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第8章 王宮にて(回帰一か月後より)
第71話 魔力の形
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「ジニアス・タクトと申します。よろしくお見知りおきを」
数日後、ノアの口利きで教師として呼ばれたジニアスが、リアムとアンジュ、そして、マールベロー家当主のセシルにあいさつをする。
リアムが仲間の騎士団や後輩たちの前で覚醒したときには、アンジュを確認に行かせたが、セシル自身はその場に足を向けなかった。
三名の婚約者候補ができた今、特定の誰かと親しい関係を見せることはあまり好ましいことではない。幼なじみのリアムはもとより、ノアまで公爵家に同居するようになってから、ユリウスの父インシディウス侯爵がいろいろ言ってくるようになった。
ゆえに最近はリアムの日常に個人的に首を突っ込むことを自重していた。
ただ今日は、公爵家が雇い入れる魔法使いを迎えるということで、ジェラルディ姉弟と同席している。
「ノア様とはいったいどこでお知り合いに?」
セシルが質問をする。
「えっ、その……、ウィスダム子爵とは近所に住んでいまして、その……」
ジニアスは口ごもる。
「まあ、そうですの」
それで納得したからか、それとも単なる社交辞令として話題にしただけで実はあんまり興味がなかったからなのかはわからないが、セシルはそれ以上追及しなかった。
「ジニアス殿は来年か再来年には、王家の推薦で魔道協会本部のあるサージュ国に留学されるかもしれないほど優秀な方だそうですよ」
アンジュがノアに聞いていた説明をセシルにした。
恐縮です、と、アンジュの説明にジニアスは礼を言い、改めて公爵令嬢セシルを観察する。
前の時間軸でジニアスは二回ほどセシルを目にしている。
一度目はリジェンナ王太子妃の悪事を追及するタロンティーレ会長に同行しユーディット国に戻った時。
記憶珠ごしに見ただけだが、地下牢から解放されたばかりの彼女は、二十歳前後の高位貴族の令嬢とは思えないほど痩せこけていた。
二度目はジェイドの弟子入りを許してからのこと。
弟子がこだわる彼女をもう一度この目で確認したいと思い、ひそかにジェラルディの邸内に忍び込み、庭園を散歩する彼女を目にした。
そばに寄り添い彼女の歩行を補助していたのは、おそらく目の前にいるアンジュだろう。
あの頃はすでに四十歳を過ぎていただろうが面影がある。
アンジュの方は背筋をピンと伸ばし若々しさを感じたが、セシルの方はまるで老婆のようで魂をどこかに置いてきたような眼をしていた。
正直いってセシルの方が年上だと思っていたほどだ。
幼さを残した陰りのないセシルの笑顔を見ていると、改めてオースティン王太子らが彼女に行った非道さを実感できる。
とはいえ、なぜ二十代のジェイドがいくら自分の親が犯した悪行の結果とはいえ、セシルにこだわったのかは理解できなかった。贖罪の思いがあったにせよ、彼の中から感じ取られる淡い恋情のようなものを、当時のセシルが掻き立てたとも思えないからだ。
今目の前にいる彼女なら納得だけどな。
ジニアスは思った。
「僕が教えられるのは、魔法を使う上での心得、つまり魔法使いとして兼ね備えていなければならない倫理観、そして基本的な知識と発動の仕方くらいです。魔法使いになるつまりなら、その後の指南もできるだけ引き受けてもいいのですが、リアム君の志望は騎士なんですよね」
生徒になるリアムにジニアスはあらかじめ断りを入れた。
「はい、でも……」
拍子抜けしたような顔をリアムはした。
「その後の応用はジェ、いや、ノア君やお姉さんに教わりながら自分に合う方法を模索していくといいです」
「わかりました」
それから、そばにいた女性二人は席を外し、授業が始まった。
ジニアスはリアムを教えながらあることに気づく。
魔法にはそれぞれ駆使する人間の特質があり、力のある魔法使いはそれを見分けるすべも身に着けている。
リアムとアンジュは血縁だから性質が似通っているのは当然だ。
だが、ジェイドとリアム、この二人の性質も似通っているってことは?
