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2巻
2-2
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俺のベッドですぅすぅと寝息を立てているアルカの手を握りながら、その後も俺は大地の力を流した。ポワンッとアルカの全身がほのかに光り輝く。
でっかい犬みたいな神獣の時も、大地の力を流すと黒い汚れが落ちたからな。アルカもまだこの汚れが残っているみたいだし、力を流していれば全部取れるだろう。
しばらくして、アルカが目を覚ました。
「す、すみません……」
彼女は頬を赤く染めながら謝り、ゆっくりと上体を起こす。
「無理をしなくても大丈夫だよ」
「うむ。ゆっくりしていくといい」
俺とミーシャが気遣って声をかけるが、アルカは首を横に振った。
「いえ。そういうわけには……それに神獣様のこともありますし……」
「まぁ、話は落ち着いてからにしよう」
ベッドから起きたアルカを連れて、俺たちは居間へと移動した。
ミーシャがお茶を沸かすために台所へ向かう。
待っている間、俺はアルカに質問した。
「それで、君は神樹の森? って所から来たの?」
「はい。私はその森で神獣様の巫女をしています」
人数分のお茶をお盆に載せて、ミーシャが居間に戻りながら口を開いた。
「ふむ。神樹の森というのは初めて聞くな。どこにあるのだ?」
「この森のさらに奥の方で、二週間ほどかかるあたりですね」
すでにずいぶん広いと思っていたこの森だが、まだまだそんなに奥があるんだな。
俺はお茶をすすりながら話を聞いた。
「そりゃまた遠い所から来たんだな。そういえばアルカはあのでっかい獣、神獣? を看取りに来たって言っていたが……それはどういうことだ?」
「はい。実は……」
そう言ってアルカが切り出したのは、神樹の森の危機についてだった。
なんでも今現在、神樹の森では原因不明の魔障と言われる現象がはびこっているらしい。
魔障に感染すると、最終的にどんな生き物でも歪んだ形のオブジェみたいになるのだとか。神獣もそれに罹ってしまったため、アルカはもう助からないと思ったようだ。
なんとも奇妙な病である。
しかも、薬やポーションも効かず、治療法も不明なため、完全にお手上げのようだ。
現地の人間が分からないなら、この世界の常識に疎い俺では何もできまい。
そう思って、ふむふむ、と頷いていたのだが……
説明を終えたアルカが俺を真剣な眼差しで見つめる。
「ですが、あなた様なら何とかできるかもしれませんっ!」
「ええ? 俺か?」
「はい。末期だった神獣様の症状も、私の初期症状の魔障も治してくださったのです。そのお力で我らの神樹の森を助けていただけないでしょうか!」
アルカは黒い汚れ――魔障が消え去った自分の体を確認して、少し興奮気味だ。
「まぁ、俺の力でどうにかできるってんなら、協力するよ」
「ありがとうございますっ!」
ペコリとお辞儀をするアルカ。
サラリと肩に流れる銀髪からかすかに花のような香りがした。
そろそろでっかい犬――神獣が狩りから帰ってくる時間だ。
アルカも自分の目で元気な神獣の姿を確かめれば安心するだろう。
俺は神獣を待ちながら、拠点の小屋に客間を造るべく突貫で作業していた。
急なお客さんがこれからも来るかもしれないしな。
アインに木を運ぶのを手伝ってもらい、大地の力で小屋を増築していく。
……って、もう小屋って呼べるサイズじゃないな、これは。
外で作業していると、神獣が狩りから帰ってきたのが見えた。
「ウォフ!」
今日も突進猪を狩ったらしい。大きな猪を口に咥えて、神獣は誇らしそうにしていた。
そのまま倉庫の側へと運んでもらうと、その神獣のもとに小屋から出てきた三人娘が向かう。
「わぁ~、今日もぉ凄いですぅ」
「ですです!」
「ははっ、わん公偉いぞ!」
マロン、リィナ、エミリーは神獣を褒めると、テキパキと突進猪を吊るして解体し始めた。
三人は慣れた手つきで、流れるように解体作業を進める。
俺はその作業を少しだけ手伝ってから、客間用家具の作製を再開した。
