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第7章 回帰前3(リジェンナ処刑まで)
第48話 父と子のいさかい
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「なあ、ラークよ。わしが亡きあとあいつはうまくやっていけると思うか?」
ラークとはベンソン伯爵の名前である。
納得していない表情で王太子が国王の部屋を出た後、国王はそばにいた側近に聞いた。
「そうですな。少々自分の都合のいいように物事を見るきらいがあるのでしょう。それゆえに魅了女の虚言に引っかかりセシル嬢のような悲劇を招いたとも……」
「それすら分かっておらぬようだ。いまだにあの女の命乞いなど!」
「魔道協会会長によると、魅了に惑わされたと言っても、私たちのように接触する機会が少なかった者は、それを防ぐ魔道具で危険性に気づき遠ざけることもできます。しかし、すでに溺れてしまった者は中毒症状のようになってしまうと」
「本当にそれだけであろうか?」
「魅了による中毒症状はアルコールやニコチンのそれとよく似ていて、悪いと理解した後も、抜け出すのが難しいとの話ですので……」
「ならばなおのこと、物理的に二度と接することのできない状態にせねばならぬな。周辺国の不信感を払しょくするためにも」
「それが国として合理的な判断であろうことは、リジェンナがいなくなれば王太子殿下も理解することでしょう」
「だと、いいのだがな……」
◇ ◇ ◇
リジェンナは事態が呑み込めずいらだっていた。
数日前、義父の国王や夫の王太子らが連れ立って部屋にやってきたと思ったら、急に顔色を変えて、すぐに部屋を出て言った。
その前に皆がお揃いの腕輪をはめ、それを見ていたのを覚えている。
それから数時間後、衛兵がやってきて、国王の命で同行願いたいというから、着いていった
てっきり、ジェイドのお披露目の話かと思った。
それにそぐわない渋い表情をした連中だな、と、リジェンナは感じたがそれは口に出さなかった。
連れていかれたのは王太子妃にはそぐわない狭くて質素な部屋。
鍵は外からしかかけられず、外出も誰かに連絡を取ることも許されていない。
一応、食事は提供されるし、体をふいてくれる女官も時間になると来てくれるが、皆一様に愛想が悪く、笑顔も見せず淡々と仕事そして去ってゆくだけだ。
もちろん、何度も夫のオースティン王太子を呼んでくれと頼んでいるが、それも聞き入れられていない。
「これが国母に対する仕打ちなの?」
リジェンナはいらいらと部屋の中をうろつきまわった。
「早く来て、オースティン……」
リジェンナは救いの手を待つしかできることはなかった。
◇ ◇ ◇
騎士団長ブレイズは頭を抱えていた。
二年前、セシル嬢の罪を問い婚約破棄をし新たに男爵令嬢が婚約者となったいきさつは、息子であるダンゼルの口からしか聞いていなかった。
しかし、魔道協会会長の後押しを得て明るみにされた事実を知ったとき、ブレイズ卿は青くなりダンゼルを詰問した。
「そなた、ジェラルディが死んだのは事故だと言っておったな! 小競り合いが起こった後、威嚇のつもりで放ったのをまともに食らったと。しかしオリビア嬢および他の者の証言では、セシル嬢に向かって放ったというではないか!」
しかし、ダンゼルはぬけぬけと、そのようなことをされても仕方のないことをセシルはした、と、言い放った。
「馬鹿者! その罪科も冤罪であったことが明らかにされたではないか! そんないい加減な理由で、婦女子に対して明確な殺意を持って火炎魔法を放つとは言語道断! 騎士の面汚しめ!」
だが、ダンゼルはセシルをとらえて罰を受けさせる事こそ、王太子の意志だと反論した。
