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第8章 王宮にて(回帰一か月後より)
第69話 リアムの水魔法
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その日、マールベロー公爵家の騎士団にリアムが率いる組の少年たちが数名招待されていた。
国の騎士団の少年部は七歳から入団して訓令を受けることが可能。
入団したばかりの少年たちは五名一組に分けられ、十二歳前後の年長組の少年たちが世話役となって面倒を見る仕組み。そして、その十二歳以上の少年の上に十五歳以上、その上にさらに大人のまとめ役がいる。
公爵家の騎士団は二対二の模擬戦を少年たちの前で繰り広げていた。
日中の暑いさなかの時だった、リアムも参加するよううながされ年少の少年たちに、いいところを見せたい状況である。
二対二の場合、組んでいる相手との力量のバランスによって戦法が変わってくる。
一人が極端に力量が劣る場合、二人がかりで倒されたのち、残った一人も二人がかりで倒されるということはある。
まだ見習いだったリアムはそれを狙われた。
大人の二人の騎士に攻撃されそうになり必死で剣を振ったリアム。
「ぶっ!」
「わっ!」
なぜか攻撃をしかけてきた敵の二人がひるんだ。
「いきなり水攻撃って、おい、リアム! 何を隠し持ってるんだ!」
何を言っているのか?
別に自分は何も隠し持っていない……。
大人の騎士には力及ばずのところがあっても全力でぶつかっていくだけなのだが……。
でも、目の前の二人の騎士はなぜかびしょぬれになっていた。
「僕は、なにも……」
それは周囲の人間も目撃していた。
リアムが必死に剣で応戦していたさなかに、対峙していた二人の騎士に彼から水鉄砲のような攻撃がなされたのだ。
「あいや、ちょっと待ってくれ、今のは!」
騎士の中にも魔法能力がある者がいる。
その者によると今のは水魔法のように見えたという。
「リアム、さっきの感覚で何か飛ばせるか?」
先輩騎士のリーファが言った。
リアムは先輩騎士の言うことが理解できなかった。
さっきの感覚、必死で応戦していただけだ。
『飛ばす』とは、相手を倒そうとすることか?
「うん、もう一度必死に相手を排除するような感じで力を、そうだな、気合で相手を倒すような感覚、と、言えばいいのかな?」
リーファ騎士は説明する。
魔法を放つ感覚は人によって違うので、他人に説明するとなるとどうしても感覚的にあいまいな説明となる。
びしょぬれになった騎士は下がって、別の騎士が数名リアムの相手役をつとめてみる。
リーファの指示で先ほどより多く、三人がかりで襲いかかるような形にしてみた。より必死な状況を作る方が魔法に必要な気の放出がなされるであろうということからだ。
再び対峙した三人の騎士がびしょぬれになった。
「剣から水が放出しているような感じになっているけど、手からでも出せるんじゃないか、さっきと同じ感じで、今度は何もないところに放出するような感じにできるか?」
指示の通りリアムが腕を前に掲げて何もないところに水を放出した。
「いいよ、のみこみが早いじゃないか。力を外に放出するような感じで行くとそうなるけど、逆にそれをためるような形にすると水をボール状にできたり、他にもいろいろ応用が利く」
「でも、どうして……」
いきなりの能力の発動にリアムは戸惑う。
「すごいや、リアム先輩!」
「俺、目の前で術が発動するの初めて見た!」
見学に来ていた年下の騎士見習の少年たちも興奮した。
「リアム先輩は水が得意なんですか?」
辺境伯子息のライアンが言う。
「いや、今日初めて出たから俺もびっくりしていて……」
「初めて! 僕は土魔法が得意らしいんですけど、六歳の時に初めて発動したときにはなかなかうまくできなかったのに!」
普通、魔法能力は素質があれば幼少期にその兆しが見え、十三歳に開花させるのはかなり遅い。
リアムの場合、幼児がわけも分からず魔法の力の扱い方に苦慮するのと違い、他人の指示を聞いてそれを実践することができる年頃であったせいか、基本の技はすぐに体得することができた。
模擬戦をきっかけにリアムの魔法能力が覚醒した、と、言う話はあっという間に屋敷中に広まり、姉のアンジュは訓練場へ足を向けた。
「本当に今になって表れたの、リアム?」
姉のアンジュが尋ねる。
アンジュも多少水魔法が使えるので、血筋的には不思議はない。
だが、リアムは幼い時から、自分自身の体を動かすのが好きな少年だったので、あまり魔法の方に興味が向かず、能力は発動せず今日まで来た。
それがいきなり?
リアム自身にもわからない。
「先輩騎士にぼこぼこにされるのは初めてじゃないのですけどね?」
「今日は後輩にいい所見せようって気持ちも入ったからじゃないのか?」
リアムや周囲の疑問にリーファ騎士が言う。
「そうかな、でも、どうせだったら風とか火の方が攻撃には有利だったのに。水だと、せいぜい野外訓練の時に大目に水を持ち運びしなくて済むってことぐらいしか、いいこと思いつかないよ」
リアムがぜいたくな文句を言う。
「でも、火魔法の使い手に対しては有利に立てるんじゃないですか?」
「そうか、あのダンゼル・ブレイズとかね」
後輩たちが口々に言った。
隣で耳を傾けていたアンジュはそれを聞いて、前の時間軸と今回の件が符号することに気づく。
もしかして焼殺されたことに対する防衛反応?