ベッドや小さい机などだ。広場の端に積んである木材から手頃な物を選んで、家具作りを進める。
俺たちが作業に没頭している間に、アルカも小屋から出てきた。
「ああっ。神獣様っ」
彼女は神獣を一目見るなり嬉しそうに駆け寄る。神獣もアルカを見て尻尾を振っていた。
「ウォフッ!」
「あんなに魔障に蝕まれていたのに、お綺麗な姿で……アルカは嬉しゅうございますっ」
涙ぐみながら神獣の首元に抱きつくアルカ。
「なっ? 元気だろ?」
俺は彼女たちのそばへ寄ると、口の端をニヤリと上げながら言った。
「はい。あなた様には何とお礼を申し上げてよいやら……っ! 何かお返しを!」
「まぁ、できる範囲で構わないぞ」
俺はワシワシと神獣を撫でているアルカにそう返した。
「解体ぃ終わりましたぁ」
「ですー」
「いつものように燻製小屋に持っていけばいいんだよな!?」
マロンたちは解体した肉を燻製小屋へと運んでいった。
「血の臭いがぁ凄いですぅ」
「ですですー」
「これは風呂だな!」
燻製小屋から戻ってきた三人娘が賑やかだ。
「三人は風呂か……それならアルカも入ってきたらどうだ? 旅の疲れが取れるぞ? 三人とも! アルカに風呂の使い方を教えてやってくれ」
「え? あ? フロ……ですか?」
アルカは聞き慣れない言葉に戸惑っている。
「はいぃ」
「ですです♪」
「アタシが教えてやるぜ!」
三人娘はテテテッと部屋へ戻っていった。自分たちの風呂の準備を取りにいったのだろう。
俺は木の端材からタオルを作ってアルカに手渡した。
「ほれ。コレを使ってくれ」
「あ、はい。ありがとうございます……」
アルカはまだ困惑しているようだ。神樹の森には風呂に入る習慣がないのかもしれない。その割にはアルカの髪からは花のような香りがしてきたけど。
そんなことを考えているうちに、小屋から三人娘が着替えやお風呂セットを持って出てきた。
「ではぁ、アルカさん~、いきましょうぅ」
「ですです」
「こっちなんだぜ!」
「え? あ、はい……」
元気な三人娘に手を引かれて、アルカは風呂へと行ったようだ。
ふふ。風呂の魔力にひれ伏すがいいさ。
俺はアルカイックスマイルで彼女たちを見送って、神獣の首をワシワシと撫でた。
そのまま家に戻った俺はミーシャに質問する。
「なぁ、ミーシャ。神樹の森へはどうする? 一緒に行くか?」
「うむ。そうだな、ミーシャも行っていいか?」
「ああ。来てくれると道中心強いぜ」
「あうー!」
俺とミーシャのやり取りを聞いていたノーナが、バシバシと俺の足を叩いた。
「ん? なんだ? ノーナも行きたいのか?」
「あう!」
ノーナがぴょんこと跳ねながら右手を上げた。
神樹の森へは約二週間の道のりだ。ノーナの足で歩けるだろうか? かといって、ノーナを運ぶ目的でアインを連れていくと、家を守る用心棒が二週間以上いなくなることになるし……手が足りないな。
「う~ん……」
そうだ! ゴーレムを増やせばいいんじゃないか?
それで一緒に連れていくやつと家を守るやつの両方がいれば問題ない。
俺は自分の部屋をガサゴソ漁って魔石を見つけてから、小屋の外に出た。
「え~と、確かこう、だよな?」
大地の力を流した魔石を二つ、地面へと放り投げる。
アインを作った時と要領は同じだ。
ポイポイッと。
魔石が地面へ接すると、すぐに地中へめり込んでいった。
「なっ!? コウヘイ! 魔石が……!」
「あうー?」
様子を見ていたミーシャが驚きの声を上げた。
ノーナは魔石が埋もれた場所をジッと眺めている。アホ毛が左右に揺れていた。
それから数分で、地面の二カ所から頭、上体、腕、腰、足が現れる……そして二体のストーンゴーレムが完成した。
そのまま俺は木の集積場へ向かって、魔石を二つ取り出す。
今度はこの石を木に埋め込んで、と。
俺は大地の力を流し込んだまま木に魔石をあてがった。魔石は木に呑み込まれるように埋もれていき、跡形も無く消え去る。
これで……どうだ?
すると木からニョキニョキと二体のウッドゴーレムが出てきた。
まるで蛹から羽化するように体を起こしている。
よし! これも上手くいった!