「王太子殿下が愚かな行動に出ようとするならいさめるのが臣下の道だ! それをせず一緒になって、このような残虐な愚行。そもそも、お前はセシル嬢が地下牢に収監されていたことも私には言わなかったな! その決定に後ろめたいところがあったからではないのか!」
ダンゼルは父の言葉への反論に窮しても、目だけは反抗の光を失わなかった。
その様子を見て、しばらく家に閉じ込めて謹慎でもさせた方がよいかも、と、ブレイズ卿が考えていた矢先、それもかなわぬ事態が起きた。
ダンゼルが手にかけたリアム・ジェラルディの姉、アンジュ・ジェラルディ伯爵が会議への出席を希望し、国王がそれを許可したという。
そうなると、実行犯であるダンゼルを連れて行かないわけにはいかない。
魔道具を通じて他国へも公開されるという会議。
その場でダンゼルが何を言い出すのか予想もつかない。
今日も今日とて、リジェンナの処刑はおそらく不可避であることをダンゼルに告げると、激怒しこう言い放った。
「断行するならしてみればいいのですよ。実際にそれをする根性もないくせに、口だけで我が国を脅しにかかる勢力に屈してどうするのです。何のために国を守る騎士団がいると思っているのです!」
全くわかってない。
ブレイズ卿は再び頭を抱えた。
たしかに『断交』を口にし、すぐそれを実行する国などまれだ。
しかしその前段階として、今までは互いに国境を自由に行き来できたところに検問をもうけたり、安く抑えている関税をあげたり、両国間の間が良好な時には互いに便宜を図っていたものがそうではなくなる。
そうなれば、まっさきに影響を受けるのは一般の国民だ。
王家の失態のせいで国民生活が圧迫されるようになったとしたら、王家の求心力は一気に衰える。
「ただ、突っぱねればよいというものではないのだ……」
そして『国を守る』といっても、国=リジェンナ王太子妃ではない。
リジェンナ王太子妃は、ダンゼルにとっては思いを寄せる高貴な女性であっても、他国にとっては非人道的な人間兵器のようなもので、王家にとってはもはやお荷物でしかない。
父であるブレイズ卿にとっては、息子の失言を恐れながらの気疲れする会議になりそうである。
ラークとはベンソン伯爵の名前である。
納得していない表情で王太子が国王の部屋を出た後、国王はそばにいた側近に聞いた。
「そうですな。少々自分の都合のいいように物事を見るきらいがあるのでしょう。それゆえに魅了女の虚言に引っかかりセシル嬢のような悲劇を招いたとも……」
「それすら分かっておらぬようだ。いまだにあの女の命乞いなど!」
「魔道協会会長によると、魅了に惑わされたと言っても、私たちのように接触する機会が少なかった者は、それを防ぐ魔道具で危険性に気づき遠ざけることもできます。しかし、すでに溺れてしまった者は中毒症状のようになってしまうと」
「本当にそれだけであろうか?」
「魅了による中毒症状はアルコールやニコチンのそれとよく似ていて、悪いと理解した後も、抜け出すのが難しいとの話ですので……」
「ならばなおのこと、物理的に二度と接することのできない状態にせねばならぬな。周辺国の不信感を払しょくするためにも」
「それが国として合理的な判断であろうことは、リジェンナがいなくなれば王太子殿下も理解することでしょう」
「だと、いいのだがな……」
◇ ◇ ◇
リジェンナは事態が呑み込めずいらだっていた。
数日前、義父の国王や夫の王太子らが連れ立って部屋にやってきたと思ったら、急に顔色を変えて、すぐに部屋を出て言った。
その前に皆がお揃いの腕輪をはめ、それを見ていたのを覚えている。
それから数時間後、衛兵がやってきて、国王の命で同行願いたいというから、着いていった
てっきり、ジェイドのお披露目の話かと思った。
それにそぐわない渋い表情をした連中だな、と、リジェンナは感じたがそれは口に出さなかった。
連れていかれたのは王太子妃にはそぐわない狭くて質素な部屋。
