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終焉の愛終(しゅうえんのあいうぉあ)

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17.雨が止んだ後、虹はかかる

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 放課後に喫茶店『古時計』で、真弓は一年後輩の雨宮つばめと対面していた。真弓の両隣には、いつもの顔ぶれ、赤塚と古屋敷。
 
「それで、あの、雨宮さんって呼べばいいかな? 感情で天気が操れるのは本当?」
「はい、本当です。それと、有式先輩、つばめって呼んでも別にいいですよ。先輩なんだし」
「いきなり名前呼びは、ちょっと抵抗感が……」
「そうですよね、情けない有式先輩は後輩を呼び捨てすることなんてできませんよね、知ってて言いました、すみません」
「な、情けない……!?」
「まゆみん、後輩の女の子にペース握られてるじゃん……」

 こうして真弓たち三人組と、一年後輩の雨宮つばめが喫茶店に集まって話しているのは、雨宮つばめの”感情で天気を操れる”という言葉を真弓が聞いたからだ。
 彼女が秘密を簡単に明かしたのには真弓も驚いたし、今後もしもまた同じような嵐が起こる可能性があるなら、友達の赤塚や古屋敷にも情報を共有して話し合ったほうがいいと思ったのである。
 
「雨宮、本当にその力を使えるというなら、今、証明できるのか」
「赤塚先輩、証明できますよ。でも、少し待ってください、今悲しいこと想像しますから」
「泣けば、天気が変わるのか? 今は晴れだが」
「そうですね、泣けば雨を降らすことが出来ます。笑えば、雨が止んで晴らすこともできます。けど、うっすぺらな感情じゃ天気はあまり変わらなくて、雨を降らすなら、本気で泣かないといけないって感じです」
「なるほどな、ちょっと古屋敷、駅から出て、空を確認してきてくれ」
「えーあたしがー? まゆみん、一緒に行こうよ」
「いいよ、行くか」
「わーい、駅デートみたい♪」
「短いデートだな」

 駅の外に出た真弓と古屋敷は、赤塚にスマホで通話して待機する。
 スピーカーから赤塚と雨宮つばめの声が響く。

「いいぞ、赤塚」
『始めてくれ、雨宮』
『はい、赤塚先輩。悲しいこと……蓮杖先輩に振られたこと……うっ、うぅ……思い出しても、やっぱり悲しい……』

 早速泣き始めたのか、雨宮つばめの鼻をすする音が聞こえだした。
 真弓が空を確認すると、急にどんよりとした雲が頭上に集まりだす。
 ぽたり、と真弓の肩に水滴が落ちてきた、その数秒後には土砂降りの雨が降って来た。

『どうだ、空は?』
「雨宮さんは嘘をついてない……本当だよ、雨が降り出した」
「まゆみん、雨降りすぎ! 服が濡れる~」
「ちょっと、雨宮さん、もう泣くのやめて! もう分かったから! 雨の量が凄いから!」
『雨宮、泣くの止めて』
『止めてっていっても、悲しいことはすぐ止められないです……うっ、蓮杖先輩……』
『だそうだ、有式』
「古屋敷、駅内に入るよ!」
「オーケーまゆみんっ」

 ずぶ濡れの二人が、喫茶店に戻ってくる。
 
「はぁ、マスターごめん、濡れてるけどどうしたらいい?」
「とりあえず、椅子にタオルを敷けば、座っていい。タオルで髪も拭いとけ」
「ありがとうマスター。いつも、本当に」
「これぐらいはできないと、喫茶店のマスターをやってられないからな。あらゆることに対応して、客を増やさないと店何て出せないのさ」
「なるほどね、流石マスター」
「褒めても、払う金は安くならないぞ」
「分かってるよ、マスター」

 タオルで濡れた個所を拭いて、再び真弓と古屋敷は椅子に座った。
 
「落ち着いた? 雨宮さん」
「……はい、今でも蓮杖先輩に振られたこと……思い出して、泣いてしまうんです。その度に雨が降って、今日なんかは嵐まで起こして……有式先輩がいなかったらわたし、大勢の人を傷つけていたかもしれない。そう思うと、わたし、この力が恐ろしいんです。まだコントロールできていないから」
「雨宮さん……僕協力するよ、君が上手く力を制御できるように」
「おれも、有式に同意する。雨宮が力を制御しないと、困るのは大勢の人々だ。それに超常現象をこの目で見られるのは、願ってもないことだからな」
「あたしもあたしも! まゆみんが協力するなら! つばめん可愛いし!」
「先輩方三人とも、ありがとうございます。つばめん……?」
「雨宮つばめ、だからつばめん!」
「良かったね、雨宮さん。古屋敷は特に仲が良くないと、その呼び方してくれないんだ」
「そうなんですか……ありがとう? でいいんですかね、古屋敷先輩」
「うん、いいよ、つばめん♪」