「こ、コウヘイ! 木から人形が出てきたぞ!?」
「あう?」
ミーシャがその光景を見て口をパクパクさせていた。
ノーナは特に反応しておらず、相変わらず口をポカンとさせている。だが、頭を見ると、アホ毛が?マークのようになっていた。器用だな。
「ミーシャ。どうやら上手くいったみたいだぞ」
「まったく、コウヘイは……相変わらず規格外だな」
「あうー♪」
この世界での基準をいまだに分かっていないから、何とも言えないんだよな。
「ストーンゴーレムは、そうだな……ツヴァイとドライと名付けよう。ウッドゴーレムはウノとドスだ!」
頭に一本角のようなものがあるのがツヴァイで、V字のような飾りがついているのがドライだ。
アインの見た目がシンプルだっただけに、この二体には装飾をつけておいた。
ウッドゴーレムのウノはスラッとした見た目で、ドスは丸っこくなるように作ってある。
ゴーレムを作り終えたころ、三人娘とアルカが風呂場から出てきた。
「よう。風呂はどうだった?」
俺が声をかけると、アルカが頬を上気させたまま答える。
「はい、あなた様。あれは……あれは素晴らしいものですね」
あなた様って俺のことか? ずいぶん変わった呼び方だな。
「今日もぉ最高でしたぁ」
「ですです♪」
「不思議と疲れが取れるんだよな!」
マロン、リィナ、エミリーも口々に感想を言った。
そうかそうか。皆にそう言ってもらえたら、鼻血を出しながら温泉を作った甲斐があるってもんだ。
第二話 神樹の森へ
その日の夜、アルカを家に泊めて、俺たちは神樹の森へ行く話を詰めることにした。
片道だけで二週間かかるし、着いた後も一日、二日で片がついたりはしないだろう。
そうすると、どう見繕っても次の取引に俺が顔を出すのは難しくなる。
取引相手はモンタナ商会という、俺が作った反物に興味を持ってから何かと良くしてくれているところだ。かといって、まだ数回の取引しかしていないのに、いきなりこっちの都合でキャンセルするのも申し訳ない。さて、どうしたものか。
夕食の時間になったし、とりあえず話は食後かな。
今日のメニューは、燻製の魚を入れたパスタと、ゴロゴロ野菜のスープだ。付け合せはモチモチの実。火であぶるとチーズみたいに伸びるんだよね。
「うむ。今日も美味いな」
ミーシャが笑顔でパスタを頬張る。
「美味しいですぅ」
「ですです♪」
「おかわりはあるのか!?」
他の皆にも好評のようだ。
「むぐむぐ、あうー」
ノーナは両手にフォークを一本ずつ持ち、パスタを頬張っていた。
「お風呂をいただいた上に食事まで……すみません」
アルカは恐縮した様子で食事を口に運んでいた。
「いや、たくさん作ったから、遠慮なく食ってくれ」
俺は野菜スープをすすりながら応える。
野菜の旨味が溶け込んだスープは絶品だ。一緒に煮込んだ猪の肉がいい味を出している。
火で軽くあぶったモチモチの実もよく合う。
「スープもぉ美味しいですぅ」
「ですです♪」
「パスタのおかわりがほしいぞ!」
マロン、リィナ、エミリーが口々にリアクションする。
「うむ。ミーシャもおかわりだ」
「あう!」
おっと、ミーシャとノーナまでおかわりか? 俺はいそいそとパスタをトングで配ってまわった。
ルンは端の方で料理を食べ進めていた。
時々、みょんみょんと上下運動したりプルプルしたりと料理に反応しているな。それを横目に見つつ、俺もおかわりをよそう。
「アルカもどうだ? もう少し食べるか?」
「はい……いただきます」
アルカは小さくなり、頬を染めながら言った。
食事を終えて、皆がお茶を飲んでいる中、俺は本題を切り出した。
「というわけで、俺はアルカの依頼を受けて神樹の森へ行くから、しばらくここを離れなくちゃいけなくなった。ミーシャとノーナもついてくる。最短でもひと月はここを空けることになると思うけど、三人はどうする?」
まずはマロンたちの希望を確認する。
もし三人ともついてくるとなったら、商会とのやり取りをどうするか考える必要があるが……
「はいぃ、わたしたちはぁお留守番してますぅ」
「ですです」
「アタシも残るぞ!」
どうやら三人とも留守番希望らしい。それなら、この子たちにお使いを頼めそうだ。
「そうか。それなら三人には、モンタナ商会との取引に俺の代わりに行ってもらいたいんだが」
「取引ぃですかぁ」
「です?」
「アタシは難しい話は分からないぞ!」
三人娘がそれぞれ困り顔になる。
え、マジか。ちょっと不安になってきた。
「そんなに難しい話じゃないんだ。反物を納品するだけだからな」
「反物ですかぁ」
「です?」
「それならアタシにもできそうだな!」
本当か? まぁ、俺がいた世界で考えたらまだ小中学生くらいだもんな、この子たち。
俺はとりあえず詳細を伝えることにした。
「次の月の最初の陰の日に開拓村に行って、モンタナ商会のトットさんに反物を届ければいいんだ。この前行った時にいたろ? 犬耳のおっさん」
「ああぁ!」
「です!」
「いたな! 犬耳のおっさん」
「ゴーレムも作ったし、荷物は持たせればいい。ある程度言葉も通じるはずだから」
「分かりぃましたぁ」
「ですー」
「おっ、アインみたいな奴だな!」
俺が新たに作ったゴーレムを呼びながら説明すると、エミリーはペタペタと出来上がったゴーレムたちを触り始めた。
「反物はまとめて背負籠に入れておくから、それをゴーレムに持たせて連れていけば大丈夫だ。もらった代金で日用品なんかも買ってくるといい。頼んでもいいか?」
三人娘がそれぞれ頷いて話がまとまった。
仮にも冒険者をやっているんだ。ちょっとの遠出なら任せても大丈夫だろう。
翌日。俺が自分の部屋で旅の準備をしていると、玄関からドアを叩く音が聞こえた。
おや? また来客か?
