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CASE1:北川美香の場合 一
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北川美香はその日、警察署に来ていた。
「私、ストーカー被害に遭っているんです。このままだと私、殺されるかもしれません…。すみません、何とか犯人、逮捕してくれませんか?」
美香は切実な様子で、警察官に語りかける。
しかし…、
「すみませんが、あなたが被害に遭っているという、証拠は?」
「この前私が朝起きたら、部屋の置き物の配置が、少し変わっていたんです。私は一人暮らしなので、自分が触らない限り、部屋の物が動くはずはありません。だから、絶対にこれ、ストーカーの仕業です!ストーカーが夜に私の家に、侵入したんです!」
「と言われましても、それだけで証拠とするのは、ねえ…。」
世の警察というのは全てそうであるかもしれないが、この街の警察も、なかなか重い腰を上げようとはしない。美香の目には、
『面倒なことには、関わりたくない。』
という警察の態度・考え方が、ありありと映った。
(その考え方は、「責任を負いたくない。」という考えがまる分かりの、美香の職場の上司にそっくりである、と美香は思った。しかし、わざわざ警察署まで来て上司の愚痴をこぼすのもおかしな話であるので、美香はその件は黙っておいた。)
「でも、北川さん、あなたの感じていることが仮に事実だとしても、それはストーカー被害だとは限らないですよね?例えば、空き巣被害の件も、考えられなくはないですが…。」
「何を言っているんですか?この私が、被害に遭っているんですよ?
そんなの、ただの空き巣だとは思えません!絶対に、私に変な好意を持った男性が、私の部屋に侵入したに決まっているんです!」
「はあ…。」
今度は、警察が呆れる番であった。
『この人、自分に相当自信があるんだな…。こういう人のことを、『ナルシスト』って言うのか?』
これは、職務中の警察官が一瞬見せた、一個人としての心の声・本音である。
「…分かりました。ではとりあえず、何かあったらまた署の方までお願いします。」
「何かあったらって…。
私、仕事を休んで、ここに来ているんですよ!
では絶対にもう1度ここに来るので、よろしくお願いします!」
美香はこう警察に言い残し、その日は署を去った。
『あんな警察官に、このことを任せて大丈夫だろうか?』
美香は警察署から自宅へ帰る途中、(改めて)さっきまで対応してもらった警察に対して、怒り狂っていた。
『あの警察官、面倒くさがりだけじゃなく、頼りなかったな。あれはまるで、打たれまくっているのにピッチャー交代を決められない、野球の監督のようだ。』
美香は野球を見るのが好きなので、そんな例えを思いつき、
『ちょっと、今の例え、良くなかったかな?
私、見た目だけじゃなくて、頭もいいかも!』
と、1人で悦に入るのであった。
そして、その日は(いつもは自分で料理を作っているが)何も作る気にはならなかったので、美香は近くのコンビニで、弁当を買って帰ることにした。
また、その道中、美香は自分の暮らす街にある、大きなスクランブル交差点を渡った。
この街の人々の中には、
『あの交差点は人が多いので、渡るのは好きではない。』
という人も多かったが、美香は、そこを渡るのは平気だった。というより、美香は人ごみはわりと得意な方で、その理由は、
『私の美貌なら、道行く人も、みんな私に注目するはずだ。』
という、人が聞いたら笑うか、嫌悪感を抱くかするようなものであった。(このような考え方の人間は、世間では少数派であろう。)
そしてその日も、美香は交差点を渡る途中、
『あっあの人、私を見た!これは私に気があるな!』
と勝手に思い、勝手に楽しんでいた。(その時の美香は、さっきまで警察署にいた時の不機嫌が吹き飛び、上機嫌であった。)
そして、美香は自宅の近くのコンビニに着き、そこで大好きなハンバーグ弁当を購入した。
『さっ、家に着いたらお酒でも飲んで、野球を見ながら食べるか~!』
美香はそう思いながら、そして上機嫌を保ちながら家に着き、玄関を開けた。
しかし、肝心の野球は、プレーボールの時間までまだ少しあったので、見ることができない。そのため美香は、とりあえず用事を済ますことを思いつき、(そういえば、昨日はお風呂掃除をしていなかったな、と思い出し、)風呂場に行って、掃除を先に済ませようとした。
そして、美香が風呂場へ行った次の瞬間、美香の心は、恐怖で支配され、美香の体に戦慄が走った。
その浴槽には、
