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第7章 回帰前3(リジェンナ処刑まで)

第52話 処刑宣告

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「「「「裁判!」」」」

 会場にいた何名かが驚きの声を上げた。

「殺人罪は裁判にかけて裁くのが法に基づく措置でしょう」

 当然のようにアンジュは述べた。

「ここは、その……、そういうことを決める場ではなく……、まずは諸悪の根源であるリジェンナの処遇を……」

 国王が言いにくそうに言葉を濁した。

 全くどうして思うように話が進まないのだ。
 どいつもこいつも明後日の方向に話を持っていこうとして……。

 卒業パーティの件は全部リジェンナの魅了のせいということでおさめて幕引きにしたい国王は心の中でぼやいた。

「確かにリジェンナ王太子妃の魅了によって、王太子殿下はじめ多くの学生が彼女に骨抜きにされました。しかし、それだけがすべてでしょうか? 例えば、セシル様を地下牢に収監させたこと、それを言い出したのは誰なのか? そう言ったことをはっきりさせずにすべてをリジェンナのせいにするのは無理があります」

 アンジュは国王に向かって反論した。

「ふむ、この女伯爵の言うとおりじゃ。魅了にかかると言っても、言いなりになって残虐行為に手を貸すかどうかは、かつての悪魔ティフラーの時でも個人差があったようじゃ。他人の命を奪ったり、地下牢に連行したことをすべて魅了だけに責任転嫁するのはお門違いというもんじゃろう」

 議長のタロンティーレがアンジュの言葉に同意の言葉を国王に告げた。

「ぐっ……、ではどうすればいいと……」

「ダンゼルの逮捕及び牢への収監を直ちに」

 アンジュは答えた。

「あの、収監する牢はもちろん地下牢ですわよね」

 アンジュの言葉にオリビアがサラッと付け加える。

「なんだと!」

 ダンゼルの父ブレイズ騎士団長が立ち上がった。

「だって、ダンゼルたちのやり方によれば、罪を犯したと疑惑を持たれる者はたいした証拠がなくても地下牢に収監するのが正しいのでしょう。その理論でセシルを地下牢に収監しておいて、自分はそうされないっておかしいと思いません事?」

「ふざけるな! そんなところに放りこんでで息子が不具にでもなったらどうしてくれるのだ! 一時で済む話ではないぞ!」

「それをセシルにした方々が言うことですか?」

 ブレイズ卿は返す言葉がなかった。

 オリビアの言葉に反応した魔道具の向こうの周辺諸国は、その通りだ、と、大いにはやし立てた。

『地下牢!』
『地下牢!』
『早く地下牢に連行していけよ!』

 ダンゼルを地下牢に連れていくことを求める声が魔道具の向こうから聞こえてくるのを聞いて、ブレイズ卿は冷や汗が止まらなかった。

「待て! 地下牢はもう廃止することになったのだ! だからこれ以上罪人を収監することはない!」

 その雰囲気を破るように国王は断言した。

「初耳ですな」

 デュシオン大公が言う。

「セシル嬢に対しては今さらだが、二度とこのような悲劇を起こさないためにも側近との間では話し合っていたことだ。今まで保守派の連中が廃止に難色を示していたが、こういうことも起きる危険性がはっきりしたのだ。そう思わぬか、ブレイズ騎士団長」

 保守派貴族のよりどころの一人でもあるブレイズ騎士団長に国王は話しかける。

「う、うむ、そうですな……」

 保守派の意を受け今までさんざん廃止に反対していたブレイズ卿がうなずく。

「他人の娘を理不尽に放り込む前に決断していただきたかったものですなあ」
 
 マールベロー公爵がつぶやいた。

 後にも先にも、これが唯一、彼が娘の受けた仕打ちに対して示した怒りの表現であった。

「ほんと、ずいぶんとムシのいい話ですわね。ご自分の息子さんが放り込まれる危険性があるや否や廃止に賛成なんて」

 もはやユーディット国民ではないオリビアが当てこすりを言う。

 ダンゼルの話はここまでで、リジェンナの処遇に議題は移る。

 これについてはたいしてもめることもなく、王太子妃の称号はく奪、そして処刑があっさり決まったのだった。


 ◇ ◇ ◇


 リジェンナの現在の処遇についてはオリビアなどが聞いたら、なぜ地下牢ではないのか、と、言いそうだが、一応貴族牢で丁重に扱われていた。

 しかし、リジェンナにとってはこれまでとはうって変わった冷遇に憤懣やるかたない思いであった。

 苛立ちを示すために調度品を投げつけて壊したり、出ている食事の粗末さに文句を言ってぶちまけたりしても、使用人たちは何も言わず淡々と片付けるだけである。

 仕方がないのでやり方を変え、甘ったるい声で話しかけてみるが、どいつもこいつも反応がない。

 よく見ると先日国王や王太子らが身に着けていた腕輪を装着していた。

 一度腕輪をつけていない新人っぽい使用人に声をかけると嬉しそうな反応をしたが、すぐに古参の女官がやってきて、
「ここはいいから、あなたはあっちを片付けて」
 と、リジェンナからその使用人を引き離した。

 その者はリジェンナの王太子妃としての教育も請け負っていた女官長だった。

 泣き落としのきかないかたくなな女官長であったので、王太子に泣きついて教育係から外してもらっていた。

「クビになったと思っていたのに、なんでまたしゃしゃり出てきているのよ」

 リジェンナは悔しそうに爪を噛む。

 そんな日常を数日過ごしたある日の午後、国王が側近の伯爵や名だたる帰属を引き連れて、リジェンナのいる部屋を訪れた。

「義父上さまぁぁぁ!」

 リジェンナは甘えた声を出し国王にすがりつこうとしたが、衛兵が数名前に出てそれを阻んだ。

「魅了の魔女リジェンナ、禁忌の隷属の術を駆使して無実のセシル嬢に冤罪をかぶせ、王太子殿下らに地下牢への連行を促した罪で王太子妃の称号をはく奪し処刑する。刑の執行は三日後。以上である」

 魔法省の大臣が代表して文章を読み上げる。

「はあ? 何言ってるの、処刑? そんなことされる言われはないわ」

 寝耳に水の宣告にリジェンナは思わず素の姿をさらけ出しながら反論する。
 しかし、誰もそれに反応することもなく、事務的にそれを伝えるとすぐに部屋の扉を閉じ去っていった。

「ちょっと待ってよ! どういうことなの? 私は国母なのよ! オースティンはどうしたの!」

 彼女の夫であるオースティン王太子はその集まりに同行してはいなかった。

「オースティンに会わせて! ちょっとっ!」

 リジェンナは扉をバンバンと何度もたたいたがそれに対する反応は帰ってこなかった。
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