ペニスマン

終焉の愛終(しゅうえんのあいうぉあ)

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16.第四の超能力者

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 それは、授業と授業の合間、休み時間での出来事であった。
 三階の最奥であるこの2ーD教室に、一年生の女子が独りでやってきたのだ。
 それも、結構可愛らしい女子。
 月丘はづきや古屋敷のように、胸が大きく綺麗という感じではないが、小柄で愛嬌がある、例えるなら子猫のような女の子。
 そんな子が、独りでこの二年生の教室に何の用があるかと言えば、あの蓮杖に告白をするらしい。
 告白をするというから、蓮杖以外の男子男女が騒ぎ出し、廊下に顔を出して様子をみんなで伺っていた。
 その中には、真弓も含まれていて、何だかんだ蓮杖に関することなら気になったのだ。だって、蓮杖は月丘はづきと付き合っているという噂があるし、その蓮杖が一年下の女子に告白されてもし受け入れれば、敵が減る。まあ、一番の真弓の敵は、告白に踏み切らない臆病さなのかもしれないが。
 何であれ、真弓にとって今回の一年後輩の女子がする告白は、注目する価値があった。
 蓮杖が廊下に呼び出され、女子と向き合う。
 可愛らしい女子は顔を真っ赤にしてしばらく俯いて黙り続けている。そしてようやく覚悟が決まったという表情をした後、勇気を振り絞って口を開いた。

「わたし、一年下の雨宮つばめです。蓮杖先輩、好きです! 私と付き合ってください!」
「無理」

 雨宮つばめという一年後輩の女子に好きだと告白されて、果たして蓮杖が返したのはその二文字だった。
 結果、まるで石のように固まる女子。教室に戻り、月丘はづきの下へ近づいていく蓮杖。
 この日、一年生の女子が勇気を出して告白した。
 しかし、したものが、見ているものが、唖然とする結果に終わってしまった。
 涙を流して廊下を走り去る一年女子の背を、真弓は自然と目で追っていた。
 
「雨……? 今日は九十八パーセント晴れなのに」

 真弓は廊下にある窓ガラスの向こうを見る。
 外の空には、急にどんよりとした黒雲が物凄い勢いで集まってきて、やがてどしゃあと雨脚の強い天気になってしまった。
 今日の天気予報で、大宮は九十八パーセント晴れ。けれど、実際は残り二パーセントの雨を引いたというわけだ。天気予報なんて信じたらダメなのか、と真弓が思っているうちに、雨はどんどん強くなっていき、斜め横の強風が吹き始めた。
 
「まだ四月の末だろ、台風並みだぞ……わっ」

 教室中に一斉で鳴り響くスマホのアラート音に驚き、真弓も他のみんなと同じようにスマホの画面を確認する。
 警戒レベル4、大宮区で激しい暴風雨が発生したと非常通知には書いてある。

「警戒レベル4ってことは、赤津、何だっけ?」
「避難指示だな。それだけ、この嵐が危険だってことだ」
「冷静に言ってるけど、それまずいことだろ。避難っていってもどこに……」
「とりあえずは、教師たちの指示を聞いて、おそらくは体育館に生徒全員避難だろうな」
「体育館なら……でも、どんどん嵐が強くなってる……大丈夫なのか、この街は」
「更に嵐が強まるなら、災害被害者も出てくるはず。このままじゃ街は甚大な被害を得ることになる。こんな時、ヒーローがいれば……」
「ヒーロー……赤い巨人」
「有式、そうだ。赤い巨人しか、この街を救えるのはいない」
「マジか……警戒レベル5になったぞ」

 警戒レベル5、緊急安全確保とスマホの画面に通知が表示され、真弓は冷や汗をかく。
 ──このままじゃ、本当に街はやばいことになる。赤い巨人が、僕がなんとかしないと。
 担任の教師に今すぐ体育館に避難しなさいと指示され、集団で移動することになった2-D。
 出席番号順に列を作って、廊下を移動している最中に真弓は列を抜け出す。

「まゆみん、ダメだよ! 勝手に抜けちゃ! どこにいくの、まゆみん!?」
「ちょっと、教室に忘れ物があって! すぐ僕も体育館に行くから! 古屋敷、先生には言わないでおいて!」
「先生誤魔化すのは限度があるから、早くしてねまゆみん!」
「分かった!」

