62 / 84
第8章 王宮にて(回帰一か月後より)
第62話 セシルとの婚約について
しおりを挟む
「裏切っただと……」
ジェイドの言葉に首をかしげる国王。
「驚いたねえ。こいつは親であるあんたらにも本当に何も話していないのか?」
その国王にぞんざいな口を利くジェイド
「あ、あの、ジェイド殿、少し抑えて……」
ジェイドの乱暴な物言いをヴォルターが小声でたしなめる。
「今さら取り繕ったって仕方がないだろう。俺の名はジェイド。この体の持ち主ノアとは別の存在だ。俺の存在はこいつから聞いているだろう」
確かに『ジェイド』という名を何度かオースティンは国王夫妻の前で口にした。
「それにしてもオースティンのことを『こいつ』とかずいぶんな口の利き方をなさるのですね。秘術のかかわりがあるというのなら、あなたも王族のはず。どういった関係の方なのですか?」
王妃が不快感をあらわにしながらジェイドに尋ねた。
「それも言ってないってか……。まあ、おれのことはいいや。この会合が終わった後でこいつに聞きな。問題はこいつとセシルの婚約だろう」
またもや王太子を『こいつ』と。
言葉使いを改めるつもりがジェイドの方には全くないようだ。
「ちょっと、ジェイド……、あなたは良くてもノア様の印象が悪くなったらどうするのよ!」
今度はアンジュがジェイドをたしなめる。
「大丈夫、ノアがしゃべっているわけじゃないことは明白だし、そもそもノアに危害を加えるってことは大公を敵に回すってことだぜ。王家もそこはわかっているだろうさ」
確かにわかりやすいくらいの豹変ぶりだが……。
「これまでの話で、こいつが何一つ未来でしでかした自分の失態を話していないことがよく分かった。都合の悪いことはだんまりってやつか」
ジェイドがひるまず話を続ける。
「どういうことです?」
王妃の方がジェイドにつめよった。
「まあ、短くまとめると、学園に通っている頃にこいつはリジェンナという『魅了』の能力持ちの女にたぶらかされたんだ」
「『魅了』ですって!」
王妃が声を上げる。
国王やベンソン伯爵もその言葉に背筋を寒くした。
「その魅了女は王太子妃の地位が欲しいためにセシルを貶め無実の罪を着せやがった。それを真に受けた王太子や、同じく魅了女にたぶらかされた貴族の子弟は卒業パーティの場で寄ってたかってセシルを責め立て、彼女をそのまま裁判もなく問答無用に地下牢に連行させたんだ。」
「地下牢ですって……」
「それが何を意味するか分かるよな、王妃様?」
「本当なのっ、オースティン!?」
王妃は声を荒げて息子につめよる。
「事実なのか、それは?」
国王があらためて問う。
「はい、私たちが公爵閣下から受け取った遺言にはそう書かれておりました」
ヴォルターが国王の問いに答える。
「事実です……」
少し遅れて王太子が返事をした。
「しかし、黙っていたのは別に隠したかったわけではなく、そなたの本心がわからなかったからだ!」
オースティンはジェイドに向かって告げる。
「俺の気持ちがわかろうとわからなかろうと、お前が非道なことをしたことに変わりはないだろう。二年後、リジェンナの化けの皮がはがされ、セシルの無罪が証明されたが、地下牢にずっと閉じ込められていた彼女は解放された時、廃人同然の状態だった」
ジェイドは責め立てるようにオースティンに言う。
「それに対する償いはした!」
オースティンが絞り出すような声で言う。
「どうやって! 地下牢で看守らにされたむごいしうちがチャラになるとでも? 身も心もボロボロになった彼女を地下牢に連行する前の状態に戻せたとでも?」
「……っ!」
二人の言い合いの周囲には冷たい沈黙が広がった。
「つまり、それが亡き公爵が婚約を白紙にした理由なのだな」
沈黙を破り国王が口を開いた。
「まあ、そういうことだ」
ジェイドが肯定する。
「そういうことなら、やむを得ませんわね」
王妃が深いため息をついた。
「いや、待て。その魅了女をどうにかすればいいのではないのか?」
国王が食い下がる。
「すっげえ鉄面皮だな。魅了女にのぼせ上ってこいつがセシルをないがしろにしていた時、彼女がどんな思いをしてきたか想像できないのか! 挙句の果てに正当な理由なく地下牢に放り込み、人生そのものをめちゃくちゃにして、それでなお婚約継続をもとめるのか!」
ジェイドが罵った。
「しかし……」
王太子オースティンと年齢的につり合い、なおかつ立場を強化できる令嬢はセシルしかいない。
あとは大公の娘だが、王位継承権を持つ息子もいる彼がわざわざオースティンの格を上げるような縁組を了承するわけがない。
「国王陛下、致し方ないのではありませんか?」
セシルとの婚約に未練を残す国王とは裏腹に、王妃の方はきっぱりとあきらめたように言った。
「セシル嬢とは数回顔を合わせ、オースティンと婚約をしたらいずれ王太子妃教育などで頻繁に顔を合わせることになります。私としてはそれを楽しみにしておりましたが、そのような事情では無理強いすることはとてもできませんわ」
「ほう、王妃様の方は、こちらの男連中と違って情理も道理も分かってらっしゃるようだな」
ジェイドは『男連中』、つまり国王らを揶揄した。