最近はよく人が来るなぁと思いながら、俺は玄関を開ける。
「はいー、と。どちらさんですかねぇ」
俺が玄関を開けるとそこにはまた女の子の姿。黒髪で黒目、なぜかメイド姿だ。
その黒い髪は濡れたカラスのように艷やかに輝き、肩の辺りまで美しく伸びていた。
瞳はすべてを呑み込むような漆黒。
元いた世界で見たモデルさんかと見紛うほどの魅力を放っていた。
表情は乏しく、小さく結ばれた唇とスッと通った鼻筋にはどこか人形めいた印象を受けた。
「見つけました。マスター」
そう言うとメイド服の少女は、カクリと崩れるように俺の方に倒れてきた。
「うわっ」
見ると気を失っているようである。またこの流れかよ! と思いつつ、放っておくわけにもいかず、少女をベッドへ運び込んだ。
それから皆を集めて少女が起きるのを待った。
「この女の子に面識のあるやつはいないか? いきなり来たかと思ったら、玄関で倒れたんだ」
「ふむ。よく入り口で倒れられるな、コウヘイは。ミーシャは知らないな」
「マロンもぉ見たことないぃですぅ」
「です」
「アタシも知らないな!」
ミーシャと三人娘は心当たりがないようだ。
「あう?」
「すみません。森からあまり出ないもので、私に人族の知り合いはいませんね……」
ノーナは別として、アルカも面識がないのか。
うーむ。この中だと、アルカの関係者の可能性が高いかと思ったんだが……違うみたいだ。
俺が頭を悩ませているうちに、メイド服の少女が目をパチリと開けた。
意識を取り戻したようだ。
「マスター。エネルギー補給を要求します……」
メイド服の少女は俺のベッドに寝たまま、じっとその黒いオニキスのような瞳で俺を見つめる。
マスターって俺か? 俺は困惑しながらその子を見返した。
「食事を用意しろってことか? そもそもマスターって何だ?」
「違います。あの時のようにワタシの中心にマスターの力を注ぎ込んでほしいのです。マスターはマスターです」
力を注ぎ込む……ってなんだ? それにあの日のようにって、初めて会いましたよねぇ!? 僕たち。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
俺は慌ててその女の子の言葉を遮る。
周りをちらりと見ると、ミーシャとアルカが顔を赤くしており、三人娘はニマニマした表情を浮かべていた。おい、変な想像するな! 俺は無実だぞ。何もしていない!
俺はメイド服の少女に向き直った。
「まず君は誰なんだ? それにどこから来たんだ?」
「はい。ワタシは第五百六十二番ダンジョンコアの端末です。スティンガーのダンジョンから来ました」
スティンガーの町から歩いてきたのか? 一人で?
マジか。いや、それよりなんで女の子の姿なんだ? 俺は一人でそんなことをグルグルと考えていた。
とりあえず鑑定すれば、彼女が何者か分かるかもしれない。
名前:ダンジョン製ホムンクルス
説明:■■■■■
ホムンクルスなのか!
俺は鑑定結果を二度見した。
それにしても後半は文字化けが多いし、この簡易鑑定ってやつは相変わらず肝心なところを見せてくれないんだよな。
「む。どうした? コウヘイ」
「あ、いや。なんかな、この子の正体がホムンクルスってことが分かってな」
俺は鑑定で確認した情報を皆に共有した。
「ふむ。ホムンクルスか。噂では聞いたことあるな。錬金術の高等技術のはずだ」
ミーシャが顎に手を当ててそう教えてくれる。
「ホムンクルスぅですかぁ」
「ですー?」
「それはなんなんだぜ? 食えるのか?」
「あう?」
マロン、リィナ、エミリーとノーナは何も知らなそうだ。
アルカも口を挟まず、無言で俺たちのやり取りを見ている。
「あぁ。それからスティンガーのダンジョンコアの端末、とも言っていた」
「なんと!」
ミーシャが目を丸くする後ろで、他の皆も感嘆の声を上げていた。
ノーナは話を理解できているのか怪しいが……
アルカは口元に手を当てて、何やら考え込んでいるようだった。
俺は皆の様子を見ながら、スティンガーのダンジョンで起きたことを思い出す。あの時はたしかダンジョンコアによって中心部に拉致されたんだっけ。今みたいにいきなりマスターって呼ばれたこともあった。
すっかり忘れていたぜ。もしかして、エネルギー補給って、その時にダンジョンコアに大地の力を流したことを言っているのか?