 避難移動する生徒の集団から離れ、降りていく生徒たちに逆行して階段を上っていく。そうして屋上の扉にたどり着いた。
 屋上に出ると、室内では分からなかった嵐の過酷さに気づかされる。
 しゃがんで床を掴まないと、体が吹っ飛ばれそうになる烈風。
 視界もままならない顔面を殴打する強雨。
 一秒にいくつもの雷が光り、どこかに落ちる。
 嵐という災害が、街を襲っていた。
 そんな視界の悪い中、真弓は雨と風の雑音の、ほんの一部に小さな声を聞き取った。
 それは泣き声だ。
 ろくに壁や天井がない、嵐から守ってくれるものがない空間の中、独り、蹲って泣いていた。
 真弓はさっきの降られた女子だと、一目で確信した。

「そこの女子! 何してるんだ!?」
「うっ……うう……何って……泣いてるんだよ……分からないの……? ひくっ……うぅ」
「泣いてるのは分かってる! 僕が言いたいのは、こんな凄い嵐なのに、なんで屋上にいるんだって聞きたいんだ! 他のみんなはもう体育館に避難してるぞ! 君も非難しないと!」
「……もうどうだっていい……蓮杖先輩に振られたし……死ぬ……死んだほうが、マシ」
「何言って……おい、やめろ!」

 そう言って、少女は徐に立ち上がって、床から手を離した。
 それは暴風が吹き荒れる今、自殺行為といってよかった。
 真弓でさえ、床にへばりついていないと体を風に持っていかれそうになるのだ。
 それが真弓の一年下の、軽い女子の体だったら、もっと酷い。
 ふわりと、女子の体が風で宙に浮く。
 次の瞬間、強い風に体を空中に吹っ飛ばされ、屋上から強制場外される、そう思った彼女はいつまでたっても地面を離れない自分の体に困惑する。
 ──何で、わたし、飛ばされてない? 死んだと思ったのに……、手?

「死んだほうがマシなことがあるか!」
「え……?」
「確かに誰かを本気で好きになって、告白するのは死ぬほど勇気がいるし、実際に告白した君が、振られて、死にたくなるだろう!?」
「何言って……」
「でも、死んだら好きな人を眺めることもできない! もしかしたらもう一度チャンスがあるかもしれない! もう可能性がなくて、話しかけることもできずに、このまま学校生活終えるかもしれない! もうチャンスなんてないのかもしれない! それでも、死にたいなんて思うな! 死んだら君が告白した結果も過程も、全部意味がなくなるんだぞ! だから、絶対にもう死にたいなんて思うな!」

 気付けば、そんなことをぺらぺらと必死に叫んで、一年年下の後輩に真弓は言っていた。
 最初は彼女に言っていたつもりが、途中から月丘はづきにずっと片思いしている自分を重ねて語っていた。
 一方的に、身勝手に、後輩の女子に向かって何かを語っていた。
 何か、今まで真弓が感じ抱いて来たいろんなことを、他人に押し付けていた。
 他人に押し付けることは悪だと、分かっていた。
 そのうえで、言わずにはいられない。
 理由も、理屈も、全て無視して。
 感情の声が、喉の奥から自然と飛び出ていたのだ。

「今死んだら、今まで好きで、好きだってことを伝えられない僕とは違って、勇気を振り絞って好きだと伝えた君は、勿体なさすぎるだろう! そんなに君は強いのに、振られたら逃げるのか!? そんなの、馬鹿野郎だ! 僕よりも強い君が、勝手に死のうとするなあ!」
「……なんだよ、それ、全部貴方の勝手な感想じゃん」

 そう言って、一年生女子は少し笑った。
 その直後、不思議な現象が起きる。

「嵐が、収まってく……? 空が、晴れた──」

 あんなに吹き荒れていた嵐が、みるみるうちに散っていき、三秒後には空は完全に晴れていた。
 雲一つない青空を眺め、真弓は驚きを通り越して放心する。

「わたし、雨宮つばめ。一年」
「……僕は、二年の有式真弓だ。君はもしかして」
「変な先輩、わたし、感情で天気を操れるんです」

 その日、偶然、真弓は第四の超能力者と出会ったのだった。
 

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