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第8章 王宮にて(回帰一か月後より)
第65話 異常な『隷属』とすり替わった少女
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魅了女の対策に王家は知恵を絞ることとなった。
まず魔法省の大臣に『魅了』能力の防御について尋ねた。
「実はわが国ではそちらの研究の方はあまり進んでおりません。詳しいことをお聞きになりたいのなら、魔道協会から人を派遣してもらう方がよろしいかと?」
大臣の答えに国王は眉をしかめた。
魔道協会が集めた古い文献の中に、ユーディット国の王家の秘術に関わる記述が存在し、協会はそれに並々ならぬ関心を示している。
しかし、ユーディット国側としては秘密にしておきたい。
今回の件でもし魔道協会を頼るとすれば、事のいきさつは話さねばならぬだろうし、場合によっては交換条件で秘術に関わる知識を求めてくるかもしれない。
「国内に誰か詳しい者はおらぬのか?」
「探してみましょう。それから『魅了』に対する防御ならば、協会の開発した魔道具を使われるのがよろしいでしょう。国によっては要人はそれを身に着けるのが必須となっているところもあります。需要が高いのでかなり高価ですが、問題の少女を探されるなら必要かと思います」
「うむ、では、それの購入をできるだけ急げ」
国王は大臣に命じた。
今まで『魅了』の防御に無関心だったユーディット国が、魔道具をも求めたことに魔道協会は少なからず驚いた。
だが、別の視方をすれば他の『普通の国』と同じになっただけとも言えるので、特に追及はなくユーディット国は高価な魔道具を三個注文をすることができた。
さらに国王は息子オースティンにかけられた『隷属』についても大臣に相談した。
「隷属にかけられているか否かをみるだけでも相当な技術が必要です。それができる人間は国内でも数えるほどしか……」
「やつはブレイズ卿の長男にも同様の技をかけたと言っていたな。彼とも少し話がしたい」
「騎士団長のご子息にですか? 同じ術なら依頼した人間にその子も見てもらうがいいでしょう」
◇ ◇ ◇
隷属についてはルース・ヒューゴという人物に観てもらう事となった。
その優れた素質ゆえ、魔法省から紹介状を送り魔道協会の本部で学ばせる予定の人物である。
「そなたは依頼を受け『隷属』の術がかけられていることを看破したこともあると聞いたが?」
大臣がルースに問うた。
「はい、あの技は禁忌ゆえ、看破した後は魔道協会に報告を行い後の処理はまかせました」
「そうか、被害者の身分や立場の詮索は禁止だ。とにかく君はそれについてわかる限りのことを我々に教えてくれればよい。魔道協会への……、報告は控えてほしい」
魔法省の大臣の言葉で『隷属』の被害者がただ者ではなく、国にとっても重要な案件になることはルースにも予測ができた。
ただ、その相手がまだ子供であることには面食らった。
「これは……、確かに『隷属』ですが、今まで見てきたのと随分違いますね」
「どういうことだ?」
大臣がルースに再び質問をする。
「その……、魔力の状態なのですが、それが異様で……、かけたのは本当に生きている人間でしょうか? いやいや、術者が死んだら『隷属』の鎖も解けるはずだからそんなことはあり得ないのだけど……」
ルースは鑑定している相手の子供(オースティン王太子)の様子を見ながら自問自答をする。
ルースのつぶやきを聞き、その内容がジェイドという霊体の言ったことと一致することに、王宮の人間たちは戦慄した。
「もう一人、見てもらいたい人物がいる」
大臣はルースにそう告げ、今度は王宮外のとある貴族の屋敷に連れていかれた。
途中の道程で鑑定される者の素性がわからぬように、彼は馬車の中でずっと目隠しをされる。
王宮でも玄関口で目隠しをされ、王宮内のどこに通されたのかわからぬまま、子供を鑑定させられたが、ずいぶんと念の入った隠し方だ。
そして連れて行かれた先にいたのもまた子供であった。
ルースは再び鑑定する。
