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第8章 王宮にて(回帰一か月後より)
第70話 回帰前の傷?
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「ダンゼル・ブレイズと言えば、この前3班の奴にやけどを負わせて、おやじの騎士団長が謹慎みたいな形で休ませているんだって」
「またか、あいつ、気に入らないヤツにはすぐに火魔法使うからな」
「今回は顔の目立つところに痕が残るようなひどい火傷だったらしいから、相手の親が強く抗議したらしいぜ」
少年たちがダンゼルのことを話題にする。
このころから火炎魔法の能力を使って他の人物を傷つけていたのか、と、アンジュは少年たちの話を聞いて思った。
九歳のダンゼル・ブレイズは入団する前から注目されていた子供であった。
傑出した能力で自分や組と小競り合いがある子を威嚇しつつ、少年の部ではかなり大きな顔をしていた。
いわば敵を増やしていったわけだ。
それでも前の時間軸では、父親の立場や能力でかなりの事が大目に見られ、そして学園で王太子の側近的な立ち位置を得る。
そこからさらに独善性と攻撃性を増長させ、卒業パーティでの蛮行に至る。
ダンゼルに対抗できるなら水魔法の覚醒も悪い話ではない、しかし、当のリアムは能力の使い道をまだよく理解していない。
「水魔法が攻撃に向かないなんてことはないよ、例えばこういうことができる」
訓練所にやってきたノアが言った。
「すいません、ちょっと前に立っていただけますか?」
数名の濡れていない騎士にノアが頼む。
「僕はあまり魔法は出せないのだけど……」
そう言って水魔法で騎士たちの足元を濡らす。
パシャっと膝までが濡れる程度のゆるい水魔法。
『攻撃』と言える代物ではない。
しかし、そのあとノアは凍結魔法を放った。
「「うわっ、冷た!」」
騎士たちが叫んだ。
「どうです、冷たいだけじゃなく動けないでしょ」
ノアが言う。
「そうか、敵の足止め!」
リアムが感心する。
「その通り、他にもこういうことができる」
そういうと襟元のタイをほどき、手近に落ちていた枝にくくり付けそれらを凍らせて剣の形にした。
「手持ちに武器がない時でもこうやって作ることができる」
「すごいや、ノアさん、天才!」
「はは、このくらい水魔法の応用の初歩で先生に教わったことだよ。そうだ、僕の知り合いにかなりできる魔法使いがいるから尋ねてみようか?」
ノアがリアムに提案した。
「ノア殿の紹介なら信用できそうですね。」
家令のヴォルターが答えた。
マールベロー家としてもリアムの新しい魔法教授を見つけねばならないので渡りに船である。
「セシル様の婚約者としての自覚が能力の覚醒につながったのかな?」
続けてヴォルターはリアムに冷やかしの言葉を投げた。
「そんなんじゃないよ!」
「いやいや、そうでしょう」
ヴォルターがさらにあおるようなことを言うので、リアムの言は照れているだけのように周囲には映り、はやし立てる声がさらに大きくなった。
その様子を一通り観察するとヴォルターはノアに言った。
「とりあえず魔法使いの指南を頼むならお礼の額など決めねばなりませんし、ノア殿もう少し詳しい話をよろしいですかな? できればアンジュさんも」
ヴォルターに促されノアとアンジュは一緒にその場を離れることとなった。
「皆様はそのまま訓練を続けてください」
他の者は再び訓練に戻る。
濡れた者は着替えに下がり、それにリアムも同行した。
「申し訳ありません、ノア殿もいらっしゃったのですが、あの場ではああいう形でおさめた方がよいと思いまして……」
ヴォルターは過剰にリアムの婚約者候補の立場を強調したことを、同じく候補のノアに謝罪した。
「かまいませんよ。そうしたほうがいいと思われたということはヴォルター殿も気づいているのですね。リアム君の覚醒が前の時間軸の出来事と……」
