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第7章 回帰前3(リジェンナ処刑まで)
第53話 再会
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会議が終わった後、王太子は王宮のはずれにある牢に収監されたダンゼルを訪ねていた。
「処刑! どうして反対なさらなかったのですか!」
王太子から話を聞いたダンゼルは牢の中から大声を上げる。
「反対したさ、会議の前にな。父上や側近らの中では処刑は会議の前にはすでに決定事項で、あとは皆の了承を取り付けるだけだったんだ」
「そんな……、あの会議は茶番だったということですか?」
「刑の執行は三日後だ」
「ちくしょう、他国の言いなりになって王太子妃を処刑なんて国としての誇りはどこへ行ったんだ」
「リジーのことばかり心配してられないぞ、ダンゼル。お前を殺人罪で裁判にかけるようにジェラルディ伯爵が強く主張し、それが受け入れられるようだからな」
「私よりリジーの方が急を要するでしょう。なんとか助け出さないと……」
「助け出すって今さら……」
ダンゼルと王太子の間にしばらく沈黙が流れた。
「そうだ、ひそかにリジーを王宮から出し、処刑は背格好の似た者を使えばいい。罪人でもいいし、いなければ、金を積み身代わりになる者を募れば一人くらいは……」
ダンゼルは名案がひらめいたという風に王太子に語り始めた。
「王宮から出すって……」
「リジーと生まれたばかりの王子を私の妻と子ということでごまかしましょう。貴族の息子が突然生まれたばかりの赤子を抱いた女を妻に迎えたとしても、今までひそかに付き合っていたが跡継ぎが生まれたので公にしたってことにすれば不自然ではありません」
「しかしそれではお前が……」
「国王陛下だって諸外国の圧力があったからそういう決定をなされたのだし、王宮内の信頼できる者の手でリジーを逃がすのは可能なはずです。いずれほとぼりが冷めたら真実を明るみにすればいいのですから」
「いいのか、それで? 何年もそなたに偽りの婚姻を強いることになるのだぞ」
「リジーと殿下のためなら。そうと決まれば父上に早く保釈金を払ってもらって牢から出なければ……」
「すまない、私は父上にこのことを打診してみる」
◇ ◇ ◇
アンジュ・ジェラルディとマールベロー公爵、オリビア・レンティエート、魔道協会会長タロンティーレは、会議が終わると国王及び側近のベンソン伯爵の案内でセシルのいる部屋に連れていかれた。
セシルは魂の抜けたような表情でベッドの上に横たわっていた。
発見された当初よりは、体の汚れは落とされ、髪もきれいに切りそろえられていたが、それでもやせ衰えたその姿はアンジュが二年前に見たセシルとは大きくかけ離れていた。
「セシル様……」
胸が締め付けられそうになりながら、アンジュはセシルの名を呼んだ。
「……ンジュ……」
しわがれた声を発しながら、セシルはその身をベッドから起こそうとする。
セシルの治療に当たっていた者たちは、今まで誰にも反応しなかったのに、と、驚いた。
セシルは視力をほとんど失っている。
かすかに聞こえた懐かしい人の声に反応し手を伸ばしながらその人の姿を求めた。
「セシル様、私です」
アンジュはベッドのそばに駆け寄りセシルの手を取った。
「アンジュなの……」
「セシル様……」
この様変わりしたセシルにどういう言葉をかければいいのだろうか?
アンジュは言葉がみつからない。
「ご……、めんなさい、アンジュ……。私がリアムに……、パーティについてきてと頼んだから……、あんなことに……」
セシルは涙を流した。
セシルが地下牢で体験したことは筆舌に尽くしがたいものだったろう。
助け出された彼女はもはや何を聞いても見ても無反応で、魂は死んだも同然の状態であった。
その彼女が、明確にその意志を示し涙を流したことに、今まで治療に当たっていた者たちはさらに驚く。
「セシル様……」
アンジュはセシルを抱きしめた。
彼女自身どれほどひどい目にあって来たのか。
それなのに私にまずそのことを伝えるために……。
彼女を性悪などと言ったのは誰だったか?
他ならぬ王太子らである。
自分のことよりまずアンジュに弟リアムのことを伝えて謝るセシル。
そういう娘なのだ。
自分がどんな状況に陥っても他者を慮ることを辞めない。
そんな彼女に対してよくそんなことが言えたものだ!
そして、よくあんな残酷なことができたものだ!