俺はベッドの上で体を起こしている少女の頭を撫でつつ、大地の力を流していった。
少女が気持ちよさそうに目を細める。
「コウヘイ?」
ミーシャが俺を見て、疑問の声を漏らした。
これでいいはずだ。俺は無心で力を注ぎ続けた。
「ありがとうございます、マスター。エネルギー補給、完了しました」
しばらくすると、少女は満足げに頷いた。
その様子を見て俺が手を放すと、こころなしか彼女は物足りなそうな顔をした。
それにしてもこの子、ホムンクルスだからかもしれないけれど、あまり感情が顔に出ないんだよな。
そういえば、バタバタして彼女に名前をつけていなかった。
「皆、この子の名前を考えてやってくれないか?」
「ふむ。名前か……」
「何がぁいいですかねぇ?」
「ですです?」
「アタシには名付けなんて無理なんだぞ!」
話が進まないのを見かねて、アルカが提案した。
でっかい犬みたいな神獣の時も、大地の力を流すと黒い汚れが落ちたからな。アルカもまだこの汚れが残っているみたいだし、力を流していれば全部取れるだろう。
しばらくして、アルカが目を覚ました。
「す、すみません……」
彼女は頬を赤く染めながら謝り、ゆっくりと上体を起こす。
「無理をしなくても大丈夫だよ」
「うむ。ゆっくりしていくといい」
俺とミーシャが気遣って声をかけるが、アルカは首を横に振った。
「いえ。そういうわけには……それに神獣様のこともありますし……」
「まぁ、話は落ち着いてからにしよう」
ベッドから起きたアルカを連れて、俺たちは居間へと移動した。
ミーシャがお茶を沸かすために台所へ向かう。
待っている間、俺はアルカに質問した。
「それで、君は神樹の森? って所から来たの?」
「はい。私はその森で神獣様の巫女をしています」
人数分のお茶をお盆に載せて、ミーシャが居間に戻りながら口を開いた。
「ふむ。神樹の森というのは初めて聞くな。どこにあるのだ?」
「この森のさらに奥の方で、二週間ほどかかるあたりですね」
すでにずいぶん広いと思っていたこの森だが、まだまだそんなに奥があるんだな。
俺はお茶をすすりながら話を聞いた。
「そりゃまた遠い所から来たんだな。そういえばアルカはあのでっかい獣、神獣? を看取りに来たって言っていたが……それはどういうことだ?」
「はい。実は……」
そう言ってアルカが切り出したのは、神樹の森の危機についてだった。
なんでも今現在、神樹の森では原因不明の魔障と言われる現象がはびこっているらしい。
魔障に感染すると、最終的にどんな生き物でも歪んだ形のオブジェみたいになるのだとか。神獣もそれに罹ってしまったため、アルカはもう助からないと思ったようだ。
なんとも奇妙な病である。
しかも、薬やポーションも効かず、治療法も不明なため、完全にお手上げのようだ。
現地の人間が分からないなら、この世界の常識に疎い俺では何もできまい。
そう思って、ふむふむ、と頷いていたのだが……
説明を終えたアルカが俺を真剣な眼差しで見つめる。
「ですが、あなた様なら何とかできるかもしれませんっ!」
「ええ? 俺か?」
「はい。末期だった神獣様の症状も、私の初期症状の魔障も治してくださったのです。そのお力で我らの神樹の森を助けていただけないでしょうか!」
アルカは黒い汚れ――魔障が消え去った自分の体を確認して、少し興奮気味だ。
「まぁ、俺の力でどうにかできるってんなら、協力するよ」
「ありがとうございますっ!」
ペコリとお辞儀をするアルカ。
サラリと肩に流れる銀髪からかすかに花のような香りがした。
そろそろでっかい犬――神獣が狩りから帰ってくる時間だ。
アルカも自分の目で元気な神獣の姿を確かめれば安心するだろう。
俺は神獣を待ちながら、拠点の小屋に客間を造るべく突貫で作業していた。
急なお客さんがこれからも来るかもしれないしな。
アインに木を運ぶのを手伝ってもらい、大地の力で小屋を増築していく。
……って、もう小屋って呼べるサイズじゃないな、これは。
外で作業していると、神獣が狩りから帰ってきたのが見えた。
「ウォフ!」
今日も突進猪を狩ったらしい。大きな猪を口に咥えて、神獣は誇らしそうにしていた。
そのまま倉庫の側へと運んでもらうと、その神獣のもとに小屋から出てきた三人娘が向かう。
「わぁ~、今日もぉ凄いですぅ」
「ですです!」
「ははっ、わん公偉いぞ!」