ノアがヴォルターに答える。
「やはりお二人もそう思うのですか?」
二人の会話を聞いてアンジュも発言する。
「回帰前のことを思い出したようには見えませんが、無意識の防衛本能のようなものが働いたのかもしれませんね」
ノアは二人に説明する。
「ところでノア殿の知り合いの魔法使いとは?」
「その人物は回帰前のジェイドの知り合いです。実は先ほど話した水魔法の話もジェイドの知識からなのです」
ヴォルターの質問にノアが答える。
「そうですね、王族の血を引いている方は魔力の含有量は多いけど、王家を支えるための術に大半が奪われてしまうので、あまり魔法を使わないと聞きます。セシル様もそうですし、だからより血が近いノア様が詳しいのは変だ、と、思ったのです」
王家の秘術は発動しなくてもいつでも使える状態に保つために多くの魔力が必要とされ、王族は生まれた時から自身の魔力の何割かを常にその秘術に奪われている状態であった。
故に王族は魔法の勉強をすることはほとんどない。
身に着けなくとも他の優れた資質の者が王族を守れば事足りるのだから。
「あれ、でもジェイドも……」
そこまで言ってアンジュはジェイドもまた王族であることを思い出す。
「彼は少し生まれが特殊なのですよ。それは今回のことと関係がないので気にする必要はないです。とりあえず魔法使いに連絡してみますね」
ノアは話を打ち切ってアンジュとヴォルターから離れていった。
「お願いします」
ヴォルターは離れていくノアに一礼した。
「なんだか、肝心なこととなるとごまかされるような……」
「まあ、王家の秘術というもの自体、私たちの手に余る案件ではありますが……」
「そうね……」
「そもそも、アンジュさんだって水魔法は得意だったのでしょう」
「私の場合は『複写』とかそういうのが仕事の役に立っているくらいで……」
「それもリアム君に教えてあげられる。あれこれ考えても仕方ありません。彼が水魔法を身につけられたこと自体は好ましいことなのですし、我々も前の時間軸よりはいい形にもっていけるよう尽力していきましょう」
気に病むアンジュをヴォルターは励ました。
「またか、あいつ、気に入らないヤツにはすぐに火魔法使うからな」
「今回は顔の目立つところに痕が残るようなひどい火傷だったらしいから、相手の親が強く抗議したらしいぜ」
少年たちがダンゼルのことを話題にする。
このころから火炎魔法の能力を使って他の人物を傷つけていたのか、と、アンジュは少年たちの話を聞いて思った。
九歳のダンゼル・ブレイズは入団する前から注目されていた子供であった。
傑出した能力で自分や組と小競り合いがある子を威嚇しつつ、少年の部ではかなり大きな顔をしていた。
いわば敵を増やしていったわけだ。
それでも前の時間軸では、父親の立場や能力でかなりの事が大目に見られ、そして学園で王太子の側近的な立ち位置を得る。
そこからさらに独善性と攻撃性を増長させ、卒業パーティでの蛮行に至る。
ダンゼルに対抗できるなら水魔法の覚醒も悪い話ではない、しかし、当のリアムは能力の使い道をまだよく理解していない。
「水魔法が攻撃に向かないなんてことはないよ、例えばこういうことができる」
訓練所にやってきたノアが言った。
「すいません、ちょっと前に立っていただけますか?」
数名の濡れていない騎士にノアが頼む。
「僕はあまり魔法は出せないのだけど……」
そう言って水魔法で騎士たちの足元を濡らす。
パシャっと膝までが濡れる程度のゆるい水魔法。
『攻撃』と言える代物ではない。
しかし、そのあとノアは凍結魔法を放った。
「「うわっ、冷た!」」
騎士たちが叫んだ。
「どうです、冷たいだけじゃなく動けないでしょ」
ノアが言う。
「そうか、敵の足止め!」
リアムが感心する。
「その通り、他にもこういうことができる」
そういうと襟元のタイをほどき、手近に落ちていた枝にくくり付けそれらを凍らせて剣の形にした。
