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眠り姫

173.ミルヒダーズ①

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「さて、戻るとするか」

 俺が声をかけると皆も続いて歩き出す。
 キラキラと光り輝く白亜の城を後にすると、俺たちは最初に降り立った場所へと向かった。

 荒野だった土地は今や草木に覆われ、緑豊かな大地と化している。
 太陽の光を反射して青々と輝く草木。
 むせ返るような植物の香りを感じながら俺たちは歩みを進めた。

 遠くに塔のようなものが見える。
―なんだ? 俺たちがこの夢の世界に来た時はあんなもの無かったぞ?

 俺たちが最初に降り立った場所にたどり着くと、そこは薄汚れた塔の麓だった。
 こんなもの無かったはずだが、さすがは夢の世界って事か?

「ここを攻略しないと帰れないって事かな?」

 俺が皆に尋ねる。

「ふむ。ミーシャにはよく分からないが、そうかもしれないな」

「あい?」

「婿殿、さっさと解決して元の世界に帰ろう」

「キキもそう思いマス」

「ぷぽ?」

 ボロボロの入り口を通り抜け、塔の中へ皆で入る。

 ズワッ
 薄汚れた床からにじむように影のモンスター達が現れる!

「シッ」

「むん」

「ちぇス」

 ザン! ザシュ! ブオン! ヒュガッ!
 ミーシャ、ガーベラ、キキが各々武器を振るい影のモンスターを蹴散らす。

 ゴブリンの影のようなモンスター達は致命傷を負い、白い粉へと変わっていった。

「この塔は外と違って影のモンスターが出てくるな」

 俺はキョロキョロと辺りを見回しながら呟く。

「うむ。倒しても何も残さないのが嫌だな」

「あい」

「婿殿、ここの塔には何が待ち受けているやら……」

「この塔、何階くらいあるんでしょうカ?」

 俺たちはややげんなりしながら足を進める。
 途中、にじむように現れる黒い影のモンスターを白い粉に変えながら塔を登っていった。

 螺旋階段を登りながら壁にある窓のようなものを覗くと、見渡す限り緑の大地が見える。
 当初、この夢の世界に降り立った時とは雲泥の差だ。
 果たしてこの緑地化が、眠り続けているニヴァリスという少女にどう影響を及ぼすかは分からないが、良い影響が出てくれることを望む。

 程なくして最上階にたどり着く。
 そこでは人らしき影がこちらに背を向け、何やら作業しているようだった。

「うぬぬ……何故だ! 途中まではうまくいっていたのに……クソッ」

 そいつは腰ほどの高さの台座の前で何かの作業をしながらぶつぶつと文句を垂れ流しているようだ。
 こちらに背を向けているので俺たちに気づいていない。

「このミルヒダーズ様ともあろうものが、まさか失敗だと!? そんな事は許されない!」

 長い黒髪を掻きむしりながらその男、ミルヒダーズは憤っている。

「む? 何だ? お前たちは」

 ミルヒダーズと言うらしいその男が俺たちに気づいて振り返る。
 そいつはエルフのような耳を持つ褐色の肌の男だった。
 ダークエルフとかいうやつか?
 長い黒髪がさらりと揺れる。

 俺はミルヒダーズとか言うその男を鑑定してみた。

 ~~~~~
 ケイオス・エルフ
 邪神の眷属*&%#“$
 ~~~~~

 案の定、邪神絡みってわけだ。
 あんな小さな女の子にまで手を伸ばすなんてよっぽど暇なのか? こいつらは。

「みんな、あいつはケイオス・エルフで邪神の眷属みたいだ」

 俺はみんなに情報を共有する。

「ぬう、この聖女候補の世界が元に戻りつつあるのはお前たちのせいか……」

 ミルヒダーズは眉間にシワを寄せながら憎まれ口を叩く。

「お前がニヴァリスの目が覚めない原因か!」

 俺がミルヒダーズに声をかける。

「くっ。ただでさえ手が足りんというのに邪魔をしくさりおって! 許さんぞ!」

 ミルヒダーズが怒りをぶつけてくる。
 なんだか微妙に話が通じていないぞ!?
 俺はアインの背負籠からノーナを出してやった。

「まずはお前たちを片付けて、それからやり直しだ!」

 ミルヒダーズがゆったりとした衣を翻しながら腕を振るう!

 バオッ バリバリバリ
 闇の波動が俺たちを襲う。

 アインが前に躍り出て盾を構えた。
 ズギャーーーン!
 衝撃波がアインの盾で阻まれる。

「あい!」

 カッ ズドオオオオオン!
 ノーナの雷魔術だ!

 しかしミルヒダーズの表面に漂う黒い瘴気が電撃を受け流す!
 まぁ、そんなこったろうと思ったぜ!

「シッ」

 ミーシャが躍り出て、ミルヒダーズに連撃を浴びせる。
 バシュ! バシュ!
 ミルヒダーズは手のひらに黒い瘴気をまとわせ、ミーシャの連撃を受けながし後退した。

「ぬう。目障りな」

 ミルヒダーズが腰ほどの高さにある台座に手をかざす。
 シュオォォォォォォォォォォォォォ
 台座からどす黒い煙がにじみ出ると、地面を伝いながら広がっていく!
―なんだ!?

 地面に広がったどす黒い煙から影のモンスターが湧き上がる。
 形はミノタウロスに似ていて、巨大な斧のようなものを手にしていた。
―くっ、敵の増援か!
 計四体のミノタウロスのような影が現れた。

 ミルヒダーズはまたもや腕を振るう!
 闇の衝撃波が広がる!

 バオッ バリバリバリ
 俺たちはアインの後ろに回り、衝撃波をやり過ごした。
 くそっ、なかなか思うように攻めさせてくれないな。
 当たり前か。

 ミノタウロスをかたどった影のモンスターの一体が巨大な斧を振りかざす。

「むん!」

 ガキン!
 ガーベラが大剣で巨大な斧と打ち合う。

「ちぇス!」

 キキがガーベラの後ろから影のミノタウロスの首筋へと突きを放つと、四体のうちの一体は白い粉へと変わっていくのだった。
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