 真弓は古屋敷が自分のほかに仲良くしているところを見て、何だかいもしない妹が新しい友達を作った、そんな感慨深い気持ちになった。
 握手している二人の女子を真弓が暖かい目で見ていることが雨宮つばめにバレ、冷めた目で真弓を見てくる。

「有式先輩、気持ち悪いです。まるで親が子をみるみたいに見ないでください」
「ハハハ……気持ち悪い、直球だな……雨宮さんは」
「有式は古屋敷のこと、妹同然に思ってるからな。いつもはおれ達以外と、かかわりを持とうとしない古屋敷が、雨宮と仲よさそうにしているの見て嬉しくなったんだろ」
「あかつん、まゆみんがあたしのこと妹みたいに思ってるってホント!?」
「ホント」
「ま、まゆみんのバカー! あたしはまゆみんの妹だと思われてたんだっ」
「ふ、古屋敷、痛いって叩かないでよ!」

 ぷんすか怒っている古屋敷に真弓が叩かれていると、雨宮つばめが口を手で隠して笑った。
 三人は、あまりにも彼女がおかしそうに笑うものだから、話すのをやめて黙ってしまう。

「あはは、ははははっ、ははははっ、おもしろ、ふふ、ホントにふふふっ、ふふふふふ」
「雨宮さんが、笑ってる……そんなに面白いかな、ハハ」
「ご、ごめんなさい、有式先輩。だって、ふふ、先輩たちが話してるの面白いんですもん。でも、不思議ですね、三人とも、特別な絆で繋がってる感じがします。なんて言うのかな、これが友情ってやつなんでしょうか。わたしにはまだないものです」
「できるよ、雨宮さん。僕たち、君の一個年上だけど、もしよかったらさ、友達になって欲しい」
「え……?」
「そうだよ、まゆみんの言う通り。あたし、つばめんのこと気に入ったからさ、あたしとも友達になってほしいな」
「おれは正直どっちでもいいが……そもそも、有式と古屋敷を友達だとは思ったことが……」
「ツンデレなんだよ、赤塚は。僕は赤塚のこと親友だと思ってるから! 赤塚もそうでしょ?」
「……知らん」
「今目を逸らしたでしょ、ほら赤塚はこういう話をするとすぐ黙るんだ。まあ、雨宮さん、こんな僕たち三人と友達になってくれると嬉しい」
「有式先輩……いいんですか、わたしも、三人の中に加わって」
「当然! いいに決まってるよ、むしろ僕、この二人以外に友達いないからさ! 雨宮さんが友達になってくれたら最高に嬉しいよ!」
「────」

 真弓がそういうと、雨宮つばめは黙ってしまった。
 彼女はそのまま少し黙った後、耳を赤くして口を開いた。

「先輩たちがいいなら、ぜひお願いします。わたしと友達になってください!」
「よし!」
「やったーつばめんと友達になったー♪」
「おれはどっちでもいいが……とりあえずよろしく」
「はい、よろしくお願いします」

 そして、彼女は笑いながら少し泣いた。
 それを見て、真弓は勢いよく立ち上がる。

「みんな、早く行こう! 今だったら」
「なになに、まゆみん、どこいくの」
「有式おれはここで……」
「今なら、外に行けば綺麗なものがみれるかもしれない! だから、行こう!」
「有式先輩?」
「ほら、古屋敷、赤塚、雨宮さんも行くよ! マスターちょっとの間店抜けるね! あとですぐ戻ってくるから!」

 強引に赤塚を引っ張り出して、真弓たちは駅を出ると──空には、虹がかかっていた。

「虹……有式先輩はこれを見るために。でもどうして、虹がかかってるって」
「雨宮さんが笑いながら、泣いたから。もしかしたら、虹が出るかもって思ったんだ」
「綺麗……まゆみん、こんなに大きくてきれいな色してる虹、初めてみたよ」
「まぁ、綺麗なんじゃないか」
「でしょ、赤塚! 実際に見てみたら、虹は綺麗なんだよ。これも雨宮さんがいたおかげだね」
「そんな、こんなの偶然で、わたしはただ……」
「僕たちが君と出会えたのも、友達になれたのも、君の力のおかげだ。その力は何も人を傷つける恐ろしいものだけじゃない、こういう人を感動させる力も含まれているんだよ」
「人を感動させる……わたしの力……有式先輩、わたし、蓮杖先輩に『無理』の一言で振られるんじゃなくて、ちゃんと理由を聞きたかったです……」
「うん、分かった」
「分かったって……」
「明日、放課後屋上に来て、雨宮さん」
「いいですけど……何を」
「来て見れば分かる」

