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しおりを挟む転校生、紀伊草子(きい そうし)が吾妻学園へ来て早一週間。
生徒会役員である会長や副会長、一年の書記に二人の会計は我先にと紀伊を独り占めするため躍起になり役員に振り分けられた書類もそのまま、遊び歩いているためどんどん書類は溜まる一方で終わりがみえない。
二年の書記である俺が放課後、生徒会室に来てみれば会長の机にある書類が雪崩を起こしていた。
呆れて言葉も出ないが、雪崩を見て直そうとも思わない。会長たちの仕事を手伝おうとも思わないのは非情だろうか。
昨日、生徒会室に遊びに来た部外者は何を勘違いしているのか俺をどこかの風来坊と位置づけて仕事しないで遊び歩いてんな!と言い募ってきた。上目遣いを利用し、目を大袈裟に潤ませて言ってくる紀伊の仕草や知りもしない馬鹿なことを言う奴に吐き気がして仕事を早く終わらせ寮へ帰った俺は、いつの間にか会長たちのライバルにされてしまっていた。
人を役にたたない書記扱いをし、終いには紀伊を巡るライバルだとか馬鹿馬鹿しくて笑えてくる。あいつ等の頭はなんで出来てるんだか。
朝から自分の親衛隊共からこの話を聞き慰めの言葉を貰うが笑いすぎて腹が痛かった。
「おはよう、委員長」
「おはよう。朝から疲れた顔してどうした?」
「笑い疲れ」
教室に入って自分の席に着く途中、前の席に座る委員長の米倉に気付いて挨拶をすると振り返った。
「生徒会の仕事、一人でやってるんだろ?大丈夫なのか」
「うん。自分の仕事しかやってないし」
俺以外の生徒会役員が遊び呆けているのは周知の事実。一部の生徒を除き、誰もが知っていること。
まだ教室内に生徒が疎らな中、米倉に問われて事実を話す。
「何か手伝えることがあれば声をかけろよ、天野」
「ん?」
時間割を気にしながら机の中を整理していると、俺が使う机に頬杖をついてこっちを見ている米倉と目があう。
「我慢強いからな、お前って」
「俺褒められてる?自分の欲望には忠実だから大丈夫だって」
会長たちの仕事なんて自業自得だから手伝わないし、この前呼び止められてリコールを匂わす風紀にはリコールしたければお好きにどーぞって言っておいた。
「例の掲示板の話聞いたか」
「あー、ネットの掲示板だろ。誰が書き込みしたか知らないけど派手に遣ったみたいだな」
朝から親衛隊に捕まったのはその話を聞いたからだ。
インターネットが出来る環境で今まで書き込みされなかったのは世界の七不思議に入るだろうよ。
暇さえあれば男のケツを追っかける奴ばっかりだ、あの巨大掲示板を使う人たちが見逃すはずない。書き込みの日付、時間から少し経って学校の電話は鳴りっぱなしだという。今朝方、理事会から連絡が入って理事長を呼び出したっていうんだから笑えるな。さすが雇われ理事長、身から出た錆だろ。
書き込みには動画のユーアールエルまで付けて晒したようで転校生も俺以外の生徒会役員もネットじゃ世界的に有名人。炎上の勢いに乗って書き込みが凄いと聞く。
「転校生は天野がやったんだって騒いでた」
「へえ、陰でそんなこと言ってんだ、あいつ。しょぼい奴」
証拠もないのによく言うもんだ。名誉毀損じゃ訴えてもあんまり金になんねえからほっとくが、身内が動いても俺は知らない。
「理事長の甥って立場が誰よりも有利だと思って言ったんだろうけど、その話を聞いた副会長とか顔が青醒めてたぜ」
「見たのか?」
「朝っぱらから下駄箱でな」
呼び出しでもされたか。紀伊の担任も会長共と一緒で一目見たフォーリンラブらしいし駆けずり回ってんのかね。薄く笑って米倉を見て、目があうと何を思ったのか前のめりに人の頭へと手を置いて撫でるでもなく一叩き。
「いて!」
「お前がやったんじゃないんだな?」
「委員長が疑うとか天変地異かよ」
「少なくとも信じてるから聞いてんだ。エスクラスの奴はお前の言葉を待ってる」
人が疎らだった教室内はいつの間にか人が集まっている。みんなは掲示板の話を聞いたのか俺と米倉の方を見て気にしてる様子だ。
「やってない」
クラスの男共の顔を見て応えてやった。ホッとする表情の奴や当たり前だろの表情の奴、いろんなのを向けられて笑いを堪える。
多かれ少なかれ、疑う奴は出てくるからこの件に関してエスクラスの中で団結した方がいいと米倉が言い出し、みんなが頷く。
「書き込まれて困るような行動をとる奴も悪いよ」
いくら吾妻でもてはやされ、金持ちの子供だから周りが崇め称えるんだろうけどそれは学校の敷地内だから。まあ、外出ても金に群がる奴はいるけど。
ここと関係ない人たちが見たり聞いたりしたらいらない騒ぎになるのは目にみえたことだろうな。オマケに週刊誌の記者が好んで書き散らしそうな同性愛に寛容過ぎる校内事情は学校責任者すら黙認したことだって書き込みされているんだから始末に悪いよね、事実だけに。
ホームルーム前にみんなが口々に言い出し委員長が言ったことに和んでしまった俺は教室の張り詰めた空気に気付く。
「生徒会の役員として書き込みされてないとはいえ転校生の同室者ってことで天野は記載されちゃってるのに、犯人は天野だっていう転校生の方が怪しいだろ普通」
知らない内に教室の、俺の後ろの席に着席してた写真部の奴が言うことに振り返ると、災難だったなって慰めみたいな言葉を貰った。
「先輩からメールきたけど、会長たちの保護者が学校に来るってさ。お前のところはどうなの」
隣の席に座る新聞部期待のエースは持っている携帯の画面をこっちへ見せながら聞いてくる。
保護者ねえ・・・。
「来るかもなぁ」
いらないボケをかましたご子息たちの責任は誰がとるんだとか、ここに来たら言いそう。
会長たちご自慢の富、名声、権力の世界が見えてきそうでその場に行きたくないのが本音だ。
「副会長たちの親、天野のんちの傘下だろ。今頃青醒めて泡くってんじゃね」
軽快に侮蔑を含んだ声でせせら笑う新聞部の奴に写真部の奴は違いないと言いだす。
「会長たちは自分たちが優位に立っていると思って親たちに言い訳するだろうな。転校生は保護者でもある雇われ理事長がいないんだ、会長や副会長たちに助けを求めて自滅、ってところか」
「不様な姿を放送部が逃すかね」
あちこちからの言葉は心配ではなく軽蔑の色を濃く表し、担任が教室へ入ってきたことにより霧散する。
教壇まで来た教師は号令前に俺を見てやるせない表情をし、ホームルームが終わったら理事長室に行くようにと言う。
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