マロン、リィナ、エミリーは神獣を褒めると、テキパキと突進猪を吊るして解体し始めた。
三人は慣れた手つきで、流れるように解体作業を進める。
俺はその作業を少しだけ手伝ってから、客間用家具の作製を再開した。
ベッドや小さい机などだ。広場の端に積んである木材から手頃な物を選んで、家具作りを進める。
俺たちが作業に没頭している間に、アルカも小屋から出てきた。
「ああっ。神獣様っ」
彼女は神獣を一目見るなり嬉しそうに駆け寄る。神獣もアルカを見て尻尾を振っていた。
「ウォフッ!」
「あんなに魔障に蝕まれていたのに、お綺麗な姿で……アルカは嬉しゅうございますっ」
涙ぐみながら神獣の首元に抱きつくアルカ。
「なっ? 元気だろ?」
俺は彼女たちのそばへ寄ると、口の端をニヤリと上げながら言った。
「はい。あなた様には何とお礼を申し上げてよいやら……っ! 何かお返しを!」
「まぁ、できる範囲で構わないぞ」
俺はワシワシと神獣を撫でているアルカにそう返した。
「解体ぃ終わりましたぁ」
「ですー」
「いつものように燻製小屋に持っていけばいいんだよな!?」
マロンたちは解体した肉を燻製小屋へと運んでいった。
「血の臭いがぁ凄いですぅ」
「ですですー」
「これは風呂だな!」
燻製小屋から戻ってきた三人娘が賑やかだ。
「三人は風呂か……それならアルカも入ってきたらどうだ? 旅の疲れが取れるぞ? 三人とも! アルカに風呂の使い方を教えてやってくれ」
「え? あ? フロ……ですか?」
アルカは聞き慣れない言葉に戸惑っている。
「はいぃ」
「ですです♪」
「アタシが教えてやるぜ!」
三人娘はテテテッと部屋へ戻っていった。自分たちの風呂の準備を取りにいったのだろう。
俺は木の端材からタオルを作ってアルカに手渡した。
「ほれ。コレを使ってくれ」
「あ、はい。ありがとうございます……」
アルカはまだ困惑しているようだ。神樹の森には風呂に入る習慣がないのかもしれない。その割にはアルカの髪からは花のような香りがしてきたけど。
そんなことを考えているうちに、小屋から三人娘が着替えやお風呂セットを持って出てきた。
「ではぁ、アルカさん~、いきましょうぅ」
「ですです」
「こっちなんだぜ!」
「え? あ、はい……」
元気な三人娘に手を引かれて、アルカは風呂へと行ったようだ。
ふふ。風呂の魔力にひれ伏すがいいさ。
俺はアルカイックスマイルで彼女たちを見送って、神獣の首をワシワシと撫でた。
そのまま家に戻った俺はミーシャに質問する。
「なぁ、ミーシャ。神樹の森へはどうする? 一緒に行くか?」
「うむ。そうだな、ミーシャも行っていいか?」
「ああ。来てくれると道中心強いぜ」
「あうー!」
俺とミーシャのやり取りを聞いていたノーナが、バシバシと俺の足を叩いた。
「ん? なんだ? ノーナも行きたいのか?」
「あう!」
ノーナがぴょんこと跳ねながら右手を上げた。
神樹の森へは約二週間の道のりだ。ノーナの足で歩けるだろうか? かといって、ノーナを運ぶ目的でアインを連れていくと、家を守る用心棒が二週間以上いなくなることになるし……手が足りないな。
「う~ん……」
そうだ! ゴーレムを増やせばいいんじゃないか?
それで一緒に連れていくやつと家を守るやつの両方がいれば問題ない。
俺は自分の部屋をガサゴソ漁って魔石を見つけてから、小屋の外に出た。
「え~と、確かこう、だよな?」
大地の力を流した魔石を二つ、地面へと放り投げる。
アインを作った時と要領は同じだ。
ポイポイッと。
魔石が地面へ接すると、すぐに地中へめり込んでいった。
「なっ!? コウヘイ! 魔石が……!」
「あうー?」
様子を見ていたミーシャが驚きの声を上げた。
ノーナは魔石が埋もれた場所をジッと眺めている。アホ毛が左右に揺れていた。
それから数分で、地面の二カ所から頭、上体、腕、腰、足が現れる……そして二体のストーンゴーレムが完成した。
そのまま俺は木の集積場へ向かって、魔石を二つ取り出す。
今度はこの石を木に埋め込んで、と。
俺は大地の力を流し込んだまま木に魔石をあてがった。魔石は木に呑み込まれるように埋もれていき、跡形も無く消え去る。
これで……どうだ?
すると木からニョキニョキと二体のウッドゴーレムが出てきた。
まるで蛹から羽化するように体を起こしている。
よし! これも上手くいった!
