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第4章 三人の夫候補(公爵の死より10日後から)
第25話 誓約書にてツンとツン
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「まあ、あなたが選ばれるとは限らないわけだしね」
考え込んでいるリアムにアンジュが声をかけた。
「わかってるよ、それくらい!」
リアムが言い返した。
その時、呼ばれたセシルが部屋に入ってきた。
「お疲れのところ申し訳ございません。リアム君と誓約書をかわしていただきたいと思いまして、ほら、彼との結婚……」
入ってきたセシルにヴォルターは恭しく頭を下げ話しかけた。。
「へっ、結婚……?」
「さきほどインシディウス家のユリウス様とも誓約書を交わしたでしょう。それをリアム様とも……」
「あ、ああ……、その話ね……」
セシルはうろたえたようにドレスの裾を引っ張りながら言った。
「セシル様も突然で驚かれたでしょう。でも、まだまだ先の話ですし、私やリアムに対しても今まで通り接していただけるとうれしいです」
セシルの緊張をほぐすためにアンジュが声をかけた。
「そうね……。でも、リアムが嫌だっていうならここで断ってくれていいのよ」
ああ、もしかして、遺言状公開の時の態度に引っかかっているのか?
アンジュやヴォルターはそう推測し顔を見合わせた。
「嫌とかそんなこと……、別に何も考えてねえよ……」
なぜそこでぶっきらぼうな返事しかできない!
アンジュは歯がゆい気持ちになった。
ヴォルターは、まだ十三歳の少年では少女の気持ちをほぐしつつ納得できるセリフは難しいだろう、と、あきらめのため息をついた
「私は公爵家の娘として、お父様がおっしゃった相手なら誰とでも結婚する覚悟はできているから、別にいいんだけどね……」
セシルは明後日の方を向きながら答えた。
そう、セシルには幼い時から山のように縁談の話が来ていた。
王太子との婚約もパズルのピースを埋め込むように、セシル自身の意志には関係なく話を進められ、彼女はそれを受け入れてなおかつその立場にふさわしい存在になるように教育を受けさせられるだけ。
それを当たり前だと思い込まされていた。
それに対し、リアムも名家の嫡男ではあるが、公爵家に姉とともに厄介になっている身でそのような話を寄せられたことは、とんとない。
ようするに婚約話が出た時に大人しく自分の気持ちを示さず黙って聞いているという『作法』を彼は身につけていなかった。
リアムにとっては単に驚きの表現だったのだが、『作法』を分かっているセシルにとってはそれが『嫌悪』や『拒絶』の方にも見えたのだろう。
「リアム君は驚いただけですよ。セシル様にしても少し戸惑っていらっしゃるだけで……」
「ふ~ん、やっぱり王太子妃になりたかったのか?」
ヴォルターがなだめる間もなくリアムがド直球の質問を投げかけた。
「なりないなんて思ってないわよ!」
「残念だったのか?」
「残念じゃないわよっ!」
まあまあ、と、ヴォルターが二人の言い合いをなだめようとする。
「リアム、いい加減にしなさい!」
アンジュがリアムをたしなめた。
「まあまあ、アンジュさん」
ふたたびヴォルターがなだめる。
「この部屋に呼ばれたのは誓約書に署名をするためでしょ。ヴォルターさんだって暇じゃないんだからいつまでも……」
「もう少しゆっくり考えたいとリアム君が思っているなら後でもかまいませんが?」
アンジュの言葉を遮ってヴォルターがリアムの意志を確かめる。
「いいよ、書くよ。今まで通りでいいんだったら別に困ることもないし……」
リアムが答えた。
「私も書くわよ……。他の人との誓約書にも書いたわけだし、別にリアムの書類だけ特別なわけじゃない……」
なぜか聞かれていないセシルもそれを受けて答えた。
リアム、セシル、アンジュの三名の署名が書かれ、誓約書は完成した。
「こちらが写しです。原本は顧問弁護士のラルワさんにあずかってもらいます」
アンジュに書類を手渡しながらヴォルターが言う。
「それからリアム君の今後のマールベロー家でのお立場ですが、何か希望はありますか?」
「今まで通り騎士の修業ができて、皆が変わりなく接してくれるならそれでいいよ」
「なるほど『今まで通り』ですね。屋敷内、特に当家の騎士団には周知徹底させますので安心してください。それから当家の婿候補となったからには、していただきたいお勉強もありますので、その際にはよろしくお願いいたします。できるだけ騎士の訓練に支障がないよう計らいますので」
「はい……」
ヴォルターの満面の笑顔にあてられてリアムは素直にうなづくしかなかった。
「あの、訓練の途中で呼ばれたので……」
そして、用事が終わったなら、と、言うつもりでリアムが聞いた。
「はい、戻っていただいてかまいませんよ。ありがとうございました」
ヴォルターに快く促されリアムは軽く会釈をして部屋を出ていった。
「それでは私はセシル様を部屋までお送りしてきます」
アンジュもヴォルターにあいさつをしてセシルとともに部屋を出た。
三人がみな部屋を出ていくと、ヴォルターは必死にこらえていた笑いを吹き出してしまった。
「いやはや、何とも可愛らしい」
少年少女の不器用なとまどいに心が和むヴォルターだった。
セシルはアンジュと廊下を歩きながら、本当にリアムは嫌がっていないのか、我慢しているのではないのか、と、しつこくアンジュに聞いてきた。
アンジュは否定したが、セシルがなかなか納得せずアンジュは苦労するのだった。
考え込んでいるリアムにアンジュが声をかけた。
「わかってるよ、それくらい!」
リアムが言い返した。
その時、呼ばれたセシルが部屋に入ってきた。
「お疲れのところ申し訳ございません。リアム君と誓約書をかわしていただきたいと思いまして、ほら、彼との結婚……」
入ってきたセシルにヴォルターは恭しく頭を下げ話しかけた。。
「へっ、結婚……?」
「さきほどインシディウス家のユリウス様とも誓約書を交わしたでしょう。それをリアム様とも……」
「あ、ああ……、その話ね……」
セシルはうろたえたようにドレスの裾を引っ張りながら言った。
「セシル様も突然で驚かれたでしょう。でも、まだまだ先の話ですし、私やリアムに対しても今まで通り接していただけるとうれしいです」
セシルの緊張をほぐすためにアンジュが声をかけた。
「そうね……。でも、リアムが嫌だっていうならここで断ってくれていいのよ」
ああ、もしかして、遺言状公開の時の態度に引っかかっているのか?