当のリアムは突然の能力の覚醒にまだ戸惑っているだけだったが……。
国の騎士団の少年部は七歳から入団して訓令を受けることが可能。
入団したばかりの少年たちは五名一組に分けられ、十二歳前後の年長組の少年たちが世話役となって面倒を見る仕組み。そして、その十二歳以上の少年の上に十五歳以上、その上にさらに大人のまとめ役がいる。
公爵家の騎士団は二対二の模擬戦を少年たちの前で繰り広げていた。
日中の暑いさなかの時だった、リアムも参加するよううながされ年少の少年たちに、いいところを見せたい状況である。
二対二の場合、組んでいる相手との力量のバランスによって戦法が変わってくる。
一人が極端に力量が劣る場合、二人がかりで倒されたのち、残った一人も二人がかりで倒されるということはある。
まだ見習いだったリアムはそれを狙われた。
大人の二人の騎士に攻撃されそうになり必死で剣を振ったリアム。
「ぶっ!」
「わっ!」
なぜか攻撃をしかけてきた敵の二人がひるんだ。
「いきなり水攻撃って、おい、リアム! 何を隠し持ってるんだ!」
何を言っているのか?
別に自分は何も隠し持っていない……。
大人の騎士には力及ばずのところがあっても全力でぶつかっていくだけなのだが……。
でも、目の前の二人の騎士はなぜかびしょぬれになっていた。
「僕は、なにも……」
それは周囲の人間も目撃していた。
リアムが必死に剣で応戦していたさなかに、対峙していた二人の騎士に彼から水鉄砲のような攻撃がなされたのだ。
「あいや、ちょっと待ってくれ、今のは!」
騎士の中にも魔法能力がある者がいる。
その者によると今のは水魔法のように見えたという。
「リアム、さっきの感覚で何か飛ばせるか?」
先輩騎士のリーファが言った。
リアムは先輩騎士の言うことが理解できなかった。
さっきの感覚、必死で応戦していただけだ。
『飛ばす』とは、相手を倒そうとすることか?
「うん、もう一度必死に相手を排除するような感じで力を、そうだな、気合で相手を倒すような感覚、と、言えばいいのかな?」
リーファ騎士は説明する。
魔法を放つ感覚は人によって違うので、他人に説明するとなるとどうしても感覚的にあいまいな説明となる。
びしょぬれになった騎士は下がって、別の騎士が数名リアムの相手役をつとめてみる。
リーファの指示で先ほどより多く、三人がかりで襲いかかるような形にしてみた。より必死な状況を作る方が魔法に必要な気の放出がなされるであろうということからだ。
再び対峙した三人の騎士がびしょぬれになった。
「剣から水が放出しているような感じになっているけど、手からでも出せるんじゃないか、さっきと同じ感じで、今度は何もないところに放出するような感じにできるか?」
指示の通りリアムが腕を前に掲げて何もないところに水を放出した。
「いいよ、のみこみが早いじゃないか。力を外に放出するような感じで行くとそうなるけど、逆にそれをためるような形にすると水をボール状にできたり、他にもいろいろ応用が利く」
「でも、どうして……」
いきなりの能力の発動にリアムは戸惑う。
「すごいや、リアム先輩!」
「俺、目の前で術が発動するの初めて見た!」
見学に来ていた年下の騎士見習の少年たちも興奮した。
「リアム先輩は水が得意なんですか?」
辺境伯子息のライアンが言う。
「いや、今日初めて出たから俺もびっくりしていて……」
「初めて! 僕は土魔法が得意らしいんですけど、六歳の時に初めて発動したときにはなかなかうまくできなかったのに!」
普通、魔法能力は素質があれば幼少期にその兆しが見え、十三歳に開花させるのはかなり遅い。
リアムの場合、幼児がわけも分からず魔法の力の扱い方に苦慮するのと違い、他人の指示を聞いてそれを実践することができる年頃であったせいか、基本の技はすぐに体得することができた。
模擬戦をきっかけにリアムの魔法能力が覚醒した、と、言う話はあっという間に屋敷中に広まり、姉のアンジュは訓練場へ足を向けた。
「本当に今になって表れたの、リアム?」
姉のアンジュが尋ねる。
アンジュも多少水魔法が使えるので、血筋的には不思議はない。
だが、リアムは幼い時から、自分自身の体を動かすのが好きな少年だったので、あまり魔法の方に興味が向かず、能力は発動せず今日まで来た。
それがいきなり?
リアム自身にもわからない。
「先輩騎士にぼこぼこにされるのは初めてじゃないのですけどね?」
「今日は後輩にいい所見せようって気持ちも入ったからじゃないのか?」
リアムや周囲の疑問にリーファ騎士が言う。
「そうかな、でも、どうせだったら風とか火の方が攻撃には有利だったのに。水だと、せいぜい野外訓練の時に大目に水を持ち運びしなくて済むってことぐらいしか、いいこと思いつかないよ」
リアムがぜいたくな文句を言う。
「でも、火魔法の使い手に対しては有利に立てるんじゃないですか?」
「そうか、あのダンゼル・ブレイズとかね」
後輩たちが口々に言った。
隣で耳を傾けていたアンジュはそれを聞いて、前の時間軸と今回の件が符号することに気づく。
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