ジェイドの言葉に首をかしげる国王。
「驚いたねえ。こいつは親であるあんたらにも本当に何も話していないのか?」
その国王にぞんざいな口を利くジェイド
「あ、あの、ジェイド殿、少し抑えて……」
ジェイドの乱暴な物言いをヴォルターが小声でたしなめる。
「今さら取り繕ったって仕方がないだろう。俺の名はジェイド。この体の持ち主ノアとは別の存在だ。俺の存在はこいつから聞いているだろう」
確かに『ジェイド』という名を何度かオースティンは国王夫妻の前で口にした。
「それにしてもオースティンのことを『こいつ』とかずいぶんな口の利き方をなさるのですね。秘術のかかわりがあるというのなら、あなたも王族のはず。どういった関係の方なのですか?」
王妃が不快感をあらわにしながらジェイドに尋ねた。
「それも言ってないってか……。まあ、おれのことはいいや。この会合が終わった後でこいつに聞きな。問題はこいつとセシルの婚約だろう」
またもや王太子を『こいつ』と。
言葉使いを改めるつもりがジェイドの方には全くないようだ。
「ちょっと、ジェイド……、あなたは良くてもノア様の印象が悪くなったらどうするのよ!」
今度はアンジュがジェイドをたしなめる。
「大丈夫、ノアがしゃべっているわけじゃないことは明白だし、そもそもノアに危害を加えるってことは大公を敵に回すってことだぜ。王家もそこはわかっているだろうさ」
確かにわかりやすいくらいの豹変ぶりだが……。
「これまでの話で、こいつが何一つ未来でしでかした自分の失態を話していないことがよく分かった。都合の悪いことはだんまりってやつか」
ジェイドがひるまず話を続ける。
「どういうことです?」
王妃の方がジェイドにつめよった。
「まあ、短くまとめると、学園に通っている頃にこいつはリジェンナという『魅了』の能力持ちの女にたぶらかされたんだ」
「『魅了』ですって!」
王妃が声を上げる。
国王やベンソン伯爵もその言葉に背筋を寒くした。
「その魅了女は王太子妃の地位が欲しいためにセシルを貶め無実の罪を着せやがった。それを真に受けた王太子や、同じく魅了女にたぶらかされた貴族の子弟は卒業パーティの場で寄ってたかってセシルを責め立て、彼女をそのまま裁判もなく問答無用に地下牢に連行させたんだ。」
「地下牢ですって……」
「それが何を意味するか分かるよな、王妃様?」
「本当なのっ、オースティン!?」
王妃は声を荒げて息子につめよる。
「事実なのか、それは?」
国王があらためて問う。
「はい、私たちが公爵閣下から受け取った遺言にはそう書かれておりました」
ヴォルターが国王の問いに答える。
「事実です……」
少し遅れて王太子が返事をした。
「しかし、黙っていたのは別に隠したかったわけではなく、そなたの本心がわからなかったからだ!」
オースティンはジェイドに向かって告げる。
「俺の気持ちがわかろうとわからなかろうと、お前が非道なことをしたことに変わりはないだろう。二年後、リジェンナの化けの皮がはがされ、セシルの無罪が証明されたが、地下牢にずっと閉じ込められていた彼女は解放された時、廃人同然の状態だった」
ジェイドは責め立てるようにオースティンに言う。
「それに対する償いはした!」
オースティンが絞り出すような声で言う。
「どうやって! 地下牢で看守らにされたむごいしうちがチャラになるとでも? 身も心もボロボロになった彼女を地下牢に連行する前の状態に戻せたとでも?」
「……っ!」
二人の言い合いの周囲には冷たい沈黙が広がった。
「つまり、それが亡き公爵が婚約を白紙にした理由なのだな」
沈黙を破り国王が口を開いた。
「まあ、そういうことだ」
ジェイドが肯定する。
「そういうことなら、やむを得ませんわね」
王妃が深いため息をついた。
「いや、待て。その魅了女をどうにかすればいいのではないのか?」
国王が食い下がる。
「すっげえ鉄面皮だな。魅了女にのぼせ上ってこいつがセシルをないがしろにしていた時、彼女がどんな思いをしてきたか想像できないのか! 挙句の果てに正当な理由なく地下牢に放り込み、人生そのものをめちゃくちゃにして、それでなお婚約継続をもとめるのか!」
ジェイドが罵った。
「しかし……」
王太子オースティンと年齢的につり合い、なおかつ立場を強化できる令嬢はセシルしかいない。
あとは大公の娘だが、王位継承権を持つ息子もいる彼がわざわざオースティンの格を上げるような縁組を了承するわけがない。
「国王陛下、致し方ないのではありませんか?」
セシルとの婚約に未練を残す国王とは裏腹に、王妃の方はきっぱりとあきらめたように言った。
「セシル嬢とは数回顔を合わせ、オースティンと婚約をしたらいずれ王太子妃教育などで頻繁に顔を合わせることになります。私としてはそれを楽しみにしておりましたが、そのような事情では無理強いすることはとてもできませんわ」
「ほう、王妃様の方は、こちらの男連中と違って情理も道理も分かってらっしゃるようだな」
ジェイドは『男連中』、つまり国王らを揶揄した。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる