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第7章 回帰前3(リジェンナ処刑まで)
第51話 決闘
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「はあっ、決闘っ!」
驚きとも嘲りともとれる反応をダンゼルはする。
「このような侮辱、本来なら受けた本人が晴らすのが筋ですが、あいにく故人ゆえ、跡目をついた私が行うべきでしょう。ご心配なく、こう見えても剣のたしなみならございます」
アンジュ・ジェラルディが答える。
「女の剣のたしなみとやらを騎士の技量と同列に語るとは、ずいぶんと見くびられたものだ。それともただの世間知らずか?」
「どちらでもございません。私はセシル様が王宮に入った暁には侍女としてついて参る予定でしたので、主君を護るための最低限の剣技は身に着けています。騎士のことについても弟にいろいろ聞いていました」
アンジュは毅然と答えた。
「おい、アンジュ君……」
隣に座っていたマールベロー公爵が困惑したように声をかけた。
「女相手に本気を出せるわけないだろう……」
ダンゼルはこれ見よがしにつぶやいて見せた。
「あら、卒業パーティを目撃した方々の話では、あなたは女性のセシル様に向かって明確な殺意を持って火炎魔法を放ったではありませんか。かばって死んだリアムの遺体はそう解釈しなければおかしい状態でした」
「なっ!」
アンジュの指摘に会議場や魔道具の向こうがまた騒然となった。
『女性に対して本気の火炎魔法とはね』
『魔法使いとしても、騎士としてもクズなんじゃないのか』
あちこちから非難がましい声を浴びせられ、ダンゼルは身を震わせていた。
そして気づいた。
アンジュの決闘の申し込みは受けようと拒もうとどちらでも自分に損になることを。
拒めば決闘の申し込みを逃げた臆病者扱いされるだろうし、受ければおそらく勝つだろうが、女性相手に勝ったところで自慢にもならない。
「この……」
次に打ち手を考えあぐね、ダンゼルはアンジュをにらみつけた。
「すいません、よろしいですか?」
そんな中、今度はライアン・リッヒベルク辺境伯が発言する。
「ダンゼル殿は女性相手では本気を出せないとおっしゃっておられました。では、私がジェラルディ伯の代理人として出てもよろしいでしょうか。女性が己の名誉をかけて決闘を申し込む場合、男性の代理人を立てて決闘に臨むのははよくあることです」
いきなりのライアンの申し出にはアンジュ本人も驚いた。
「いえ、辺境伯様のお手を煩わせることは……」
「私がそう望むのです。さきほどダンゼル殿は先輩のリアム騎士とセシル嬢の関係に下種な解釈をまぜこみました。騎士が命を懸けて守るべきものを守り、守られる方もその者に絶大な信頼を寄せる、その関係性を侮辱することは騎士全体への侮辱でもあります」
「ライアン様……」
二人の若者が立ち上がった状態でにらみ合ってるのを、ダンゼルの父、騎士団長が割って入る。
「待て! そのような決闘認めぬぞ。そもそも今日の話し合いは魅了能力を悪用したリジェンナ・ブレイの処遇について、まず議論する場なのだ!」
「父上、リジーは王太子妃ですぞ。旧姓でしかも呼び捨てなど無礼にも……」
ダンゼルの指摘を国王が、かまわぬ、と、いなした。
それはリジェンナの地位について国王がどういう見解を持っているかを表してもいる。
「今この場にてふさわしくない話題というなら、とりあえずは引きます。後で騎士団長の名においておぜん立てをしていただけるということでよろしいですね」
リッヒベルク辺境伯はブレイズ騎士団長に確認を取る。
「いや、待て! そのような!」
「ああ、それからこの決闘は騎士としての名目で行われるものなので剣のみで。火炎魔法の使用は禁じられますから。わかってらっしゃるとは思いますが、婦女子に手加減なしの火炎魔法で人を死に至らしめるような方ですので、念のため」
