ほんとうに君が好き。

カスミソウ

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二人の初めての旅行

3日目②〜愛を確かめること〜

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「ふぃ~…。美味しかったねー」
「ちょっと休憩~っ!」

夕食を取り終え、風子、未来、友里、香菜は自室に戻ってきていた。積丹半島で体力を使いすぎたのか、いつもの三人はそのままベッドにダイブする。未来はそれを冷めた目で見ながら旅行のしおりを開いた。

「30分後にはさっきの会場に集合だそうよ」
「あ、じゃあ私その間にお風呂入っちゃうね~」

未来の言葉に友里が部屋の風呂場に駆けて行った。香菜は夕食前にお風呂に入ったのにも関わらず、軽くメイクを直し始めた。

この後何があるかと言うと、学年全体のレクリエーションだ。有志の人々やグループらがそれぞれ出し物をするというもの。どうやら今頃リハーサルが行われているらしいが、私達は完全に観客側なので気楽に本番の時間を待つ。

「こんな短時間で髪を乾かす時間まで取れるのかしら…?」
「あ~、相原さん大丈夫だよ。アイツ本気出せば10分で上がってくるから」

香菜がにやっと笑う。それならいいのだけど、と未来も少しの笑を零した。

積丹半島の件があってから、未来とクラスメイトの距離が縮んだと思う。半島から帰る時も、夕食の時も、何人かの女子が未来に話しかけていた。その子たちも未来も嬉しそうな顔をしていて、風子自身もご機嫌だった。しかし、少しモヤモヤした気持ちがあるのも事実だった。

これが嫉妬って言うのかな~…。あはは。

暫くして、速やかに入浴を終えた友里を含め、レクリエーションの会場へ向かった。



「ーーでしたー!ありがとうございました!」
「今のマジックやばかったな…!」
「タネ教えてほしーい」

次々と気合いの入った出し物が披露されていく。ダンスにしても、お笑いにしても、手品にしても、どれもクオリティが高く、圧倒された。

「ね、凄いね相原さん」
「……ええ。そうね」
「うん!…最後はバンドの演奏だね」

風子は横に座る未来に声をかけた。手品に魅入っていたのか返事が少し遅れていた気がしたが、気の所為ということにしておこう。

「ーーはーい、皆こんばんはーっ!!最後までこのテンションでいくよーっ」

ドラムが軽快なリズムを叩き始めた。



「ーーではこれで、全体レクを終わります。有志の皆さん、ありがとうございました」

パチパチパチ。

司会の挨拶でレクリエーションが終了した。みんなの興奮と賑わいが会場全体を包む。

あ~…、これで修学旅行も後1日かぁ…。

皆それぞれ部屋に帰る支度をしようとする。しかしそれをある言葉が制止した。

「皆さん!待ってください!朗報です」

え?

「実は、ここのホテルのご好意で、僕達のために花火を用意してくれたんです!」
「ええっ、何それ!」
「マジ!?ヤバくない?」

一気に会場の雰囲気が戸惑いと歓喜に変わる。
この後外に集合してください、という司会の言葉に従い、皆わあわあと会場を出ていく。
風子と未来も席から立ち上がった。

「花火とか、凄すぎ!やばい~!!」
「ほら、そんな所に突っ立ってないで私達も行くわよ?」
「あ、うん…!…ってか2人は?」

辺りを見回すと、友里と香菜の姿が無かった。焦る風子に、ああ、と未来が思い出したように続けた。

「あの二人なら彼氏さんのところに行ってくると言っていたわ」
「ええ!?…まーいいけどさ…」

自分勝手だなあ、まあ彼氏持ちだしなぁ…、と文句を呟く風子に未来は愛想を切らしたようにため息をついた。

「…え、私なんかした…?」
「…別に。貴方は私と二人で花火を見るのが嫌なのねと思って」
「なっ…!?んなわけ…!」
「うるさい。ほら、行くわよ」

風子は、少し不機嫌そうに歩く未来の後を、違うのに…、としょんぼりしながら追った。



「ここでいい?相原さん」
「…ええ」

学年の皆は花火を見る場所としてホテル脇の広場に案内された。
二人は人混みから少し離れた草むらで腰を下ろした。冬の北海道は寒くて、凍え死にそうなほどだったが、それは黙って大人しく花火が上がるのを待つことにしよう。

