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第8章 王宮にて(回帰一か月後より)
第68話 子弟の会話とリアムの覚醒
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「それにしても、世事に疎い君が騎士団長の息子の名をよく知っていたな」
ジェイドが変な感心の仕方をする。
「炎魔法の天才児といううわさだからな」
「ああ、そっちの方の関心でか」
「それにしても『隷属』については、俺は散々言い聞かせたよな!」
「もっとあくどいことをやってきた連中を抑えるためにはやむを得ないだろ」
「子供に……」
「俺がかけたころは子供じゃなかった!」
「ジェイド!」
ノアは奇妙な感じがした。
ジェイドの声は頭に響くのに、ジニアスの方はそれに対して声を荒げる。
そんな子弟の言い合い。
「あの、禁忌の技ならそれを教える方も問題あると思うのですが……?」
見かねたノアは割って入った。
「あ、いや……、確かに相手の意志に反して縛るのは禁忌となっているが、相手が了承して縛りをかけるのは禁忌じゃないからやり方自体は普通に学ぶことができるんだ。たとえば重要な裁判では証人の了承を得て真実以外を話さないという縛りをかけることはよくある」
ジニアスがいいわけ、いや、説明をする。
「ああ、だから、せめて裁判でも行われていれば、オリビアにかけられた『隷属』が明るみに出て、あの女のうさん臭さも白日の下にさらされていたはずなんだ。それをしないで最初に非道なことをしたのは王太子やダンゼルだ!」
再び憤懣やるかたない調子でジェイドがはき捨てる。
「まあ、ダメだと言われても、もはや俺にも解けない状況になっているからな」
ジェイドが捨て鉢な口調で開きなおる。
「確かにルース先輩はそう言っていたが、俺が直接見れば違うかもしれないな」
天才を自称しているジニアスが大口叩いて言い返す。
「やめておけ。その優れた素質を他者を害することにしか使えない性悪だ。軍に所属してからは他国の兵士たちを焼き殺すことに快感を感じていた様子だったし、子供の頃だって、能力を使って他の子を威嚇したり、怪我をさせたり、ヤツが能力を使えなくなってこの先救われる人間がどれだけいるか……」
「例えば、アンジュの弟のリアム君とか……?」
ジェイドの言葉を受けてノアが言った。
「……」
ノアの言葉にジェイドは黙った。
彼の表情は霊体が見えるジニアスも、うすぼんやりとしか姿が見えないのでのでよくわからない。
「それにしてもお前、見てきたように言うんだな。お前は確か……、タロンティーレ会長が王太子妃の罪を追求した頃に生まれたはずだろ。なぜダンゼルの子供の頃まで知っている?」
ジニアスがジェイドの発言の疑問点を追及する。
「ちょ、調査の結果さ……」
ジェイドが口ごもった。
「ふうん、調査の結果か」
探るような目線のジニアスからノアもまた目をそらした。
「あんたは何か知っているのかい、ノアさん?」
ジニアスがノアの方に問うてみた。
「ノアでいいよ。僕は体を貸しているだけでそれ以上は……」
ノアもごまかした。
体を貸した時点でノアはジェイドと記憶を共有しているが、その内容を他者に明かすかどうかはジェイドの意志に任せることにしている。
「今日は帰ろうぜ、ノア。情報の共有ができただけで収穫だ」
ジェイドがノアに声をかける。
肝心のところでごまかしやがって、と、ジニアスはイラついたが、ジェイドが一番根っこの部分で心を明かさないのは前の時間軸の頃から変わらない。
ノアと霊体のジェイドはジニアスの家をお暇した。
「なあ、ジェイド。王太子との婚約は解消できた。最も脅威だったダンゼルはもはや能力が使えない。セシルを脅かす要因は消えたってことでいいんじゃないのか?」
馬車の中でノアはジェイドに心の中で語りかけた。
「まだだ、もしそうなら秘術は完成となり、この時間軸が固定化され、俺は現世に縛られることは無くなるはずだがその兆しはない。公爵を裏切ったユリウスがどう出るかわからないし、それにあの魅了女の行方がしれないんだ」
「魅了女、リジェンナの事か?」
「ああ、王家でも孤児院を調査したそうだが、影も形もなかったそうだ」
「どういうことだ?」
「考えられるのは、彼女がすでに死んでいる可能性。まあ、それなら懸念事項が一つ減っていいのだが、そううまくはいかないような気がする。あとは、彼女の言う幼少期の境遇が嘘で別のところに潜んでいる可能性だな」
「いずれにせよ油断大敵というわけか」
「そのとおりだ」
馬車はマールベロー公爵家に到着し、ノアはいつもより疲れが少ない状態で家に帰りつくことができた。
「おや、坊ちゃま、おっしゃっていたお時間より早かったですね」
部屋に入ってきたノアにばあやが声をかけた。
「そうだね。それより庭の方が騒がしいけどいったい何があったんだい」
ノアの部屋に面した庭の一角に人々が集まり騒いでいる様子が窓から見て取れた。
「なんでも、アンジュさんの弟のリアム……。坊ちゃまにとっては競争相手ですわね。その彼が突然魔法能力を覚醒させたと言って、公爵家の騎士団が大騒ぎですのよ」
「なんだって!」
ノアは驚いて部屋を出て、騎士団の集まっている訓練場の方へ足を向けた。
