夜 行 街

壱(いち)

文字の大きさ
上 下
15 / 21
stop! In the Name of Love

4

しおりを挟む
──!!よりにもよってくりりんて!?

「なに馬鹿にした顔してんだ。こいつはな、デカくなったらゴクウにバージョンアップすんだぞ、聞いて驚け!」

ツッコミどころありすぎて驚くわっ。んで、どっちのパクリなんだよ!

ここは、なんてキャラばっか揃ってんだ。

「ちょっと待ってろ。このおバカさん送り届けたら遊んでやるからなー」

にゃー

なんか悔しい!
英国風ガテン系校医、小田貢(オダミツグ)28歳独身。名前から後半は聞いてもいないのに答えてくれた。
外国名はエバンス・クリストファー・ロイズ。長いうえに覚えられそうもない。
親が帰化したため、漢字の名になった。

あれからハニー(子猫)をジャングル(温室)に入れた小田は後ろ髪を引かれるように子猫を気にしつつ、面倒そうな態度で俺を促した。


校舎の昇降口。
どうやら口や態度の割に、俺のことを考えて寮までの道を教えてくれるようだ。

「意外」
「あ?なんか言ったか」

前を歩く小田は俺を振り返り、立ち止まる。

「いや、なんも」

白衣のポケットに手を突っ込み、気(ケ)だるげに歩く不良校医。
寝癖と無精髭はマイナスポイントかな。あぁ、そこが魅力的って女もいるか。

「ヌオ!」
「……ッ」

小田の後ろを歩きながら道を覚えるのもそっちのけ、人間観察に気を取られていた俺は立ち止まった背中にダイブしてしまった。

「……っと、危ねぇなお前は!」
「あはははっ」

笑って誤魔化せ!

ナイスにも振り返る小田に抱きとめられる。そんな中ふと見上げれば、そこには……。
パチパチと瞬きをし、建物を見上げる。
えー、例えるなら大使館?いや、それにしては縦に長いな。
唖然と寮と思われる建物を見ていると、出入口から誰か出て来て目があった。

未だに小田の肩にブラ下がりながら。

「おまッ、放せ!脱臼させる気か!」
「にゃははー」

さっきの仕返しだったり。やられたまま終わるのも俺のポリシーに反するわけよ。

「アンタら何しとんの」

掛け合い漫才みたいに言い合う俺達を呆れた表情で声をかける、制服を着た男。
目があったのはこの人だ。

「助けろ御厨!」
「……俺には楽しそうに見えんねんけど、なぁ?」
「ねー」

焦る小田にニッコリと笑う俺とニヤリと笑う彼がいる。
方言から関西弁、そのうえ話がわかるナイスなお人!

「ふざけんな糞ガキが!」
「……っ」

あー、条件反射でやっちまった。
小田は業をにやしたのか柔道技か空手なのか、俺を放そうと仕掛けられるがその手を払い、強めに右の膝下を蹴り突けてしまう。

蹴りを入れた時に鈍い音がしたため、今までふざけていた男の顔色が変わった。

「小田っち!」
「騒ぐなバカッ」

慌てて小田に駆け寄る男に痛みを耐えつつ、しゃがんで自分の膝辺りを険しい表情で触診する。

駆け寄った男は向き直り、声を荒げることもなく憮然と立つ俺の胸倉を掴む。

「……詫びの言葉もないんか」

正に地を這う声、とでも表せばいいか。

「なに突っ立っとるんや!」

ただ、小田を見ているだけの俺に苛立ったのか殺気だつのがわかる。

「よせ、御厨」
「何ゆうとんねん!そんなことされといて!」
「お前のためだ」
「……はあ?」

痛みから漸く解放されて立ち上がった小田は軽く息を吐き、御厨という生徒を見る。

「返り討ちに遭うのが落ちだぞ」
「だからって詫びの一つくらい入れるんが筋やろ!」
「こんくらいで済んで、礼を言わなきゃいけないのは俺の方」
「ハァ?」

訳も分からない彼からは素っ頓狂な声が発せられる。

こいつ、頭おかしくなったんか!みたいな。
先生、説明下手すぎるよ!

「落ち着け、説明すっから」
「サクサクせぇ。こっちは訳も分からんわ!」
 
「……一瞬本気になった俺の殺気を感じ取ったコイツが、蹴りを入れて止めてくれたんだ」

大怪我する前に。
最後は小声で言い終わったあと、なんとも言えない雰囲気にガシガシと頭を掻き毟(ムシ)る大人。
胸倉を掴んでいた手を放してぽかーんとした表情でもって相対する生徒。

そして、苦笑いな少年A

ハーイ、俺です。

「こんのアホ校医ィ!」

我に返った御厨少年は若干震えながらも、殴り掛かるのを我慢している。
まぁ分からなくもない。あれだけな事を見せといて蚊帳の外なんだから。
俺も手加減したとはいえ、ふざけ過ぎたことに変わりはない。

「すまん」
「ごめんなさい」

何故か当人ではなく、俺達二人はアイコンタクトで同意し憤慨する彼に土下座の勢いで謝った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

犬に叱られる夢をみる

壱(いち)
BL
→アンチ寄りの非王道全寮制男子校が舞台ですが王道に辛辣なので苦手な方はご注意くださいませ。 王道を脇役に自治委員長が王道ホイホイになっちゃうかもしれなーい。なんちゃって。ありえません。 →予約更新の為、連載になりますが完結済み。最終は2/20です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

灰かぶり君

渡里あずま
BL
谷出灰(たに いずりは)十六歳。平凡だが、職業(ケータイ小説家)はちょっと非凡(本人談)。 お嬢様学校でのガールズライフを書いていた彼だったがある日、担当から「次は王道学園物(BL)ね♪」と無茶振りされてしまう。 「出灰君は安心して、王道君を主人公にした王道学園物を書いてちょうだい!」 「……禿げる」 テンション低め(脳内ではお喋り)な主人公の運命はいかに? ※重複投稿作品※

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

僕がサポーターになった理由

弥生 桜香
BL
この世界には能力というものが存在する 生きている人全員に何らかの力がある 「光」「闇」「火」「水」「地」「木」「風」「雷」「氷」などの能力(ちから) でも、そんな能力にあふれる世界なのに僕ーー空野紫織(そらの しおり)は無属性だった だけど、僕には支えがあった そして、その支えによって、僕は彼を支えるサポーターを目指す 僕は弱い 弱いからこそ、ある力だけを駆使して僕は彼を支えたい だから、頑張ろうと思う…… って、えっ?何でこんな事になる訳???? ちょっと、どういう事っ! 嘘だろうっ! 幕開けは高校生入学か幼き頃か それとも前世か 僕自身も知らない、思いもよらない物語が始まった

処理中です...