父の騎士団長はまずいと思っていた。
辺境伯と命の取り合いなど、息子が勝つ可能性は五分五分。
いや、普段、火炎魔法に頼り切っている息子の剣は、普通より少し良い程度。
五分五分というのは火炎魔法での威嚇を入れればの話だろう。
そして万が一勝てたとしても、辺境伯を手にかけてタダでは済まない。
「それにしても驚きました。騎士団長のご子息ともあろう方が、騎士の本分を理解せずこのような邪な解釈。そちらの教育方針に口出しするつもりはございませんが、父の背中を見て育つという風にはなってないのでしょうか。私も息子を持つ身として考えさせられるところがあります」
「他人の悪口というのは自分を映す鏡というからの。自分が誰かに邪心を持っているから、他人のこともそう解釈するのかもしれぬな」
今度はタロンティーレが口をはさんだ。
「とにかく、ダンゼルは会議での無礼な発言や態度もありますし、謹慎させます。それでどうかジェラルディ伯爵も辺境伯もお引きください」
盛大にため息つきたい思いをこらえて父のブレイズ騎士団長が二人をなだめた。
「ああ、火炎魔法を人に向け死傷させたものは魔道協会から除名処分となる決まりじゃ。卒業パーティでの件については正確な報告が上がってこなかったようじゃな。いまだに隠ぺいしていたことがボロボロと明るみになるとは」
アンジュをなだめるためか、それとも世界中を納得させるためか、さらにタロンティーレが話を続ける。
騎士団長の命令でダンゼルが衛兵隊に連れていかれたところで、会議室に入る面々は一息ついた。
しかしそれもつかの間、アンジュがさらに要望を述べる。
「決闘の話はご当人と騎士団長が先ほどの暴言について謝罪と訂正を行ってくだされば引きましょう。しかし、卒業パーティでの件は別です。明確な殺意を持ってダンゼル・ブレイズが火炎魔法を放ったのは明白。彼を殺人罪で逮捕及び裁判にかけることをジェラルディ伯爵として要求いたします!」
驚きとも嘲りともとれる反応をダンゼルはする。
「このような侮辱、本来なら受けた本人が晴らすのが筋ですが、あいにく故人ゆえ、跡目をついた私が行うべきでしょう。ご心配なく、こう見えても剣のたしなみならございます」
アンジュ・ジェラルディが答える。
「女の剣のたしなみとやらを騎士の技量と同列に語るとは、ずいぶんと見くびられたものだ。それともただの世間知らずか?」
「どちらでもございません。私はセシル様が王宮に入った暁には侍女としてついて参る予定でしたので、主君を護るための最低限の剣技は身に着けています。騎士のことについても弟にいろいろ聞いていました」
アンジュは毅然と答えた。
「おい、アンジュ君……」
隣に座っていたマールベロー公爵が困惑したように声をかけた。
「女相手に本気を出せるわけないだろう……」
ダンゼルはこれ見よがしにつぶやいて見せた。
「あら、卒業パーティを目撃した方々の話では、あなたは女性のセシル様に向かって明確な殺意を持って火炎魔法を放ったではありませんか。かばって死んだリアムの遺体はそう解釈しなければおかしい状態でした」
「なっ!」
アンジュの指摘に会議場や魔道具の向こうがまた騒然となった。
『女性に対して本気の火炎魔法とはね』
『魔法使いとしても、騎士としてもクズなんじゃないのか』
あちこちから非難がましい声を浴びせられ、ダンゼルは身を震わせていた。
そして気づいた。
アンジュの決闘の申し込みは受けようと拒もうとどちらでも自分に損になることを。
拒めば決闘の申し込みを逃げた臆病者扱いされるだろうし、受ければおそらく勝つだろうが、女性相手に勝ったところで自慢にもならない。
「この……」
次に打ち手を考えあぐね、ダンゼルはアンジュをにらみつけた。
「すいません、よろしいですか?」
