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第8章 王宮にて(回帰一か月後より)

第64話 会談を終えて

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「うう……」

 王宮での会談を終えた帰途、馬車の中でノア・ウィズダムはうめき声をあげていた。

「「大丈夫ですか?」」

 ノアに二人分の席を開け、向かい合った席に並んで腰かけているアンジュとヴォルターが心配そうに声をかける。

「ジェイドの奴……、ああ見えて相当感情が高ぶっていたようだな。いつもより疲れ方が激しい……」

 二人分の席に身を横たえながらノアがつぶやく。

「後半、ほとんど私たちの出る幕はありませんでしたな……」

 王家の人間相手に無双するジェイドを思い出しヴォルターが言う。

「一応、あれで王太子殿下との婚約は無しになったということでいいのですよね。私たちはセシル様が立派な公爵家の当主になるようお支えすればいいと?」

 アンジュが今後の方針を口に出す。

「多分、大丈夫でしょう」

 ノアが答える。

「ところでジェイドはどこへ?」

「彼ならまだ王宮で確認したいことがあるからって」

 ヴォルターの疑問にノアが答えた。


 ◇ ◇ ◇

 マールベロー家の面々を返して後、王家の者たちは引き続き今後の対策を話し合っていた。

「こちらの落ち度とはいえ、マールベロー嬢との婚約が白紙に戻ったのは痛いですな」

 国王の気持ちを受けてベンソン伯爵が発言する。

「ああ、でも、王妃様のご発言はマールベロー家の者たちの警戒心を緩めるためにはよかったと思います」

 同時に婚約継続に賛成しない王妃の発言も評価をする姿勢を見せた。

「ありがとう。半ば本音でしたわ」

 王妃がそれを受けベンソン拍車に礼を言う。

「マールベロー家の者たちの前では言いませんでしたが、まだオースティンには確かめたいことがあります」

「なんでしょう、母上」

「セシル嬢を地下牢へ閉じ込めるなどというのは誰の考えだったのですか? 『魅了』という恐ろしい能力に惑わされたのは災難とも言えますが、それでもセシル嬢にしたことはあまりにもひどい! いったい誰がそのようなことを言い出したのですか?」

「それは……、覚えていません……」

「どういうことです、そんな重大なことを覚えてないですって?」

「なんとなく仲間で盛り上がって、それで……」

「つまりあなたは学生同士の盛り上がりだけで、法をないがしろにし、一人の女性の人生をめちゃにしてしまうような決定をしたと……」

「……」

 王妃の追及にオースティンは言葉を失う。

 今にして思えばセシルへの仕打ちについて、自分たちに非があったことはオースティンも認めている。
 とはいえ、執拗に非難されたりすることには理不尽感を抱いていた。

 自分が何も言えなくなるので、できれば蒸し返してほしくないというのが王太子オースティンの本音である。

 ゆえに時をさかのぼり、目覚めてすぐの時も話すのを躊躇した。

 ただ、手のひらを返したようにセシルの肩をもった連中とは違い、本当のことが知れても母の王妃だけは変わらず優しい声かけをしてくれると思っていた。

 だが目の前にいる三人の中では、彼女が一番最も険しい顔で最も厳しい質問をしてくるのにオースティンは衝撃を受けている。

「父上もリジーを連れてきたときには、それはそれはお喜びになり、セシルを地下牢に収監し続けることに何もおっしゃいませんでした!」

 苦し紛れに過去の父王の様子を語るオースティン。

「あら、そうなのですの?」

 王妃が冷たい表情を今度は夫である国王に向ける。

「それをいわれても、私はその時間軸の記憶がない……」

 国王が答える。

「そうですね、覚えているのは私だけか……」

「そうでもないぜ。俺はその時には生まれたばかりだけど、当時の様子は成長してから新聞などで知ることができた。リジェンナに魅了されたクズどもは、彼女の『魅了』を知ってからも手のひら返しだとかずいぶん文句を言っていたそうだな」

「誰だ!」

 部屋には四人しかいないはずなのに別の声が響き、オースティンは周囲を見わたした。

「ジェイド!」

 オースティンは中空に浮かぶジェイドの霊体を視認する。

「ジェイドだと、あの大公の息子の体に入っていた者か! なるほど王家の象徴であるコーンフラワーブルーの瞳が……」

「へえ、国王陛下には見えるんだ、やはり王家の血筋かな?」

 王太子と国王はジェイドの姿を見ることができるが、王妃とベンソン伯爵は見ることができない。

「誰に話をしているのですか?」

 王妃が質問する。

「ジェイドが中空に。どうやら霊体だというのは本当だったようだ。何をしに来た?」

 国王は見えない王妃に説明をし、そしてジェイドに尋ねる。

「話がまとまった後に気が変わってまたセシルにいらぬちょっかいをかけられては困るからな。確認をしに来た」

「心配せずとも発言は翻しはせぬ」

「そうか、ならいい」

 ジェイドはそう言って中空に掻き消えた。

 彼が消えしばらく部屋には沈黙が広がる。

 それを打ち破り王妃が再び話し始めた。

「話を元に戻していいですか。婚約者だったセシル嬢をあなたはしかるべき手続きも取らず不当に扱った。周囲の盛り上がりに流されてそのようなことをする者にこの国を統べる資格があると思うのですか?」

「王妃よ、それは!」

「王としてあるべき姿を考えれば当然のことでしょう。主体性もなく流されただけで他人に非道なことをする、国を率いる者としてやってはいけないことです。そのこともよくよく反省せねばなりませんよ、オースティン」

「ああ、そうだな……。前の時間軸の反省を踏まえて、同じ過ちは繰り返せぬようにな」

 王と王妃は息子であるオースティンに厳しく言い聞かせる。

 オースティンは無言でうなづくのみであった。

「それにしても、魅了能力のあるリジェンナという者、捨て置くわけにはいきませんわね。今のうちに現在の状況把握してしかるべき措置を考えねばなりませんわ」
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