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彼女のdiary 二
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「あら、おかえり。今日は早かったわね。」
優の母親が、優が返ってくるなり、そう優に呼びかけた。優の実家は、小さな町工場で、父親はその町工場を経営している。しかし、最近はその町工場も、うまくいっていないらしい。
「これなら、俺にとって不幸のダブルパンチだ…。」
優は心の中で、そう思った。
「そういえば、史香ちゃん…だっけ?最近はうまくいっているの?何なら、前みたいに、家(うち)に連れてきても、大丈夫よ。」
優の母がそう言った。それを聞いて優は、説明するのは面倒だし、そういう気分でもないが、嘘をつくわけにもいかないと思い、史香と別れた経緯を、母に話した。
「あらまあ、そうなの…。ごめん何にも気づかずに、言っちゃって。
でも、それはよく分かんないわね。多分、優が何かしたんだと思うわよ。とりあえず、連絡待ってみるしかないわね。」
「そんなこと、言われなくても分かってるよ!
…ごめん。俺、自分の部屋に上がってくる。」
優は、母親の言葉にイラッとしたが、それが八つ当たりであることにすぐに気づき、謝った。
「何やってるんだろうな、俺…。」
優は、そんな自分に嫌気がさした。そして、窓の外を見れば、そこにはポツポツと、雨が降り始めていた。そういえばこの時期は、晴れたり、雨が降ったりを繰り返す時期だな、優はそれを見て、ふとそんなことを思い出した。今外で降っている春の雨は、しとしと降るものだが、今の自分の気持ちは、土砂降りの夏の雨のようだ…。優はそんなことも考え、1人自分の部屋の中で、暗い気持ちになった。
優はしばらく感傷にふけった後、こんなことばっかりもしていられないと思い、とりあえず、大好きなエレキギターを取り出して、練習することにした。
「こういう時には、好きなことを思いっきりやって、気分転換するに限る。とりあえず、洋楽バンドのコピーでもするか。」
優は独り言を心の中で言いながら、ギターのチューニングを始めた。
しかし、電池が切れてしまったのか、チューナーが全く動かなくなった。
「困った。確か、今家に予備の電池はない。この雨だと、買いに行く気にもなれないし…。仕方ない。自力でチューニングするか。」
優は心の中でそう呟き、音叉を取り出して、自力でチューニングを始めた。
ちなみに、エレキギターに限らず全てのギターは、音叉を用いてチューニングをすることができる。5弦の「ハーモニクス」と呼ばれる音を出し、それを音叉の音と合わせて基礎となる音を作り、その後、完成したその5弦の音と、他の弦の音とを合わせて、チューニングを完成させるのだ。(ただ、最近はチューナーが簡単に手に入るので、この方法を使う人は少なくなったが。)
そして優は、チューナーに頼らず、自力でもチューニングができるようになりたいという気持ちも持っていたので、この方法も、時々練習していた。そして、ギターを弾き始めてからしばらくした後に、この方法をマスターしたのである。
しかし…、優はこの日、全く集中できなかった。どうしても、音に入り込むことができない。きれいに、音を合わせることができない。この日優の部屋に響いたのは、チューニングの合っていない楽器の不協和音、もっと言えば雑音の羅列であった。
「くそっ、チューナーが動けば、こんなことにもならなかったのに。いや、それも言い訳だ。こんな日には、俺、何もできない…。」
優の心の声は、頭の中にがんがん鳴り響き、(実際に声に出したわけではないのでそんなことはあり得ないのだが、)まるでその声が部屋中に響き渡り、不協和音を構成しているかのようであった。
そして、その不協和音を打ち消すかのように、優は、さっき弾こうとしていたお気に入りの洋楽バンドの、CDをかけ始めた。そのバンドは、最近売れ始めたアメリカの西海岸のバンドで、優はいち早く、そのサウンドに目をつけたのである。
しかし、いややはり、そのバンドのサウンドも、今の優にとっては、雑音にしか聴こえなかった。
「あんなに好きなバンドなのに、なぜ…。やっぱり、史香がいないとダメってことなのか…。
そうだ、やっぱり俺には史香が必要だ。史香と一緒なら、好きなバンドの音楽も、史香と一緒に2倍楽しめる。それに、ギターだって、史香の上手なピアノと、セッションすることだってできる。それで、史香も大好きな音楽の話をして、史香の楽しそうな顔が見たい。
それだけじゃない。街で聴く音楽、見る景色、俺はそんな日常の全てを、史香と共有したい。史香の喜ぶ顔が見たい。それで、史香が落ち込んでいる時には、史香を支えてあげたい。
とにかく、俺は今でも…、史香のことが好きだ。
今頃史香は、どうしているんだろう?」
優は心の中でそう叫び声をあげ、その日は早く休むことにした。
優の母親が、優が返ってくるなり、そう優に呼びかけた。優の実家は、小さな町工場で、父親はその町工場を経営している。しかし、最近はその町工場も、うまくいっていないらしい。
「これなら、俺にとって不幸のダブルパンチだ…。」
優は心の中で、そう思った。
「そういえば、史香ちゃん…だっけ?最近はうまくいっているの?何なら、前みたいに、家(うち)に連れてきても、大丈夫よ。」
優の母がそう言った。それを聞いて優は、説明するのは面倒だし、そういう気分でもないが、嘘をつくわけにもいかないと思い、史香と別れた経緯を、母に話した。
「あらまあ、そうなの…。ごめん何にも気づかずに、言っちゃって。
でも、それはよく分かんないわね。多分、優が何かしたんだと思うわよ。とりあえず、連絡待ってみるしかないわね。」
「そんなこと、言われなくても分かってるよ!
