風に立つライオン

壱(いち)

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ホームルームも滞りなく終わり、椅子から立ち上がる俺へと応援するようなことを言いだす周りに苦笑いながら席から離れて教室を出ると、担任の五十嵐が立っていてエレベーター前まで一緒に歩く。

「災難だな、天野」
「ほんと面倒くさいですよね、あの転校生。ところで掲示板の書き込みって削除出来るもんなんですか?」
「法的に警察や弁護士が動けば削除されることもあるらしい。たとえ警察が動いても削除は稀だと聞いてはいるが」
「動画サイトはどうです、モザイク入れて投稿されてんですか?」

こそっと聞けば素のままで動画を投稿されていると担任は愉快そうに話す。

「こう言っちゃなんだが、ここにいる大半の奴は古風なのかネットは最終手段としてしか使わない。今まで表に出ないのが不思議なくらいだ」

ネットなんて検索かチャットやメールくらいしか使わない。担任の五十嵐に掲示板のことを聞けば余り詳しくないらしい。そんなもんだよな。
自分の働く学校のことなのに、やけに突き放したことをいう担任にもう学校内のことは投げ遣りなんだなって内心ほくそ笑む。愛想が尽きたってところか。

「悪い、天野。伝言忘れてた」
「伝言?」

エレベーターが音で到着したのを知らせてドアが開く。先にエレベーター内へ乗り込む背に向かい告げてくる担任はニヤリと笑い、俺の親が既に学校内に着いていることを知らせた。
眉を顰めるなか階数のボタンを押し、先に行けと言う担任に構わず扉の閉まるボタンを押す。
エレベーターの扉が完全に閉まる前に五十嵐から気をつけろよと言われることに際し嫌な顔を大々的に見せてやれば扉が閉まった。

こっちに連絡せずに担任へ連絡するあたり性格悪いな、あのクソ親父。
見たくもない顔を脳裏に思い出し舌打ちして壁へと寄りかかる。
さて、これからどう動いたらいいものか。同室といえど俺は転校生と一度会ったきり外出続きで対した接点を持っていない。どう言われるかは大抵予想はつくが、俺よりも親父が黙って見ているかどうか・・・考えただけで頭が痛いな。

それに、会長の親も来るなら中身は丸く収まると考えにくい。

「あー、ほんと帰りたい」

タイミングがいいのかエレベーターの到着した音が聞こえ、扉が開いていく。着いた場所は理事長室のある十階。会議室並みにだだっ広いところは教室ではなく、部長会や資料室ばかり。アホみたいにスペースが有り余っていて来る度に宝の持ち腐れみたいな感覚に陥る。

エレベーターから降りて広い廊下を真っ直ぐ進むと、理事長室の扉がある反対側へ長い脚を組み、スーツ姿の男が壁に寄りかかってビー五サイズくらいの紙を持って目を通している。
黒い髪は綺麗にカットされて後ろへ撫でつけられ、横顔だけでもその整ったのが分かるつくりに日本人ばなれした体躯は手足が長く洗礼された雰囲気を醸し出す。

今日もいいスーツ着てますね、親父殿。

誰だか分かった途端、自分の歩く歩幅が狭くなる。正直者は馬鹿をみるって地でやってしまう。

「いつまで待たせる気だ」



低く、それでもとおる声は声優にでもなれそうな美声で手に持った紙から目を離し、こっちを向いた眼差しは至極冷たい。

「勝手に待っておいて言いますか。とっとと中に入れば、なに?」
「久しぶりに会った親になんて口の悪い息子かと思ってな」
「血が繋がってないからしょうがないんじゃない」

俺にじれたのか、自分から歩み寄った親父に指で顎を掬われてしまい手で払おうと動かす直前にもう片方の手に手首を掴まれて、睨みつける。

「昔の男に随分なことをいう」
「前のことを引き摺る質だったか、あんた」

まさか、元カレが自分の母親と再婚して義理とはいえ父親になるとは、今でも信じられないが事実だ。

「つれないのは、誰に教わった」
「母さん」

悪いね、母さん似で。白けてきたのでもう片方の手で顎を掬う手を払い退けて顔も見ずに父親である亮介を通り過ぎ理事長室の扉の前に立つ。

俺と付き合ってた時は浮気性でどうしようもない道楽野郎だったけど、結婚した母さんとは上手くいっているみたいで安心している。

「嘉月」

インターホンを指で押した後、インターホン越しに聞こえてきた声に応えてドアノブを掴んだら後ろからやけに冷たい手に自分の手を掴まれ、耳元へひっそりと語りかけられた。

「俺はまだ、お前を諦めちゃいない。絢音にも了承済みだ」

とんでもないセリフに絶句し、母さんの名前が出たことに驚き首だけで亮介を振り返れば久方ぶりの口付けを貰う。
唇を離した亮介から人の悪い笑みを貰い受けながらまた衝撃的なことを言って、涼しい顔をして俺より先に中へと入っていく。

「絢音は俺とお前との仲をとりもつ為に再婚したんだ。どう足掻こうが、お前は俺の手の中にある」

最後に忘れるなと囁いた男の声に背筋がゾッとした。母さんを利用して根回ししたこと、母さん自体が俺と亮介のことを知っていることに目の前が真っ暗になったような錯覚を覚えて内側で打ち止めしてある反対側の扉に手をついて体を支える。
中にいる誰かに名を呼ばれて正気に戻った俺は気を取り直すため数回深呼吸し、中へと足を向けて動揺を振り払う。

ドアを閉めて中へと進み、遅れたことを詫びて錚々たる顔ぶれに内心では嫌気がさしながら一人ずつ目を向けていると風紀委員長と副委員長がいることに気付く。
副会長の親、一年の書記や会計の親を見ればソファーで縮こまるようにソファーへ座り、一つの一人掛けには亮介が脚を組んで座っていてもう少し遠慮しろと思う。もう一つの一人掛けには、俺の方に背を向けて座っているから顔は分からないが多分、会長の親だろうと予想する。

気楽に談話しているのは亮介とその人だけだった。





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