上 下
52 / 78
第7章 回帰前3(リジェンナ処刑まで)

第52話 処刑宣告

しおりを挟む
「「「「裁判!」」」」

 会場にいた何名かが驚きの声を上げた。

「殺人罪は裁判にかけて裁くのが法に基づく措置でしょう」

 当然のようにアンジュは述べた。

「ここは、その……、そういうことを決める場ではなく……、まずは諸悪の根源であるリジェンナの処遇を……」

 国王が言いにくそうに言葉を濁した。

 全くどうして思うように話が進まないのだ。
 どいつもこいつも明後日の方向に話を持っていこうとして……。

 卒業パーティの件は全部リジェンナの魅了のせいということでおさめて幕引きにしたい国王は心の中でぼやいた。

「確かにリジェンナ王太子妃の魅了によって、王太子殿下はじめ多くの学生が彼女に骨抜きにされました。しかし、それだけがすべてでしょうか? 例えば、セシル様を地下牢に収監させたこと、それを言い出したのは誰なのか? そう言ったことをはっきりさせずにすべてをリジェンナのせいにするのは無理があります」

 アンジュは国王に向かって反論した。

「ふむ、この女伯爵の言うとおりじゃ。魅了にかかると言っても、言いなりになって残虐行為に手を貸すかどうかは、かつての悪魔ティフラーの時でも個人差があったようじゃ。他人の命を奪ったり、地下牢に連行したことをすべて魅了だけに責任転嫁するのはお門違いというもんじゃろう」

 議長のタロンティーレがアンジュの言葉に同意の言葉を国王に告げた。

「ぐっ……、ではどうすればいいと……」

「ダンゼルの逮捕及び牢への収監を直ちに」

 アンジュは答えた。

「あの、収監する牢はもちろん地下牢ですわよね」

 アンジュの言葉にオリビアがサラッと付け加える。

「なんだと!」

 ダンゼルの父ブレイズ騎士団長が立ち上がった。

「だって、ダンゼルたちのやり方によれば、罪を犯したと疑惑を持たれる者はたいした証拠がなくても地下牢に収監するのが正しいのでしょう。その理論でセシルを地下牢に収監しておいて、自分はそうされないっておかしいと思いません事?」

「ふざけるな! そんなところに放りこんでで息子が不具にでもなったらどうしてくれるのだ! 一時で済む話ではないぞ!」

「それをセシルにした方々が言うことですか?」

 ブレイズ卿は返す言葉がなかった。

 オリビアの言葉に反応した魔道具の向こうの周辺諸国は、その通りだ、と、大いにはやし立てた。

『地下牢!』
『地下牢!』
『早く地下牢に連行していけよ!』

 ダンゼルを地下牢に連れていくことを求める声が魔道具の向こうから聞こえてくるのを聞いて、ブレイズ卿は冷や汗が止まらなかった。

「待て! 地下牢はもう廃止することになったのだ! だからこれ以上罪人を収監することはない!」

 その雰囲気を破るように国王は断言した。

「初耳ですな」

 デュシオン大公が言う。

「セシル嬢に対しては今さらだが、二度とこのような悲劇を起こさないためにも側近との間では話し合っていたことだ。今まで保守派の連中が廃止に難色を示していたが、こういうことも起きる危険性がはっきりしたのだ。そう思わぬか、ブレイズ騎士団長」

 保守派貴族のよりどころの一人でもあるブレイズ騎士団長に国王は話しかける。

「う、うむ、そうですな……」

 保守派の意を受け今までさんざん廃止に反対していたブレイズ卿がうなずく。

「他人の娘を理不尽に放り込む前に決断していただきたかったものですなあ」
 
 マールベロー公爵がつぶやいた。

 後にも先にも、これが唯一、彼が娘の受けた仕打ちに対して示した怒りの表現であった。

「ほんと、ずいぶんとムシのいい話ですわね。ご自分の息子さんが放り込まれる危険性があるや否や廃止に賛成なんて」

 もはやユーディット国民ではないオリビアが当てこすりを言う。

 ダンゼルの話はここまでで、リジェンナの処遇に議題は移る。

 これについてはたいしてもめることもなく、王太子妃の称号はく奪、そして処刑があっさり決まったのだった。


 ◇ ◇ ◇


 リジェンナの現在の処遇についてはオリビアなどが聞いたら、なぜ地下牢ではないのか、と、言いそうだが、一応貴族牢で丁重に扱われていた。

 しかし、リジェンナにとってはこれまでとはうって変わった冷遇に憤懣やるかたない思いであった。

 苛立ちを示すために調度品を投げつけて壊したり、出ている食事の粗末さに文句を言ってぶちまけたりしても、使用人たちは何も言わず淡々と片付けるだけである。

 仕方がないのでやり方を変え、甘ったるい声で話しかけてみるが、どいつもこいつも反応がない。

 よく見ると先日国王や王太子らが身に着けていた腕輪を装着していた。

 一度腕輪をつけていない新人っぽい使用人に声をかけると嬉しそうな反応をしたが、すぐに古参の女官がやってきて、
「ここはいいから、あなたはあっちを片付けて」
 と、リジェンナからその使用人を引き離した。

 その者はリジェンナの王太子妃としての教育も請け負っていた女官長だった。

 泣き落としのきかないかたくなな女官長であったので、王太子に泣きついて教育係から外してもらっていた。

「クビになったと思っていたのに、なんでまたしゃしゃり出てきているのよ」

 リジェンナは悔しそうに爪を噛む。

 そんな日常を数日過ごしたある日の午後、国王が側近の伯爵や名だたる帰属を引き連れて、リジェンナのいる部屋を訪れた。

「義父上さまぁぁぁ!」

 リジェンナは甘えた声を出し国王にすがりつこうとしたが、衛兵が数名前に出てそれを阻んだ。

「魅了の魔女リジェンナ、禁忌の隷属の術を駆使して無実のセシル嬢に冤罪をかぶせ、王太子殿下らに地下牢への連行を促した罪で王太子妃の称号をはく奪し処刑する。刑の執行は三日後。以上である」

 魔法省の大臣が代表して文章を読み上げる。

「はあ? 何言ってるの、処刑? そんなことされる言われはないわ」

 寝耳に水の宣告にリジェンナは思わず素の姿をさらけ出しながら反論する。
 しかし、誰もそれに反応することもなく、事務的にそれを伝えるとすぐに部屋の扉を閉じ去っていった。

「ちょっと待ってよ! どういうことなの? 私は国母なのよ! オースティンはどうしたの!」

 彼女の夫であるオースティン王太子はその集まりに同行してはいなかった。

「オースティンに会わせて! ちょっとっ!」

 リジェンナは扉をバンバンと何度もたたいたがそれに対する反応は帰ってこなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...