それから十日ほどかけて、リアムに魔法の基礎をていねいに教え込み、マールベロー家との雇用契約は終了した。
「あいつ、とうとう一回も顔を見せなかったな。よっぽど俺に看破されるのがイヤだったのか? いや、でもこの仮説はな……」
十日間の間、ノアは体調不良ということで臥せっており、ジニアスとリアムの授業にただの一度も顔を見せなかった。
お見舞いをしたいということで強引にノアの部屋に立ち入ったが、ジェイドの方は全く姿を見せず、建前上病人ゆえ長居するわけにもいかずすぐ立ち去った。
ジェイドとリアムの魔力の似通った面は、アンジュとリアムのように血縁だからというわ家ではない、むしろ血縁以外のところが似ているのだ。
「でもそれを説明できるのは突拍子もない仮説だからな」
◇ ◇ ◇
嫡男ダンゼルの異変で、今ブレイズ家は重苦しい空気に包まれている。
騎士としての将来性だけでなく、魔法能力もずば抜けていた嫡男ダンゼル。
しかし、その能力がとつじょ失われ、ダンゼルは部屋に引きこもったままになってしまった。
考えられるのは、その何日か前、騎士団の少年部の子供に炎熱魔法で大けがをさせたこと。
顔に一生痕がのこるようなひどい火傷をおわせ、相手の親は慰謝料や魔法を二度と使えないようにする措置などを求めてきた。
魔道協会では正当防衛以外に魔法を他人で傷つけた場合、その魔法を封印する処分がなされる場合がある。
それは程度によって期間を限定したり一生涯だったり、いろいろだ。
まだ事の良し悪しや制御の方法などをわかっていない息子には、逆にその方が好ましいのでは、と、考えていた矢先、急に能力が使えなくなったという。
「ちくしょう、どうして彼が俺にこんなことを、味方じゃないのか!」
彼とは?
味方とは?
誰の事なのかわからないが、使えないのならしばらくそれは忘れて地道に騎士としての訓練を受けるように、と、ブレイズ卿は息子諭したが無駄だった。
「リジーを助けるのを協力してくれなかった親父に言われたくないよ!」
リジーだれだ、それは?
ブレイズ卿は自暴自棄な息子の態度もさることながら、意味不明な言動にも頭を抱えた。
【作者メモ】
次回からは再び回帰前のお話です。
よろしければ、☆・♡ぽちっとしていただけると嬉しいです。
数日後、ノアの口利きで教師として呼ばれたジニアスが、リアムとアンジュ、そして、マールベロー家当主のセシルにあいさつをする。
リアムが仲間の騎士団や後輩たちの前で覚醒したときには、アンジュを確認に行かせたが、セシル自身はその場に足を向けなかった。
三名の婚約者候補ができた今、特定の誰かと親しい関係を見せることはあまり好ましいことではない。幼なじみのリアムはもとより、ノアまで公爵家に同居するようになってから、ユリウスの父インシディウス侯爵がいろいろ言ってくるようになった。
ゆえに最近はリアムの日常に個人的に首を突っ込むことを自重していた。
ただ今日は、公爵家が雇い入れる魔法使いを迎えるということで、ジェラルディ姉弟と同席している。
「ノア様とはいったいどこでお知り合いに?」
セシルが質問をする。
「えっ、その……、ウィスダム子爵とは近所に住んでいまして、その……」
ジニアスは口ごもる。
「まあ、そうですの」
それで納得したからか、それとも単なる社交辞令として話題にしただけで実はあんまり興味がなかったからなのかはわからないが、セシルはそれ以上追及しなかった。
「ジニアス殿は来年か再来年には、王家の推薦で魔道協会本部のあるサージュ国に留学されるかもしれないほど優秀な方だそうですよ」
アンジュがノアに聞いていた説明をセシルにした。
恐縮です、と、アンジュの説明にジニアスは礼を言い、改めて公爵令嬢セシルを観察する。
前の時間軸でジニアスは二回ほどセシルを目にしている。
一度目はリジェンナ王太子妃の悪事を追及するタロンティーレ会長に同行しユーディット国に戻った時。
記憶珠ごしに見ただけだが、地下牢から解放されたばかりの彼女は、二十歳前後の高位貴族の令嬢とは思えないほど痩せこけていた。
二度目はジェイドの弟子入りを許してからのこと。
弟子がこだわる彼女をもう一度この目で確認したいと思い、ひそかにジェラルディの邸内に忍び込み、庭園を散歩する彼女を目にした。