「こ、コウヘイ! 木から人形が出てきたぞ!?」
「あう?」
ミーシャがその光景を見て口をパクパクさせていた。
ノーナは特に反応しておらず、相変わらず口をポカンとさせている。だが、頭を見ると、アホ毛が?マークのようになっていた。器用だな。
「ミーシャ。どうやら上手くいったみたいだぞ」
「まったく、コウヘイは……相変わらず規格外だな」
「あうー♪」
この世界での基準をいまだに分かっていないから、何とも言えないんだよな。
「ストーンゴーレムは、そうだな……ツヴァイとドライと名付けよう。ウッドゴーレムはウノとドスだ!」
頭に一本角のようなものがあるのがツヴァイで、V字のような飾りがついているのがドライだ。
アインの見た目がシンプルだっただけに、この二体には装飾をつけておいた。
ウッドゴーレムのウノはスラッとした見た目で、ドスは丸っこくなるように作ってある。
ゴーレムを作り終えたころ、三人娘とアルカが風呂場から出てきた。
「よう。風呂はどうだった?」
俺が声をかけると、アルカが頬を上気させたまま答える。
「はい、あなた様。あれは……あれは素晴らしいものですね」
あなた様って俺のことか? ずいぶん変わった呼び方だな。
「今日もぉ最高でしたぁ」
「ですです♪」
「不思議と疲れが取れるんだよな!」
マロン、リィナ、エミリーも口々に感想を言った。
そうかそうか。皆にそう言ってもらえたら、鼻血を出しながら温泉を作った甲斐があるってもんだ。
第二話 神樹の森へ
その日の夜、アルカを家に泊めて、俺たちは神樹の森へ行く話を詰めることにした。
片道だけで二週間かかるし、着いた後も一日、二日で片がついたりはしないだろう。
そうすると、どう見繕っても次の取引に俺が顔を出すのは難しくなる。
取引相手はモンタナ商会という、俺が作った反物に興味を持ってから何かと良くしてくれているところだ。かといって、まだ数回の取引しかしていないのに、いきなりこっちの都合でキャンセルするのも申し訳ない。さて、どうしたものか。
夕食の時間になったし、とりあえず話は食後かな。
今日のメニューは、燻製の魚を入れたパスタと、ゴロゴロ野菜のスープだ。付け合せはモチモチの実。火であぶるとチーズみたいに伸びるんだよね。
「うむ。今日も美味いな」
ミーシャが笑顔でパスタを頬張る。
「美味しいですぅ」
「ですです♪」
「おかわりはあるのか!?」
他の皆にも好評のようだ。
「むぐむぐ、あうー」
ノーナは両手にフォークを一本ずつ持ち、パスタを頬張っていた。
「お風呂をいただいた上に食事まで……すみません」
アルカは恐縮した様子で食事を口に運んでいた。
「いや、たくさん作ったから、遠慮なく食ってくれ」
俺は野菜スープをすすりながら応える。
野菜の旨味が溶け込んだスープは絶品だ。一緒に煮込んだ猪の肉がいい味を出している。
火で軽くあぶったモチモチの実もよく合う。
「スープもぉ美味しいですぅ」
「ですです♪」
「パスタのおかわりがほしいぞ!」
マロン、リィナ、エミリーが口々にリアクションする。
「うむ。ミーシャもおかわりだ」
「あう!」
おっと、ミーシャとノーナまでおかわりか? 俺はいそいそとパスタをトングで配ってまわった。
ルンは端の方で料理を食べ進めていた。
時々、みょんみょんと上下運動したりプルプルしたりと料理に反応しているな。それを横目に見つつ、俺もおかわりをよそう。
「アルカもどうだ? もう少し食べるか?」
「はい……いただきます」
アルカは小さくなり、頬を染めながら言った。
食事を終えて、皆がお茶を飲んでいる中、俺は本題を切り出した。
「というわけで、俺はアルカの依頼を受けて神樹の森へ行くから、しばらくここを離れなくちゃいけなくなった。ミーシャとノーナもついてくる。最短でもひと月はここを空けることになると思うけど、三人はどうする?」
まずはマロンたちの希望を確認する。
もし三人ともついてくるとなったら、商会とのやり取りをどうするか考える必要があるが……
「はいぃ、わたしたちはぁお留守番してますぅ」
「ですです」
「アタシも残るぞ!」
どうやら三人とも留守番希望らしい。それなら、この子たちにお使いを頼めそうだ。
「そうか。それなら三人には、モンタナ商会との取引に俺の代わりに行ってもらいたいんだが」
「取引ぃですかぁ」
「です?」
「アタシは難しい話は分からないぞ!」
三人娘がそれぞれ困り顔になる。
え、マジか。ちょっと不安になってきた。
「そんなに難しい話じゃないんだ。反物を納品するだけだからな」
「反物ですかぁ」
「です?」
「それならアタシにもできそうだな!」
本当か? まぁ、俺がいた世界で考えたらまだ小中学生くらいだもんな、この子たち。
俺はとりあえず詳細を伝えることにした。
「次の月の最初の陰の日に開拓村に行って、モンタナ商会のトットさんに反物を届ければいいんだ。この前行った時にいたろ? 犬耳のおっさん」
「ああぁ!」
「です!」
「いたな! 犬耳のおっさん」
「ゴーレムも作ったし、荷物は持たせればいい。ある程度言葉も通じるはずだから」
「分かりぃましたぁ」
「ですー」
「おっ、アインみたいな奴だな!」
俺が新たに作ったゴーレムを呼びながら説明すると、エミリーはペタペタと出来上がったゴーレムたちを触り始めた。
「反物はまとめて背負籠に入れておくから、それをゴーレムに持たせて連れていけば大丈夫だ。もらった代金で日用品なんかも買ってくるといい。頼んでもいいか?」
三人娘がそれぞれ頷いて話がまとまった。
仮にも冒険者をやっているんだ。ちょっとの遠出なら任せても大丈夫だろう。
翌日。俺が自分の部屋で旅の準備をしていると、玄関からドアを叩く音が聞こえた。
おや? また来客か?