そんな中、今度はライアン・リッヒベルク辺境伯が発言する。
「ダンゼル殿は女性相手では本気を出せないとおっしゃっておられました。では、私がジェラルディ伯の代理人として出てもよろしいでしょうか。女性が己の名誉をかけて決闘を申し込む場合、男性の代理人を立てて決闘に臨むのははよくあることです」
いきなりのライアンの申し出にはアンジュ本人も驚いた。
「いえ、辺境伯様のお手を煩わせることは……」
「私がそう望むのです。さきほどダンゼル殿は先輩のリアム騎士とセシル嬢の関係に下種な解釈をまぜこみました。騎士が命を懸けて守るべきものを守り、守られる方もその者に絶大な信頼を寄せる、その関係性を侮辱することは騎士全体への侮辱でもあります」
「ライアン様……」
二人の若者が立ち上がった状態でにらみ合ってるのを、ダンゼルの父、騎士団長が割って入る。
「待て! そのような決闘認めぬぞ。そもそも今日の話し合いは魅了能力を悪用したリジェンナ・ブレイの処遇について、まず議論する場なのだ!」
「父上、リジーは王太子妃ですぞ。旧姓でしかも呼び捨てなど無礼にも……」
ダンゼルの指摘を国王が、かまわぬ、と、いなした。
それはリジェンナの地位について国王がどういう見解を持っているかを表してもいる。
「今この場にてふさわしくない話題というなら、とりあえずは引きます。後で騎士団長の名においておぜん立てをしていただけるということでよろしいですね」
リッヒベルク辺境伯はブレイズ騎士団長に確認を取る。
「いや、待て! そのような!」
「ああ、それからこの決闘は騎士としての名目で行われるものなので剣のみで。火炎魔法の使用は禁じられますから。わかってらっしゃるとは思いますが、婦女子に手加減なしの火炎魔法で人を死に至らしめるような方ですので、念のため」
父の騎士団長はまずいと思っていた。
辺境伯と命の取り合いなど、息子が勝つ可能性は五分五分。
いや、普段、火炎魔法に頼り切っている息子の剣は、普通より少し良い程度。
五分五分というのは火炎魔法での威嚇を入れればの話だろう。
そして万が一勝てたとしても、辺境伯を手にかけてタダでは済まない。
「それにしても驚きました。騎士団長のご子息ともあろう方が、騎士の本分を理解せずこのような邪な解釈。そちらの教育方針に口出しするつもりはございませんが、父の背中を見て育つという風にはなってないのでしょうか。私も息子を持つ身として考えさせられるところがあります」
「他人の悪口というのは自分を映す鏡というからの。自分が誰かに邪心を持っているから、他人のこともそう解釈するのかもしれぬな」
今度はタロンティーレが口をはさんだ。
「とにかく、ダンゼルは会議での無礼な発言や態度もありますし、謹慎させます。それでどうかジェラルディ伯爵も辺境伯もお引きください」
盛大にため息つきたい思いをこらえて父のブレイズ騎士団長が二人をなだめた。
「ああ、火炎魔法を人に向け死傷させたものは魔道協会から除名処分となる決まりじゃ。卒業パーティでの件については正確な報告が上がってこなかったようじゃな。いまだに隠ぺいしていたことがボロボロと明るみになるとは」
アンジュをなだめるためか、それとも世界中を納得させるためか、さらにタロンティーレが話を続ける。
騎士団長の命令でダンゼルが衛兵隊に連れていかれたところで、会議室に入る面々は一息ついた。
しかしそれもつかの間、アンジュがさらに要望を述べる。
「決闘の話はご当人と騎士団長が先ほどの暴言について謝罪と訂正を行ってくだされば引きましょう。しかし、卒業パーティでの件は別です。明確な殺意を持ってダンゼル・ブレイズが火炎魔法を放ったのは明白。彼を殺人罪で逮捕及び裁判にかけることをジェラルディ伯爵として要求いたします!」
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