「ジェイド、聞こえるか。リアム君の魔法能力が覚醒したと言うらしいが何かわかるか?」
歩きながらノアはジェイドに心の中で話しかけた。
ジェイドが変な感心の仕方をする。
「炎魔法の天才児といううわさだからな」
「ああ、そっちの方の関心でか」
「それにしても『隷属』については、俺は散々言い聞かせたよな!」
「もっとあくどいことをやってきた連中を抑えるためにはやむを得ないだろ」
「子供に……」
「俺がかけたころは子供じゃなかった!」
「ジェイド!」
ノアは奇妙な感じがした。
ジェイドの声は頭に響くのに、ジニアスの方はそれに対して声を荒げる。
そんな子弟の言い合い。
「あの、禁忌の技ならそれを教える方も問題あると思うのですが……?」
見かねたノアは割って入った。
「あ、いや……、確かに相手の意志に反して縛るのは禁忌となっているが、相手が了承して縛りをかけるのは禁忌じゃないからやり方自体は普通に学ぶことができるんだ。たとえば重要な裁判では証人の了承を得て真実以外を話さないという縛りをかけることはよくある」
ジニアスがいいわけ、いや、説明をする。
「ああ、だから、せめて裁判でも行われていれば、オリビアにかけられた『隷属』が明るみに出て、あの女のうさん臭さも白日の下にさらされていたはずなんだ。それをしないで最初に非道なことをしたのは王太子やダンゼルだ!」
再び憤懣やるかたない調子でジェイドがはき捨てる。
「まあ、ダメだと言われても、もはや俺にも解けない状況になっているからな」
ジェイドが捨て鉢な口調で開きなおる。
「確かにルース先輩はそう言っていたが、俺が直接見れば違うかもしれないな」
天才を自称しているジニアスが大口叩いて言い返す。
「やめておけ。その優れた素質を他者を害することにしか使えない性悪だ。軍に所属してからは他国の兵士たちを焼き殺すことに快感を感じていた様子だったし、子供の頃だって、能力を使って他の子を威嚇したり、怪我をさせたり、ヤツが能力を使えなくなってこの先救われる人間がどれだけいるか……」
「例えば、アンジュの弟のリアム君とか……?」
ジェイドの言葉を受けてノアが言った。
「……」
ノアの言葉にジェイドは黙った。
彼の表情は霊体が見えるジニアスも、うすぼんやりとしか姿が見えないのでのでよくわからない。
「それにしてもお前、見てきたように言うんだな。お前は確か……、タロンティーレ会長が王太子妃の罪を追求した頃に生まれたはずだろ。なぜダンゼルの子供の頃まで知っている?」
ジニアスがジェイドの発言の疑問点を追及する。
「ちょ、調査の結果さ……」
ジェイドが口ごもった。
「ふうん、調査の結果か」
探るような目線のジニアスからノアもまた目をそらした。
「あんたは何か知っているのかい、ノアさん?」
ジニアスがノアの方に問うてみた。
「ノアでいいよ。僕は体を貸しているだけでそれ以上は……」
ノアもごまかした。
体を貸した時点でノアはジェイドと記憶を共有しているが、その内容を他者に明かすかどうかはジェイドの意志に任せることにしている。
「今日は帰ろうぜ、ノア。情報の共有ができただけで収穫だ」
ジェイドがノアに声をかける。
肝心のところでごまかしやがって、と、ジニアスはイラついたが、ジェイドが一番根っこの部分で心を明かさないのは前の時間軸の頃から変わらない。
ノアと霊体のジェイドはジニアスの家をお暇した。
「なあ、ジェイド。王太子との婚約は解消できた。最も脅威だったダンゼルはもはや能力が使えない。セシルを脅かす要因は消えたってことでいいんじゃないのか?」
馬車の中でノアはジェイドに心の中で語りかけた。
「まだだ、もしそうなら秘術は完成となり、この時間軸が固定化され、俺は現世に縛られることは無くなるはずだがその兆しはない。公爵を裏切ったユリウスがどう出るかわからないし、それにあの魅了女の行方がしれないんだ」
「魅了女、リジェンナの事か?」
「ああ、王家でも孤児院を調査したそうだが、影も形もなかったそうだ」
「どういうことだ?」
「考えられるのは、彼女がすでに死んでいる可能性。まあ、それなら懸念事項が一つ減っていいのだが、そううまくはいかないような気がする。あとは、彼女の言う幼少期の境遇が嘘で別のところに潜んでいる可能性だな」
「いずれにせよ油断大敵というわけか」
「そのとおりだ」
馬車はマールベロー公爵家に到着し、ノアはいつもより疲れが少ない状態で家に帰りつくことができた。
「おや、坊ちゃま、おっしゃっていたお時間より早かったですね」
部屋に入ってきたノアにばあやが声をかけた。
「そうだね。それより庭の方が騒がしいけどいったい何があったんだい」
ノアの部屋に面した庭の一角に人々が集まり騒いでいる様子が窓から見て取れた。
「なんでも、アンジュさんの弟のリアム……。坊ちゃまにとっては競争相手ですわね。その彼が突然魔法能力を覚醒させたと言って、公爵家の騎士団が大騒ぎですのよ」
「なんだって!」
ノアは驚いて部屋を出て、騎士団の集まっている訓練場の方へ足を向けた。
「ジェイド、聞こえるか。リアム君の魔法能力が覚醒したと言うらしいが何かわかるか?」
歩きながらノアはジェイドに心の中で話しかけた。
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