ダンピール

草平

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ダンピールとは

ある夏の夕暮れ

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それはある暑い夏の夕暮れだった。
川沿いを歩く少年に影が重なった。
「あッ」少年は小さく声をあげ、影のほうを見上げた。
パタパタと不規則に飛び回る小さな影がある。
「なんだ、コウモリか、、、」
少年は気にせず歩きだした。

頬にうっすらとすり傷をつけて、、、

少年、祝井 恵介(いわい けいすけ)は、高校の部室に忘れ物を取りに戻る途中だった。

父親からもらった大切なカメラを忘れていたのである。

父親は風景画家で、気に入ったらその土地にとどまり製作をする。
その間、次の場所を探すために恵介が先に色々な土地に行き気になるポイントを撮影してまわっている。
いわゆるロケハンだ。

恵介は小さい頃から撮影していたからなのかは分からないが、ロケハンを楽しみにしている。

明日も朝から撮影に行こうと思っていたら、カメラを忘れたことに気づいたのである。

学校に戻った。

ふいに、ふわっとした不思議な感覚になった。
空間にひとつふたつ、みっつ、、、四つ目は小さい、、、
「なんだ?」
頭を振りながら、部室に急ぐ。

さっき感じた空間をちらりと見ると、教室に男子と女子が2人、その間に仔犬?仔猫?

四つ目は小さい、、、

「なんなんだ?」
色々不思議なことが起こる日だってある。
気にすることでもない。
たまたま、猫かなにかが入りこんだのだろう。
それを、たまたま自分が感じた。
それだけのこと、、、

恵介は部室に入り、カメラを掴んだ。
カメラのストラップが棒のようなものに引っ掛かった。

「うッ、、、」

声が出ない。
ストラップは人の腕のようなものに引っ掛かっていたのだ。
それはちょうど、制服から絡まったコードが伸びているような感じだった、、、

しわしわのコードが、、、

「これって、、、ヒト、、だよな、、、」
「ミイラ、、、」
「指輪、、」
恵介は、それだけ言って、カメラをはずして部室を出た。

さっきの教室を見たら、女子が1人だけになっていた。
あと、小動物。

ほんの少し違和感がした、、、

気が動転していてとっさに出てきてしまったが、あのままにしてはおけない。
あれは、きっと、死体だったんだから。

あんな干からびた死体は見たことがない、、、
そもそも、死体なんてドラマの中での役者の演技と、あとは、お葬式くらいのもんだ。

なんにしても、警察に電話だ。



それから数分して警察がやってきた。
「えーと、君が連絡してくれた、、祝井くんかな?」
二人組の刑事だ。はじめて見た。
「私は鈴木、こっちは古閑だ。よろしく」
眉間にシワの鈴木刑事と長い黒髪の古閑刑事は、恵介と一緒に部室に向かった。

もう一度、あの奇妙な死体と対面しないといけないのか、、、

「君は下がって、、、」
恵介を背中にまわす古閑刑事。ふわっといい香りがする。
鈴木刑事が部室を開けた。

「何もないぞ?」

「い、いや、気づかないくらい、シワシワなんです。」恵介はおそるおそる言った。
「いや、君の見間違いじゃないか?」
「え?」
中を覗いてみると、コードがからまってはいるものの、確かに何もいなかった。




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