ペニスマン

終焉の愛終(しゅうえんのあいうぉあ)

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19.力損失

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「変身できないんだ、赤い巨人に……」
「どうして!?」

 触れた相手を幼少化させてしまう力を持った男がまた現れ、問題の解決に向かおうとした真弓は赤い巨人になれず、そのことを剣太に言う。

「分からない……、でも、一つ思い当たることがある。あの男を気絶させようと、殴るために触れた時、何か波のようなものが出たんだ……。それで、そのあとすぐに赤い巨人の状態が戻った。もしかしたらそれのせいかも」
「兄さんは幼少化しなかったのか?」
「うん、しなかった」
「仮定だけど、兄さん。兄さんが赤い巨人になれなくなったのは、力同士の衝突が起こった、からなのかもしれない」
「力同士の衝突?」

 力同士の衝突。
 そのことを剣太に言われるも、真弓は疑問符を頭に浮かべてしまう。剣太のように、真弓はそれほど頭がよくない。
 
「普通の人なら、その男に触れられれば力が発動して幼少化する。しかし、赤い巨人の力を持った兄さんがその男に触れた。だとすると、どうなると思う?」
「うーん……、僕の力と男の力がぶつかる?」
「そう、だから衝突っていったの。兄さんは以前、生命を奪う能力者と戦って、その力と接触した。だけど、兄さんは生命が吸われる感覚はしなかったが、その代わり力のエネルギーのようなものが吸われる感じがしたんだよね? それで分かるのが、赤い巨人の力は他の能力を完全に防ぐものではないということ」
「そういうことか、赤い巨人は無敵じゃない……」

 今までその赤い巨人の圧倒的な力によって、事件の解決に奔走してきたが、その力が完璧無敵ではないと、剣太は言っているのだ。
 確かに、真弓には思い当たるところがいくつかあった。
 パワーのごり押しで解決したきたから故の、無敵だという錯覚。勘違い。

「無敵じゃないとしても、他の能力に対して、ある程度の耐性が代わりに兄さんの力にはある。だから、兄さんは男に触れても、幼少化しなかったんだ。それはいい、でも今回は……」
「力同士の衝突が起きて、僕の力は何故か失った。そういうことなんだね、剣太」
「残念だけど、今の段階ではそう判断するしかない。兄さんは赤い巨人になれなくなった。とどのつまり、あの男を止めるものは消えたってことだよ」
「まだ、他にも超能力者はいる可能性があるっていうのに、あの男でさえ止められないのか、僕は……!」

 真弓が赤い巨人の力を失ったということは、この街から超常現象の脅威を防ぐものはいなくなった。
 この街は、大宮区は、たった今、現在進行形で危険にさらされている。
 その考えに、真弓が辿り着いた時、一つの提案が頭の中で湧いた。

「……僕が、男の下に行って力を取り戻す。これしか、この街を救う方法は他にない」
「兄さん、力を取り戻すっていっても、どうやって!?」
「もう一度、男に触れる」
「男に触れても、力が戻る保証はどこにもないんだよ!? それどころか、最悪の場合、兄さんが幼少化してしまう!」

 必死に頭の回転させあらゆる可能性を考えている剣太の頭を、真弓が撫でるように手を乗せた。
 何故か自分の頭に手が乗せられたことに、剣太は呆然となって黙る。

「僕が、みんなを救う。そんな高尚なことは言えない。でも、僕が行けば、状況が好転するかもしれない。そして、僕が赤い巨人の力を取り戻さなければ、今後、違う力を持った悪い人が現れた時、誰がそれを防ぐんだ。警察か? あるいは他の、自衛隊とかに任すか? それで問題が解決すればいい。だけど、警察や自衛隊、通常の力で対抗できない場合は、どうする。超常現象の脅威に対して、超常現象でしか対抗できないんだ。今までの事件でそれは分かってるだろ、剣太」
「兄さん、それは……分かってるよ、けど……」
「僕の身を案じてくれてるんだよな、剣太。ありがとう、いつも助けてくれる剣太には有難いと思ってる。心配してくれるのは嬉しいよ」
「それでも、行くんだね、兄さん……?」
「うん」

