エメラルド TSUTSUJI

壱(いち)

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一日の授業も終わってさぁ帰ろうって時にタイミング悪く委員会があることを知り、何の話かと思えば転校生への苛め対策だった。委員長や副委員長のお気に入りとは聞いてたけどまさかここまでとは・・・。若干白けた空気が委員会で使われる教室内に流れたのは気のせいじゃないだろう。オマケに委員長から気安く声をかけられ、雑用まで頼まれて生徒会室に向かわなきゃいけなくなるとか、副委員長には無言でジロジロ見られるわ、なんかしたか俺。

無駄に利用者の多いエレベーターを避けて階段で生徒会室のある階まで来て一息吐く。
転校生につきまとい生徒会の人たちは仕事もほったらかして遊んでいると噂で聞いてはいるが誰でもいい、検証印くらい押せる奴がいますように。いなければ書類を持ち帰って委員長に渡さなきゃならない。それだけは御免だ、面倒くさい。

手すりに寄りかかった体を動かして生徒会室前まで来て一呼吸。実はここにいる人たちが苦手なタイプばかりで近付きたくないのが正直なところだ。
木彫りの綺麗にデザインされたドアをノックするが、中からの応答がない。やっぱりいないのか・・・。ドアノブを右に回してみれば驚くことに鍵すらかかっておらず、ドアが開いてしまった。とりあえず書類だけでも置いとけばいいか。人はいないが書類を持ってきたのは廊下にある防犯カメラで確認できるし。
一歩、生徒会室に入ったところで微量だが人の声が聞こえた。

「・・・・っは、や・・・・んん、しな・・・っ」
「・・・・・・・そのわりに・・・・じゃないか・・・」

奥の部屋のドアを開けっ放しにして役員の誰かがお楽しみ中か。お気楽なもんだ。
他人の情事なんて聞いても興奮する質でもないしさっさと持ってきた書類を置いて帰ろう。
会長の机は他の役員とは違い書類が山ズミになっている。お?ちゃんと生徒会の押し印があることが山ズミの書類から確認できた。なんだ、実は仕事やってるんだな。そっとクリアファイルごと机に置いて、周りにはいろいろ言われてるけど真実は違うらしい。そんなことを考えつつ入ってきたドアに戻ろうと一歩進めば。

「誰だ」

運悪く、奥の部屋から出てきたのは生徒会長で、二歩目を踏みしめれば呼び止められた。
ヤリ終わって着崩れたシャツ。着崩れたっつってもボタンを腹筋くらいまで外しただけみたいだけど。俺が女ならこんな会長を見ただけで孕まされそう。それだけの空気、雰囲気が今の会長からはダダ漏れだ。

「珍しいな、幸村がここへ来るなんて」
「風紀の書類を持って来ました。急ぎではないんですが確認をお願いします」
「あぁ・・・」

書類の内容に心当たりがあるのか頷いたあと、こちらに向かってくる会長に退室するための挨拶を済ませてドアまで来てノブを掴む腕を会長の手に掴まれた。

「幸村」

どれだけ歩幅がデカイんだこの人。意外に近いところから会長の声を聞いてしまい、見上げてみればお互いの鼻が触れるくらいの距離に内心驚いて一歩後退る。そこを追いかけてくる会長にまた距離を詰まれて変化がなくなった。

「会長?」
「今夜暇か」

ジッと見てくる会長の顔は、生徒からモテはやされる顔の作りで肌質もいい。肌荒れもないんだな。
黒々とした目は欲を吐き出したあとだからか少し潤んで見える。

「予定は、ありません」

飯を食ったあとは風呂に入って寝るくらいだ。
それよりも、こんな距離で言うことか?
自分の目とは違う色をした会長の目を逸らさずに見ているとスリッと鼻で鼻を撫でるみたいなことをされて、また後退ろうとしたら腰を抱き寄せられてドアに背を向ける形に体を動かされ、縫い止められた。これはやばいな。

「離れてください」
「こんなチャンス二度とないのに?」

俺が顎を上向ければ簡単にお互いの唇が触れる。なんでこんなことになったんだ。

「目を閉じろ」
「嫌です」

笑えない冗談はよしてくれ。

「まぁ、俺が閉じれば同じこと」
「え?ん、んっ」

あーあ、誰でもいいから助けてくれないかな。自分の力のなさが恨めしい。女よりも力はあるのに会長と比較したら適わないとか・・・。

「斉彬!なにしてんだよっ」

誰か知らないがナイス!ありがとう!
一瞬怯んだ会長の肩を手で力一杯押して離れる。
重なり合った唇が離れると可愛らしい音がしたことに寒気を催す。相手が女ならまだしも感情も何もない行為を男とすることになるなんてショックだ。

口を手で拭い、ちらっとこっちを見た会長は次に大声を出した張本人を見ていながら俺を離さない。

「もう起きたのか、千春」

使えねえ。

そっと漏れ聞こえた声は千春と呼ばれた奴には聞こえず、側にいた俺にしか聞こえていないようだ。
いい加減離せと片腕を動かしても掴んでいる手は離れない。

「なんでソイツにキスなんかしてんだよ!さっき俺とセッ、セックスしたくせに!」

肝心なところでどもる奴を何の気なしに見ると、奥の部屋のドアが開いたところで顔を真っ赤にし、猿みたいに落ち着きなく声を張り上げる転校生がいる。
マジで?噂じゃ男とキスとか気持ち悪い!とかいろいろ言ってるって聞いたけど、もう会長に喰われちゃったのか。情けねえ。









20160215.
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