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序章-初出勤

二日目、谷口さん

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さて、初出勤を終えて二日目の出勤。
暑さは依然として容赦なく太陽が肌を焦がす日々であった。

出勤二日目の目標は症状が重めの統合失調症の方へのアプローチであった。
私がは谷口さんという、ニコニコしたり、目がギラギラしたりと様子が絶え間なく変わる方だった。
谷口さんに玄関前の喫煙所で
「ここにきて、どのくらいですか?」等話しかけてみた。すると
「わからないなー、もう十年くらいいるかもしれない」と、そして
「Kさんは事務長なんですよね、事務長先生ちょっと待ってな」と自販機の方へ
走っていった。戻ってくると「これあげるから、頑張ってな」とジュースを頂いてしまった。
断ったがちょっと様子が不穏になってきたので、当時の自分は受け取るしかなかったのだった。
そして「事務長先生、あそこに発信機があるの分かるか?ほらあそこ!」と空を指さしていた。
もちろん空には憎たらしいまでに照り付ける太陽しかなかったが、谷口さんの視界には、それ・・・が確かに見えて、そこからメッセージが届いていたようだった。

そもそも精神障害の自立支援施設は原則二年間だけの利用なので谷口さんは10年もいなかった。加えて言えばこの施設がスタートしたのは三年前なので、10年もいる訳がなかったのだった。
谷口さんにとってはそれらの発信器からメッセージを受信している日々は10年にも感じたのだろう。

その日の昼食は、谷口さんのテーブルだった。
谷口さんはあまり手を付けず、ブツブツと呟いていた。
「あの平岡って職員が、俺に悪戯してくるんだ...いつか懲らしめてやる」
と、ちょっと危険な様子が窺えた。
サビ管に相談すると頓服薬を飲ませた方がいいとのことで、リスペリドン(※リスペリドンは精神的不穏を落ち着かせるちょっと強めなお薬)を飲んでもらった。

すると30分もしないうちに、ニコニコと笑っている谷口さんになっていた。
※精神薬の威力を思い知ったのであった。
私が退社しようとする頃にはまた眼がギラギラと不穏な様子の谷口さんになっていた。

正直自分で自分の状態が分からなくなり、ニコニコしたり、眼がギラギラと不穏な様子になるなんて、
きっとかなりのストレスなんだろうなと思った。

比較的様子が落ち着いてる白鳥さんに、話を聞いてみた。
彼女曰く「たまにメッセージを受信するけど、それはあり得ないことだから無視している」と。
「昔はやっぱり区別がつかなくて、パニックになったりしたけども、今は分かるようになった」
統合失調症といってもかなり種類や重さが人それぞれにあるんだなー、と思った二日目の出勤日となった。
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