「はじめまして。
みかさんのストーカーより。」
と、殴り書きされた1枚の紙切れが、落ちていた。
「私、ストーカー被害に遭っているんです。このままだと私、殺されるかもしれません…。すみません、何とか犯人、逮捕してくれませんか?」
美香は切実な様子で、警察官に語りかける。
しかし…、
「すみませんが、あなたが被害に遭っているという、証拠は?」
「この前私が朝起きたら、部屋の置き物の配置が、少し変わっていたんです。私は一人暮らしなので、自分が触らない限り、部屋の物が動くはずはありません。だから、絶対にこれ、ストーカーの仕業です!ストーカーが夜に私の家に、侵入したんです!」
「と言われましても、それだけで証拠とするのは、ねえ…。」
世の警察というのは全てそうであるかもしれないが、この街の警察も、なかなか重い腰を上げようとはしない。美香の目には、
『面倒なことには、関わりたくない。』
という警察の態度・考え方が、ありありと映った。
(その考え方は、「責任を負いたくない。」という考えがまる分かりの、美香の職場の上司にそっくりである、と美香は思った。しかし、わざわざ警察署まで来て上司の愚痴をこぼすのもおかしな話であるので、美香はその件は黙っておいた。)
「でも、北川さん、あなたの感じていることが仮に事実だとしても、それはストーカー被害だとは限らないですよね?例えば、空き巣被害の件も、考えられなくはないですが…。」
「何を言っているんですか?この私が、被害に遭っているんですよ?
そんなの、ただの空き巣だとは思えません!絶対に、私に変な好意を持った男性が、私の部屋に侵入したに決まっているんです!」
「はあ…。」
今度は、警察が呆れる番であった。
『この人、自分に相当自信があるんだな…。こういう人のことを、『ナルシスト』って言うのか?』
これは、職務中の警察官が一瞬見せた、一個人としての心の声・本音である。
「…分かりました。ではとりあえず、何かあったらまた署の方までお願いします。」
「何かあったらって…。
私、仕事を休んで、ここに来ているんですよ!
では絶対にもう1度ここに来るので、よろしくお願いします!」
美香はこう警察に言い残し、その日は署を去った。
『あんな警察官に、このことを任せて大丈夫だろうか?』
美香は警察署から自宅へ帰る途中、(改めて)さっきまで対応してもらった警察に対して、怒り狂っていた。
『あの警察官、面倒くさがりだけじゃなく、頼りなかったな。あれはまるで、打たれまくっているのにピッチャー交代を決められない、野球の監督のようだ。』
美香は野球を見るのが好きなので、そんな例えを思いつき、
『ちょっと、今の例え、良くなかったかな?
私、見た目だけじゃなくて、頭もいいかも!』
と、1人で悦に入るのであった。
そして、その日は(いつもは自分で料理を作っているが)何も作る気にはならなかったので、美香は近くのコンビニで、弁当を買って帰ることにした。
また、その道中、美香は自分の暮らす街にある、大きなスクランブル交差点を渡った。
この街の人々の中には、
『あの交差点は人が多いので、渡るのは好きではない。』
という人も多かったが、美香は、そこを渡るのは平気だった。というより、美香は人ごみはわりと得意な方で、その理由は、
『私の美貌なら、道行く人も、みんな私に注目するはずだ。』
という、人が聞いたら笑うか、嫌悪感を抱くかするようなものであった。(このような考え方の人間は、世間では少数派であろう。)
そしてその日も、美香は交差点を渡る途中、
『あっあの人、私を見た!これは私に気があるな!』
と勝手に思い、勝手に楽しんでいた。(その時の美香は、さっきまで警察署にいた時の不機嫌が吹き飛び、上機嫌であった。)
そして、美香は自宅の近くのコンビニに着き、そこで大好きなハンバーグ弁当を購入した。
『さっ、家に着いたらお酒でも飲んで、野球を見ながら食べるか~!』
美香はそう思いながら、そして上機嫌を保ちながら家に着き、玄関を開けた。
しかし、肝心の野球は、プレーボールの時間までまだ少しあったので、見ることができない。そのため美香は、とりあえず用事を済ますことを思いつき、(そういえば、昨日はお風呂掃除をしていなかったな、と思い出し、)風呂場に行って、掃除を先に済ませようとした。
そして、美香が風呂場へ行った次の瞬間、美香の心は、恐怖で支配され、美香の体に戦慄が走った。
その浴槽には、
「はじめまして。
みかさんのストーカーより。」
と、殴り書きされた1枚の紙切れが、落ちていた。
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