「手持ちに武器がない時でもこうやって作ることができる」
「すごいや、ノアさん、天才!」
「はは、このくらい水魔法の応用の初歩で先生に教わったことだよ。そうだ、僕の知り合いにかなりできる魔法使いがいるから尋ねてみようか?」
ノアがリアムに提案した。
「ノア殿の紹介なら信用できそうですね。」
家令のヴォルターが答えた。
マールベロー家としてもリアムの新しい魔法教授を見つけねばならないので渡りに船である。
「セシル様の婚約者としての自覚が能力の覚醒につながったのかな?」
続けてヴォルターはリアムに冷やかしの言葉を投げた。
「そんなんじゃないよ!」
「いやいや、そうでしょう」
ヴォルターがさらにあおるようなことを言うので、リアムの言は照れているだけのように周囲には映り、はやし立てる声がさらに大きくなった。
その様子を一通り観察するとヴォルターはノアに言った。
「とりあえず魔法使いの指南を頼むならお礼の額など決めねばなりませんし、ノア殿もう少し詳しい話をよろしいですかな? できればアンジュさんも」
ヴォルターに促されノアとアンジュは一緒にその場を離れることとなった。
「皆様はそのまま訓練を続けてください」
他の者は再び訓練に戻る。
濡れた者は着替えに下がり、それにリアムも同行した。
「申し訳ありません、ノア殿もいらっしゃったのですが、あの場ではああいう形でおさめた方がよいと思いまして……」
ヴォルターは過剰にリアムの婚約者候補の立場を強調したことを、同じく候補のノアに謝罪した。
「かまいませんよ。そうしたほうがいいと思われたということはヴォルター殿も気づいているのですね。リアム君の覚醒が前の時間軸の出来事と……」
ノアがヴォルターに答える。
「やはりお二人もそう思うのですか?」
二人の会話を聞いてアンジュも発言する。
「回帰前のことを思い出したようには見えませんが、無意識の防衛本能のようなものが働いたのかもしれませんね」
ノアは二人に説明する。
「ところでノア殿の知り合いの魔法使いとは?」
「その人物は回帰前のジェイドの知り合いです。実は先ほど話した水魔法の話もジェイドの知識からなのです」
ヴォルターの質問にノアが答える。
「そうですね、王族の血を引いている方は魔力の含有量は多いけど、王家を支えるための術に大半が奪われてしまうので、あまり魔法を使わないと聞きます。セシル様もそうですし、だからより血が近いノア様が詳しいのは変だ、と、思ったのです」
王家の秘術は発動しなくてもいつでも使える状態に保つために多くの魔力が必要とされ、王族は生まれた時から自身の魔力の何割かを常にその秘術に奪われている状態であった。
故に王族は魔法の勉強をすることはほとんどない。
身に着けなくとも他の優れた資質の者が王族を守れば事足りるのだから。
「あれ、でもジェイドも……」
そこまで言ってアンジュはジェイドもまた王族であることを思い出す。
「彼は少し生まれが特殊なのですよ。それは今回のことと関係がないので気にする必要はないです。とりあえず魔法使いに連絡してみますね」
ノアは話を打ち切ってアンジュとヴォルターから離れていった。
「お願いします」
ヴォルターは離れていくノアに一礼した。
「なんだか、肝心なこととなるとごまかされるような……」
「まあ、王家の秘術というもの自体、私たちの手に余る案件ではありますが……」
「そうね……」
「そもそも、アンジュさんだって水魔法は得意だったのでしょう」
「私の場合は『複写』とかそういうのが仕事の役に立っているくらいで……」
「それもリアム君に教えてあげられる。あれこれ考えても仕方ありません。彼が水魔法を身につけられたこと自体は好ましいことなのですし、我々も前の時間軸よりはいい形にもっていけるよう尽力していきましょう」
気に病むアンジュをヴォルターは励ました。
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