アンジュは改めて強い怒りを王太子ら一派に感じる。
「帰りたい……、卒業パーティ以前の頃に帰りたい……」
セシルはアンジュの胸の中で泣きながら言った。
オリビアやタロンティーレ、そして部屋にいた者たちはもらい泣きをする。
国王やベンソン伯爵もいたたまれない思いをするのであった。
◇ ◇ ◇
「馬鹿者! 何が替え玉だ!」
おり言って話があるというから耳を傾けたが……。
国王は息子のオースティンの話を聞いて激怒した。
「しかし、父上。要は諸外国の目をごまかせればいいのでしょう。ジェイドだって実母が処刑されたとなっては将来的に……」
「そのジェイドが大事ならば、リジェンナのことはあきらめろ」
先ほどまでセシルと肉親や友人たちの面会を目にしていた国王は、この期に及んで自分がしでかしたことの意味を全く理解していない様子の息子にいら立つ。
「どういう意味ですか?」
「ジェイドは世継ぎから外し里子に出す。もう王家の人間ではない。そなたもそう心得よ」
国王の言葉の真意がオースティンは理解できなかった。
「処刑! どうして反対なさらなかったのですか!」
王太子から話を聞いたダンゼルは牢の中から大声を上げる。
「反対したさ、会議の前にな。父上や側近らの中では処刑は会議の前にはすでに決定事項で、あとは皆の了承を取り付けるだけだったんだ」
「そんな……、あの会議は茶番だったということですか?」
「刑の執行は三日後だ」
「ちくしょう、他国の言いなりになって王太子妃を処刑なんて国としての誇りはどこへ行ったんだ」
「リジーのことばかり心配してられないぞ、ダンゼル。お前を殺人罪で裁判にかけるようにジェラルディ伯爵が強く主張し、それが受け入れられるようだからな」
「私よりリジーの方が急を要するでしょう。なんとか助け出さないと……」
「助け出すって今さら……」
ダンゼルと王太子の間にしばらく沈黙が流れた。
「そうだ、ひそかにリジーを王宮から出し、処刑は背格好の似た者を使えばいい。罪人でもいいし、いなければ、金を積み身代わりになる者を募れば一人くらいは……」
ダンゼルは名案がひらめいたという風に王太子に語り始めた。
「王宮から出すって……」
「リジーと生まれたばかりの王子を私の妻と子ということでごまかしましょう。貴族の息子が突然生まれたばかりの赤子を抱いた女を妻に迎えたとしても、今までひそかに付き合っていたが跡継ぎが生まれたので公にしたってことにすれば不自然ではありません」
「しかしそれではお前が……」
「国王陛下だって諸外国の圧力があったからそういう決定をなされたのだし、王宮内の信頼できる者の手でリジーを逃がすのは可能なはずです。いずれほとぼりが冷めたら真実を明るみにすればいいのですから」
「いいのか、それで? 何年もそなたに偽りの婚姻を強いることになるのだぞ」
「リジーと殿下のためなら。そうと決まれば父上に早く保釈金を払ってもらって牢から出なければ……」
「すまない、私は父上にこのことを打診してみる」
◇ ◇ ◇
アンジュ・ジェラルディとマールベロー公爵、オリビア・レンティエート、魔道協会会長タロンティーレは、会議が終わると国王及び側近のベンソン伯爵の案内でセシルのいる部屋に連れていかれた。
セシルは魂の抜けたような表情でベッドの上に横たわっていた。
発見された当初よりは、体の汚れは落とされ、髪もきれいに切りそろえられていたが、それでもやせ衰えたその姿はアンジュが二年前に見たセシルとは大きくかけ離れていた。
「セシル様……」
胸が締め付けられそうになりながら、アンジュはセシルの名を呼んだ。
「……ンジュ……」
しわがれた声を発しながら、セシルはその身をベッドから起こそうとする。
セシルの治療に当たっていた者たちは、今まで誰にも反応しなかったのに、と、驚いた。
セシルは視力をほとんど失っている。
かすかに聞こえた懐かしい人の声に反応し手を伸ばしながらその人の姿を求めた。
「セシル様、私です」
アンジュはベッドのそばに駆け寄りセシルの手を取った。
「アンジュなの……」
「セシル様……」
この様変わりしたセシルにどういう言葉をかければいいのだろうか?
アンジュは言葉がみつからない。
「ご……、めんなさい、アンジュ……。私がリアムに……、パーティについてきてと頼んだから……、あんなことに……」
セシルは涙を流した。
セシルが地下牢で体験したことは筆舌に尽くしがたいものだったろう。
助け出された彼女はもはや何を聞いても見ても無反応で、魂は死んだも同然の状態であった。
その彼女が、明確にその意志を示し涙を流したことに、今まで治療に当たっていた者たちはさらに驚く。
「セシル様……」
アンジュはセシルを抱きしめた。
彼女自身どれほどひどい目にあって来たのか。
それなのに私にまずそのことを伝えるために……。
彼女を性悪などと言ったのは誰だったか?
他ならぬ王太子らである。
自分のことよりまずアンジュに弟リアムのことを伝えて謝るセシル。
そういう娘なのだ。
自分がどんな状況に陥っても他者を慮ることを辞めない。
そんな彼女に対してよくそんなことが言えたものだ!
そして、よくあんな残酷なことができたものだ!
アンジュは改めて強い怒りを王太子ら一派に感じる。
「帰りたい……、卒業パーティ以前の頃に帰りたい……」
セシルはアンジュの胸の中で泣きながら言った。
オリビアやタロンティーレ、そして部屋にいた者たちはもらい泣きをする。
国王やベンソン伯爵もいたたまれない思いをするのであった。
◇ ◇ ◇
「馬鹿者! 何が替え玉だ!」
おり言って話があるというから耳を傾けたが……。
国王は息子のオースティンの話を聞いて激怒した。
「しかし、父上。要は諸外国の目をごまかせればいいのでしょう。ジェイドだって実母が処刑されたとなっては将来的に……」
「そのジェイドが大事ならば、リジェンナのことはあきらめろ」
先ほどまでセシルと肉親や友人たちの面会を目にしていた国王は、この期に及んで自分がしでかしたことの意味を全く理解していない様子の息子にいら立つ。
「どういう意味ですか?」
「ジェイドは世継ぎから外し里子に出す。もう王家の人間ではない。そなたもそう心得よ」
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