アンジュやヴォルターはそう推測し顔を見合わせた。
「嫌とかそんなこと……、別に何も考えてねえよ……」
なぜそこでぶっきらぼうな返事しかできない!
アンジュは歯がゆい気持ちになった。
ヴォルターは、まだ十三歳の少年では少女の気持ちをほぐしつつ納得できるセリフは難しいだろう、と、あきらめのため息をついた
「私は公爵家の娘として、お父様がおっしゃった相手なら誰とでも結婚する覚悟はできているから、別にいいんだけどね……」
セシルは明後日の方を向きながら答えた。
そう、セシルには幼い時から山のように縁談の話が来ていた。
王太子との婚約もパズルのピースを埋め込むように、セシル自身の意志には関係なく話を進められ、彼女はそれを受け入れてなおかつその立場にふさわしい存在になるように教育を受けさせられるだけ。
それを当たり前だと思い込まされていた。
それに対し、リアムも名家の嫡男ではあるが、公爵家に姉とともに厄介になっている身でそのような話を寄せられたことは、とんとない。
ようするに婚約話が出た時に大人しく自分の気持ちを示さず黙って聞いているという『作法』を彼は身につけていなかった。
リアムにとっては単に驚きの表現だったのだが、『作法』を分かっているセシルにとってはそれが『嫌悪』や『拒絶』の方にも見えたのだろう。
「リアム君は驚いただけですよ。セシル様にしても少し戸惑っていらっしゃるだけで……」
「ふ~ん、やっぱり王太子妃になりたかったのか?」
ヴォルターがなだめる間もなくリアムがド直球の質問を投げかけた。
「なりないなんて思ってないわよ!」
「残念だったのか?」
「残念じゃないわよっ!」
まあまあ、と、ヴォルターが二人の言い合いをなだめようとする。
「リアム、いい加減にしなさい!」
アンジュがリアムをたしなめた。
「まあまあ、アンジュさん」
ふたたびヴォルターがなだめる。
「この部屋に呼ばれたのは誓約書に署名をするためでしょ。ヴォルターさんだって暇じゃないんだからいつまでも……」
「もう少しゆっくり考えたいとリアム君が思っているなら後でもかまいませんが?」
アンジュの言葉を遮ってヴォルターがリアムの意志を確かめる。
「いいよ、書くよ。今まで通りでいいんだったら別に困ることもないし……」
リアムが答えた。
「私も書くわよ……。他の人との誓約書にも書いたわけだし、別にリアムの書類だけ特別なわけじゃない……」
なぜか聞かれていないセシルもそれを受けて答えた。
リアム、セシル、アンジュの三名の署名が書かれ、誓約書は完成した。
「こちらが写しです。原本は顧問弁護士のラルワさんにあずかってもらいます」
アンジュに書類を手渡しながらヴォルターが言う。
「それからリアム君の今後のマールベロー家でのお立場ですが、何か希望はありますか?」
「今まで通り騎士の修業ができて、皆が変わりなく接してくれるならそれでいいよ」
「なるほど『今まで通り』ですね。屋敷内、特に当家の騎士団には周知徹底させますので安心してください。それから当家の婿候補となったからには、していただきたいお勉強もありますので、その際にはよろしくお願いいたします。できるだけ騎士の訓練に支障がないよう計らいますので」
「はい……」
ヴォルターの満面の笑顔にあてられてリアムは素直にうなづくしかなかった。
「あの、訓練の途中で呼ばれたので……」
そして、用事が終わったなら、と、言うつもりでリアムが聞いた。
「はい、戻っていただいてかまいませんよ。ありがとうございました」
ヴォルターに快く促されリアムは軽く会釈をして部屋を出ていった。
「それでは私はセシル様を部屋までお送りしてきます」
アンジュもヴォルターにあいさつをしてセシルとともに部屋を出た。
三人がみな部屋を出ていくと、ヴォルターは必死にこらえていた笑いを吹き出してしまった。
「いやはや、何とも可愛らしい」
少年少女の不器用なとまどいに心が和むヴォルターだった。
セシルはアンジュと廊下を歩きながら、本当にリアムは嫌がっていないのか、我慢しているのではないのか、と、しつこくアンジュに聞いてきた。
アンジュは否定したが、セシルがなかなか納得せずアンジュは苦労するのだった。
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