 絶対に行くという頑固な姿勢を見せ続ける真弓に観念したのか、剣太は少し笑った後、固くなっていた肩の力を抜いた。
 許してくれるのか、と真弓が思った時、真弓の前に剣太は回って両腕を横に伸ばして広げた。まるで、道を塞いでいるように。

「兄さんがどうしても行きたいってのは分かった。力を取り戻しに行くんでしょ。でも、それなら、僕は兄さんのために止めないといけない」
「剣太、ここまできて、何故止める!? 僕が行かないとだめなんだよ!」

 大声を出して、剣太に問い詰める真弓を見て、剣太は気を緩めた顔から真面目な顔に切り替えた。

「兄さんは、赤い巨人の力を持つことで、不安と恐怖を覚えていたのを弟の俺が気づかないと思ってたのか?」
「っ……だとしたら、何なんだよ。当たり前だろ、あんな強大すぎる力に不安や恐怖を覚えない方がおかしい! それにいつ暴走するかもわからないんだ!」
「兄さんが、赤い巨人になって、この街をあらゆる脅威から守るヒーローになることは、俺は悪くないと思っている。むしろ、応援したい」
「そう思ってるなら、僕が行くのを邪魔するな!」
「それはそれだよ、兄さん。兄さんが苦しんでまで、街を救う理由なんてない。応援したいと思っている俺は一民としての俺。それで、兄さんが行くのを止める俺は、一兄弟としての俺。──兄さんは、赤い巨人の力を本当に取り戻していいのか、本当はそんな力無くなって、心の底で安心してるんでしょ!」
「────」

 本当はあんな力求めていなかった。
 あの強大なパワーも、スピードも、全てが桁違いの力は愉悦感や爽快感もあって、最初は悪くないと思っていた。
 いつもは平凡過ぎる、女子と間違われるようなひ弱な自分が情けないと思っていた。
 そんな時に、赤い巨人の力を手にして、あぁ、これが自分の求めていた奇跡なんだなって思った。
 でも、力が暴走して、誰かを襲そうとしてしまって、それでマスターに迷惑をかけた。暴走に不安感を覚える自分をマスターが救ってくれた。
 それでも、またいつ起こるか分からない暴走に、不安や恐怖はずっと消えなかった。
 この力を、秘密を抱えているせいで、今の友人も、好きな相手も、力を得る以前より離れて行ってしまうんじゃないかって。
 力を得ることで、できることが増えた。その代わり……、孤独感が増えた。
 剣太が言うように、力を失ったことで安堵していた自分がいたんだ。
 もう、あの力に振り回されることが無くなって、普通の生活が送れるんだ。そう思ってしまった。
 秘密や嘘をつく日々とはおさらばで、本心から友人や好きな相手と向き合えると思ってしまった。
 ──そうだよ、このまま力を失ったままなら、どれほどいいだろう。あんな力はもういらない。街を救う理由だって、ヒーローごっこをして人を助けて気持ち良くなりたかっただけだ。それがなくなった今は、もう街を助ける理由なんてない。あぁ、でも……、街が危険に晒されれば、仲がいい友人や家族、救ってくれたマスター、あまつさえ、好きな相手も。それはダメだ。それだけは許してはいけない。あるじゃないか、街を救う理由なら。あったんだ。

「それでも、剣太、僕は行くよ。悩み抜いた結果、そう決めた。僕が行かないといけないんだよ。僕が街を救わないと、大切や友達やマスター、お前だって剣太、危なくなってしまう。それは嫌だ、だから僕が行かないと」
「それが、兄さんの選択なら、俺はもう止めないよ。あぁ、ここまできたら、やってくれ。力を取り戻して、この街を救ってきて、兄さん!」
「行ってくる、行って力を取り戻してくる! 剣太、雨宮たちをよろしく頼む!」
「それは安心して! だから、兄さん、またヒーローになってくれ!」

 走り出して、もう後ろで遠くなってしまった弟の声を聴いて、真弓は思う。
 ──ヒーロー……になれ、か。ヒーローって、何だよ、剣太……?

===

 
 駅前の広場で、サラリーマンの男がその力を使って、人々を幼少化させ、辺りには子供が続々と増えていた。
 サラリーマンの男は、たった今、主婦の体に手で触れて、その主婦を幼少化させると、にぃと笑った。

「これこそ、楽園! これこそ、私の求めていた理想郷! 子供だけの、夢が溢れかえっている場所! 夢のない大人が消え、夢のある子供が素晴らしい社会をこれから作る! あぁ、この力は素晴らしい! この幼少化させる力は!」
「──そんなに素晴らしいのか、子供だけいる社会ってのは?」
「お前は……今朝の、女」
「言っとくけど、僕は男だよ」

 真弓は正面からサラリーマンの男に対峙する。
 だが、その足は少しずつ男に近づいていた。バレないように、怪しまれないように、自然と接近していく。
 
「ねえ、僕も子供にしてよ。今も子供だけどさ、もっと世間が分からない小さい子供になって、自由に遊び回りたいんだよね」
「おぉ、やっと私の気持ちが分かったか。勿論、歓迎しよう、我が楽園に。君も、楽園の一人に加わる権利をやろう。さぁ、こちらに」
「ありがとう、じゃあよろしく」

 男の前に接近することが出来た真弓は、その目的が分からないように演技をし続ける。その瞬間までは。
 男の手が伸び、真弓に触れようとする。
 ──その瞬間とは、今の事だ!
 真弓はその手を逆に掴み、あとはひたすら願う。
 力の逆行を。

「な、何をする!?」
「子供に戻りたいなんて、やっぱ嘘。僕はこのまま歳をとって、いつか大人になる道を選ぶ! ──戻ってこい、力!」

 そして、男を接触した次の瞬間、二人を中心に無色の衝撃波が発生する。
 二人は離れるように、逆方向にそれぞれ吹き飛ばされた。
 真弓は地面をゴロゴロと転がって、膝をついて立ち上がる。

「……今のは、成功か……!? よし、今なら!」

 擦り傷だらけの真弓は、ズボンに挟んでいたエロ本を取り出し、ページを開く。
 次瞬には、白い蒸気が真弓を覆いつくす。
 消えた真弓に代わり、姿を現したのは赤い巨人だ。

「ア……ガぁ……戻ってきたか、またこの姿に」
「ま、またお前か、巨人!? 私の子供だけの楽園を壊す気か!? 誰もが純粋な子供になり、苦しい社会の凝り固まったルールに縛られ、身動きが取れなくなる人はいなくなるのだ! 自由の権利が侵害されていることに、社会は気付くべきだ! 私はその自由の権利を再建させ、本当の良い社会を作る! 作るんだー!」
「その自由の権利という奴には、拒否権はないのか、なら、それは自由なんかじゃない。その自由をお前が壊していることに気づけ、馬鹿野郎!」
「な、何だと!? 私は自由の権r」
「知るか!」

 いつまでも話していたら、キリがないと思った真弓は、力を込めた拳で男に殴る寸前で止め、風圧だけで吹き飛ばす。
 二の轍はもう踏まないためだ。
 男が気絶しても、辺りにいる幼少化した者達は元に戻らない。
 
「あの男は言っても、幼少化を戻さなそうだし……どうするか……うん? 子供の体が大きくなっていく……?」

 みるみるうちに大きくなった子供の体は、一瞬で大人に変わった。
 その者だけでなく、他のものも続々と大人に戻る。
 そのままでは、周りにいる大人に赤い巨人の姿が確認されてしまうため、真弓は地面を蹴り上げて空に飛び立つ。

 赤い巨人を解除して、家に戻った真弓は剣太の考察を聞いた。
 剣太曰く、「気絶は関係なく、時間経過で幼少化が解けるのではないか」とのことだ。
 家のリビングでは、元に戻った古屋敷が不思議そうな目で帰って来た真弓を見て、赤塚はそのままスーパーマンの映画を見始めた。
 
「二人とも、やっぱあんまり変わってないな……」
「まゆみん、なんか疲れてる?」
「はあ……まあ、いいか、ハハ」

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