1 / 2
再生→→→→
しおりを挟むけたたましいサイレンと足音。
自動スライド式ドアを開けて部屋に入ってきたのは白衣を着た数名の男。
ただ一人、部屋に籠もっていた男は驚く事もなくガラス張りになった隔離室にいた。
「漸く君の出番だ。長い間、待たせたね」
独特の薬品の匂いは人命を守るための命綱。長い間、氷漬けにされているだけでは凍死してしまうからだ。
カラカラとキャスターを転がし、室内の真ん中へと運ぶ男は外野の喧噪を余所に酷く冷静で近くに人がいれば声をかけるのも躊躇する雰囲気。
ただ、室内に入った当初よりも表情は柔らかい。
「やはり、君が睨んだとおり、まんまと手を翻したよ」
繋がる管を丁寧に手繰り寄せ、延命維持装置に似た機械を手繰り寄せた手は少し厚手のゴム手袋で覆われている。
「彬」
凍った人体はさぞかし冷たいんだろう。
青白く霜を噴くように真っ白な顔や体。
包まれていた銀色の布のような物は床へ無造作に放り投げられていた。
男は横になる人体をそのままに、赤く灯りが灯る大型のヒーターをコロコロとキャスターで転がして人体に向けスイッチを入れる。一台だけでなく計三台を利用して温めるかのように。
「あとは血液か」
きびきびと動く男は循環系の機械を運び寄せ、新たに注射器などを用意して黙々と作業に集中する。
隔離した部屋の外は桁違いに騒々しい足音と怒声や悲鳴に似た声に包まれていた。
「よし、これで……」
「崎室長!早く避難をっ」
自動ドアを開けて男を呼ぶのは年若い男。
「先に行きなさい」
「室長……!」
未だ作業に専念する崎に男は横たわるものを見て口を閉じ、何かを察した。
「必ず、必ず来てくださいね!」
「……ああ」
元気のいい男に相槌をうち、笑う。
諦めるように男は部屋から遠退き、まだ近くにいる人たちに声をかけ避難を呼びかけた。
「彬、起きたらびっくりするだろうね。眠ってる間にお台場が出来た」
君はどんな顔をするだろう。見れないのが残念だ。そっと頬に手を寄せるが人の温かさは分からない。
崎 浩輔、大神薬品第二研究所室長。
大神薬局、周辺の爆破まで、あと六十秒をきっていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
キスの日
蒼井アリス
BL
5月23日はキスの日ということで『沈む陽、昇る月』の主人公二人のキスのお話を書きました。
本編: https://www.alphapolis.co.jp/novel/621069969/922531309
本作はカクヨムとなろうにも掲載。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる