スクランブル交差点

べいかー

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エピローグ

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 ―南沢由紀は、東山諒との待ち合わせ場所に行く前に、諒の指定した、ジュエリーショップへと向かった。
 「いらっしゃいませ。
 …1度、ご来店された方ですか?」
「…いえ、初めて来た者ですが…。」
由紀は、店員の発言や態度を少し不審に思ったが、特に気にすることはなく、
「私、南沢由紀です。
 今日は、これを受け取りに来たのですが…。」
と店員に伝え、諒からのメッセージ(プレゼントの詳細が書かれた物)を、見せた。
 「かしこまりました。少々お待ちください。」
 そう言って店員は、店の奥へと向かい、その品物を、持って来た。
 その、諒からのプレゼントとは―。
 「こちらの『指輪』で、よろしいですか?」
「はい。ありがとうございます!」
由紀はそう言って、店員に頭を下げた。
 そして、由紀はその指輪をつけて、諒との待ち合わせ場所に、行くことにした。
 『リョウさんからのプレゼント、私、本当に嬉しい!
 …でもこの指輪、私の指のサイズにぴったり。もちろん、それは嬉しいことなんだけど…。
 でも、どうしてリョウさんは、私の指のサイズを、知っているんだろう?』
由紀はそのことを、(メッセージをもらった時から)疑問に思っていたが、それでも、その時の由紀の中では、プレゼントをもらった喜びの方が、圧倒的に強かった。

 そして、由紀は、諒に指定された、待ち合わせ場所に向かった。その場所は―、
 『○○病院 精神科』である。

 ―北川美香は、その日警察署に来ていた。また美香は、美香の寝室に置いてあった手紙の恐怖から、完全に抜けきっていない様子である。
 しかし、こうして警察署に出向いたのだから、何も怖がることはない、美香は自分に、そう言い聞かせていた。
 「では、防犯カメラの映像を、ただ今より確認致します。」
 そう言って警察官は、玄関と寝室、2台の防犯カメラの映像を、確認した。
 「ではまず、玄関の防犯カメラから…、」
警察官はそう言って、カメラの映像をチェックした。
 しかし…、
 そこには、何も映っていなかった。
 「…おかしいですね。ということは犯人は、玄関からではなく、裏口から侵入した、ということでしょうか?」
「…そんなこと私に訊かれても、分かりません!」
 美香は、(前からであるが)警察の対応の悪さに、イライラしていた。
 「一応私、裏口にも鍵、かけました。
それで、今日家を出る時にも確認しましたが、裏口が荒らされた形跡は、ありませんでした!」
美香は、不安な気持ちを抑えるかのように、少し上ずった声でそう言った。
 「分かりました。では、続けて、寝室の防犯カメラも見てみましょう。
 犯人からの手紙は寝室に置かれていたみたいなので、何か映っている可能性が、大きいと思います。」
 そう言って警察は、2台目のカメラの、チェックを始めた。
 「…こ、これは…、」
「う、嘘でしょ…!」
その映像を見た時、警察官は驚いた。しかし、それよりも驚いたのは、美香本人である。
 そこに、映っていたものとは―、
 狂気じみた笑いを浮かべて寝室内で暴れまわる、『美香本人の姿』であった。

 ―○○病院 精神科に着いた由紀は、カウンセリングを受けた。そして、疲れていた由紀は、そのまま病院のベッドで、寝てしまった。

 ―〈病院内での医師と看護師の会話〉
 「彼女の名前は、南沢由紀、さんですね。」
「はい、先生。」
「でも、私も長年、色々な症例を見てきましたが、このようなケースも、珍しいですね。」
「なるほど。そうですか…。」
「はい。
 なぜなら、彼女の中には、『異なる男女2人ずつ、計4つの人格』が存在していますから。」
「その通りです。
 それに、その4つの人格、どれもが活発に動いていますね。」
「そうですね。
 まず、南沢由紀さんの副人格の、東山諒さんですが、彼は『自分が彼女の副人格である。』ということに、途中から気づいてしまいましたね。」
「そのようです。」
「しかし、彼は自分自身の主人格である、由紀さんに恋をしてしまっていた。」
「…辛い恋ですね…。」
「はい。
 そして、彼は最後に、彼女に指輪を送ることにした。
 彼は彼女と同じ体を共有しているので、指のサイズも、簡単に分かりますよね。」
「その通りです。」

