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4.力の検証
しおりを挟むある日、真弓と剣太は廃棄された工場に来ていた。
人の気配が一つもないこの工場には、凸凹した穴が開いているドラム缶や欠けた部品の廃車があちこちに点在していた。
前は自動車の製造工場だった場所だ。
何故、兄弟二人してこんな寂れた工場に来たのかというと、それは真弓の謎の力について検証するためであった。
「兄さん、それじゃあ、やってくれ」
「う、うん」
パンツ一丁になった真弓が今持っているのは、工場に行く途中、コンビニで買ってきたエロ本だ。エロ本を開き、血走った目でページを見る。
女性の裸がドアップで写し出されたエロ本を見て、真弓の心臓が高鳴り、そしてアレがやってきた。
「兄さん、どう?」
「……く、くるっ、アレが」
「に、兄さん、白い煙が体から」
「が、ガあっ」
真弓の体が白い蒸気を噴射し、辺り一面が白で満ちた時、赤い影が姿を現す。
比較的高身長である剣太が、上を向いて、そのあまりのデカさに呆然とする。両手に持ってるノートパソコンを落としそうになるほどに。
「に、兄さんなのか……」
「──フぅ……剣太」
赤い巨体、研ぎ澄まされた理想以上の完璧な肉体。
身長が二メートルを軽く超えているだろう、規格外の大きさ。
股間がゴム製のパンツを突きのばし、その存在を示す。
その赤の巨人が、確かな日本語で弟の名を呼ぶ。
──この状態にあっても、理性はある。だが、油断すると暴走する性欲に意識を持っていかれそうだ。
剣太は腰を少し抜かしながらも、姿勢を治し、変化した真弓の姿を今一度見直す。
「まるでハルクだよ、兄さん。でも理性はちゃんと残ってるんだよね?」
「あぁ、しかし……気を張らないと今すぐにでも、性欲で頭がどうにかなってしまいそうだ」
「オーケー、大丈夫、俺もちょっと慣れてきた。やっぱり事前に聞いておいたから、完全に腰を抜かすのは防げた。よし、それじゃあ始めようか。その状態が、どれほどのことができるのか」
「やるなら早くしてくれ。意識が飛んでしまいそう」
「分かってるよ兄さん。まずは、パワーだ」
工場内は、天井が大きく崩れており、床にはあらゆる鉄の部品や廃車がある。その中の、鉄の塊の前に、真弓はどさどさと歩いて立つ。
何十トンもあるそれは、常人なら手で持ち上げることなど不可能、びくともさせることはできない。
だが、今の真弓は常人ではなかった。
「手加減しなくていいよ、全力で持ち上げて兄さん」
「グラァッ!」
赤く太い腕が鉄の塊の下部分を掴み、それを強引に真上に吹っ飛ばす。空いた天井の穴を通り越して、物体の残像が遥か彼方に一瞬で飛ぶ。
数十秒後、物凄い轟音を立て、鉄の塊が元あった辺りに落ちてくる。
「な、なんてパワーだ。スーパーマン並みだよ兄さん。次はジャンプ力だ、これはあんまり飛びすぎてもまずいから、ある程度おさえて、やって」
「う、ガァっ!」
深く膝を折って、足に力を籠める真弓。地面がその力に耐えきれないのか、コンクリートの床がひび割れて、足が地面を離れた時、大きなクレーターが出来る。
真弓の視界が、驚くスピードで移動していき、一瞬きの間に遥か雲の上、天界に浮かんでいた。
しかし、その上昇も徐々に遅くある高さで止まる。
「落ちる……」
赤い巨体が、その体重と重力に引かれて物凄い速さで落下し、工場の天井を貫いて、コンクリートの床へ盛大に着陸。
「ジャンプ力も、超人的。パワー、ジャンプ力も申し分なし。じゃああとは、スピードかな。兄さん、走ってみて」
「まだあるのか……」
「とりあえずそれで終わりだから、頑張って兄さん」
真弓が走る構えを見せ、後ろに引いた足を思いっきり踏み抜く。直後、コンクリートの床が爆発し、真弓は工場を壁を人型にくり抜いて、外のエリアに突入──ジェット機並みの突風を生みながら走る。
視界がスローモーションに、ゆっくり動く中、真弓の赤い体はどこまでも軽く、更に加速していく。工場を抜け、道路を横断し、商店街に入り、歩行者をすり抜け、学校が見えたところでUターン。
剣太の体感時間一秒もたたずに、真弓が元いた位置に帰ってくる。
「ワーオ、すごいや兄さん! スピードもスーパーマン級だ! まるでヒーローだよ!」
風圧で髪型がぐちゃぐちゃの剣太が喜びの声を上げた。
赤い巨体が天を貫くように、堂々と聳え立つ。
けれどその直後、白い煙を体から吹いて、真弓の体が小さくなってしまう。
「あ、あれ……僕、元の体に」
「兄さんの変身が解けた……、何か、時間制限のようなものがあるのか? 兄さん、これまでの変身は何をしたら解除されたの?」
「あ、あぁ、今までは、オナニーで暴走する性欲を抑えたら、元に戻った」
「けど、今回兄さんは性欲の消費せずに、元の体に戻った……もしかして、力を使ったからじゃない?」
「力を」
「兄さんが超人的なパワーやジャンプ、スピードを出すたびにエネルギーを消費していて、そのエネルギーが変身状態を下回った……? 変身のトリガーは興奮だから、エネルギーは興奮、性欲だよ。そうか、兄さんが力を使うほどに、性欲のエネルギーが減っていくんだ!」
「剣太が独り言モードになってしまった」
天才肌の剣太は、頭の回転が速く、たまにこうして一人でぶつぶつぶつ独り言を言ってしまう時があるのだ。
剣太は真弓の肩を両手で掴み、目を見開く。
「兄さんはつまり、エロイことに興奮すればするほど、変身状態の強さが上がるのかもしれない! また変身状態の時間も増えるんだ!」
「えろいことに興奮すればするほど……って、僕がまるで変態みたいな言い方しないで!」
「変態じゃん」
「え?」
「変態だよ、兄さんは。とびっきりのむっつり」
「え、僕ってむっつりだったのかーーーーー!」
「自覚してなかった!?」
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