風子はちら、と未来の様子を伺う。案の定、まだ怒っているようだった。

「…あの、別に二人きりが嫌なわけじゃないからね?」
「……本当かしら」

拗ねた声で風子の弁解を跳ね返す。目線も合わせてくれず、風子自身もどうしたら良いのか分からなかった。風子はただじっと未来の方を見つめていた。

「……」
「……」

相原さん寒そうだなぁ…。耳も指先も真っ赤だし…。上着を持ってくる時間もなかったもんね。

そのか弱そうな姿に風子は胸が痛めつけられた。辛く苦しいものではなく、どこか温かい何かで心臓が捕まれているような、そんな感じ。

「…?…ぁ…」
「……」

風子は黙って未来の手を握った。未来もさっきの仏頂面は何処へやら、手をそっと握り返した。風子はにっこりと笑う。

「ふふ、温かいね!」
「そうね…」

ドーンッ。ドドーン。

きゃああぁぁぁ!きれーい!

花火が上がった。年末に見た花火よりも、もっと近くで迫力があった。殆ど真上で開花していく火薬達に、皆が見惚れていた。

「すごいわね…」
「うん!ほんとに綺麗!……あ、でも」

風子は目線を花火から外し、未来を見た。未来も釣られて、視線を風子に向ける。

「私は相原さんが一番綺麗に、可愛く見えるからねっ」
「……」

はあ、と未来のため息が聞こえ、あれ、と風子はショックを受けた。

え!?なんか凄い呆れられてるんですけど!?

「え、えぇ~…。どうして…?」
「……よくそんな痛い台詞が言えるわね」
「え?痛かった…?でっ、でも、本当の事で…」

未来はあからさまにもう一度ため息をついて、冷めた目で風子を見る。

せ、折角勇気を出して言ったのに…!なんで私、こんなに恥ずかしくて惨めなのっ!?
もう相原さんの顔見れない~…。

「……そんな風に狼狽えるあなたが、可愛くて好き…」
「……へ?」

ボソ、と小さい囁き声のそれは、確実に風子のもとに届いた。

…?……!?す、好きっ?

風子は慌てて未来の顔を覗き込んだ。そこには未来の照れた顔があって、耳全体まで真っ赤に染っていた。

私ほんと、いきなりのデレには弱いんだよなぁ。

「ん~、やっぱり相原さんの方が可愛い♡」
「そ、そんなことないわ、貴方の方が…」

そんな無駄なようでかけがえのないような時間を二人は過ごした。



「はあ~、花火凄かった~!」
「貴方。さっきからそれしか言ってないわ」
「だってー本当に凄かったんだもんっ」

あれから何十分かして、二人はホテルの部屋に戻ってきていた。殆どの人が初めてあんなに間近で花火を見たからであろう。あまりの感極まり具合でテンションが上がりに上がりまくった人や、ロマンチックな雰囲気にイチャつくカップルでいっぱいだった。

「お風呂先に入ってきてもいいかしら?」
「うん!どーぞー」

未来にお風呂の順番を気前よく譲り、風子は客室にあるソファに腰掛け、携帯のLINEアプリを開いた。

「…え!?」

『クラスの彼氏いる子達と夜通し恋バナする事になったから部屋に帰りませーん!香菜も連れてくから、相原っちにも言っといてー』

ごめんよ♡とふざけたスタンプと共に送られてきた友里のメッセージに、風子は唖然とした。

え、え…?二人とも帰ってこないの?あっていいのかよ、そんなことっ!!

「……つーか、二人きりってことじゃん…。マジ、ヤバくね…?」

風子は慌てて風呂場を見た。風呂場からはシャワー音が聞こえてくる。未来はまだ上がってきそうにない。

い、いや!何変なこと考えてるの!?民泊の時、改めないとって誓ったのに…!

で、でもこの後現れるのは、お風呂上がりの湿ってて、な、なんかエロそうな相原さんであって…。

「ど、どうしよ!?逃げる?逃げるか!?いっそ私も恋バナに混ざれば?」

風子は自分の中の邪念に理性が押しつぶされる前に、ソファから立ち上がり、部屋のドアの取手に手をかけた。

「何処に行くのかしら?」
「っえぇ!?」

風子が恐る恐る振り返ると、そこには未来の姿があった。しかも、よりによってバスタオルを体に巻いた状態。

な、何でこんなタイムリーに誘っているようなカッコを…!!

