夜 行 街

壱(いち)

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stop! In the Name of Love

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腰に手をあて、仁王立ちして憤慨していた彼は御厨昌治(ミクリャセイジ)、来年卒業を迎える高校三年生。
引退する寮長でもあるとか。今は受験を控え、三年は授業も大してなく転校生である俺の入寮を待っていたらしい。

迷っているのではと寮から出てみれば、俺と小田が寮近くでジャレているのを発見したようだ。

「小田っち、このじゃじゃ馬ならぬ別嬪な猫は預かるさかい、戻ってえぇで」
「おう、頼む!」

じゃ、じゃじゃ馬?つか別嬪て……。
明らかに嬉しそうな顔をする小田の内心はきっとハニーとの戯れ。悔しい!絶対会いに行ってやる!

「ほれ、シャッキリ歩かんとお姫様抱っこすんで」
「いーやーだー」

後ろから首根っこを掴まれて引っ張られる。

く、くるし!

「オイ、可愛いのは分かるが初っ端から食ったりするなよ、御厨」
「善処する」
「ま、ガンバレ杉浦」

なんのことよ?
じゃーな、と軽くひらひらと手を振って来たとき同様ポケットに手を突っ込み歩いていった。

「オラ、自分で歩かんと着いた早々、ウェディングドレス着せんで!」
「んな!?ちょ、なら手を離せ……!え、ここそんなのあんの!?」

女に着せるなら可愛くて綺麗だけど、男に着せてどうすんの。
きしょっ、罰ゲーム?なんつーか、今の俺って生贄の子ウサギっぽい。

掴まれていたのを外され、引きずられ気味だった体を正面に向けて後を着いて行く。

段々と近づく寮は十階を超える高さのためか、かなり圧巻。
学生が住むには贅沢に感じる。
やっぱ金持ちの金銭感覚はハンパないってことか。

入口は指紋認識による防犯セキュリティー。今日は寮長に開けてもらうが明日からは自分の指紋プラス暗証番号を押す。
昔、指紋の偽造があり今年から最新セキュリティーシステムを導入し、暗証番号を個人で変えたらしい。

ぎ、偽造?!サラッと恐ろしいことを言ってため息を吐かれた。
まぁ、長年いる彼みたいなのは慣れた動作が変わり遣りにくいんだろうけど。
金持ち故の悩みってところか。

「暗証番号は部屋番号や生年月日は避けなあかん。一番漏洩しやすいからな」
「ハーイ」

良い子の返事で応えてみたら、なんかジッと見られて……?
いやいや、瞬きしよーよ!

「えらい可愛い奴やな~。俺と同室にしとくか?」

はい?
 
「綺麗かと思えば可愛いし、愛玩かと思えば気が強いうえに腕っ節もいいなんて、めっさ好みやわ」

どうする?後悔させなへんよ。

「一応、部屋は決まってんねんけど、そこは寮長の権限でなんとでも」

職権乱用!?

「なるわけねぇだろ、このエセ関西人が」

半ば口説きモードの寮長、御厨先輩に圧倒されていると俺の後ろから不機嫌そうな低い声がかけられた。

「なんや、今は授業中のはずやで佐川」
「サボリ」

アッサリとサボリを豪語した彼は仏頂面を絵に描いたような不遜な態度で言い放った。

すげー、俺も見習わなきゃ。

「あんまりにも遅ぇから迎えに来た」
「えらい親切やないか」

あと、もうひと押しやったのに。
舌打ちした先輩は何やら小声で言ったあと、現れた彼同様不機嫌な雰囲気を隠すこともなく皮肉気に笑った。

それにしても、ここって美形率高くない?

先輩は俺の拳一個分背が高い爽やか系に、迎えに来てくれたらしい彼は目眉が野性的なワイルド系。
おまけに長身とくる

なんだってこう発育がいいわけよ、会う奴ばっかり。

「佐川基(サガワモトイ)」
「杉浦藍デス」

意外と礼儀正しいマッチョ君はきちんと名前を教えてくれた。

今まで自分から名乗る奴は校医以外いなかったから反応するのにワンテンポ遅れちまった。

「お前の同室や……なにニヤニヤしとんの」
「へ?」

如何、顔の筋肉が緩んでたらしい。

「なんか、ムカつくわー」
「こんな廊下のど真ん中で口説いといて何言ってんだ」
「折角ペットライフ送ろうと思おとったのに」
「……ペットライフ?」

ペット飼ってもいいの、ここ?
ハニー(子猫)連れて来れるじゃん。

「変態丸出しめ。杉浦さん、コイツが言ってるペットは……アンタだ」

オレガペット?

「早く、今すぐここから部屋に案内してください!!絶対イヤだーー!!」

思わず、助けてくれそうな彼の胸元を掴んだ。

「そんな、全力で拒否らんでも。ショックや……」
「誰かれ構わずアンタが変態発言すっからだろ。馬鹿」
「……ッ。さっきから聞いてりゃ、ズケズケと先輩に向かってなんやねん!その態度!!」
「………え、年上じゃねぇの?」
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