===

 真弓の言葉通り、授業が終わった放課後、雨宮つばめは屋上に来た。
 一体何があるんだろう、と思いながら屋上の扉を開けると、そこには思ってもいなかった人物がいた。
 先日告白して振られた蓮杖だった。
 
「蓮杖先輩……何で、先輩が……」
「有式から言われたんだよ、しつこく何度もな。次は真面目に対応してやれってな。あいつがうざいぐらい、しつこいもんだから、しょうがなく来てやった」
「……有式先輩が……先輩のバカ……」

 雨宮つばめは少し俯いた後、深く深呼吸して、顔を上げた。

「蓮杖先輩、わたし、本気で先輩のことが好きなんです。一回振られたけど……、今度はちゃんとした返事が欲しいんです! わたし、蓮杖先輩のことが諦めきれないんです! 先輩のことが大好きだから!」
「悪い、やっぱりもう一度ちゃんと考えても、答えは同じだ」
「どうして、ですか……やっぱり、年下だからですか、後輩だから! ですか!?」
「……俺には、好きな奴がいる。これが理由じゃ、ダメか」
「──好きな人……それじゃ、しょうがないですね、その人のこと、諦めてわたしと付き合ってくれたりはしませんか?」
「無理だ、俺は月丘はづきのことをどうしても諦めきれない」
「月丘はづき……それが、蓮杖先輩の好きな相手ですか」
「あぁ、そうだ。俺も、いつかあいつに告白して、付き合ってもらう」
「分かりました、ちゃんとした理由も返事ももらったし、納得がいきました」
「じゃあ、俺は部活に戻るから」
「はい、蓮杖先輩、さよなら」

 蓮杖が屋上から去り、完全に階段を下りる音が聞こえなくなった後、雨宮は力が抜けたように座り込んだ。

「納得がいきました……なんて、嘘だ。全然納得してないし、まだ蓮杖先輩に未練たらたらだ……さよならなんかしたくないし、本当は行ってほしくなかった……好きだったよお……わたし、蓮杖先輩のことが大好きだったのにい……おかしいな、もう泣かないように、決めてたのに、涙が止まらない……」

 俯いた視界に、大粒の涙がボロボロと零れ落ちていく。
 悲しみの波を抑え込もうとしているのに、むしろ悲しい気持ちは増え続けている。
 晴れていた空が、急に黒い雲に覆われて、次第に雨が降り出す。
 強い風が吹き、黒雲の中には雷がゴロゴロ鳴り響く。
 嵐が、また来たのだ。
 彼女の感情が天気に現れる力によって。
 その彼女の体が、横向きに流れる強い突風に持ち上げられ、浮く。
 そのまま、屋上の端から体が落下する。
 ──有式先輩に力を制御しようって、言われたのに……わたし、またやってしまった。でも、予想外だったんだ。ちゃんとした理由で振られるほうが、マシだと思ってた。『無理』の一言で振られるほうが悲しいと思ってた。でも違った、ちゃんとした理由で振られるのはもっと悲しかった!

 宙に体が浮いて流されて、意識を失う寸前。
 その閉じつつあった視界の端に、赤い影が見えた。
 ──有式先輩、わたし、死にたくない。

「もう、しょうがない奴だな」

 その声を聴くのを最後に、雨宮つばめは意識を失った。
 

===

 彼女が意識を覚まし、目を開ける。
 体が暖かい何かにくっついて、全てを任している感じ。
 目を開ければ、最初に真弓の顔があった。

「有式先輩!? ちか、あの、わたし、屋上から落ちて」
「僕が落ちた雨宮さんをキャッチしたから、大丈夫」
「キャッチしたって、あの高さを……?」
「うん、詳しくは聞かないでくれ」
「分かりました……わたし、先輩に救われてばかりですね……、有式先輩って情けなくて、もっと変な人だと思ってましたけど……」
「けど?」
「少しだけ、見直しました」

 そう言って、彼女は満面の笑みを作る。
 その彼女の顔が真っ赤になっていた。

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