そばに寄り添い彼女の歩行を補助していたのは、おそらく目の前にいるアンジュだろう。
あの頃はすでに四十歳を過ぎていただろうが面影がある。
アンジュの方は背筋をピンと伸ばし若々しさを感じたが、セシルの方はまるで老婆のようで魂をどこかに置いてきたような眼をしていた。
正直いってセシルの方が年上だと思っていたほどだ。
幼さを残した陰りのないセシルの笑顔を見ていると、改めてオースティン王太子らが彼女に行った非道さを実感できる。
とはいえ、なぜ二十代のジェイドがいくら自分の親が犯した悪行の結果とはいえ、セシルにこだわったのかは理解できなかった。贖罪の思いがあったにせよ、彼の中から感じ取られる淡い恋情のようなものを、当時のセシルが掻き立てたとも思えないからだ。
今目の前にいる彼女なら納得だけどな。
ジニアスは思った。
「僕が教えられるのは、魔法を使う上での心得、つまり魔法使いとして兼ね備えていなければならない倫理観、そして基本的な知識と発動の仕方くらいです。魔法使いになるつまりなら、その後の指南もできるだけ引き受けてもいいのですが、リアム君の志望は騎士なんですよね」
生徒になるリアムにジニアスはあらかじめ断りを入れた。
「はい、でも……」
拍子抜けしたような顔をリアムはした。
「その後の応用はジェ、いや、ノア君やお姉さんに教わりながら自分に合う方法を模索していくといいです」
「わかりました」
それから、そばにいた女性二人は席を外し、授業が始まった。
ジニアスはリアムを教えながらあることに気づく。
魔法にはそれぞれ駆使する人間の特質があり、力のある魔法使いはそれを見分けるすべも身に着けている。
リアムとアンジュは血縁だから性質が似通っているのは当然だ。
だが、ジェイドとリアム、この二人の性質も似通っているってことは?
それから十日ほどかけて、リアムに魔法の基礎をていねいに教え込み、マールベロー家との雇用契約は終了した。
「あいつ、とうとう一回も顔を見せなかったな。よっぽど俺に看破されるのがイヤだったのか? いや、でもこの仮説はな……」
十日間の間、ノアは体調不良ということで臥せっており、ジニアスとリアムの授業にただの一度も顔を見せなかった。
お見舞いをしたいということで強引にノアの部屋に立ち入ったが、ジェイドの方は全く姿を見せず、建前上病人ゆえ長居するわけにもいかずすぐ立ち去った。
ジェイドとリアムの魔力の似通った面は、アンジュとリアムのように血縁だからというわ家ではない、むしろ血縁以外のところが似ているのだ。
「でもそれを説明できるのは突拍子もない仮説だからな」
◇ ◇ ◇
嫡男ダンゼルの異変で、今ブレイズ家は重苦しい空気に包まれている。
騎士としての将来性だけでなく、魔法能力もずば抜けていた嫡男ダンゼル。
しかし、その能力がとつじょ失われ、ダンゼルは部屋に引きこもったままになってしまった。
考えられるのは、その何日か前、騎士団の少年部の子供に炎熱魔法で大けがをさせたこと。
顔に一生痕がのこるようなひどい火傷をおわせ、相手の親は慰謝料や魔法を二度と使えないようにする措置などを求めてきた。
魔道協会では正当防衛以外に魔法を他人で傷つけた場合、その魔法を封印する処分がなされる場合がある。
それは程度によって期間を限定したり一生涯だったり、いろいろだ。
まだ事の良し悪しや制御の方法などをわかっていない息子には、逆にその方が好ましいのでは、と、考えていた矢先、急に能力が使えなくなったという。
「ちくしょう、どうして彼が俺にこんなことを、味方じゃないのか!」
彼とは?
味方とは?
誰の事なのかわからないが、使えないのならしばらくそれは忘れて地道に騎士としての訓練を受けるように、と、ブレイズ卿は息子諭したが無駄だった。
「リジーを助けるのを協力してくれなかった親父に言われたくないよ!」
リジーだれだ、それは?
ブレイズ卿は自暴自棄な息子の態度もさることながら、意味不明な言動にも頭を抱えた。
【作者メモ】
次回からは再び回帰前のお話です。
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