「あ、いや?別に⁉︎相原さんもお風呂早いね~っ」
「もっとゆっくり入りたかったのだけど、貴方の大声が聞こえたから…」
「そ、そっか~!……あの、服着ないの?」
「貴方が何処に行くか聞いてからにするわ。勝手に何処かに行かれたら、探すの大変そうだし」
「……ど、何処にも行かないから…!お願い!早く服着てっ!!」

風子は目を瞑って未来を風呂場に追いやる。会話の途中、何度か視界に入った艶やかな胸は見なかったことにする。そうしよう。



「お風呂、次どうぞ?」
「…あ、…うんっ」

風子は用意しておいたタオルと着替えを持ち、未来と目を合わせずに横を通り抜けようとした。

「……ねぇ、何か隠してない?」
「…!」

未来は風子の腕を掴み、強引に顔を近づける。風子にとって思いがけない事で、後数センチ、というところまで近い距離で向かい合う。
未来の湿った息が、風子の鼻先に当たり、妙にこそばゆくて、恥ずかしい。

変な気を起こす前に風子はそっと距離を開けた。

「別に、隠し事なんて無い、よ?」
「じゃあ私の目を見て話してくれないのは何故なのかしら?」
「……あははー…」

少しずつ後退りして距離を開ける風子に、ジリジリと詰め寄ってくる未来。遂に、風呂場の扉と風子の背中がぶつかった。

「……さぁ、話してもらえる?」
「……あ、…。はい」

風子は意を決して、口を開いた。

「あの、友里と香菜姉が、今日部屋に帰ってこないんだってさ…」
「え?…どうりで静かだと思ったわ。……というか、それって…」
「あ、あの!!決して変なことしないから!そんなこと、ほ、殆ど考えてないからね!安心してくださいっ!!」

風子は勢いでそう言い切り、ぴゅっと風呂場に逃げた。
みるみる赤くなっていく未来を残して。



「…お、お風呂上がったよ~…」

風子はよそよそしく未来に声を掛けた。未来はと言えば、こちらに大した反応は見せず、ソファに座って携帯を凝視している。

未来のそばに寄り難く、自分のベッドの上に腰をかけた。

「……」
「……」

嫌な沈黙が続く。喧嘩した訳でも無いのに息が詰まるような空間の中で、先に言葉を発したのは未来だった。

「…小川さん。本当にあの二人は帰って来ないのね?」
「…っ!う、うん」
「そう…」

未来は壁にかかっている時計をチラと見た。そのままスクッと立ち上がる。

「…っ⁉︎いや、本当に安心してっ!変なことしない、から…」
「……本当にしないの?」
「……え?」

未来が風子の元へ歩み寄った。ベッドに座る風子より高い位置に顔があるので、その威圧感からか風子は黙ってしまった。

「……私達は恋人なんだし、その、いいと思うのだけど…?」
「…へ…」

未来は顔を赤らめて、モジモジとしながらか細い言葉を放った。それは凝り固めた風子の理性を解すには充分で、風子は無意識に、したい、と口にしていた。

「…でもいいの?生徒会が修学旅行中にそうゆうことしようなんて」
「就寝時間までは自由の時間が設けられているから…。何してもいいんじゃない?あと…」

「就寝時間までは残り30分だから、それまでには終えましょう?」
「……自信ないけど?」
「私が止めるわ。…だから、やるならキスまでにしてね…?」

風子はコクッと頷いて、ベッドの上でおいで、と手招きした。未来はそっとベッドに上がり、風子の腕の中に入った。

「…んっ」
「……ん」

軽くノックするだけのキス。二人は一度顔を離し、相手の表情を探る。そして、もう一度ひとつになった。

「…ぁむ、……んっ」
「…っ、…ん、ちゅっ…」

未来の手が、風子の頭と腰に回る。それだけで愛しさが増し、さらに唇に喰らい付いた。

「んんぅ…ちゅる…んぅ」
「はぁ…んぁっ……ふぁ」

時々混ざる水音に風子の興奮は抑え切れなくなっていた。そのまま未来をベッドに押し倒し、それに覆いかぶさった。

二人は少しの時間も惜しむように、すぐさま相手の口内を貪ろうと吸い付く。

「ちゅ……んぅ…はぁ」
「んっ…ひゃあ……ふ、風、子っ…!」

ふいに名前を呼ばれて、風子は顔を離した。少し激しすぎたのか、泣いているようだった。それでも、未来は風子の腕を掴んで、せがんだ。

「はぁ……、おねが……もっと…っ」
「……うん、未来。好きだよ…」

そう言って未来の体を抱きしめて、今度は深く優しいキスをした。唇だけでは飽き足らず、首筋や鎖骨にも何度か唇を落とす。少しして、ビクビクと震えてきた未来に発情しそうになったが、生憎のタイムアップで、無念に強制終了となった。



