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犬に叱られる夢をみる
しおりを挟む「四月半ばに転入生だ?」
大画面の地デジ対応テレビを点けながら慣れ親しんだ奴の顔を見ればカツ丼の飯を口の中に掻き込んでる。
随分中途半端に来るもんだ。もう直ぐ浮かれて楽しみなゴールデンウイークだぞ。
「理事長はなんだってまた初めにお前へ言ったんだ」
風紀のくせに素行の悪さはずば抜けた委員長サマだもんな。
「自治委員会の委員長がすっぽかしたからだろ」
「んー?そんな話聞いてないけど」
引き継ぎもなかったし。
「真崎がメモして知らせたっつってたぞ」
「…………あぁ、そういやあったなそんなの」
「お前なぁ」
二階席と違ってテレビに映る一般席は賑やかなもんだな。お、この海老の天ぷら美味い。天ぷら釜あげうどんにして良かった。天つゆにおろし大根を入れてみる。
「ま、棗(なつめ)が話を聞いて無事に終わったんだろ?めでたしめでたし」
「呑気にうどん啜ってんな!」
「大声出すなよ、こんな近距離で。俺はね棗クン、誰かさんが暴れたせいで壊された教室のドアや硝子を美化委員と一緒に片づけてたの。テメェに怒鳴られる筋合いわねぇ」
アホが。凄んでりゃ誰でもびびると思ってたら大間違いだ。
はぁ、釜あげ美味かった。うどんは啜るもんだ、麺がのびたらどうしてくれる。獅子唐の天ぷらは食べれなかったな。ちょっと俺には苦かった。
テレビから棗を見ればバツの悪い顔をしてカツを食う。
「ま、この話はチャラって事で」
「……あぁ」
派手な成りして愁傷な顔は似合わないぞ。それとも今更後悔か。親が何でも弁償してくれるご身分は楽でいいよな。
「で、会長には言ったのか?」
「あいつは下半身お盛んだったから書記に伝えてきたわ」
そのうちインポになるんじゃね?三日とあけずにヤッてるし。性欲有り余ってんなぁ。
最後のピーマンの天ぷらを平らげて箸を置く。意外とピーマンは天ぷらにすると美味い。
「妥当なところだな。書記って三枝だろ」
何意外そうな顔してんだ。仕事の出来る奴の名前くらい覚えてるっつーの。
「めんどくせぇ、なんでゴールデンウイーク過ぎに来ねぇんだ。修学旅行の企画もあんのに」
「そんだけ親も子も必死なんだろ、いろいろ。不潔そうなカツラに前が見えづらい眼鏡したチビだったらどうする、転入生」
「はぁ?わざわざ変装する奴の気が知れねぇ」
インパクトはあるだろ。注目を浴びるには必要不可欠だから。典型過ぎてここの奴等は相手にもしなさそうだけど、あの生徒会は……分かんねぇな。野郎のケツが大好きな奴らにゃ打ってつけのカモになるか。
食事し終わった文化部部長とタイミングよく目が合っちまった。いつ見てもアジアっぽくない顔つきだな。試しに手を振ってみる。あらま、嬉しそうな顔で手を振り返されたぞ。楽しそうで何より。
「じゃ、賭ける?」
「いーぜ」
退屈しのぎにはなるよな。同じ事の繰り返しじゃ飽きがくるのも早い。
「不潔そうなカツラと眼鏡チビに一万」
「大して面白くなさそうな奴に五万」
「やけに自信ありげだな」
「理事長が言ってた」
追加注文したアイスティーを飲んで聞いてれば明らかなハンデ。
カツ丼と茶碗蒸しを食べたら怠そうに椅子にもたれて言う棗に嫌な予感がしてきた。
「俺が勝ったらお前の夏休み全部貰うわ」
「なにそれ。金いらねぇの?」
「金はいらない。それよりもお前を貰う」
「俺ってそんなに安いのか……」
ちょっとショック。
「なんなら俺の全財産賭けるぞ」
「ショボイ賭けにいらねぇ額だ」
全財産ってどれくらいだよ。規模ありすぎて分からねぇわ。
まだ諦めてなかったんだな、こいつ。俺のどこを気に入ったのか疑問だ。
「対象は明後日来る」
「はやっ」
来週の月曜かよ。
ずば抜けた頭脳を持った転入生で賭けた方が良かったのかね。今更後悔しても変わんないが。
しょうがねぇ、土日挟んだ月曜を待つとしよう。
20100710.
20150719.投稿
20160211.アルファ投稿
応援ありがとうございます!
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