最近はよく人が来るなぁと思いながら、俺は玄関を開ける。
「はいー、と。どちらさんですかねぇ」
俺が玄関を開けるとそこにはまた女の子の姿。黒髪で黒目、なぜかメイド姿だ。
その黒い髪は濡れたカラスのように艷やかに輝き、肩の辺りまで美しく伸びていた。
瞳はすべてを呑み込むような漆黒。
元いた世界で見たモデルさんかと見紛うほどの魅力を放っていた。
表情は乏しく、小さく結ばれた唇とスッと通った鼻筋にはどこか人形めいた印象を受けた。
「見つけました。マスター」
そう言うとメイド服の少女は、カクリと崩れるように俺の方に倒れてきた。
「うわっ」
見ると気を失っているようである。またこの流れかよ! と思いつつ、放っておくわけにもいかず、少女をベッドへ運び込んだ。
それから皆を集めて少女が起きるのを待った。
「この女の子に面識のあるやつはいないか? いきなり来たかと思ったら、玄関で倒れたんだ」
「ふむ。よく入り口で倒れられるな、コウヘイは。ミーシャは知らないな」
「マロンもぉ見たことないぃですぅ」
「です」
「アタシも知らないな!」
ミーシャと三人娘は心当たりがないようだ。
「あう?」
「すみません。森からあまり出ないもので、私に人族の知り合いはいませんね……」
ノーナは別として、アルカも面識がないのか。
うーむ。この中だと、アルカの関係者の可能性が高いかと思ったんだが……違うみたいだ。
俺が頭を悩ませているうちに、メイド服の少女が目をパチリと開けた。
意識を取り戻したようだ。
「マスター。エネルギー補給を要求します……」
メイド服の少女は俺のベッドに寝たまま、じっとその黒いオニキスのような瞳で俺を見つめる。
マスターって俺か? 俺は困惑しながらその子を見返した。
「食事を用意しろってことか? そもそもマスターって何だ?」
「違います。あの時のようにワタシの中心にマスターの力を注ぎ込んでほしいのです。マスターはマスターです」
力を注ぎ込む……ってなんだ? それにあの日のようにって、初めて会いましたよねぇ!? 僕たち。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
俺は慌ててその女の子の言葉を遮る。
周りをちらりと見ると、ミーシャとアルカが顔を赤くしており、三人娘はニマニマした表情を浮かべていた。おい、変な想像するな! 俺は無実だぞ。何もしていない!
俺はメイド服の少女に向き直った。
「まず君は誰なんだ? それにどこから来たんだ?」
「はい。ワタシは第五百六十二番ダンジョンコアの端末です。スティンガーのダンジョンから来ました」
スティンガーの町から歩いてきたのか? 一人で?
マジか。いや、それよりなんで女の子の姿なんだ? 俺は一人でそんなことをグルグルと考えていた。
とりあえず鑑定すれば、彼女が何者か分かるかもしれない。
名前:ダンジョン製ホムンクルス
説明:■■■■■
ホムンクルスなのか!
俺は鑑定結果を二度見した。
それにしても後半は文字化けが多いし、この簡易鑑定ってやつは相変わらず肝心なところを見せてくれないんだよな。
「む。どうした? コウヘイ」
「あ、いや。なんかな、この子の正体がホムンクルスってことが分かってな」
俺は鑑定で確認した情報を皆に共有した。
「ふむ。ホムンクルスか。噂では聞いたことあるな。錬金術の高等技術のはずだ」
ミーシャが顎に手を当ててそう教えてくれる。
「ホムンクルスぅですかぁ」
「ですー?」
「それはなんなんだぜ? 食えるのか?」
「あう?」
マロン、リィナ、エミリーとノーナは何も知らなそうだ。
アルカも口を挟まず、無言で俺たちのやり取りを見ている。
「あぁ。それからスティンガーのダンジョンコアの端末、とも言っていた」
「なんと!」
ミーシャが目を丸くする後ろで、他の皆も感嘆の声を上げていた。
ノーナは話を理解できているのか怪しいが……
アルカは口元に手を当てて、何やら考え込んでいるようだった。
俺は皆の様子を見ながら、スティンガーのダンジョンで起きたことを思い出す。あの時はたしかダンジョンコアによって中心部に拉致されたんだっけ。今みたいにいきなりマスターって呼ばれたこともあった。
すっかり忘れていたぜ。もしかして、エネルギー補給って、その時にダンジョンコアに大地の力を流したことを言っているのか?
俺はベッドの上で体を起こしている少女の頭を撫でつつ、大地の力を流していった。
少女が気持ちよさそうに目を細める。
「コウヘイ?」
ミーシャが俺を見て、疑問の声を漏らした。
これでいいはずだ。俺は無心で力を注ぎ続けた。
「ありがとうございます、マスター。エネルギー補給、完了しました」
しばらくすると、少女は満足げに頷いた。
その様子を見て俺が手を放すと、こころなしか彼女は物足りなそうな顔をした。
それにしてもこの子、ホムンクルスだからかもしれないけれど、あまり感情が顔に出ないんだよな。
そういえば、バタバタして彼女に名前をつけていなかった。
「皆、この子の名前を考えてやってくれないか?」
「ふむ。名前か……」
「何がぁいいですかねぇ?」
「ですです?」
「アタシには名付けなんて無理なんだぞ!」
話が進まないのを見かねて、アルカが提案した。
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