「小川さん、何かお話してくれない?」
「……えぇ?」

今、二人は一つのベッドの上にいる。電気を消して、同じ布団を被り向かい合って寝転んでいる状態だった。

あの後、もちろん不完全燃焼で終わった風子は機嫌を悪くして、それを見兼ねた未来が、変なことをしないのならば一緒に寝てもいい、と提案してくれた。

それにしても、先程までキスをしていた恋人と同じ布団に入って何も思うななんて出来なくて、眠る為に必死に意識を逸らしていたのに、その未来から声を掛けられたのだ。

「……寝ないの?相原さん…」
「…寝たくても寝れないのよ。まだ体がほてっていて…」

それを言う未来の顔は暗闇の中でも分かるほど、赤くなっていた。

相原さんも、私と同じなんだ…。

「お話、って言うよりは質問なんだけど」
「ええ、何かしら?」
「相原さんはどうして私と付き合ってくれたの?」

この疑問はずっと風子の心の中にあった。

相原さんが私のことを好きなことはよく分かってるけど、その理由が全然分かんないんだよね。

「……好きになることに理由なんているのかしら?」
「それはそうかもだけど…。でも気になるじゃん!」

何を聞いてくるのかと思えば…、と未来が呟いた。まさか適当に場の流れで付き合ったから理由がないとか…?、と風子の中で否定的な憶測が飛び交う。

「私は、貴方のいつも周りを気にかけてくれる優しさに、惹かれたのだと思うわ」
「優しさ…?って、それ褒めるところが何もない人に言う言葉だよ⁉︎」
「失礼ね。そんなつもりないわよ。…他にも色々あるけれど、きっかけはそれというだけ」

「初めて貴方と会った時から、貴方はクラスで孤立していた私にたくさん話しかけてくれたわ。最初は煩わしかったけれど、そんな時間も次第に楽しいものになっていって…。毎日貴方の顔を見て言葉を交わすのが、学校生活を送る上での喜びになっていった」
「……そっか」

私、ちゃんと相原さんの心、救えてたんだ。

「少しずつ、貴方のことばかり考える時間が増えていったわ。二人きりの時間が欲しい…とも思った。だから吹奏楽部の体験に誘ったの。案の定貴方は私に教えて欲しいと言ってきてくれたし…」
「み、見透かされてたのね…?」
「ふふ、まあね。でも二人きりになることは逆に不安でもあった。もしこれで何かして嫌われちゃったら、話しかけてもらえることも無くなっちゃうんじゃないかって…。でも、貴方が、」

「私がいいと言ってくれた。それだけで何とも言えない高揚感が私を襲ったわ。だからあの時、思わずキスしてしまったの…。貴方も同じ気持ちだろうと思い込んで…」
「あ、うん!…あのときは私もどうにかしてたみたいで…っ」
「……でも、した途端に後悔したわ。普通の女の子の貴方が同性に恋心なんて抱く訳ない、私は特殊なんだからって。貴方も呆けた顔をしていたし、誤った事をした、と思ったわ……っ」

スッと未来の目から涙が溢れた。風子はそれを見過ごさず、そっと指で拭ってあげた。未来はそれを見て目元を緩め、微笑んでくれた。

「……でも、今こうして貴方とここにいる。今じゃ間違ってなかったなんて確信できるわ。だから、その…」

「ありがとう、小川さん。今も、おそらくこれからもずっと好き、よ…」
「~~!!」

風子は未来の体を抱きしめた。今まで彼女が背負ってきたものを全て浄化してあげたいと強く強く抱きしめつけた。

「…お、小川さん。痛いわ…」
「あ、ごめ…」

それでも未来も風子の背中に手を回した。それで?、と未来はにやっと笑う。

「私は話したけど、貴方の答えは聞いてないわ?」
「…あ、そだね!えっと…」

風子が話そうとすると、未来は優しくそれを制止した。

「喋り続けて疲れてしまったから、悪いけれど今日はもう寝るわね?」
「えっ、えぇ⁉︎そんなぁ…」
「明日、またゆっくり聞かせて…?」

そう言って未来は目を閉じた。少し理不尽じゃないか?と納得はいかなかったが、暗闇に冴えてきた目が捉えたその長い未来の睫毛についつい見惚れてしまった。

「…おやすみなさい、小川さん」
「あ、おやすみっ!」

それを察せられたのか、風子も慌てて目を瞑った。そう言えば明日は二人で小樽だなぁと考えながら風子の意識は遠のいていった。
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