「これも『隷属』の一種だと思いますが先ほどの御子様とは少し違います……? 隷属の鎖に『水鏡』の術を混ぜ込んでいて、何か……? 彼の放った魔力が自分に向かって跳ね返るようになっていて……」
鑑定結果を述べると再び場所がわからぬように目隠しをされ、ルースは返された。
あまりにも異様な術の状態にルースは、政治的にも魔法の能力的にも、自分が深入りしてはならないものをそこに感じるのだった。
◇ ◇ ◇
十日ほどの時を経て、ユーディット王家は『魅了』などを鑑定できる魔道具を手に入れ全国の孤児院の調査を開始した。
調査の人間に魔道具の腕輪を持たせて、条件に合う少女を探し出させる。
そして王都のとある孤児院でブレイ男爵の血を引くという少女が見つかったので、王宮に連れてきてもらった。
オースティン王太子に、本人にはわからない形でこっそり顔を確かめてもらう。
「この娘はちがう! リジーじゃない!」
きれいな顔立ちの少女であったが、王太子の言った赤みがかった金髪ではなく、クルミ色の髪をしていた。
そして、調査団が持って行った魔道具の腕輪にも反応はしなかったという。
「しかし、国王陛下がおっしゃったブレイ男爵家の血を引いているようでしたので……。お年も王太子殿下と同じで……」
調査の者が説明をした。
「ブレイ家には庶子は二人いたのか?」
仕方がないので、ブレイ男爵を王宮に呼び出した。
少女と同じクルミ色の髪をした中年の男は、少女が持っていた男爵家の家紋が彫り込まれた壊れた懐中時計を見て、確かに実子と認めたが引き取るのには難色を示した。
前の時間軸でリジェンナが男爵家に引き取られたのは、彼女が十一歳の時。
それは、王妃も命を落とした感染症の大流行で男爵夫人も無くなってからの事である。夫人が存命中ゆえ、かつての浮気相手の子など快く引き取るわけもなく、ブレイ家に押し付けても少女に居場所はない。
「今さら放り出すわけにもいきませんし、とりあえず認知だけしてもらって、あとは私どもで引き受けましょう。私付きの侍女長に預けて、侍女としての教育をほどこせばものになるかもしれませんし……」
王妃が少女の処遇を提案した。
「そなた、名前は?」
侍女長のフィデリテが少女に尋ねた。
「フィオナと申します……」
黒目がちな目をさらに大きくさせて少女はおずおずと答えるのだった。
まず魔法省の大臣に『魅了』能力の防御について尋ねた。
「実はわが国ではそちらの研究の方はあまり進んでおりません。詳しいことをお聞きになりたいのなら、魔道協会から人を派遣してもらう方がよろしいかと?」
大臣の答えに国王は眉をしかめた。
魔道協会が集めた古い文献の中に、ユーディット国の王家の秘術に関わる記述が存在し、協会はそれに並々ならぬ関心を示している。
しかし、ユーディット国側としては秘密にしておきたい。
今回の件でもし魔道協会を頼るとすれば、事のいきさつは話さねばならぬだろうし、場合によっては交換条件で秘術に関わる知識を求めてくるかもしれない。
「国内に誰か詳しい者はおらぬのか?」
「探してみましょう。それから『魅了』に対する防御ならば、協会の開発した魔道具を使われるのがよろしいでしょう。国によっては要人はそれを身に着けるのが必須となっているところもあります。需要が高いのでかなり高価ですが、問題の少女を探されるなら必要かと思います」
「うむ、では、それの購入をできるだけ急げ」
国王は大臣に命じた。
今まで『魅了』の防御に無関心だったユーディット国が、魔道具をも求めたことに魔道協会は少なからず驚いた。
だが、別の視方をすれば他の『普通の国』と同じになっただけとも言えるので、特に追及はなくユーディット国は高価な魔道具を三個注文をすることができた。
さらに国王は息子オースティンにかけられた『隷属』についても大臣に相談した。
「隷属にかけられているか否かをみるだけでも相当な技術が必要です。それができる人間は国内でも数えるほどしか……」
「やつはブレイズ卿の長男にも同様の技をかけたと言っていたな。彼とも少し話がしたい」
「騎士団長のご子息にですか? 同じ術なら依頼した人間にその子も見てもらうがいいでしょう」
◇ ◇ ◇
隷属についてはルース・ヒューゴという人物に観てもらう事となった。
その優れた素質ゆえ、魔法省から紹介状を送り魔道協会の本部で学ばせる予定の人物である。