 「次に、北川美香さんですが、彼女の場合、副人格の西本圭さんが、彼女のストーカーとなっていましたね。」
「はい。これも複雑なケースですね…。」
「その通りです。
 そして、彼もまた、諒さんと同じように、自分が彼女、美香さんの副人格であることに、気づいていた。」
「そのようですね。」
「ですから、彼女にストーキング行為をすることは、彼にとっては容易だったのでしょう。」
「…確かにその通りですが、私は、同じ女性の立場として、彼、圭のしたことは、許せないです。」
「もちろん、私もその気持ちは、お察しします。」
「ありがとうございます。」
「…それにしても、彼女、美香さんは何度か警察を訪れていたらしいですね。
 そこで、防犯カメラの映像をチェックした時、彼女は驚いたでしょうね。」
「はい。
 その防犯カメラには、『彼女の副人格の、西本圭が映っていた。ということは、彼女、北川美香自身がストーキング行為をする姿が、映っていた。』と、いうことですから。」

 「それにしても、彼女・彼ら計4人の男女は、どのように人格が入れ替わっていたのでしょうか?」
「基本的に、北川美香、南沢由紀さん、2人の女性は、隔日で人格が、入れ替わっていたようです。」
「なるほど。」
「ですから、『彼女たちの記憶の中では次の日でも、実際の時間は2日後』、ということもよくあったようですね。」
「…例えば、『美香さんが翌日に警察署に出向いた、と思っていたら、実はそれは2日後であった』、というようなことですか?」
「それも大いにあったでしょう。でも、彼女たちはその原因は、まさかこんな所にあるとは、思いもしなかったでしょうが。」
「そうですね…。絶対に分からないと思います。
 それで、圭、諒さんの2人の男性の場合はどうですか?」
「…彼らは、主に夜間に、人格が出て来るパターンが多かったようです。
 だから、美香、由紀さんの2人が眠っている、と思っている時に、圭、諒さんは活発に、動いていたようですね。」
「なるほど。」
「ただ、時折、彼ら2人も、昼間に人格が現れ、活動することもあったようですが…。
 また、彼・彼女ら、男女4人の記憶の中には、自らの脳内で作り出した記憶、まあ平たく言えば『妄想』も、含まれているみたいですね。」
「なるほど。やはり、多重人格は複雑ですね…。」
「はい。その通りです。」

 「ところで、彼女がこのまま、多重人格者として生きていくことは、できませんよね?
 …まずは彼女たちの副人格の、圭、諒さんですが…、
 どのように対処致しましょう?」
「そうですね。彼らには申し訳ないのですが、
副人格である以上、消えてもらうしかありません。」
「そうですか…。
 圭の方はストーカーですし、消えてもらって当然なのですが、諒さんの方は、少し心苦しいです…。」
「…まあ彼も、自分がいずれ、いなくなる人間であると知って、由紀さんと接し、最後に想い出を、作ったのでしょう。
 心苦しいですが、これも仕事ですから。」
「はい、分かりました。
 それで、最初からずっと気になっていたのですが、
 美香さんと由紀さん、どちらが主人格で、どちらが副人格なのですか?」
「とりあえず、彼女の体は女性です。なので、彼ら男性の人格は副人格で、彼女ら女性の人格のどちらかが、主人格であることに間違いはありません。
 それで、詳しい検査をしてみないと分かりませんが、私の中では、主人格の目星はついています。
 それは…、」

 ―この多重人格の女性、彼女の、主人格とは―、 (終)
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