはそれを制止し前に進み出た。
「君と話をしたかったんだ、どうして急に……」
「理由はすでに分かっていると思うけど?」
ステラは必死に冷静さを装う。
「信じられない、君が……」
「あなたと一緒に過ごした日々は楽しかった、感謝しているわ、リヨン」
今までとうって変わってよそよそしい態度のステラにリヨンは言いたかったことが発せられずにいる。
「わざわざこんなところまでお祝いを言いに来てくれてありがとう。贈り物は必要ないわ。他家からの祝いの品があふれかえって、今うちは大変なの、さよなら」
穏便におさめるための冷たいせりふを吐き、ステラは母と兄に早くこの場を去るよう促すのだった。
その日のことについて、ステラ妃はこう記している。
『リヨンは変わってなかった。
決心がぐらつきそうになるから、婚約解消の交渉の時も彼とは絶対に顔をあわせないようにしていたのに。
兄がおかしな真似をしないよう彼を突き放すのが精いっぱいだったけど、本当のことを分かってほしいと思ってしまうなんて、矛盾した感情ね』
◇ ◇ ◇
大通りでの接近だったため、その様子を目にした第三者も多くいた。
そのため『妃への野心のため婚約者を裏切り非情に突き放すブレイズ嬢』の話は巷間でもうわさされるようになる。
しかし、王家の側も喉から手が出るほどに欲しかった適齢期の高位貴族の令嬢との婚姻であったため、さほど問題にされず結婚式も無事執り行われ、そのまま初夜を迎えた。
王太子はできるだけ思いやりを持ってステラに接しようとしたが、彼女にとってそれは『義務』に過ぎず、それは初めての時をすぎても変わらなかった。
ステラにとってより耐えられなかったことは、寝所の様子は兄ダンゼルなどの耳にも入っていたことだ。
「リジェンナ妃の時にはこんなことはなかった、やはりお前はだめだな」
ダンゼルは無神経にも妹をなじった。
そのことに対する憤りをステラ妃は日記にも記している。
『自分が脅して王家に嫁がざるを得ないようにしたくせに!
なんなの、あの言い草は!
いくら友人同士だからって寝所のことをペラペラしゃべる王太子殿下も王太子殿下よ、いえ、兄の方がしつこく聞いているらしいわ。
それを兄にやめてくれるように言っても、世継ぎを設ける重要な任務に関心を持って何が悪いっていうだけ。
ご満足いただけないなら離縁してくださればいいのに、いつまでこの苦行が続くのかしら!
世間の人々が言うには、愛し合う男女が時間をかければそれは歓びに変わるらしいけど、リヨンとだったらそうすることもできたのかしら、今さらだけど……』
兄及び王宮の人々の無遠慮な視線とうわさ話にステラが耐え、懐妊したのはそれから三か月後の事であった。
この兄なら本当にやりかねない。
父や母に相談することもできるが、その前にリヨンやその家族に危害を加えでもしたら……。
「王太子殿下は私を愛してなんかいないわ、殿下だって、そんな私を押し付けられても……」
ステラは最後の望みをかけて兄に反論した。
「当たり前だ、リジーの代わりなど誰ができるものか。だが、子を産むことくらいはできるだろう」
ダンゼルの身もふたもない返事にステラは絶句する。
「リジーはもういないんだ。殿下だってそれはわかってらっしゃる。今は大公家の王位継承の野心をくじくことが先決なんだ。お前ごときがその名誉ある役を担えることを誉れだと感じないのか?」
「そんなもの、感じるわけないでしょっ!」
ステラは泣きながら兄に怒鳴りつけるとその場を走り去った。
それからほどなくして、ブレイズ家からジョンティール家に婚約解消の打診があった。理由を尋ねても明確な答えは返ってこず、慰謝料だけは金に糸目をつけずに払う意思をブレイズ家は示した。
相手のリヨンはステラと話をすることを望んだが、この交渉に彼女は一度も顔を出さず、結局押し切られて婚約は解消された。
◇ ◇ ◇
「重ねて言うが、本当にそれでいいのだな、ステラ?」
ジョンティール家との交渉の前、父のブレイズ卿は娘に尋ねたが、彼女は黙ってうなずくだけだった。