鍵は外からしかかけられず、外出も誰かに連絡を取ることも許されていない。
一応、食事は提供されるし、体をふいてくれる女官も時間になると来てくれるが、皆一様に愛想が悪く、笑顔も見せず淡々と仕事そして去ってゆくだけだ。
もちろん、何度も夫のオースティン王太子を呼んでくれと頼んでいるが、それも聞き入れられていない。
「これが国母に対する仕打ちなの?」
リジェンナはいらいらと部屋の中をうろつきまわった。
「早く来て、オースティン……」
リジェンナは救いの手を待つしかできることはなかった。
◇ ◇ ◇
騎士団長ブレイズは頭を抱えていた。
二年前、セシル嬢の罪を問い婚約破棄をし新たに男爵令嬢が婚約者となったいきさつは、息子であるダンゼルの口からしか聞いていなかった。
しかし、魔道協会会長の後押しを得て明るみにされた事実を知ったとき、ブレイズ卿は青くなりダンゼルを詰問した。
「そなた、ジェラルディが死んだのは事故だと言っておったな! 小競り合いが起こった後、威嚇のつもりで放ったのをまともに食らったと。しかしオリビア嬢および他の者の証言では、セシル嬢に向かって放ったというではないか!」
しかし、ダンゼルはぬけぬけと、そのようなことをされても仕方のないことをセシルはした、と、言い放った。
「馬鹿者! その罪科も冤罪であったことが明らかにされたではないか! そんないい加減な理由で、婦女子に対して明確な殺意を持って火炎魔法を放つとは言語道断! 騎士の面汚しめ!」
だが、ダンゼルはセシルをとらえて罰を受けさせる事こそ、王太子の意志だと反論した。
「王太子殿下が愚かな行動に出ようとするならいさめるのが臣下の道だ! それをせず一緒になって、このような残虐な愚行。そもそも、お前はセシル嬢が地下牢に収監されていたことも私には言わなかったな! その決定に後ろめたいところがあったからではないのか!」
ダンゼルは父の言葉への反論に窮しても、目だけは反抗の光を失わなかった。
その様子を見て、しばらく家に閉じ込めて謹慎でもさせた方がよいかも、と、ブレイズ卿が考えていた矢先、それもかなわぬ事態が起きた。
ダンゼルが手にかけたリアム・ジェラルディの姉、アンジュ・ジェラルディ伯爵が会議への出席を希望し、国王がそれを許可したという。
そうなると、実行犯であるダンゼルを連れて行かないわけにはいかない。
魔道具を通じて他国へも公開されるという会議。
その場でダンゼルが何を言い出すのか予想もつかない。
今日も今日とて、リジェンナの処刑はおそらく不可避であることをダンゼルに告げると、激怒しこう言い放った。
「断行するならしてみればいいのですよ。実際にそれをする根性もないくせに、口だけで我が国を脅しにかかる勢力に屈してどうするのです。何のために国を守る騎士団がいると思っているのです!」
全くわかってない。
ブレイズ卿は再び頭を抱えた。
たしかに『断交』を口にし、すぐそれを実行する国などまれだ。
しかしその前段階として、今までは互いに国境を自由に行き来できたところに検問をもうけたり、安く抑えている関税をあげたり、両国間の間が良好な時には互いに便宜を図っていたものがそうではなくなる。
そうなれば、まっさきに影響を受けるのは一般の国民だ。
王家の失態のせいで国民生活が圧迫されるようになったとしたら、王家の求心力は一気に衰える。
「ただ、突っぱねればよいというものではないのだ……」
そして『国を守る』といっても、国=リジェンナ王太子妃ではない。
リジェンナ王太子妃は、ダンゼルにとっては思いを寄せる高貴な女性であっても、他国にとっては非人道的な人間兵器のようなもので、王家にとってはもはやお荷物でしかない。
父であるブレイズ卿にとっては、息子の失言を恐れながらの気疲れする会議になりそうである。
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