「そなたは依頼を受け『隷属』の術がかけられていることを看破したこともあると聞いたが?」
大臣がルースに問うた。
「はい、あの技は禁忌ゆえ、看破した後は魔道協会に報告を行い後の処理はまかせました」
「そうか、被害者の身分や立場の詮索は禁止だ。とにかく君はそれについてわかる限りのことを我々に教えてくれればよい。魔道協会への……、報告は控えてほしい」
魔法省の大臣の言葉で『隷属』の被害者がただ者ではなく、国にとっても重要な案件になることはルースにも予測ができた。
ただ、その相手がまだ子供であることには面食らった。
「これは……、確かに『隷属』ですが、今まで見てきたのと随分違いますね」
「どういうことだ?」
大臣がルースに再び質問をする。
「その……、魔力の状態なのですが、それが異様で……、かけたのは本当に生きている人間でしょうか? いやいや、術者が死んだら『隷属』の鎖も解けるはずだからそんなことはあり得ないのだけど……」
ルースは鑑定している相手の子供(オースティン王太子)の様子を見ながら自問自答をする。
ルースのつぶやきを聞き、その内容がジェイドという霊体の言ったことと一致することに、王宮の人間たちは戦慄した。
「もう一人、見てもらいたい人物がいる」
大臣はルースにそう告げ、今度は王宮外のとある貴族の屋敷に連れていかれた。
途中の道程で鑑定される者の素性がわからぬように、彼は馬車の中でずっと目隠しをされる。
王宮でも玄関口で目隠しをされ、王宮内のどこに通されたのかわからぬまま、子供を鑑定させられたが、ずいぶんと念の入った隠し方だ。
そして連れて行かれた先にいたのもまた子供であった。
ルースは再び鑑定する。
「これも『隷属』の一種だと思いますが先ほどの御子様とは少し違います……? 隷属の鎖に『水鏡』の術を混ぜ込んでいて、何か……? 彼の放った魔力が自分に向かって跳ね返るようになっていて……」
鑑定結果を述べると再び場所がわからぬように目隠しをされ、ルースは返された。
あまりにも異様な術の状態にルースは、政治的にも魔法の能力的にも、自分が深入りしてはならないものをそこに感じるのだった。
◇ ◇ ◇
十日ほどの時を経て、ユーディット王家は『魅了』などを鑑定できる魔道具を手に入れ全国の孤児院の調査を開始した。
調査の人間に魔道具の腕輪を持たせて、条件に合う少女を探し出させる。
そして王都のとある孤児院でブレイ男爵の血を引くという少女が見つかったので、王宮に連れてきてもらった。
オースティン王太子に、本人にはわからない形でこっそり顔を確かめてもらう。
「この娘はちがう! リジーじゃない!」
きれいな顔立ちの少女であったが、王太子の言った赤みがかった金髪ではなく、クルミ色の髪をしていた。
そして、調査団が持って行った魔道具の腕輪にも反応はしなかったという。
「しかし、国王陛下がおっしゃったブレイ男爵家の血を引いているようでしたので……。お年も王太子殿下と同じで……」
調査の者が説明をした。
「ブレイ家には庶子は二人いたのか?」
仕方がないので、ブレイ男爵を王宮に呼び出した。
少女と同じクルミ色の髪をした中年の男は、少女が持っていた男爵家の家紋が彫り込まれた壊れた懐中時計を見て、確かに実子と認めたが引き取るのには難色を示した。
前の時間軸でリジェンナが男爵家に引き取られたのは、彼女が十一歳の時。
それは、王妃も命を落とした感染症の大流行で男爵夫人も無くなってからの事である。夫人が存命中ゆえ、かつての浮気相手の子など快く引き取るわけもなく、ブレイ家に押し付けても少女に居場所はない。
「今さら放り出すわけにもいきませんし、とりあえず認知だけしてもらって、あとは私どもで引き受けましょう。私付きの侍女長に預けて、侍女としての教育をほどこせばものになるかもしれませんし……」
王妃が少女の処遇を提案した。
「そなた、名前は?」
侍女長のフィデリテが少女に尋ねた。
「フィオナと申します……」
黒目がちな目をさらに大きくさせて少女はおずおずと答えるのだった。
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