「リヨン君とはずいぶん仲睦まじく見えたが……」
「もちろん、リヨンとは良い関係だったわ。でも、それ以上でもそれ以下でもないの。それよりも王太子妃になるという、もっと大きなチャンスが目の前にあるのですもの、リヨンだってきっとわかってくれるわ!」
不自然なまでにはしゃぐ娘。
その違和感をもっと深く追及すべきだったと父のブレイズ卿が思うのはさらに先の話である。
◇ ◇ ◇
「いや、嫁いできてくださるなら、こちらとしては何も求めることはない」
国王はブレイズ夫妻に満面の笑みを見せそう告げる。
セシルの時と違い、持参金の取り決めなども一切なく、身一つで嫁いでくれることとを王家は歓迎した。
二人の婚約が発表され、ジョンティール家の者たちも突然の不可解な婚約解消の理由をようやく知ることとなる。
「ステラ、ようやく会えた!」
王室御用達の小物が取り揃えられた店。
結婚準備のために母と一緒にその店を訪れていたステラに元婚約者のリヨンが声をかけた。
「リヨン……」
ステラは動揺した。
しかし、母と妹の護衛でついてきていたダンゼルが彼を排除しようとしているのを見て、ステラはそれを制止し前に進み出た。
「君と話をしたかったんだ、どうして急に……」
「理由はすでに分かっていると思うけど?」
ステラは必死に冷静さを装う。
「信じられない、君が……」
「あなたと一緒に過ごした日々は楽しかった、感謝しているわ、リヨン」
今までとうって変わってよそよそしい態度のステラにリヨンは言いたかったことが発せられずにいる。
「わざわざこんなところまでお祝いを言いに来てくれてありがとう。贈り物は必要ないわ。他家からの祝いの品があふれかえって、今うちは大変なの、さよなら」
穏便におさめるための冷たいせりふを吐き、ステラは母と兄に早くこの場を去るよう促すのだった。
その日のことについて、ステラ妃はこう記している。
『リヨンは変わってなかった。
決心がぐらつきそうになるから、婚約解消の交渉の時も彼とは絶対に顔をあわせないようにしていたのに。
兄がおかしな真似をしないよう彼を突き放すのが精いっぱいだったけど、本当のことを分かってほしいと思ってしまうなんて、矛盾した感情ね』
◇ ◇ ◇
大通りでの接近だったため、その様子を目にした第三者も多くいた。
そのため『妃への野心のため婚約者を裏切り非情に突き放すブレイズ嬢』の話は巷間でもうわさされるようになる。
しかし、王家の側も喉から手が出るほどに欲しかった適齢期の高位貴族の令嬢との婚姻であったため、さほど問題にされず結婚式も無事執り行われ、そのまま初夜を迎えた。
王太子はできるだけ思いやりを持ってステラに接しようとしたが、彼女にとってそれは『義務』に過ぎず、それは初めての時をすぎても変わらなかった。
ステラにとってより耐えられなかったことは、寝所の様子は兄ダンゼルなどの耳にも入っていたことだ。
「リジェンナ妃の時にはこんなことはなかった、やはりお前はだめだな」
ダンゼルは無神経にも妹をなじった。
そのことに対する憤りをステラ妃は日記にも記している。
『自分が脅して王家に嫁がざるを得ないようにしたくせに!
なんなの、あの言い草は!
いくら友人同士だからって寝所のことをペラペラしゃべる王太子殿下も王太子殿下よ、いえ、兄の方がしつこく聞いているらしいわ。
それを兄にやめてくれるように言っても、世継ぎを設ける重要な任務に関心を持って何が悪いっていうだけ。
ご満足いただけないなら離縁してくださればいいのに、いつまでこの苦行が続くのかしら!
世間の人々が言うには、愛し合う男女が時間をかければそれは歓びに変わるらしいけど、リヨンとだったらそうすることもできたのかしら、今さらだけど……』
兄及び王宮の人々の無遠慮な視線とうわさ話にステラが耐え、懐妊したのはそれから三か月後の事であった。
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