…ごめん。俺、自分の部屋に上がってくる。」
優は、母親の言葉にイラッとしたが、それが八つ当たりであることにすぐに気づき、謝った。
「何やってるんだろうな、俺…。」
優は、そんな自分に嫌気がさした。そして、窓の外を見れば、そこにはポツポツと、雨が降り始めていた。そういえばこの時期は、晴れたり、雨が降ったりを繰り返す時期だな、優はそれを見て、ふとそんなことを思い出した。今外で降っている春の雨は、しとしと降るものだが、今の自分の気持ちは、土砂降りの夏の雨のようだ…。優はそんなことも考え、1人自分の部屋の中で、暗い気持ちになった。
優はしばらく感傷にふけった後、こんなことばっかりもしていられないと思い、とりあえず、大好きなエレキギターを取り出して、練習することにした。
「こういう時には、好きなことを思いっきりやって、気分転換するに限る。とりあえず、洋楽バンドのコピーでもするか。」
優は独り言を心の中で言いながら、ギターのチューニングを始めた。
しかし、電池が切れてしまったのか、チューナーが全く動かなくなった。
「困った。確か、今家に予備の電池はない。この雨だと、買いに行く気にもなれないし…。仕方ない。自力でチューニングするか。」
優は心の中でそう呟き、音叉を取り出して、自力でチューニングを始めた。
ちなみに、エレキギターに限らず全てのギターは、音叉を用いてチューニングをすることができる。5弦の「ハーモニクス」と呼ばれる音を出し、それを音叉の音と合わせて基礎となる音を作り、その後、完成したその5弦の音と、他の弦の音とを合わせて、チューニングを完成させるのだ。(ただ、最近はチューナーが簡単に手に入るので、この方法を使う人は少なくなったが。)
そして優は、チューナーに頼らず、自力でもチューニングができるようになりたいという気持ちも持っていたので、この方法も、時々練習していた。そして、ギターを弾き始めてからしばらくした後に、この方法をマスターしたのである。
しかし…、優はこの日、全く集中できなかった。どうしても、音に入り込むことができない。きれいに、音を合わせることができない。この日優の部屋に響いたのは、チューニングの合っていない楽器の不協和音、もっと言えば雑音の羅列であった。
「くそっ、チューナーが動けば、こんなことにもならなかったのに。いや、それも言い訳だ。こんな日には、俺、何もできない…。」
優の心の声は、頭の中にがんがん鳴り響き、(実際に声に出したわけではないのでそんなことはあり得ないのだが、)まるでその声が部屋中に響き渡り、不協和音を構成しているかのようであった。
そして、その不協和音を打ち消すかのように、優は、さっき弾こうとしていたお気に入りの洋楽バンドの、CDをかけ始めた。そのバンドは、最近売れ始めたアメリカの西海岸のバンドで、優はいち早く、そのサウンドに目をつけたのである。
しかし、いややはり、そのバンドのサウンドも、今の優にとっては、雑音にしか聴こえなかった。
「あんなに好きなバンドなのに、なぜ…。やっぱり、史香がいないとダメってことなのか…。
そうだ、やっぱり俺には史香が必要だ。史香と一緒なら、好きなバンドの音楽も、史香と一緒に2倍楽しめる。それに、ギターだって、史香の上手なピアノと、セッションすることだってできる。それで、史香も大好きな音楽の話をして、史香の楽しそうな顔が見たい。
それだけじゃない。街で聴く音楽、見る景色、俺はそんな日常の全てを、史香と共有したい。史香の喜ぶ顔が見たい。それで、史香が落ち込んでいる時には、史香を支えてあげたい。
とにかく、俺は今でも…、史香のことが好きだ。
今頃史香は、どうしているんだろう?」
優は心の中でそう叫び声をあげ、その日は早く休むことにした。
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